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双子
03 将来の夢
しおりを挟む褒めてほしかったのか。よし褒めよう。
「あ、ああ。とっても良く似合ってるよ。露出が無いのが悲しいけどね」
「えっへへー。うっれしいなー」
ぴょんぴょんとスキップしながらついてくる。くそう。何してても可愛い。あまり可愛さを振り撒かないでくれ。害獣が寄ってきてしまう。
SPになった気分で周囲を警戒する。感じるぞ。ほほ笑ましい視線の中にねっとり絡みつくような視線が混じるのを。俺はそう言うのを簡単に見分けられるんだ(同類)。
主人はいつもの特殊検問の方へ歩いていく。
「ごしゅじんさま。あの列はなんなの?」
「検問だよ」
「けんもん……? あの列には並ばないの?」
「時間かかるからね」
今回は十分とかからなかった。
俺の顔を見るなり、帝国の紋章が刻まれた鎧姿の人物が敬礼してくる。
「おお。これはこれは。〈黄金〉殿」
「精が出るね」
言いながらギルドカードを差し出す。門番は主人と狐っ子を交互に見る。
「そちらの子は?」
「俺の子だ。一緒に通してくれないか?」
「一応、軽い身体検査をしてもよろしいでしょうか?」
触れるな殺すぞと言いたいが。せっかく外に出たのだ、色々経験させておくか。エイオットが大人になった時、色んな経験値があった方がいいはずだ。
あと俺の発言に一ミリも顔色を変えないあたり、流石変人が多い金ランクがよく使用する特殊検問の番人だな。
主人の青い瞳がエイオットを見上げる。
「身体検査だと。さっとやってもらえ」
「……服、全部脱ぐの?」
地下室での光景がよみがえったのか、俺のせいでエイオットが真っ青になって自分を抱きしめている。門番がははっと笑う。
「脱がなくていいですよ。ぽんぽんってタッチするだけです」
「……痛くしない?」
「もちろんです」
ガチガチに固まりながらもエイオットはじっとしていた。
おお。偉い偉い。
「お疲れ様です。さ、お通りください」
「あいよ」
「……」
エイオットはぺこっと門番に頭を下げて通り過ぎる。門番は人当たりのよい笑顔で手を振った。
……『初めて首都に来た子』を甘く見ていたかもしれない。
露店や噴水、オシャレな建物やただのベンチにさえ、大はしゃぎですっ飛んでいってしまう。目を輝かせ、予測不可能に駆け回るエイオット。……を、ひたすら追いかける俺。大型犬に使うお散歩ハーネスが欲しいと強く思った。
「ごしゅじんさまーこれなにー?」
「まってまって、走るんじゃない。エイオット」
「ごしゅじんさまー見てこれみてー」
「まってまっ……ゴホゲホ」
「ごしゅじんさまーあれはなにー? 早く早く―」
「……まっ……」
レベル上昇に伴い増えたはずの体力が削れに削れた頃。時計塔が昼を報せる鐘を鳴らす。
嘘だろ⁉ 九時前には到着したはずなのに、もう昼⁉
元気いっぱいのお子様にお昼ご飯を食べようと掠れた声で提案し、やっと椅子に座ってじっとしてくれた。
湖が見渡せる、白い石畳の広場。
パラソルの付いたカフェテーブルにて。肩で息をしながらテーブルに頬をくっつけて死にかけている主人と、大きな口で「挟むパン」を食べているエイオット。
「おいしーい」
挟むパン。四角く焼いたパンを半分に切り、間に肉や野菜をサンドした、いわゆるハンバーガーのそっくりさんである。
好みの硬さのパンを選択し、中に挟む具を選ぶ。
エイオットが選んだのはふかふかの白パンに、大豆ミートと胡椒が効いたピリ辛あらびき肉。野菜も食べなさいとゼィハァしながら言ったので、キャベツンというレタスっぽい葉野菜に、レタースというキャベツに似たシャキシャキ野菜。ソースは甘いものを選択していた。
あつあつのそれを新聞紙にくるんで提供してくれる。獣人は滅多なことで腹を壊さないとはいえ、新聞紙はいかがなものか。この世界の「普通」なのであまり口出ししたくないが。
俺は新聞紙ではなく少し値が張る紙ナプキンに包んでもらった。お店のマークが描かれた無地の紙ナプキン。食べきれないことも考慮し、紙袋に入れてもらう。
「ごしゅじんさま。これ、すごくおいしい」
口の横にソースをつけ、ほくほく笑顔のエイオット。笑顔が眩しい。
「良かったね……。よく噛んで食べなさい」
「うん!」
はぐはぐと齧りついていく。ずっと見ていたいが腹が減ってきた。包み紙を解き、湯気を立てる白パンに息を吹きかける。
「いただきます」
はむっと一口。しっとり白パンはほんのり甘く、ピリ辛肉とよく合っている。お肉二枚は無理だったので、南国の甘い野菜を挟んでもらった。エイオットの挟むパンとは厚みもお値段も違う。
「これ、お兄ちゃんも作れるかな?」
よほどお気に召した様子。あんぱんを作れるのだから、挟むパンも作れるだろう。
「多分ね。頼めば作ってもらえるよ」
「おれも、作れるようになるかなぁ?」
「………………」
な、なんでも取り組んでみようという心意気は素晴らしい。
「エイオットならもっと上手に作れるさ」
「そうかな? やったー」
足をばたつかせているエイオット。この元気はどこから来るのか。おじさんには分からないよ。この足の調子じゃ、食べ終わるとまた走り出しそうだ。
搾りたての果物水(ジュース)を飲む。オランジという甘いみかんのような果物を絞ってもらった。
「……酸っぱい」
シロップ多めにしてもらえばよかった。
「甘くておいしーーい」
「……」
獣人との味覚の差なのか俺の舌が肥えているだけなのか。ストローでちうちう吸うエイオットをあと五時間は見てられる。
「さて。飲みながらでいいから聞いてくれ」
「ちうー」
「俺はギルドに行かねばならん。どうする? いやついて来なくていい。全然ついて来なくていいぞ? 疲れただろう? 宿を取るからそこで休んでいて全然いいぞ?」
「ギルドって……。モンスターを、倒すと、お金もらえるところ?」
流石にギルドは知っているか。どこにでもあるし、資格も必要ないし、誰でもなれるしな。登録用紙に名前を書けば(文字を書けなくても受付が書いてくれる)その瞬間からもうハンターだ。モンスターを倒す力があればそこそこ稼げる。弱いモンスターの素材などゴミ値だが、生活費の足しにはなる。
「そうだ。エイオットは利用したことはあるか?」
村で狩りをやっていたようだし。もしかしたらギルドに登録したことがあるかもしれん。
エイオットは首を振る。小麦色の髪がしゃらしゃらと揺れた。
「モンスターを倒したことはあるけど。素材は全部父さんが持ってっちゃったし……。おれはギルドに行ったことはないよ?」
子どもにモンスターを倒させて、自分は素材を売っていただけか。今更だがあの父親、焼き払ってきた方がよかったか?
「ん。で、どうする? 宿で休んでいても――」
「ついてく」
「……高級宿をとってやるぞ?」
「早く行こー」
ぐいぐいとローブを引っ張られる。待って待って。まだ食べてない。
残りを口に押し込み、果実水で流し込んだ。
しっかり手を握って表通りを歩く。たまに走っていきそうになるので腕がもげそう。
「ねえ、ごしゅじんさま。おれも、ギルドに登録した方が良いのかな?」
「なんで? エイオットはお花屋さんでも服屋さんでも、好きなものになればいいよ。将来の夢とか、あるかい?」
「料理人とか?」
「………………」
俺はこれ、応援すべきなのか?
エイオットが自分の店を持つ。なるほど……なるほどな。
冷や汗が止まらないが主人は冷静を装う。
「興味あるなら、が、頑張ってみなさい。大抵のことは俺かキャットが教えられるから。裁縫とか、魔具に興味があるなら作り方とか、靴屋さんとか」
「おれがお店開いたら、食べに来てくれる?」
死の文字が頭に浮かんだが、ハーレムの子が頑張って店を開いたのに食べに行かないとか、変態の風上にも置けない。
主人は『自分は大けがを負ったが、庇った子どもは無事だった父親』のような微笑みを浮かべた。
「ああ。もちろんだ。いっぱい食べに行くから、ガハッ、安くしてくれたまえよ?」
「えー? 嬉しい。おれ、がんばるー」
両手を上げて飛び跳ねるエイオット。手を繋いでいるので俺も片手をあげて跳ねることになる。
食堂。エイオット食堂か。は、はは……落ち着け‼ エイオットも、料理の腕が上がるかも知れないだろう。
ギルドに到着したのは昼過ぎだった。
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