全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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21 魔族と人間の歴史 ①

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「……。よく分かんねーけど。俺は武器、持っちゃ駄目なのか?」
「武器というより、身の守り方を知るべきだ。興味があるなら俺が教えよう」

 銃を手に入れるまではひたすら体術を磨いてた。それに武器より、盾や護石といった身を護る物の方がアクアには合っている気がする。煙玉なんて面白いものもある。逃げるのもいいぞ。逃げるが勝ち、なんて言葉もあるくらいだ。戦わなくていいし、楽でいい。
 アクアは枝を机に置くと、クッションに尻を乗せる。

「教えるって……。ごすじんオメー、強いのか?」
「そこの髭に聞いてみ?」
「なぁ、髭おっさん。ごすじんって強いのか?」
「タイムです。お前いい加減にしろよ。お前が名前言わないからこんなふざけた呼び方されるんじゃないか」

 主人はエイオットのしっぽを触る。

「ええやん。可愛いだろが」
「はぁ……。ああ。こいつは強いぞ。かつての魔王以上かもしれないな」
「まおー?」
「魔族の王だ。ははーん。おいおい。勉強不足だぞぉ?」

 タイムが嬉しそうにアクアのほっぺをつんつく。

「勉強してるし! ジュリスに読み書き教わってるもん」
「やるじゃないか。……なあ。ジュリスって誰だ? ガキの名前か?」

 うちで飼ってる猫でーすと、誤魔化そうとしたが遅かった。

「執事の名前だよ! こう……黒髪で美人なんだぞ」
「メイドじゃなくて?」
「めいど? 誰だ?」

 タイムが主人の方を向き、魔女っ娘は顔を背ける。

「なあ。〈黄金〉。なあ。嘘だよな? 未成年にしか興味のないお前が、大人の男を側に置いてるわけないよな?」

 なんだろうか。タイムから面倒臭い気配を感じる。

「あー。あのな? そいつは」
「大人の男だぞ? 飯作ってくれるんだ! めちゃうめーぞ」
「うんうん。おれのぷいんも美味しいよ!」

 魔女っ娘と狸ツインズが静まり返るが、タイムは構っていられない。

「はあっ? なんだよそれ。どういうことだ? なんで大人を雇っている?」
「……」

 テンション上がってて誘拐したとか言えない。

「〈黄金〉!」
「さて、部屋に戻るか」

 都合が悪くなれば、逃げるが勝ち、だ。
 アクアとエイオットの手を掴んで走り去ろうとするが……。

「ファイア。へい! パス」

 パンパンと手を叩くが、アロハシャツは意地悪するようにファイアを遠ざける。ファイアを持った両手を上げると、灰色の髪は天井すれすれだ。

「詳しく話してもらおうか」
「あーもう! めんどくさいなお前」

 タイムの足元でアクアが「俺も俺も」と跳ねている。

「しょうがない。タイム。きみも部屋に来い。説明してやる」

 ため息をつきながら子どもらを引っ張っていく。

「え? お、おう……」

 困惑と照れが入り混じったような、何か期待するような表情を浮かべた。





 (余計なことを言わないように)子どもたちの口にノビールキャンディーを押し込み、タイムに嘘八百を並べ、誤魔化しておいた。
 魔族です、とか言えるはずもない。
 胡散臭そうな顔をしながらも黙って聞いてくれたタイムは、刀の礼を言うと帰って行った。
 主人はホッと息を吐き出す。

「ったく……。あいつは昔からこうだ」

 チーズのように伸びる飴ちゃんをもちもち齧りながら、アクアが顔を覗き込んでくる。

「なあー。まぞくってなんだ?」
「んおおっ! 可愛い」

 アクアのドアアップ!
 チラッと目を開けると、ファイアとエイオットも増えていた。

「ぎゅあっ!」

 面白いのか、子どもたちはずいすいと迫ってくる。纏めてもちもちしてやろうか!

「近い近い! ほら、ベッドに座りたまえ」

 三人並んでちょこんと座る。

「あー……。魔族ってのは、大昔人類と戦争した種族のことさ」
「お兄ちゃんが? なんで?」

 アクアとファイアがハテナを浮かべる。
 あー……そうか。エイオット、文字が読めるようになってきたんだっけ。

「魔族って。そんな種族いたっけ?」

 アクアとファイアが首を傾げる。糸で繋がっているかのように同じ動き。動画……。

「大昔の話さ。知らないのも無理はない」

 特にエイオットやアクアたちは、勉強していられる環境ではなかったしな。

「どんなしゅじょきゅ(種族)なんでしゅ?」
「ただの人間さ」
「は?」

 アクアが煽るように「はあぁ?」っと、下唇を突き出して言ってくる。どうしてそんなに可愛いんだい?

「うーん。どこから話したものか。『血の悪魔』って知ってるかい?」

 三人そろって首を横に振る。

「大昔にその悪魔が人類を脅かしていた、歴史があってね」

 あれ。話す順番間違えたかも。
 まあ、いいか。

「人類の中に血を操る者がいたんだ。血液操作という、火や水と同じくただの魔法だけどね。血液操作だけは、忌み嫌われたんだ」

 授業のようにエイオットが挙手する。

「それって、その悪魔のせい?」
「お見事。その通りだ。かつていたはた迷惑な悪魔のせいで、ただの血液魔法を扱える魔法使い達は悪魔の眷属だと決めつけられ、迫害されることとなった」

 モンスターの脅威に、徐々に後退していた時期でもある。憂さ晴らしが欲しかったのか何なのかは知らないが、人類は彼らから人権を取り上げた。

 悲惨の一言だった。

 奴隷に落とされるなど序の口。気まぐれに嬲り殺され、奴隷の慰み者にされ。馬車馬のように働かされ、動けなくなれば道端に死体を捨てられた。酷いときなどモンスターをおびき出す囮として、死体は道具のように使われる。
 自分の子から血液魔法を使う者が産まれないことだけを、両親は願っていた時代。
 何も違いはない。同じ人間。
 血液操作ができると言うだけで。彼らは全てを踏みにじられた。

 百年にも満たない時間。

 怒りの火が大火となって、人類に牙を剥いた。
 モンスターと血液使いを、人類は敵に回すこととなる。
 だが血液使いは少数。
 すぐに鎮圧されるだろう。そして、その通りとなる。
 血液使いは追い詰められたが……

「そこで、ごっちんが味方についたんだ」


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