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第十五話・種族は関係ない
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「例え貴様が眼球に手足、なにもかもなくそうと、貴様の価値は微塵も揺るぎはしない。それに……そのような物言いは、貴様を愛してくれている者たちへの侮辱ではないか?」
母に愛され、認められ。色んな種族のよりどころとして、または駆け込み寺として頼りにされまくってきたオキンの自己肯定感という土台は大地の如し。そのようなオキンからすれば、リーンの発言は理解できない不思議なものだった。
ビクッと肩が震え、泣きそうな顔で少年は顔を上げる。
心底不思議そうな顔をした竜が、首を傾げていた。
「お、俺は……」
光輪がない星影など価値半減だ。人買いに掴まった際に言われ続けた言葉。暴力で身体と共に心に刻まれた傷。
でも、傷ばかりではない。地上に来て得たものもある。
救ってくれた女性に恩人、犬耳の友人に優しいおじいちゃん。
(フリーのやつなんか、俺のこと大好きだしな)
大好き、という言葉に心がわずかに軽くなる。
はあ。またうじうじしてしまった。どうも最近、メンタルが安定しないな。
「す、すいません……。なんか、心がふにゃふにゃしてしまって」
「かまわん。というか、今のその心の状態をしっかり覚えておけ。いつか、心が折れた者の力になってやれるはずだ。貴様の子どもとかな」
ワシは心が折れたことも折れる予定もないから、心が弱って落ち込んでいる者を励ましてやることが出来ん。どう励ませばいいのか、声をかければいいのかもわからん。さっぱりだ。
誰との子を想像したのか、少年の顔が爆発的に赤く染まっていく。
「……子どもとかっ! そんな。ではなく、てっきり、『うじうじするな』って言われるかと、思ったんですけど」
「うん? ワシはどうしても弱者の気持ちがわからぬ。ゆえに、貴様の感情は否定しない」
分からないもの、未知を拒むのは、恐怖という感情があるからだ。竜にそんなものはない。……母の怒りとか心を読んでくるやつとか、苦手なものはあるが、あれらは苦手であり恐怖ではない。と、言い張る。
「……」
あまりに否定しないオキンに、リーンは笑うことが出来た。眉は下がり気味だったが。
「どっしりしてますね。……竜だから、ですかね?」
「それは違う。ワシだからだ。種族は関係ない」
だって母は、オキンがなんだろうと愛してくれたはずだ。あの鬱陶しいジジイもな!
ひとりぷんすか怒るオキンに、小さく吹き出す。
「おれ、私には精霊と話をして、力を貸してもらう力? 能力? があります。これは、地上では珍しい、んですよね?」
素直に頷く。
「うむ。下位精霊は割とその辺で見かけるが、上位の精霊、それも星の力を宿した星霊など、初耳もいいとこだ。ワシですら知りえない情報! これはワシにとって価値がある」
きらきらと目を輝かせている。なんだろう。頼れる親父という印象だったのに。こういうところは子どもっぽいな。
「わ、私が契約しているのは『夜光戦隊・シャインジャー』です」
「ほうっ」
「子どもとは言え、か、下位ではなく上位の星霊。合体すれば大人の星霊と同じ攻撃を、一度だけできます」
精霊に上位も下位もないのだが、リーンは地上の言い方に合わせる。
「合体とな!」
合体ロボでも考えているのか、興奮を隠しきれていない。
「俺の友人はまた違った精霊と契約していました。俺たちはある年齢になると精霊と……」
「ほう! なんだ! 申してみよ」
わくわくが止まらない! といった表情だ。瞳どころか周囲にも星が散っている。この方、こういった顔もするんだな。
リーンはキッと口を閉じる。
「この話の続きを聞きたかったら、お、私を子分にしてください」
「よかろう」
すごく滑らかな「よかろう」だった。魅力的なおもちゃ箱を手に入れたような表情だ。
リーンはほっと肩の力を抜く。
「ありがとう、ございます」
「で、貴様。夜宝剣を伯父貴に預けているそうだが……。それは何故だ? 扱いきれていないのか?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「違いますよ! 俺は、私はドールさんを守りたいだけです」
「……伯父貴の名は、キミカゲだが?」
ぽかんとする竜に、身振り手振りを交えて説明する。
「そのキミカゲ様に何かあれば、この街が消滅するでしょう? この街に住んでいるドールさんを守らなくては!」
ああ、ワシから守るって意味ね。オキンは絶妙に気まずそうに目線を逸らす。
「うん。……理解した」
では、この子どもには夜宝剣の代わりに黒羽織を授けよう。シャインジャーのような爆発力は無いが、守ってくれるはずだ。
「あとで、ベゴールを紹介しよう。今は少し休むといい」
「はいっ」
目を開けると、心配そうな顔のフリーが覗き込んでいた。
「え?」
「あ。先輩」
周囲を見回しながら上体を起こすと、見知らぬ部屋だった。しばしぼーっとしていたが、すぐに思い出す。
「あれ? 俺、オキンさんと話してなかったか⁉」
「おや。起きたかい? といっても、もう夜だけどね」
フリーが口を開こうとしたタイミングで、キミカゲとニケが顔を見せる。
キミカゲは苦笑する。
「オキンが『倒れた』って言いながら運んできてくれたんだよ」
竜と五分以上も一緒にいたらしい。緊張の糸が切れたのだろう。オキンが退出許可を出すと同時にぶっ倒れたようだ。
(いやああ。だっせぇーーーっ。俺ェ)
無様を晒したらしい。三人の顔を見て、リーンはごろごろと悶える。三人はそんなリーンを見て元気そうだと安心した。
「し、心配をおかけしました……」
ニケはリーンが座っている寝台によじ登る。
「よいしょ。ここはあのカーペットの部屋の隣です。寝るだけの部屋。寝室だそうです」
寝るためだけの部屋を作るとは。金持ちの考えは分からんわ。
ニケの横でフリーもうんうんと頷いている。
キミカゲがひとり遠い目をしているので、本当はみんなと雑魚寝したいけど甥っ子に「安眠出来ない」と隔離されたようだ。キミカゲ専用の寝室と言えば聞こえはいいが、ようは隔離部屋である。
フリーが寝台をぺしぺし叩く。
「先輩。これ、ベッドって言うんですって! すごいですよね。ここでは座椅子も布団もいちいち高さがあります」
布団の中だったのか。通りで落ち着かないわけだ。
リーンはさっと素足を床に下ろす。
「お。もう起き上がって大丈夫ですか?」
「布団の中は落ち着かん」
「すみません。フリーが『先輩は布団が落ち着かない』って言っていたんですけど、僕が寝かせるように言ったんですよ」
「ああ、いや。いいんだ」
ベッドとやらに埋もれるように座っている犬耳に手を振る。
そして気づく。
「って、俺倒れたんだよな? オキンさんに呆れられてなかった? どうしよう。『やっぱあいつ子分に加えるのやめるわ』とか言ってませんでした?」
狼狽えるあまり謎の踊りを踊っているリーンに、キミカゲは「どうどう」となだめる。
「そんなこと言ったら私はどうなるの? しょっちゅう倒れているってのに。オキンは呆れてなかったよ。むしろよく耐えたなって、言ってた」
「そ、そうですか」
それは良かった。
どっと胸の空気を吐き出す。
「しょっちゅう倒れないでください。ハラハラします」
ムスッとした顔のニケはいつもの肉球模様の寝間着姿だ。肉球模様だからかわいく感じるけど、人だったら手形模様のホラー柄の寝間着を着ているのかな……と、星影はズレた感想を抱く。
「……もしかして、もう寝るところだった?」
フリーが頷く。彼も寝間着だ。
「はい。まあ、先輩は朝まで起きないかなーと思ってたので。もう寝るかって話をしてました」
「台風はどんな感じだ?」
雨戸の隙間から外を除く。ごおおおという風の音。外は真っ暗で、雨が斜めではなく横向きに降っている。
そっと閉めた。
「こりゃ俺の家。掃除する必要ないかもな」
「ゴミとか全部、飛んでいってるでしょうね」
フリーはのんきに笑うが、下手をすると俺の家ごと飛んでいっているな。
母に愛され、認められ。色んな種族のよりどころとして、または駆け込み寺として頼りにされまくってきたオキンの自己肯定感という土台は大地の如し。そのようなオキンからすれば、リーンの発言は理解できない不思議なものだった。
ビクッと肩が震え、泣きそうな顔で少年は顔を上げる。
心底不思議そうな顔をした竜が、首を傾げていた。
「お、俺は……」
光輪がない星影など価値半減だ。人買いに掴まった際に言われ続けた言葉。暴力で身体と共に心に刻まれた傷。
でも、傷ばかりではない。地上に来て得たものもある。
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(フリーのやつなんか、俺のこと大好きだしな)
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「かまわん。というか、今のその心の状態をしっかり覚えておけ。いつか、心が折れた者の力になってやれるはずだ。貴様の子どもとかな」
ワシは心が折れたことも折れる予定もないから、心が弱って落ち込んでいる者を励ましてやることが出来ん。どう励ませばいいのか、声をかければいいのかもわからん。さっぱりだ。
誰との子を想像したのか、少年の顔が爆発的に赤く染まっていく。
「……子どもとかっ! そんな。ではなく、てっきり、『うじうじするな』って言われるかと、思ったんですけど」
「うん? ワシはどうしても弱者の気持ちがわからぬ。ゆえに、貴様の感情は否定しない」
分からないもの、未知を拒むのは、恐怖という感情があるからだ。竜にそんなものはない。……母の怒りとか心を読んでくるやつとか、苦手なものはあるが、あれらは苦手であり恐怖ではない。と、言い張る。
「……」
あまりに否定しないオキンに、リーンは笑うことが出来た。眉は下がり気味だったが。
「どっしりしてますね。……竜だから、ですかね?」
「それは違う。ワシだからだ。種族は関係ない」
だって母は、オキンがなんだろうと愛してくれたはずだ。あの鬱陶しいジジイもな!
ひとりぷんすか怒るオキンに、小さく吹き出す。
「おれ、私には精霊と話をして、力を貸してもらう力? 能力? があります。これは、地上では珍しい、んですよね?」
素直に頷く。
「うむ。下位精霊は割とその辺で見かけるが、上位の精霊、それも星の力を宿した星霊など、初耳もいいとこだ。ワシですら知りえない情報! これはワシにとって価値がある」
きらきらと目を輝かせている。なんだろう。頼れる親父という印象だったのに。こういうところは子どもっぽいな。
「わ、私が契約しているのは『夜光戦隊・シャインジャー』です」
「ほうっ」
「子どもとは言え、か、下位ではなく上位の星霊。合体すれば大人の星霊と同じ攻撃を、一度だけできます」
精霊に上位も下位もないのだが、リーンは地上の言い方に合わせる。
「合体とな!」
合体ロボでも考えているのか、興奮を隠しきれていない。
「俺の友人はまた違った精霊と契約していました。俺たちはある年齢になると精霊と……」
「ほう! なんだ! 申してみよ」
わくわくが止まらない! といった表情だ。瞳どころか周囲にも星が散っている。この方、こういった顔もするんだな。
リーンはキッと口を閉じる。
「この話の続きを聞きたかったら、お、私を子分にしてください」
「よかろう」
すごく滑らかな「よかろう」だった。魅力的なおもちゃ箱を手に入れたような表情だ。
リーンはほっと肩の力を抜く。
「ありがとう、ございます」
「で、貴様。夜宝剣を伯父貴に預けているそうだが……。それは何故だ? 扱いきれていないのか?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「違いますよ! 俺は、私はドールさんを守りたいだけです」
「……伯父貴の名は、キミカゲだが?」
ぽかんとする竜に、身振り手振りを交えて説明する。
「そのキミカゲ様に何かあれば、この街が消滅するでしょう? この街に住んでいるドールさんを守らなくては!」
ああ、ワシから守るって意味ね。オキンは絶妙に気まずそうに目線を逸らす。
「うん。……理解した」
では、この子どもには夜宝剣の代わりに黒羽織を授けよう。シャインジャーのような爆発力は無いが、守ってくれるはずだ。
「あとで、ベゴールを紹介しよう。今は少し休むといい」
「はいっ」
目を開けると、心配そうな顔のフリーが覗き込んでいた。
「え?」
「あ。先輩」
周囲を見回しながら上体を起こすと、見知らぬ部屋だった。しばしぼーっとしていたが、すぐに思い出す。
「あれ? 俺、オキンさんと話してなかったか⁉」
「おや。起きたかい? といっても、もう夜だけどね」
フリーが口を開こうとしたタイミングで、キミカゲとニケが顔を見せる。
キミカゲは苦笑する。
「オキンが『倒れた』って言いながら運んできてくれたんだよ」
竜と五分以上も一緒にいたらしい。緊張の糸が切れたのだろう。オキンが退出許可を出すと同時にぶっ倒れたようだ。
(いやああ。だっせぇーーーっ。俺ェ)
無様を晒したらしい。三人の顔を見て、リーンはごろごろと悶える。三人はそんなリーンを見て元気そうだと安心した。
「し、心配をおかけしました……」
ニケはリーンが座っている寝台によじ登る。
「よいしょ。ここはあのカーペットの部屋の隣です。寝るだけの部屋。寝室だそうです」
寝るためだけの部屋を作るとは。金持ちの考えは分からんわ。
ニケの横でフリーもうんうんと頷いている。
キミカゲがひとり遠い目をしているので、本当はみんなと雑魚寝したいけど甥っ子に「安眠出来ない」と隔離されたようだ。キミカゲ専用の寝室と言えば聞こえはいいが、ようは隔離部屋である。
フリーが寝台をぺしぺし叩く。
「先輩。これ、ベッドって言うんですって! すごいですよね。ここでは座椅子も布団もいちいち高さがあります」
布団の中だったのか。通りで落ち着かないわけだ。
リーンはさっと素足を床に下ろす。
「お。もう起き上がって大丈夫ですか?」
「布団の中は落ち着かん」
「すみません。フリーが『先輩は布団が落ち着かない』って言っていたんですけど、僕が寝かせるように言ったんですよ」
「ああ、いや。いいんだ」
ベッドとやらに埋もれるように座っている犬耳に手を振る。
そして気づく。
「って、俺倒れたんだよな? オキンさんに呆れられてなかった? どうしよう。『やっぱあいつ子分に加えるのやめるわ』とか言ってませんでした?」
狼狽えるあまり謎の踊りを踊っているリーンに、キミカゲは「どうどう」となだめる。
「そんなこと言ったら私はどうなるの? しょっちゅう倒れているってのに。オキンは呆れてなかったよ。むしろよく耐えたなって、言ってた」
「そ、そうですか」
それは良かった。
どっと胸の空気を吐き出す。
「しょっちゅう倒れないでください。ハラハラします」
ムスッとした顔のニケはいつもの肉球模様の寝間着姿だ。肉球模様だからかわいく感じるけど、人だったら手形模様のホラー柄の寝間着を着ているのかな……と、星影はズレた感想を抱く。
「……もしかして、もう寝るところだった?」
フリーが頷く。彼も寝間着だ。
「はい。まあ、先輩は朝まで起きないかなーと思ってたので。もう寝るかって話をしてました」
「台風はどんな感じだ?」
雨戸の隙間から外を除く。ごおおおという風の音。外は真っ暗で、雨が斜めではなく横向きに降っている。
そっと閉めた。
「こりゃ俺の家。掃除する必要ないかもな」
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