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無礙
03 子どもたちの不安
しおりを挟む食後。後片付けもナナゴーを巨大水槽に移す作業もカリスがやると言うので、子どもたちはてくてくと部屋に戻る。なんとなく一人でいる気になれず、エイオットの部屋に集まった。
エイオットは一人ずつにクッションを配る。主人やごっちんの様子を見に行きたいが、ムギたちを置いていくのには抵抗があった。ここではおれが一番、お兄ちゃんなんだから。
むんっと意気込むと、クッションを持ったムギが腕に抱きついてきた。顔を覗き込むと、悲しそうな、どうしたらいいか分からない、そんな表情だった。
赤い髪を撫でると、アクアとファイアも近寄ってくる。
三人纏めて抱き締め一塊となる。これで寂しさや不安を紛らわすのだ。
キィ……ッと扉が開いた。
青い瞳が隙間から覗いていてとても怖い。
「大人ごしゅじんさま? びっくりするじゃん!」
三人がベッドの下に潜り込んでしまったので、唯一平静を保っていたエイオットが足をガクブルさせながらも、ぷくうと膨れると扉が大きく開いた。
「ごめん。寝てられない衝撃に襲われて……。なんかやってた? やってたよね? きみたち」
ショート中でも「エイオット達が可愛いことをしている電波」を受信したらしい。瞳孔の開いた瞳で部屋の中をキョロキョロ見回している。
白ローブではなく眠りやすそうな寝間着姿だった。大きなボタンが並んだ上着に、ゆったりしたズボン。
エイオットが駆け寄る。
「ごしゅじんさま~」
「おや可愛い」
すぐに抱き上げてくれる。エイオットの背中を大きな手が撫で、部屋の中央で座り込む。
一人ずつベッドの下からにゅっと顔を出した。
「おめ、大人すじん。もういいのか?」
にゅっ。
「もう、大丈夫でしゅ……?」
にゅっ。
「ごっちん様も、心配です」
「……きみたちなんでそんなところに挟まっているのかな?」
可愛いことをされ目眩がした。エイオットを抱いたままこてんと横になる。
わらわらとちびっ子が集まってきた。
「おい! なんで飯食べに来ないんだよ。ごっちんが倒れちまったぞ。ナナゴーの奴、飯食わねーし!」
顔の横で地団太を踏むアクア。視界の隅で上下される素足が可愛い。いっぺんに報告しないで。
のそりと起き上がる。三つ編みを抱き締めていたファイアが釣れた。せっかくなので一緒に抱きしめる。
「俺も乗せろ」
アクアも膝の上に乗ってきた。ファイアと離れるのは落ち着かないようだ。
きゅっと背面の服が引っ張られる。振り向くと赤い髪が見えた。
どうしてか背中にくっつくムギ。正面においで。
「ごっちんならすぐに目を覚ますから心配いらないよ。ただし今は寝かせておいてあげよう」
何があったのかは薄々察しがつくが、殺してもすぐに復活してくる魔王様の心配などいらないわ。気になるのはナナゴーだ。様子を見に行きたいのだが立てない。
悩んでいるとエイオットがぺろぺろと顔を舐めてくる。ちょっと理性が飛ぶのでやめないでください。
「エイオット?」
「ごしゅじんさまっ。困ってるならおれに頼ってね! アクアもファイアも、ムギちゃんもいるんだよ」
ぎゅ~っと両手で顔を挟まれる。視界はエイオットのドアップ。幸せ……
だがこの子たちにどこにいるのか定かではない虫野郎を探して呼んできてくださいとも言えない。
エイオットは俺の頬を伸ばしたりして遊んでいる。可愛い。
「ごしゅじんさまの顔、あんまり伸びないね」
「大人だからね。……では、きみたちはナナゴーの様子を見に行ってもらえるかな? 俺は動けないし、ナナゴーも早くきみたちと打ち解けたいだろうし」
仲の良い友人が出来ればストレスも出来にくくなるはずだ。もうちょっと大きくなってくれないと遊べないしな。
「ナナゴー君と仲良くなってくればいいの?」
「そんなに気負わなくていいよ。お菓子でも食べながらお話でもしてきてくれると嬉しい」
皆を撫でる手がやめられない止まらない。可愛いんだもん。珍しくアクアがファイアの背にくっついているし、エイオットはじっと見つめてくるし、ムギちゃんは見られていないと思って額を擦りつけてくるし。
反応したのはアクアだった。
「お菓子⁉ でも、ジュリスはどっか行っちまったぞ。……あのおっさんの作ったものは食べないからな!」
ぐわっと吠えてくる。いつの間にキャットのこと名前で呼ぶようになったのやら。
「カリスのお菓子か。そんなに酷かったかい?」
「うん。酷かった」
言いながらエイオットを見つめる。こらこら見るな。エイオットはこれから上達するかもしれないだろ。
……どうすっかな。俺が元気ならいくらでも作ってやれるが。
あ、そうだ。
「では果物を切ってあげ……」
やっぱ駄目だ。果物じゃなくて指切りそう。
「んあ~……」
エイオットの尻尾をモフモフしながら悩んでいると、今度こそ電球が点る。
「じゃあ、今日は特別だ。好きなだけジャムを使っていいよ。パンは冷蔵庫に入っているからね」
ぴゅーっとアクアが走って行く。
「一番乗りー」
「まってよ」
追いかけるファイア。
「本当にいいの? たっぷりつけちゃうよ?」
狐尾をふりふりしている。主人はうんうんと頷く。
「いいよ」
「やった! ムギちゃん行こっ。今度こそオランジジャム食べさせてあげる」
「は、はい」
ムギの手を引く。たったかたーと廊下を走る足音が聞こえる。
静まり返るエイオットの部屋。
主人は手の中に金の杖を出現させた。
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