電車の中で・・・

水無月

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番外編 親戚の山の中で ②

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 当日。
 旅行鞄を持って蛍川の家に行くと八人乗りのワゴンが二台とまっていた。そのデカい車に、蛍川家の面々が荷物を積み込んでいる。

「あ。史君。おはよう」

 蛍川が俺を見つけると手を振ってくる。栄田は鞄を肩にかけなおして近寄った。

「おー。おはよう。何このでっけえ車。レンタル車ってやつ?」
「じいちゃんと、黒い方は親父の」
「二台も必要なの?」
「じいちゃんと親父が同じ車内にいると、喧嘩しちゃうから。それに姉ちゃんもいるし」

 背の高い茶髪美女が二人。片方は心配になるほどほっそりしており、もう片方はぽっちゃりしておられる。正直、ぽっちゃり女子は好みなのでつい見てしまう。

「おお。ほたるんの(じいちゃんとソリが合わずに)出て行った姉上たちか? 家を出たぐらい仲悪いのに、お盆は一緒に過ごすってこと?」

 ちょっと踏み込んだこと聞いたかな? と思ったが蛍川(彼氏)は苦笑して答えてくれた。

「まーね。姉ちゃんたちは嫌がってたけど。うちはこういう行事を大事にするから……。ま、親戚には会いたいみたいだし」
「ほへー」

 超適当な返事をしつつ、栄田に気づいた他の方々に頭を下げる。初対面の方もいるので名乗っておく。

「どうも。本日はお世話になります。栄田清史です」
「あら。栄田君。来てくれて嬉しいわ。門十郎が無理に誘ったんじゃない? 大丈夫?」

 心配してくださる蛍川母。お肉につられましたとは言えない。

「いえ。ほたる――えーっと。蛍川君と一緒にいると楽しいので。誘ってくれて嬉しいです」

 ほたるんほたるん言い過ぎて、彼氏の名字を忘れかけるとんでもない現象が起きている。でも、名前で読んだら嫌がるしなー。
 蛍川母はほっと胸を押さえる。仕草が上品だ。

「そうなの」
「え? 母さん、この子が門十郎の友達⁉ 幻じゃなくて?」
「嘘! 門十郎に友人……友人⁉ ちょ、ちょっと! あとで、車内で馴れ初めとか、学校での様子とか聞かせてよ。ほらほら! ジュースあげるから」

 すごく興奮した様子のお姉さまたちが詰め寄ってくる。受け取ったジュースは果汁百。
 蛍川は気まずそうに目を逸らしている。どんだけレアイベントなんだよ。もっと定期的に友人連れて来いよ家に。

「エイダちゃん。おはようー」

 まだ眠たそうなロリも近寄ってくる。他所行きのフリフリレーススカートがめちゃ可愛い。由夏子ちゃん……だったかな。

「おはようー。由夏子ちゃん」
「由夏ちゃんでいいよ?」

 自分でちゃん付けした。相当可愛がられているな。

「はい。由夏ちゃん。本日はよろしくお願いします」
「ふふっ。エイダちゃんも一緒で嬉しい。だってずっとモンちゃん上機嫌なんだもん」

 ばっと彼氏の顔を見ると、ばっと逸らしやがった。

「これ! 由夏子は嫁にはやらんぞ」

 親し気に会話したせいか、親父さんと掴み合いしている元気そうなおじいさまが、車の向こうから話しかけてくる。
 蛍川の肩を組んで引き寄せる。

「あ。それなら。蛍川君を嫁にもらいまーす」
「ぅえ?」

 場が静まり返ったが、友達同士の冗談だと思ったのかすぐ笑い声が溢れた。

「カッカッカッ! さあ乗れぃ! 出発するぞ」
「栄田君は私らと同じ車に乗ろうね?」
「門十郎の友人……。ううっ、明るくていい子そうで、私、涙出てきた……」

 男子二人は親父さんの車に連れていかれた。



 おじいさまの車に蛍川母と由夏ちゃん。親父さんの車に蛍川姉二名と、蛍川長男と俺。
 朝も早いので車の中で二度寝させてもらおうと計画していたのだが――

「それでそれで? 門十郎のどこを気に入ってくれたの? 泊まりに来てくれるってことは、相当仲良いんだよね?」
「この子、学校でうまくやれているの? 栄田君以外に友達、いる?」

 布団代わりに持ってきたバスタオルの出番がない。
 苦い顔で外を見ている彼氏の腕を肘でつつく。

「なんで過去に一度も友人連れてこなかったんだよ。そのせいでこうなってんだろ」
(……いなかったんだってば)

 何も言わずにムスッと膨れているのが可愛い。

「ほたるん――蛍川君はすごモテますよ。女子にいつも騒がれてます」

 これで相当嫉妬したぜ。さらりと伝えると、前の座席に座っている女性二名は限界まで首を捻ってくる。

「え? あんたそんなにモテるの?」
「モテるの? あんたが⁉ じゃあ、彼女とか、いたりするの?」
「……ほっといてよ」

 照れたような顔でぷいっとそっぽを向く。
 でも目が、俺をちらりと見てくるのが可愛い。どうも。蛍川君の彼氏です。
 親父さんも息子の「モテる」事実に、後ろを意外そうな顔で見てくる。そろそろ信号青に変わりそうなんで、前を見てください。

「ちょっと何で言わないのよ! 好きな子とかできた?」
「あんたそんな、学校できゃーきゃー言われてたの? そんな面白いことになっていたなんて知らなかった。ねえ。ラブレターって、本当に下駄箱に入っていたりするわけ?」

 車内じゃなかったら肩を掴んで前後に揺すられていそうな勢いだ。アクセルをゆるやかに踏み、バックミラーでちらっと見てきた親父さんが「前見て座ってろ~」と声をかけるが聞いちゃいない。
 蛍川(弟)は煩わしそうに顔をしかめている。

「うるさいよ、姉ちゃんたち。ラブレターなんて都市伝説だって」
「だーって、あんた大人しいから。心配してるのよ」
「そうよ。でもま、栄田君みたいな友人がいるなら大丈夫そうかな。栄田君! この子と仲良くしてあげてよ。先生が『二人組作って~』とか言ったら、組んであげてね⁉」

 蛍川は恥ずかしそうにうつむいているがお姉さま二人の表情は真剣だ。
 姉弟仲が良く、姉に心配されることに慣れっこな栄田は「心配し過ぎじゃね?」「シスコン?」とは思わなかった。当たり前のことのように受け入れる。

「こっちの台詞ですって。ペア作らないといけないときは、俺と組もうな?」
「……う、うん」

 笑みを向けると、照れた顔でぎこちなく頷く蛍川。前の座席から拍手が送られ、親父さんはぐずっと鼻をすすっていた。
 蛍川が家族から大事にされていると思うと嬉しい。栄田はそれだけで気分が良くなった。









 到着した親戚の家もこれまた広かった。
 初めて訪れる家は新鮮なにおいがする。
 和室で挨拶を済ませると、蛍川は栄田の腕を掴んで外に出た。歩くとプピプピ鳴る靴を履いた由夏ちゃんもついてくる。

「挨拶しただけでいいのか?」
「あとはなんか堅苦しい話が続くだけだから。俺らは顔を見せればいいんだし」

 俺らより早く退場したお姉さま二人が、別室で誰かと話しておられる。

「あの黒髪ロングの清楚系美女は?」
「……従姉」
「おねーちゃーん」

 由夏ちゃんが手を振ると、気がついたお姉さま三人が廊下までやって来る。
 黒髪清楚な女性はしゃがむと、由夏ちゃんを目一杯撫でだす。

「門十郎。どっか行くの?」
「話が終わるまで、ふみ、栄田君と遊んでいようと思って」
「やめなさい。今日は気温高いのよ!」

 山の中とはいえ、日中は暑い。だが都心に比べると遥かに心地よい風が吹いている。
 どうしよっか? と言いたげに彼氏が見上げてきた。

「あー。悪いんだけど俺、眠くてさ。ちょっと横になって良いかな?」

 車の中で眠れなかったので、瞼を開けているのが辛い。
 ごしごしと目を擦ると、蛍川姉弟妹が覗き込んでくる。

「えっ? 具合悪い?」
「やだ。熱中症? お、お母さん呼んでくる」
「だーいじょうぶです。寝不足です! 昨日、楽しみで寝付けなかったんで」

 走って行きかけた蛍川姉を呼び止める。

「そ、そう? 空き部屋があるから。そこで横になってると良いわ」

 案内してもらったのは二階の、テレビが置いてある個室だった。古い家なのか、階段が急で怖い。

「テレビ観ててもいいからね?」
「クーラーの温度はこのリモコンで調節してね? ちょっと古いから、ボタンは壊す勢いで押すのよ?」
「ありがとうございます」

 お姉さまたち、交互に喋るから面白いな。
 栄田はバスタオルを腹に乗せると、遠慮なく寝っ転がった。畳が気持ちいい。ずっと車の中だったから、足が伸ばせるー。

「史君。これ」
「お。サンキュー」

 二つに折った座布団を渡してくれる。頭を乗せると、すぅっと栄田は眠ってしまった。

(大人しいと思ったら、眠かったんだ)

 挨拶時も変な敬語使っていると思ったら。
 することがないので蛍川もゴロンと横になる。寝顔にキスしかけたのだが……背中に由夏がくっついていたので踏みとどまった。



「……あら」

 一時間後。蛍川母が様子を見に来れば、三人川の字でお昼寝していた。

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