56 / 260
第五十六話・祭りの終わり
しおりを挟む
ニケは小さく笑う。
「あやつリーンさんのこと気に入ってますから、光輪を見つけても懐に隠しそうで」
以前なら「僕のフリーに気に入られているなんて!」と嫉妬の炎が燃え盛っていただろうが、今はなんというか正妻の余裕のようなものがあった。
リーンは意味が分からないという風に首を傾げる。
「?」
「だって光輪を返したら、リーンさん、宙(そら)に帰っちゃうんでしょう? あやつ、寂しがりますよ」
リーンは目を丸くして、やがて寂しそうに微笑んだ。
――厄介者の俺に、そんなことを言うなんてな。
「あっ、もちろん殴ってでもリーンさんにお返ししますから。ご安心を!」
沈黙をどう取ったのか、ニケが焦って手を振る。
それに照れくさくなったリーンは誤魔化すように、「さてと」と立ち上がる。
「そろそろ帰りますわ。キミカゲ様、お邪魔しました」
出口の方へ歩いていく彼に、キミカゲはいつものように微笑む。
「座りなさい」
てっきり「気をつけてね」と言ってもらえると思っていたリーンは、一瞬遅れて振り返る。
「え?」
「座りなさい」
笑顔なのに有無を言わせぬ圧。リーンは迷わず座り、ニケは座っているのに座ろうとしたせいで、伏せの姿勢になった。
「狙われたばかりなんだ。今日は泊っていきなさい。いいね?」
「え? で、でも――」
「いいね?」
リーンは座った体勢のまま頭を下げた。
「泊らせていただきます!」
「うん。良い子だね。ニケ君も、それでいいかな?」
「ここは翁の家なんですから。僕に文句はないですよ」
キミカゲは満足そうに二人の頭をよしよしと撫でる。
そして――前のめりにぶっ倒れた。
「ええっ! 翁」
「キミカゲ様? どうしたんですか!」
血相を変えて身体を揺すり、上向きに寝かせる。おじいちゃんの体力も限界だったらしい。
ぐるぐると目を回しておられた。
キミカゲの顔を見下ろし、リーンが冗談気味にこぼす。
「……今のうちに帰ったら、駄目かな?」
「え? ゆ、勇気ありますね。リーンさん」
「じょ、冗談だって」
無事に帰れたとしても、めちゃくちゃ叱られるだろう。キミカゲの大激怒(かみなり)を想像し、身震いするふたり。
力を合わせてキミカゲを布団に運ぶと、自分たちも寝ることにした。ニケは当然のようにフリーの布団に潜りこみ、無事だった右腕にしがみつく。
暑いのか、リーンは畳の上に転がり、残念そうに暗い天井に目をやる。
「アキチカ様の舞、見られなかったなぁ」
「来年がありますって。それより僕は、治療費に頭抱えてますよ……」
レナさんの財布も募金箱……じゃなくて賽銭箱へ入れられなかった。
リーンはははっと笑う。
「待ってくれるって。キミカゲ様なんだし」
「そう、ですよね」
しばらくぼそぼそと話し声が聞こえたが、祭りが終わり人々が帰路につく頃には、くすりばこ内は静まり返っていた。
「あやつリーンさんのこと気に入ってますから、光輪を見つけても懐に隠しそうで」
以前なら「僕のフリーに気に入られているなんて!」と嫉妬の炎が燃え盛っていただろうが、今はなんというか正妻の余裕のようなものがあった。
リーンは意味が分からないという風に首を傾げる。
「?」
「だって光輪を返したら、リーンさん、宙(そら)に帰っちゃうんでしょう? あやつ、寂しがりますよ」
リーンは目を丸くして、やがて寂しそうに微笑んだ。
――厄介者の俺に、そんなことを言うなんてな。
「あっ、もちろん殴ってでもリーンさんにお返ししますから。ご安心を!」
沈黙をどう取ったのか、ニケが焦って手を振る。
それに照れくさくなったリーンは誤魔化すように、「さてと」と立ち上がる。
「そろそろ帰りますわ。キミカゲ様、お邪魔しました」
出口の方へ歩いていく彼に、キミカゲはいつものように微笑む。
「座りなさい」
てっきり「気をつけてね」と言ってもらえると思っていたリーンは、一瞬遅れて振り返る。
「え?」
「座りなさい」
笑顔なのに有無を言わせぬ圧。リーンは迷わず座り、ニケは座っているのに座ろうとしたせいで、伏せの姿勢になった。
「狙われたばかりなんだ。今日は泊っていきなさい。いいね?」
「え? で、でも――」
「いいね?」
リーンは座った体勢のまま頭を下げた。
「泊らせていただきます!」
「うん。良い子だね。ニケ君も、それでいいかな?」
「ここは翁の家なんですから。僕に文句はないですよ」
キミカゲは満足そうに二人の頭をよしよしと撫でる。
そして――前のめりにぶっ倒れた。
「ええっ! 翁」
「キミカゲ様? どうしたんですか!」
血相を変えて身体を揺すり、上向きに寝かせる。おじいちゃんの体力も限界だったらしい。
ぐるぐると目を回しておられた。
キミカゲの顔を見下ろし、リーンが冗談気味にこぼす。
「……今のうちに帰ったら、駄目かな?」
「え? ゆ、勇気ありますね。リーンさん」
「じょ、冗談だって」
無事に帰れたとしても、めちゃくちゃ叱られるだろう。キミカゲの大激怒(かみなり)を想像し、身震いするふたり。
力を合わせてキミカゲを布団に運ぶと、自分たちも寝ることにした。ニケは当然のようにフリーの布団に潜りこみ、無事だった右腕にしがみつく。
暑いのか、リーンは畳の上に転がり、残念そうに暗い天井に目をやる。
「アキチカ様の舞、見られなかったなぁ」
「来年がありますって。それより僕は、治療費に頭抱えてますよ……」
レナさんの財布も募金箱……じゃなくて賽銭箱へ入れられなかった。
リーンはははっと笑う。
「待ってくれるって。キミカゲ様なんだし」
「そう、ですよね」
しばらくぼそぼそと話し声が聞こえたが、祭りが終わり人々が帰路につく頃には、くすりばこ内は静まり返っていた。
8
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる