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第二十三話・受付に行こう
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フリーの口からまともな疑問が出たことに、リーンは一瞬固まる。
「んん、えっと。お前……フリーだよな?」
「なんでちょっと真面目な質問しただけで存在を疑われるんですか?」
日頃の言動のせいだろう、とニケが無言で見上げる。
「赤は一番数が多いすけど、価値が低いんで。儲けるなら青色を狙うといいっすよ。滅多に見つからないっすけど」
と、ホクトが解説してくれる。
そうしないと、千切れかけた腕を繋いでくれた治療費の完済など何年かかるか。
「あれ? 俺の質問は?」
「青が見つからなかったら紫もねらい目だぜ? 青の次に高値で買い取ってくれ……。ハッ! おい、フリー。お前、どれが紫かわかるか?」
つま先立ちになり真剣に肩を掴まれ、フリーの目が遠くなる。流石に色は分かる。
「わかりますよ! 紫ってあれでしょ? アキチカさんの瞳の色でしょ?」
ムキになって言い返すと、リーンはぽかんと口を開けた。
「え? あ、アキチカ様って、紫瞳やったんか?」
「ええっ?」
「見上げないと見えないからよく見てなかったわ」
アキチカはフリーに並ぶ高身長である。
それよりも横にいる双子巫女ばかりに目を奪われていたため、神使の顔など覚えておらず記憶の中でぼやけている。一応リーンにとっては恩人にあたるのだが彼は女性以外の顔を覚えるのが苦手だった。
からからと笑うリーンに、ちょっと失礼と言いたげにホクトが片手を挙げる。
「そろそろ役所に行って許可書を貰いに行かないっすか? 行列できちゃうっすよ?」
「……」
誰のせいで時間潰す羽目になったと思っているのだろうか。小一時間ほど肩を揺すぶってやりたくなったが、いまは潮干狩りを優先しよう。
「あっしは護衛なので潮干狩りはしませんけど、青色欠片を見つけたら教えるっすよ」
うきうきした様子で身を翻すホクトの羽織の裾を、フリーが摘まむ。
「ちょ、ちょっと。ミナミさん海に流れて行ったままなんですけど? まず拾いに行った方がいいんじゃないですか?」
「うるさいから海に沈めとけばいいっすよ。さ、行きましょう」
逆にフリーの腕を掴むとぐいぐい引きずっていく。
フリーを取られた、とでも感じたのだろうか。ぷくっと頬を膨らませたニケが急いで逆の手を掴む。
「……え?」
ぽつんと一人残されたリーン。
フリーの手を掴んでいるイヌ科二人を交互に見る。自分もフリーを掴まなきゃだめだろうか? そんなわけないがなんとなく疎外感を感じ、リーンはフリーの肩に背後から飛びついてぶら下がった。両手塞がっているからね。背中しか空いていなかったから。仕方ない。
だがリーンは忘れていた。身体強化をかけていないフリーが、やじろべえより転びやすいことを。
「ぐえっ! 苦しい」
大きくのけ反ったフリーは、三人を巻き込んで見事に砂浜に倒れ込んだ。
「いらっしゃいませ! ようこそ青真珠村へ」
「海星石(かいせいせき)狩りの受付は、こちらですよー」
「いらっしゃいませ。青真珠村」と書かれたハッピを着たお姉さんたちが『受付↑』の看板を持ち、元気に声を張っている。
白髪の次に珍しいとされる銀の髪を左右で三つ編みにし、胸の前に流している。もう一人はショートヘアで、うなじが眩しい。
太陽を反射し輝く髪に観光客の視線が吸い込まれる。なるほど、この目立ちっぷりは看板娘に相応しい。青真珠村が雇ったヒトなのだろう。銀髪娘がふたり。ずいぶん財政は潤っているようだ。
「あら。お兄さんたちも海星石狩りですか?」
お姉さんたちが明るく声をかけてくる。
「ええ。そうです」
たとえ相手(客)が砂まみれであろうとも、笑みは決して絶やさない。
「青真珠村は初めてで?」
「いえ。俺は何度か。今回は友人を連れてきたんですよ」
きりっとした表情のリーンが、白いのを押しのけて前に出る。
普段どこに仕舞っているんだと言いたくなるさわやかな笑みを浮かべ、リーンは紳士的に対応する。
三つ編みのお姉さんが分厚い唇に人差し指を添える。
「あら。では説明は不要かしらね?」
「いいえ、とんでもない。是非ともお願いしたいです。個人的に。仕事終わりに良ければお茶でも……ちょ、あああああっ」
「はいはい。先輩。早く受付済ませまちゃいましょう」
「僕も早く海で遊びたいです」
「あっしも」
仲間たちに引きずられていく少年を、手を振ってにこやかに見送る。その背中に「あわわわわ……」と困惑顔のショートヘア娘がぴったり張り付いていた。
受付に出来ている列の最後尾に並ぶと、リーンは手を振り払う。
「おい。フリー! 俺様が女の子に声をかけている時は邪魔したらダメって、古事記にも書いてあるだろう。いつもいつも! いいところで邪魔すんなや」
死んだ目で「古事記って何?」と聞くが、ニケは額を押さえたまま「知らん」と返す。
「先輩。なんであの滑らかな対応が、双子巫女さんには出来ないんですか?」
どうでもよさそうに言うと、リーンは牛耳まで赤くした。
「う、うううるさいなっ。ふ、双子巫女さんたちは、あ、憧れって言うか……。気安く話しかけちゃダメなオーラを纏っているって言うか。見ているだけで浄化されそうって言うか」
そのまま煩悩ごと浄化してもらえという言葉を飲み込み、ニケはフリーに向かって両手を伸ばす。
「ん」
「ん? ……あ、はい」
そっとニケを抱き上げると、腕に座らせる。
「うむ」
わずかに尻を動かし、ちょうどいい位置を見つけるとフリーにもたれかかる。
これで当然という顔をするニケを、後ろからホクトが覗き込む。
「ニケさん? 疲れたっすか?」
「ご心配なく。このように便利な椅子があるので」
「俺は椅子じゃな……」
「いいよな。ニケさん。踏み台兼椅子があって。俺様も座りたいぜ。あーあ、喉乾いてきた」
「売店に飲み物売っているっすよ? 買ってくるっす。なにがいいっすか?」
「あ、水筒の残りがあるんで俺は大丈夫です。でも一応、フリーの分だけ何か買ってきてください」
フリーが何か言った気がするが、リーンの声で聞こえなかった。そのことに誰も気にすることなく、ホクトは売店に向かっていく。
「……」
いいんだ、別に。
笑顔のフリーは滲んだ涙をそっと拭う。
ぎゅっと着物を掴むニケを見て、そう言えば気になっていたことを訊ねてみた。
「んん、えっと。お前……フリーだよな?」
「なんでちょっと真面目な質問しただけで存在を疑われるんですか?」
日頃の言動のせいだろう、とニケが無言で見上げる。
「赤は一番数が多いすけど、価値が低いんで。儲けるなら青色を狙うといいっすよ。滅多に見つからないっすけど」
と、ホクトが解説してくれる。
そうしないと、千切れかけた腕を繋いでくれた治療費の完済など何年かかるか。
「あれ? 俺の質問は?」
「青が見つからなかったら紫もねらい目だぜ? 青の次に高値で買い取ってくれ……。ハッ! おい、フリー。お前、どれが紫かわかるか?」
つま先立ちになり真剣に肩を掴まれ、フリーの目が遠くなる。流石に色は分かる。
「わかりますよ! 紫ってあれでしょ? アキチカさんの瞳の色でしょ?」
ムキになって言い返すと、リーンはぽかんと口を開けた。
「え? あ、アキチカ様って、紫瞳やったんか?」
「ええっ?」
「見上げないと見えないからよく見てなかったわ」
アキチカはフリーに並ぶ高身長である。
それよりも横にいる双子巫女ばかりに目を奪われていたため、神使の顔など覚えておらず記憶の中でぼやけている。一応リーンにとっては恩人にあたるのだが彼は女性以外の顔を覚えるのが苦手だった。
からからと笑うリーンに、ちょっと失礼と言いたげにホクトが片手を挙げる。
「そろそろ役所に行って許可書を貰いに行かないっすか? 行列できちゃうっすよ?」
「……」
誰のせいで時間潰す羽目になったと思っているのだろうか。小一時間ほど肩を揺すぶってやりたくなったが、いまは潮干狩りを優先しよう。
「あっしは護衛なので潮干狩りはしませんけど、青色欠片を見つけたら教えるっすよ」
うきうきした様子で身を翻すホクトの羽織の裾を、フリーが摘まむ。
「ちょ、ちょっと。ミナミさん海に流れて行ったままなんですけど? まず拾いに行った方がいいんじゃないですか?」
「うるさいから海に沈めとけばいいっすよ。さ、行きましょう」
逆にフリーの腕を掴むとぐいぐい引きずっていく。
フリーを取られた、とでも感じたのだろうか。ぷくっと頬を膨らませたニケが急いで逆の手を掴む。
「……え?」
ぽつんと一人残されたリーン。
フリーの手を掴んでいるイヌ科二人を交互に見る。自分もフリーを掴まなきゃだめだろうか? そんなわけないがなんとなく疎外感を感じ、リーンはフリーの肩に背後から飛びついてぶら下がった。両手塞がっているからね。背中しか空いていなかったから。仕方ない。
だがリーンは忘れていた。身体強化をかけていないフリーが、やじろべえより転びやすいことを。
「ぐえっ! 苦しい」
大きくのけ反ったフリーは、三人を巻き込んで見事に砂浜に倒れ込んだ。
「いらっしゃいませ! ようこそ青真珠村へ」
「海星石(かいせいせき)狩りの受付は、こちらですよー」
「いらっしゃいませ。青真珠村」と書かれたハッピを着たお姉さんたちが『受付↑』の看板を持ち、元気に声を張っている。
白髪の次に珍しいとされる銀の髪を左右で三つ編みにし、胸の前に流している。もう一人はショートヘアで、うなじが眩しい。
太陽を反射し輝く髪に観光客の視線が吸い込まれる。なるほど、この目立ちっぷりは看板娘に相応しい。青真珠村が雇ったヒトなのだろう。銀髪娘がふたり。ずいぶん財政は潤っているようだ。
「あら。お兄さんたちも海星石狩りですか?」
お姉さんたちが明るく声をかけてくる。
「ええ。そうです」
たとえ相手(客)が砂まみれであろうとも、笑みは決して絶やさない。
「青真珠村は初めてで?」
「いえ。俺は何度か。今回は友人を連れてきたんですよ」
きりっとした表情のリーンが、白いのを押しのけて前に出る。
普段どこに仕舞っているんだと言いたくなるさわやかな笑みを浮かべ、リーンは紳士的に対応する。
三つ編みのお姉さんが分厚い唇に人差し指を添える。
「あら。では説明は不要かしらね?」
「いいえ、とんでもない。是非ともお願いしたいです。個人的に。仕事終わりに良ければお茶でも……ちょ、あああああっ」
「はいはい。先輩。早く受付済ませまちゃいましょう」
「僕も早く海で遊びたいです」
「あっしも」
仲間たちに引きずられていく少年を、手を振ってにこやかに見送る。その背中に「あわわわわ……」と困惑顔のショートヘア娘がぴったり張り付いていた。
受付に出来ている列の最後尾に並ぶと、リーンは手を振り払う。
「おい。フリー! 俺様が女の子に声をかけている時は邪魔したらダメって、古事記にも書いてあるだろう。いつもいつも! いいところで邪魔すんなや」
死んだ目で「古事記って何?」と聞くが、ニケは額を押さえたまま「知らん」と返す。
「先輩。なんであの滑らかな対応が、双子巫女さんには出来ないんですか?」
どうでもよさそうに言うと、リーンは牛耳まで赤くした。
「う、うううるさいなっ。ふ、双子巫女さんたちは、あ、憧れって言うか……。気安く話しかけちゃダメなオーラを纏っているって言うか。見ているだけで浄化されそうって言うか」
そのまま煩悩ごと浄化してもらえという言葉を飲み込み、ニケはフリーに向かって両手を伸ばす。
「ん」
「ん? ……あ、はい」
そっとニケを抱き上げると、腕に座らせる。
「うむ」
わずかに尻を動かし、ちょうどいい位置を見つけるとフリーにもたれかかる。
これで当然という顔をするニケを、後ろからホクトが覗き込む。
「ニケさん? 疲れたっすか?」
「ご心配なく。このように便利な椅子があるので」
「俺は椅子じゃな……」
「いいよな。ニケさん。踏み台兼椅子があって。俺様も座りたいぜ。あーあ、喉乾いてきた」
「売店に飲み物売っているっすよ? 買ってくるっす。なにがいいっすか?」
「あ、水筒の残りがあるんで俺は大丈夫です。でも一応、フリーの分だけ何か買ってきてください」
フリーが何か言った気がするが、リーンの声で聞こえなかった。そのことに誰も気にすることなく、ホクトは売店に向かっていく。
「……」
いいんだ、別に。
笑顔のフリーは滲んだ涙をそっと拭う。
ぎゅっと着物を掴むニケを見て、そう言えば気になっていたことを訊ねてみた。
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