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肆意
05 来訪者
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※ ショタ攻めです。
ムギが善意から下着をずるっと下ろす。圧迫から解放されたソレが、バネのように斜めにぴんと立ち上がる。
「わ。わたしのよりおっきい……」
「おいちそう」
ちゅっと先端に吸いついてくる。
そこはまずい。
なんとか呼吸しながらも、主人は声を振り絞る。
「ファイア……。そこ、やめて」
全然大きな声にならなかった。それどころかエイオットとアクアがファイアの方に振り返ってしまう。
「おわ。なんだこれ」
「ぺーろぺーろ」
「美味しいの?」
ファイアが舐めているのを見て、エイオットとアクアは顔を見合わせる。主人が何か言う前に二人は舌を伸ばした。
三つの生温かい舌がペニスを這い回り、一気に天井を向いて反り立ってしまう。
「さ、三人ともっやめ……。汚いから。ぅあ、あっあ」
「なんか出てくる」
聞こえているだろうけど目の前の物に夢中になっているのか、耳を素通りしてしまっている。
先端から溢れるトロトロした透明な液。根元に手を添え、エイオットは軽くキスしてみる。
ちゅっ。
アクアがわくわくと話しかけてくる。
「どうだ? 甘いのか?」
「ん~? そんなに甘くないや。でも……好きな味、かも」
「マジか。俺も俺も」
エイオットが口を離すとすぐさま食らいついてくる。エイオットが先ほど忠告してくれたおかげか、噛みつかれることはなかった。
ただしキツめに吸われる。
じゅるる……っ。
「っあ、アッ」
びくびくと軽く痙攣する。やばい……。イきそう。
「ホントだ。あんまり甘くねぇな」
「ぼくも」
ちゅうちゅうと吸いついてくる。その間、エイオットは目に留まった袋を指でくすぐり始める。
「あ。おれのより大きい」
「……は、あ、んやぁ。そこやめっ」
アクアは幹を舐め、どんどん熱が下半身に集まってきてしまう。
「あ、ああ……」
「ご主人様。辛くないですか?」
額を撫でながらムギが心配そうに見下ろしてくる。弱々しく首を振るが、ハンカチで汗を拭ってくれるだけで腕を解いてはくれない。それどころか一枚の羽根を取り出すと、尖った乳首をふわふわな羽で擦る。
「あっああ……やめ……て。ムギちゃん……あ、だめ、イきそ……」
「可愛いです。そういうお顔」
「うっ……ムギちゃ……はあ、あっ、ああ、舐めないで、くれ」
股間に目を向けるがエイオットの大きな尾しか見えない。でも、三人が同時にペニスや玉で遊んでいるのは分かる。びりびりと頭の後ろが痺れる。
ああ、駄目だ。イきそう……。流石に、子どもたちにイかされるなんてことは、勘弁してほしいのに、頭がぼーっとする。熱で浮かされたときのようだ。
「はっう、あ……。え、エイオット……。駄目だ、一旦、やめて」
ぴくっと狐耳が揺れ、振り向いたエイオットが顔の近くに来てくれる。
「んー? ごしゅじんさま。とろけたお顔してるよ?」
言いながらくにくにと指で胸を揉んでくる。
「ひうっ、うう!」
「あ、ムギちゃん。その羽どうしたのー? きれーい」
「わたしの、抜けた羽です。……きれい、ですか?」
「うん」
「あ、ああ……」
少しでも気を抜いたら達してしまう。子どもたちの可愛い会話をのんきに聞いている気力もなく、両膝を立てるように曲げた。アクアは太ももに押されてころんと転がり、ファイアはお腹の上に顎を乗っける。
「おい。動かすなよ」
「んゆ~。飲んでたのに……」
ごめんねと小声で言いながら頭をふるふると左右に振る。
「もう、許して……。タオル、取ってくれ。許して」
涙が滲む青い瞳。それは同情を誘うどころか嗜虐心を刺激させた。
「んふっふっふ。くすぐってやる~」
「おれも~」
「う、嘘でしょ? やめて……」
くすぐられてイった人になりたくないよ!
ばっとムギに視線を向けるが、いつもの穏やかな表情でぺろっと涙を舐め取られる。
「駄目ですよ。人前で涙を見せては……。ご主人様。おきれいなんですから」
「あ……う……わ……」
ギシィと一際大きくベッドが軋む。滅多なことで音を立てない最高級家具なのに。
「駄目駄目駄目! やめ、あははああっはははは! いやああああっ」
甘い気分が吹き飛ぶほどの悲鳴を上げた。
長い脚が盛大に宙を蹴る。子どもたち四人に一斉にくすぐられて、本気で酸素が吸えなくなってくる。
「んゆんゆ」
ファイアが脇腹を指でついてくるのが何気にキツイ。腰がシーツから離れるほど浮いてしまう。
「ぎゃあああああっ! ほんと、め、あ、うあああっああッ!」
喉が裂けるんじゃないかと思うほどの声だが、ムギがチラッと見てきただけで、他は尻尾をふりふり。
「こちょこちょ~」
「くらえくらえ」
「ああっ駄目! ああっああ!」
駄目だ! イけない……。くすぐられているだけでは……。イきたくは無いけど、このままじゃ、ッ苦しい……。子どもたちがただ遊んでいるというだけなのもキツイ。やめてほしければ~と条件でも提示してくれたら、まだ……。
「たのむっ! やめ、エイオット! きゅ、わあああ! 助け、ああ‼」
「え~? 面白いのに~」
エイオットが不満そうに膨れた時だった。
――ガチャッ……
部屋の扉が開いた。
「!」
主人は一瞬警戒するが……。
「何度も声かけたんだけどねぇ……。邪魔するよ」
ぬっと、黒いローブに身を包んだこれこそ魔女、といった出で立ちの老婆が入ってきた。ピンと、エイオットとアクアファイアが耳と尾を立てる。
「おばあちゃん!」
「黒ババア!」
「おばーしゃ……」
とててーっと子どもたちは黒いローブ目掛け走って行ってしまう。ムギは俺の横で身を小さくし「誰?」という目で見つめる。
「会いにいてくれたんだ!」
エイオットは遠慮なく抱きつき、アクアファイアは足元でうろちょろしながら飛び跳ねている。
「ババアー。何しに来たんだよ。もう、檻の中には戻らねーぞ?」
「おばーしゃん……」
チビたち三人の頭を撫でると、エイオットと右足にアクア、左足にファイアをくっつけたまま歩きにくそうにベッドに近寄ってくる。
金髪の青年を見下ろし、ため息をひとつ。
「……またかい? あんた。前の子たちにも襲われてなかったか? 学習機能落としたのかい……?」
「うぐっ、ずびっ……。おば、ヴァ、ヴァッサー。まじよく来てくれた……。もう駄目かと思った。イく寸前だった。助けて……」
しわしわの手がタオルを解いてくれる。
「バケモンがタオル一枚で封印されてんじゃないよ」
「助かったアアアア!」
「わっ」
素早く身体にシーツを巻きつけると、がばっとムギに抱きつく。
シーツオバケに抱きつかれ目を丸くしたムギだが、痛みが目立つ羽を広げると抱きしめるように包み込んでくれる。……やだ、かっこいい。あったかい。
えぐえぐえぐと泣き始める主人は置いといて、ヴァッサーは足から狸を引き剥がして絨毯に座らせる。狐も抱き上げて双子の横にちょんと置く。
自身は正座した。
「久しいね……。元気にしていた、かい?」
「うん! おばーちゃんも元気だった?」
引き離したのにすぐに抱きついてくる。すりすりと甘えてくる笑顔いっぱいの狐っ子に、老婆の顔がほころぶ。
「なんだよババアー……じゃなくて。お、おねーさん」
全員がアクアを見て目を点にしている。ファイアまでアクアをぽかんとした表情で見つめる。
ぶはっと噴き出したのはヴァッサーだった。
「なんだい……? 急に」
くっくっと肩を揺らして笑う。
頭の後ろで手を組み、アクアは口を尖らせる。
「だーって。飯(キャット)が年上の女性にはそう呼べって。……あとは、奥様、とか」
「おくしゃま……」
ファイアも思い出したのか、おばあしゃんからおくしゃまに切り替える。
エイオットの髪を撫でながらシーツの物体を振り返る。
「お前にしては上等な躾をしているじゃないか」
よしよしと、ムギに慰められているシーツオバケが縮んでいく。
「あっ」
エイオットが声を上げるも遅かった。大人主人は消え、シーツから魔女っ娘が現れる。
「おいおいおーーーい。よくもやってくれたやないか~~~い。覚悟しろよ愛しきほっぺ共」
ちまっとした身体からおびただしい魔力が湧き出す。
「「「!」」」
狐と狸ズはほっぺを押さえて某有名絵画のようになるが、主人は遠慮なくパチンと指を鳴らした。双子は咄嗟に抱き合うも、地下に飛ばされたわけではなかった。
ぱっと、狸双子の服装が変わる。
バニー服に。
「ぬ?」
「えぇ?」
「わっ! 可愛い。何その服」
スーツのように黒い上下一対の服。両足を覆うのは網目の大きなタイツ。首元は赤いリボンで飾られ、背中は大きくVの字に開いている。お尻は割れ目が分かるように食い込み、ぷりっとした双子山を強調させている。お尻の、割れ目が!
バニー服だが頭上を飾るのは天然物の狸耳。後ろにあるのはうさ尻尾ではなくぶっとい狸尾。……赤いヒールの靴を履いてくれれば最高なのだが、獣人は靴を好まない。
胸はぺったんこだが股間の部分は可愛らしく膨らみ、主人の口角が上がりっぱなしになる。
プロデューサー気分で腕を組む。
「素晴らしい。流石だぞヴァッサー」
「よく肥えたね。見違えたよ……」
おばあちゃんも満足そうに顎を撫でている。
ふっくらしたお子様がバニー服に身を包んでいる……勝った!
ガッツポーズをしているとエイオットがローブを引っ張ってくる。くいくい。
「はい」
「ごしゅじんさまー。おれは?」
「ん?」
「服、変わってないよ?」
ネグリジェにエプロンを着けたこれまた犯罪的に可愛らしい姿。何か不満なのかね?
双子と自分を交互に指差している。なんだその可愛い仕草は。
「もしかして。双子とお揃いがいいのかい?」
耳が揺れるほどコクッと頷く。
ヴァッサーに視線を向けるも、首を横に振る。
そうだよな……。このバニー服はハンドメイドの一点物。エイオットの分はないよな。
「エイオットはアラージュの衣装があるでしょ?」
「む~っ」
ベッドに飛んでいくとムギに抱きついている。ムギは慣れた顔でよしよしと撫でてやっていた。眼福。
ヴァッサーはムギを見てため息をつく。
「黒鳥人か……。よく見つけたね……」
「まーな」
見つけたのは俺じゃないけど。
「アクア。かわいい……」
「なんだこの服―?」
ぴとっとファイアがくっつき、アクアは黒いパツパツの服を引っ張ろうとしている。ファイアが自動的にくっついてくれるから自動的にいい光景になる。
「バニー服に決まってんだろうがあああ! よっしゃ覚悟しろよ! こっから攻守交替だかんな! 潮吹かせてくれるわ、潮!」
「しお?」
「ちゅーちゅー」
首を傾げるアクアと、幸せそうにアクアの頬を吸っているファイア。いい加減にしろよカメラ‼
手遅れな奴を見る目で見てくるおばあちゃんをビシッと振り返る。
「ヴァッサー。客人にはお茶を出すのが礼儀だが、いま洋館には大量のミルクがある(俺が買い込んだから)。助けると思って飲んでくれないか?」
「……いいけどね。温かいのじゃないと、飲めないよ?」
「エイオット。ムギ。客人にミルクを入れてやってくれ。きみたちで遊ぶのはそのあとだ」
「またおれをのけ者にするの?」
「……」
そういえばエイオットも一緒にやるって、言ってたっけ……?
「いいのか? せっかくヴァッサーが来てくれているのに。お喋りしたかったんだろう?」
「ごしゅじんさまは、おれをのけ者にしないよね?」
「……なあ。ヴァッサー。お前も一緒に地下室に来ないか?」
おばあちゃんを見れば、警戒しているムギに手招きしているところだった。
「あんた。この子の髪は整えてやらないのかい?」
「いま散髪できる奴が旅行中なんだよ……」
「地下って。あの趣味の悪い部屋かい?」
「ああん? 俺の素敵な趣味ライフ部屋だろうが」
ため息を吐きながら「だめだこいつ」とばかりに首を振っていやがる。ああおおん?
「別に良いけどね。寒いのは苦手だよ」
「ベッドの上にある毛布を適当に持って行け」
「ところでもう一着服を作ってみたんだが、見るのは今度にするかい?」
「……ぬ。え?」
も、もう一着……だとぉ⁉ 天才おばあちゃんのことだ……今回も素晴らしい服に違いない。あ、金を払うからムギちゃんの服を作ってくれないかな?
「早く見せろ今すぐにだ!」
大きな黒い鞄から布を取り出す。
「……」
「……?」
「間違えてカーテンを持ってきちまった」
悪びれることなく言う老婆。主人は顔面からコケた。
ムギが善意から下着をずるっと下ろす。圧迫から解放されたソレが、バネのように斜めにぴんと立ち上がる。
「わ。わたしのよりおっきい……」
「おいちそう」
ちゅっと先端に吸いついてくる。
そこはまずい。
なんとか呼吸しながらも、主人は声を振り絞る。
「ファイア……。そこ、やめて」
全然大きな声にならなかった。それどころかエイオットとアクアがファイアの方に振り返ってしまう。
「おわ。なんだこれ」
「ぺーろぺーろ」
「美味しいの?」
ファイアが舐めているのを見て、エイオットとアクアは顔を見合わせる。主人が何か言う前に二人は舌を伸ばした。
三つの生温かい舌がペニスを這い回り、一気に天井を向いて反り立ってしまう。
「さ、三人ともっやめ……。汚いから。ぅあ、あっあ」
「なんか出てくる」
聞こえているだろうけど目の前の物に夢中になっているのか、耳を素通りしてしまっている。
先端から溢れるトロトロした透明な液。根元に手を添え、エイオットは軽くキスしてみる。
ちゅっ。
アクアがわくわくと話しかけてくる。
「どうだ? 甘いのか?」
「ん~? そんなに甘くないや。でも……好きな味、かも」
「マジか。俺も俺も」
エイオットが口を離すとすぐさま食らいついてくる。エイオットが先ほど忠告してくれたおかげか、噛みつかれることはなかった。
ただしキツめに吸われる。
じゅるる……っ。
「っあ、アッ」
びくびくと軽く痙攣する。やばい……。イきそう。
「ホントだ。あんまり甘くねぇな」
「ぼくも」
ちゅうちゅうと吸いついてくる。その間、エイオットは目に留まった袋を指でくすぐり始める。
「あ。おれのより大きい」
「……は、あ、んやぁ。そこやめっ」
アクアは幹を舐め、どんどん熱が下半身に集まってきてしまう。
「あ、ああ……」
「ご主人様。辛くないですか?」
額を撫でながらムギが心配そうに見下ろしてくる。弱々しく首を振るが、ハンカチで汗を拭ってくれるだけで腕を解いてはくれない。それどころか一枚の羽根を取り出すと、尖った乳首をふわふわな羽で擦る。
「あっああ……やめ……て。ムギちゃん……あ、だめ、イきそ……」
「可愛いです。そういうお顔」
「うっ……ムギちゃ……はあ、あっ、ああ、舐めないで、くれ」
股間に目を向けるがエイオットの大きな尾しか見えない。でも、三人が同時にペニスや玉で遊んでいるのは分かる。びりびりと頭の後ろが痺れる。
ああ、駄目だ。イきそう……。流石に、子どもたちにイかされるなんてことは、勘弁してほしいのに、頭がぼーっとする。熱で浮かされたときのようだ。
「はっう、あ……。え、エイオット……。駄目だ、一旦、やめて」
ぴくっと狐耳が揺れ、振り向いたエイオットが顔の近くに来てくれる。
「んー? ごしゅじんさま。とろけたお顔してるよ?」
言いながらくにくにと指で胸を揉んでくる。
「ひうっ、うう!」
「あ、ムギちゃん。その羽どうしたのー? きれーい」
「わたしの、抜けた羽です。……きれい、ですか?」
「うん」
「あ、ああ……」
少しでも気を抜いたら達してしまう。子どもたちの可愛い会話をのんきに聞いている気力もなく、両膝を立てるように曲げた。アクアは太ももに押されてころんと転がり、ファイアはお腹の上に顎を乗っける。
「おい。動かすなよ」
「んゆ~。飲んでたのに……」
ごめんねと小声で言いながら頭をふるふると左右に振る。
「もう、許して……。タオル、取ってくれ。許して」
涙が滲む青い瞳。それは同情を誘うどころか嗜虐心を刺激させた。
「んふっふっふ。くすぐってやる~」
「おれも~」
「う、嘘でしょ? やめて……」
くすぐられてイった人になりたくないよ!
ばっとムギに視線を向けるが、いつもの穏やかな表情でぺろっと涙を舐め取られる。
「駄目ですよ。人前で涙を見せては……。ご主人様。おきれいなんですから」
「あ……う……わ……」
ギシィと一際大きくベッドが軋む。滅多なことで音を立てない最高級家具なのに。
「駄目駄目駄目! やめ、あははああっはははは! いやああああっ」
甘い気分が吹き飛ぶほどの悲鳴を上げた。
長い脚が盛大に宙を蹴る。子どもたち四人に一斉にくすぐられて、本気で酸素が吸えなくなってくる。
「んゆんゆ」
ファイアが脇腹を指でついてくるのが何気にキツイ。腰がシーツから離れるほど浮いてしまう。
「ぎゃあああああっ! ほんと、め、あ、うあああっああッ!」
喉が裂けるんじゃないかと思うほどの声だが、ムギがチラッと見てきただけで、他は尻尾をふりふり。
「こちょこちょ~」
「くらえくらえ」
「ああっ駄目! ああっああ!」
駄目だ! イけない……。くすぐられているだけでは……。イきたくは無いけど、このままじゃ、ッ苦しい……。子どもたちがただ遊んでいるというだけなのもキツイ。やめてほしければ~と条件でも提示してくれたら、まだ……。
「たのむっ! やめ、エイオット! きゅ、わあああ! 助け、ああ‼」
「え~? 面白いのに~」
エイオットが不満そうに膨れた時だった。
――ガチャッ……
部屋の扉が開いた。
「!」
主人は一瞬警戒するが……。
「何度も声かけたんだけどねぇ……。邪魔するよ」
ぬっと、黒いローブに身を包んだこれこそ魔女、といった出で立ちの老婆が入ってきた。ピンと、エイオットとアクアファイアが耳と尾を立てる。
「おばあちゃん!」
「黒ババア!」
「おばーしゃ……」
とててーっと子どもたちは黒いローブ目掛け走って行ってしまう。ムギは俺の横で身を小さくし「誰?」という目で見つめる。
「会いにいてくれたんだ!」
エイオットは遠慮なく抱きつき、アクアファイアは足元でうろちょろしながら飛び跳ねている。
「ババアー。何しに来たんだよ。もう、檻の中には戻らねーぞ?」
「おばーしゃん……」
チビたち三人の頭を撫でると、エイオットと右足にアクア、左足にファイアをくっつけたまま歩きにくそうにベッドに近寄ってくる。
金髪の青年を見下ろし、ため息をひとつ。
「……またかい? あんた。前の子たちにも襲われてなかったか? 学習機能落としたのかい……?」
「うぐっ、ずびっ……。おば、ヴァ、ヴァッサー。まじよく来てくれた……。もう駄目かと思った。イく寸前だった。助けて……」
しわしわの手がタオルを解いてくれる。
「バケモンがタオル一枚で封印されてんじゃないよ」
「助かったアアアア!」
「わっ」
素早く身体にシーツを巻きつけると、がばっとムギに抱きつく。
シーツオバケに抱きつかれ目を丸くしたムギだが、痛みが目立つ羽を広げると抱きしめるように包み込んでくれる。……やだ、かっこいい。あったかい。
えぐえぐえぐと泣き始める主人は置いといて、ヴァッサーは足から狸を引き剥がして絨毯に座らせる。狐も抱き上げて双子の横にちょんと置く。
自身は正座した。
「久しいね……。元気にしていた、かい?」
「うん! おばーちゃんも元気だった?」
引き離したのにすぐに抱きついてくる。すりすりと甘えてくる笑顔いっぱいの狐っ子に、老婆の顔がほころぶ。
「なんだよババアー……じゃなくて。お、おねーさん」
全員がアクアを見て目を点にしている。ファイアまでアクアをぽかんとした表情で見つめる。
ぶはっと噴き出したのはヴァッサーだった。
「なんだい……? 急に」
くっくっと肩を揺らして笑う。
頭の後ろで手を組み、アクアは口を尖らせる。
「だーって。飯(キャット)が年上の女性にはそう呼べって。……あとは、奥様、とか」
「おくしゃま……」
ファイアも思い出したのか、おばあしゃんからおくしゃまに切り替える。
エイオットの髪を撫でながらシーツの物体を振り返る。
「お前にしては上等な躾をしているじゃないか」
よしよしと、ムギに慰められているシーツオバケが縮んでいく。
「あっ」
エイオットが声を上げるも遅かった。大人主人は消え、シーツから魔女っ娘が現れる。
「おいおいおーーーい。よくもやってくれたやないか~~~い。覚悟しろよ愛しきほっぺ共」
ちまっとした身体からおびただしい魔力が湧き出す。
「「「!」」」
狐と狸ズはほっぺを押さえて某有名絵画のようになるが、主人は遠慮なくパチンと指を鳴らした。双子は咄嗟に抱き合うも、地下に飛ばされたわけではなかった。
ぱっと、狸双子の服装が変わる。
バニー服に。
「ぬ?」
「えぇ?」
「わっ! 可愛い。何その服」
スーツのように黒い上下一対の服。両足を覆うのは網目の大きなタイツ。首元は赤いリボンで飾られ、背中は大きくVの字に開いている。お尻は割れ目が分かるように食い込み、ぷりっとした双子山を強調させている。お尻の、割れ目が!
バニー服だが頭上を飾るのは天然物の狸耳。後ろにあるのはうさ尻尾ではなくぶっとい狸尾。……赤いヒールの靴を履いてくれれば最高なのだが、獣人は靴を好まない。
胸はぺったんこだが股間の部分は可愛らしく膨らみ、主人の口角が上がりっぱなしになる。
プロデューサー気分で腕を組む。
「素晴らしい。流石だぞヴァッサー」
「よく肥えたね。見違えたよ……」
おばあちゃんも満足そうに顎を撫でている。
ふっくらしたお子様がバニー服に身を包んでいる……勝った!
ガッツポーズをしているとエイオットがローブを引っ張ってくる。くいくい。
「はい」
「ごしゅじんさまー。おれは?」
「ん?」
「服、変わってないよ?」
ネグリジェにエプロンを着けたこれまた犯罪的に可愛らしい姿。何か不満なのかね?
双子と自分を交互に指差している。なんだその可愛い仕草は。
「もしかして。双子とお揃いがいいのかい?」
耳が揺れるほどコクッと頷く。
ヴァッサーに視線を向けるも、首を横に振る。
そうだよな……。このバニー服はハンドメイドの一点物。エイオットの分はないよな。
「エイオットはアラージュの衣装があるでしょ?」
「む~っ」
ベッドに飛んでいくとムギに抱きついている。ムギは慣れた顔でよしよしと撫でてやっていた。眼福。
ヴァッサーはムギを見てため息をつく。
「黒鳥人か……。よく見つけたね……」
「まーな」
見つけたのは俺じゃないけど。
「アクア。かわいい……」
「なんだこの服―?」
ぴとっとファイアがくっつき、アクアは黒いパツパツの服を引っ張ろうとしている。ファイアが自動的にくっついてくれるから自動的にいい光景になる。
「バニー服に決まってんだろうがあああ! よっしゃ覚悟しろよ! こっから攻守交替だかんな! 潮吹かせてくれるわ、潮!」
「しお?」
「ちゅーちゅー」
首を傾げるアクアと、幸せそうにアクアの頬を吸っているファイア。いい加減にしろよカメラ‼
手遅れな奴を見る目で見てくるおばあちゃんをビシッと振り返る。
「ヴァッサー。客人にはお茶を出すのが礼儀だが、いま洋館には大量のミルクがある(俺が買い込んだから)。助けると思って飲んでくれないか?」
「……いいけどね。温かいのじゃないと、飲めないよ?」
「エイオット。ムギ。客人にミルクを入れてやってくれ。きみたちで遊ぶのはそのあとだ」
「またおれをのけ者にするの?」
「……」
そういえばエイオットも一緒にやるって、言ってたっけ……?
「いいのか? せっかくヴァッサーが来てくれているのに。お喋りしたかったんだろう?」
「ごしゅじんさまは、おれをのけ者にしないよね?」
「……なあ。ヴァッサー。お前も一緒に地下室に来ないか?」
おばあちゃんを見れば、警戒しているムギに手招きしているところだった。
「あんた。この子の髪は整えてやらないのかい?」
「いま散髪できる奴が旅行中なんだよ……」
「地下って。あの趣味の悪い部屋かい?」
「ああん? 俺の素敵な趣味ライフ部屋だろうが」
ため息を吐きながら「だめだこいつ」とばかりに首を振っていやがる。ああおおん?
「別に良いけどね。寒いのは苦手だよ」
「ベッドの上にある毛布を適当に持って行け」
「ところでもう一着服を作ってみたんだが、見るのは今度にするかい?」
「……ぬ。え?」
も、もう一着……だとぉ⁉ 天才おばあちゃんのことだ……今回も素晴らしい服に違いない。あ、金を払うからムギちゃんの服を作ってくれないかな?
「早く見せろ今すぐにだ!」
大きな黒い鞄から布を取り出す。
「……」
「……?」
「間違えてカーテンを持ってきちまった」
悪びれることなく言う老婆。主人は顔面からコケた。
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ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる
シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。
※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。
※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。
俺の名はグレイズ。
鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。
ジョブは商人だ。
そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。
だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。
そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。
理由は『巷で流行している』かららしい。
そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。
まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。
まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。
表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。
そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。
一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。
俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。
その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。
本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

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