クズとグラブジャムン

水無月

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気を遣ったのにぃ

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 サービスエリアで休憩となった。
 うとうととしていた藤行は彼の肩にもたれてぼーっとしており。「着いたぞ」と言われて初めて伸一郎にもたれかかっていたことに気がついた。

「ごは! ごめんっ」

 バスのシートより心地よいなと思っていたら。ずっと体重をかけてしまっていた。
 そのことを詫びるも怪訝そうな顔をされただけだった。

「なにが?」
「……え、えっと」

 気にしてないのかな?

(そうだよな! 俺を担げる熊が。俺がもたれたくらい、重いはずないよな)

 返事を待っている彼に、ハンカチを開いてすっかりぬるくなった保冷剤を見せる。

「保冷剤、溶けた」
「保冷材は溶けるもんだろ?」

 保冷剤を保冷バッグに仕舞う。

「それよかトイレ休憩だってよ。降りるぞ」
「うん」

 彼の後に続きバスを降りる。
 ううんと大きく背伸びをして、凝った筋肉をほぐす。血が流れだした気がした。

「あー。気持ちいい」
「俺とヤってる時より?」
「黙れよ! というか、夏のアスファルトだけど。本当に裸足で平気なの?」

 気温が高ければ六十度にもなるというアスファルトの上を、この男は家の廊下でも歩くような顔で。
 あわあわしている藤行の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「何で撫でるんだよ」
「頭があったら撫でるだろ。ガキの頃、ジジイの山で走り回ってたから、足裏は丈夫なんだ」
「まじかよ。あ、でもサービスエリアでサンダルくらい売ってるんじゃね? 見に行こうよ」

 彼の手を掴んで引っ張る。

 結果から言うと、履き物は売っていた。しかし――

「サイズがない……」

 がっくり肩を落とす藤行の後ろで耳穴をほじる伸一郎。
 伸一郎の足が大きすぎてぴったりなものがなかったのだ。なんだよ二十九センチって。親父の靴よりでけーし。

「あの、熊用の靴ってありませんか?」
「ありません……」
「店員を困らすな」

 申し訳なさそうな店員から藤行を引き剥がす。年齢と靴のサイズ一緒男はそのままフードエリアに引きずって行く。

 時間もあり、店の前には行列が出来ている。
 各店の看板を見上げ、顎を撫でる。

「腹減ったな」
「昼飯ステーキなんだから、今食べたら勿体ないよ」

 軽く食べるくらいなら良いが、彼が見ているのはがっつり系の店の看板。

「いいだろ別に」
「だーめ。ほら。バスに戻ろうぜ」

 土産物も売っていたが初日で買うには早いと判断したので、大人しくバスに戻る。全員が揃ったことをバスガイドが確認し、バスは高速に戻った。



 タイヤが高速を疾走する音。
 バスガイドが目的地の歴史や良いところをマイクで話している。なので、多少声を出しても前の席の人には聞こえないだろう。

 だからって、これは酷いと思うんだ。

「やめてってば。伸一郎さん」

 言っても無駄だと分かっているが。言うしかない。
 バスが動き出すと同時に伸一郎の手が、藤行の太ももを撫で始めたのだ。最初はどうしたのかと見ているだけだったが、何度も摩られているとくすぐったく感じてくる。

「うるせえな。お前のせいで腹減りが限界なんだ。責任取って暇つぶしさせろ」

 これが彼の言い分だった。
 昼食をよりおいしく食べるために、そして彼の胃袋のためを思い言ったのに、この仕打ちはあんまりだ。

「ちょっと……」

 ぴくっと藤行の肩が揺れる。
 大きな手が内ももに入り込む。急いで両足を閉じるも、彼の手は遠慮なしに動き回る。
 さわさわと指先で引っ掻くように動かされ、藤行は手で口を塞ぐ。

(声が……)

 内ももまでなら耐えることが出来たが、意地悪な彼がそれだけで終わらせるはずもない。
 あろうことかズボンの上から股間まで摩り出した。

「んンっ……」

 やめろオラァと右ストレートを決めたいが、手が足の間にあるこの状況で目立ちたくないし、恐らく殴った手の方が痛くなる。

「はっ。震えちゃって」

 足の間の手が何度も上下する。その摩擦が普段はしっかり閉ざされている快楽の栓を緩ませる。ヤりなれている彼はその気になれば、情欲に火を点けるなんて簡単に出来るのだろう。バスの中でこれ以上のことをされたくなくて、彼を刺激しないよう大人しくする。

「ぅ……ん。ぁ……」
「声出てるぞ。そうだ。胸も遊んでほしいだろ?」

 全力で首を振ったが奴は見もせず鞄を漁る。
 出てきたモノに顔が引きつった。

「なに……それ?」
「ローター。胸につけてやるよ。夏仕様のヒマワリ柄が売ってたから選んでみたんだ。どうだ?」
「今すぐ死んでください」

 旅行に何を持ってきてんだ。割と真面目に言うも笑って流される。
 服を捲り上げられそうになり、流石に抵抗した。

「やだって。声出るもん!」

 正確には声が出るようにされてしまった、である。
 伸一郎はじっと見つめてくる。

「これが嫌なら到着するまでお前の口に舌突っ込むけど。どっちか選べ」

 拷問に近い二択に声がひっくり返る。

「え、ええエ選べなかったら……?」

 伸一郎は実にさらっと答える。

「尻穴拡張する。今、ここで」

 こんな閉鎖空間で追いつめられることになろうとは。
 もう、泣きそうな藤行が選んだのはローターだった。

「な、なんでこんなことにぃ」
「期待してたくせに。自分で服まくって乳首晒せ」
「期待してないし……ふざけんなっ!」

 血が出そうなほど奥歯を噛みしめ、そろそろと服を持ち上げていく。
 消えてしまいたいほど頭が熱くなる。

「は、早くしてよ。見られたら、恥ずかしいじゃん……」
「恥ずかしがってる顔も良いな。どんな気分だ? 人が大勢いるバスの中で肌晒す気分は」
「うるさい。禿げろ……」

 伸一郎はわざとのろい手つきで、胸の突起にローターをテープで固定する。何で一日に二度も羞恥プレイを受けなきゃならないんだ。

「んっ……」
「貼っただけで感じたのか?」
「あ、あう……」

 手が離れると素早く服を下ろした。ローターがある場所が不自然に膨らんでいる。

「さすがに目立つよ……」
「まずは「弱」からするか」
「聞いてる⁉ 伸一郎さっ」

 びくんと藤行の身体が跳ねる。ローターのスイッチを彼が入れたのだ。
 強制的に振るわされる乳首。必死に口を押えた。

「んっ。んっ……」
「藤行はこういう玩具。使ったことあるか?」

 だから、使う前に聞けや!

 涙目でぎっと睨みつけながら首を横に振る。

「マジかよ。お前、ローションもエロアイテムも使わずに生きてきて今まで楽しかったか?」
「うンッ、楽しかったわ……くそが」

 声を出さないようにしているのに、性格上どうしても言い返さずにはいられない。

「ふう……はアッ、ん。ん……う……ぁ」
「そんなに口を押えていたら吐きそうだと思われるぞ」

 手首を掴んで口から離される。

「だって……はあ、うあ。も、む、むりぃ」
「まだ到着には時間がありそうだな」

 先ほどの続きと言わんばかりに、彼の手が太ももを撫でる。

「嘘っ。ン、や、あ。とめ、て。ローター……とめてっ」

 どうしても手が口に行きそうになるので、彼の腕を掴んでおく。力を込めるも彼は痛がる素振りさえ見せない。

「伸一郎さん。やだぁ……」

 恥を忍んで彼に身体を寄せて懇願するが、なんとその表情をパシャっとスマホで撮影された。

「……え?」

 ぽかんとなる藤行。
 彼はのんきにスマホ画面を眺めている。

「うっわ。えっろ。待ち受けにしよ」

 とんでもないことを言われた気がする。
 藤行が発狂する前に、シャッター音が聞こえたバスガイドが遮る。

「はい。もう撮られていらっしゃる方もおられますが、この先しばらくヒマワリ畑が続きます。皆さま、カメラのご用意を」

 いつの間にか高速道路から下りていたようだ。
 言われて窓の外を見てみれば、遠くに黄色の畑が見える。藤行は彼の腕に自分の腕を絡める。

「俺も、アッ、ん、ヒマワリ見たい。お願い。あ……んっ、今だけで、いいから……とめ、て。ああっ」

 びくびく震えながら頼み込むと、伸一郎は口元を押さえた。

「誘ってんのか? お前。すげー頼み方すんじゃん。どこで覚えた?」
「いいからっ。とめろや……変態」

 くいっと顎を掴まれ、目を合わせられる。

「あ……」
「その変態に気持ち良くされているのは誰だよ?」
「いいから、とめてってば。あ、ぁ。ヒマワリ過ぎちゃう……ぅ」
「藤行。イくなよ? 下着濡らした状態で昼飯食う羽目になるぞ」

 な・に・を他人事みたいに言ってんだあああ!

 こうなってんのも誰のせいだ。いや、俺も一ミクロンくらい悪かったかも知れないけど。

 ――と言い返す気力もなく、彼の腕にしな垂れかかる。

「……う、ぅ。伸一郎、さんっ……あ、ああ。んぁ……」

 自力で声が押さえられなくなってきたため、彼のシャツを噛んで耐える。

「ふう。ん、ん……ふ、ぅ」
「藤行」

 なんだか、伸一郎の胸からどくんどくんとやたら大きな鼓動が聞こえる。やはり身体がでかい分、心臓も常にフルスロットルなのだろうか。などと、快感に支配された頭で考える。

「おねがい……。はやく、早くぅ……」

 伸一郎はがしがしと髪を掻く。

「仕方ねぇな」

 カチッっと音が聞こえ、ローターが大人しくなった。太ももを撫でる手も離れる。
 我慢できず、藤行は自分でローターを取った。

「……はあ、っはあ……あ、ありがと。とめてくれて」
「は? キスは?」
「こんなバスの中でするわけないだろ。お前だけバス降りて走れ」

 彼の靴で彼の足を思いっきり踏みつけ、窓に額をくっつける勢いでヒマワリを眺める。

「いって……この野郎」
「うわ~。ヒマワリすげー」
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