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豪放磊落

11 キャットの固有魔法……の後始末

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「待たせたな!」

 歩く爆音派が帰ってきた。
 片手にお土産が入っていると思しき風呂敷と、もう片方の手に黒と橙の派手ローブ魔女っ娘を掴んで。
 シャドーリスの鎧姿を見て、村人はハンターが来たのかと身構えたが、いつも元気な隣人だと分かると作業に戻っていく。

「降ろして」

 ずっとぶら下げられていたのか、酔った顔の少女っぽい子が弱々しく手足で宙を掻いている。

「ごしゅじんさまー。おかえりなさい」
「おかえり、なさいませ」

 ぱたぱた走ってくる子どもたちに魔女っ娘を投げ渡すと、キャットに向かって片手を上げる。

「似合うじゃないか」
「ほっといてください」

 木べら片手にエプロン姿のキャットが、シャドーリスごとおじいさんの家に引っ張っていく。

「何をちんたらしていたんですか。もう夕方ですよ? 夕飯食べてください」
「いや~。色々あってな」
「ごしゅじんさま。具合悪いの?」
「そいつに摘まみ上げられて……うっぷ」
「夕飯。食べられますか? わたしとエイオットさまも手伝ったんですよ?」

 なーるほど。エイオットも手伝ったのか。

「具体的にエイオットがどう手伝ったのか教えてくれ早く」
「皮むきと野菜を切るのをやったんだよ! すごいでしょ」
「他には⁉」
「? お兄ちゃんに食器磨いてろって言われたから、ムギちゃんとキュッキュしてたよ?」
「そうか。頑張ったな。エイオット。ムギちゃん」

 キャットが顔を逸らしてないから、大丈夫だろきっと。





「この村にどんだけ長居する気なんだよ! アクアとファイアの顔を見たい。ほっぺぷにりたい!」
「しょうがねぇだろ。昨日全員、記憶ないんだから」
「すごい味だったな! 毒の方がまだ身体に優しい気がするっ」

 俺とキャットと四天王を倒すとは、エイオットに物凄い経験値が入ってそう。……エイオットって野菜切っただけ、だよな? おじいさんおばあさんも、(命に別状はなく)起きたら次の日の朝だった。全員、頭の中が真っ白になった。
 本日はシャドーリスの畑の復興作業をしている。

 ……こき使われている。

「キャットが畑で固有魔法使った時は泣きそうになったぞ」

 がっはっはっと笑っているが、心から笑っていない。
 主人は身体より大きいクワを持って、駄目になった作物たちを引っこ抜き、一か所に集めていく。汗が吹き出し、タオルで拭いても次から次に流れてくる。目に入ると痛い。

「きみの『完全回復』は周囲の生命力を吸い取るからな。俺もアレは嫌がらせだと思った」
「俺が悪いってのかよ。片腕吹き飛ばしたシャドーリス様が悪いのですよ」
「何を言う! あの程度で腕を失くす己の弱さを恥じろ」
「……」

 ぐっと言葉に詰まるキャット。
 切断された右腕がくっついた、のではなく生えてきたのは驚いた。くっつくと思ったんだが。ネコのくせにヒトデの親戚だったのか。その分消費する生命力も、シャドーリスの畑からごっそりもぎ取ったのでキャットに副作用などはない。ケロッとしている。
 作物は全滅した。
 今は三人でその後片付けの最中だ。
 お子様たちも手伝いを頑張ってくれていたが、お昼になったので木陰でお昼寝させている。横でおばあさんが扇いでくれているので安心だ。

「土も死んでるな。こりゃ再開するのは難しくないか?」

 しゃがんで畑土をかき集め手のひらで擦ると、パラパラっと虚しく砕けていく。
 シャドーリスは肩を落とす。

「はー……。収穫間近だったというのに。……ああ。土には栄養剤やらモンスターの死骸やらを混ぜて耕して無理矢理復活させるさ」
「収穫間近だったこともあり、生命力をたっぷりいただけましたよ。ご馳走様です」
「おっし。歯を喰いしばれェェ! 作物たちの仇!」

 四天王と現右腕が喧嘩し始めたので、主人は木陰に逃げてきた。

「あらあ。お嬢ちゃんも休憩かい? 無理しちゃ、いかんよぉ?」
「うむ。肝に銘じよう」

 子どもたちの横に座って、頬をつんつん。しっとりしてやわらかい。天使の寝顔。





「で、お前たちは何をしに来たのだったかな?」
「海底まで連れてってくれ」

 おばあさんが握ってくれたおむすびを頬張る一行。ちゃっかりシャドーリスまでご馳走になっている。

「おいしいね」
「塩気が、いいですね」
「ゆっくり食えって。もう」

 キャットは子どもたちの頬についた米粒を取るのに忙しそうだ。

「いつ出発する?」
「これ食べたら行こう。長居しすぎた。アクアとファイアの顔が見たくて気が狂うわ」
「お前はいつも狂ってんだろ」

 うっさい。
 おばあさんが寂しそうな顔をする。

「あらぁ。もう行っちゃうの? また帰ってくるの?」
「いや二度と来」

 執事の手で口を塞がれた。

「おばあちゃん。元気でね?」
「お世話になりました」

 正座しているおばあさんの膝に、モチモチ二人がまとわりつく。おばあさんは泣きそうな笑顔でふたりを抱き締めた。


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