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組織(ハウス)見習い編
ー 25 ー ファースト・ミッション④
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ゴゴゴ…
見上げるような灰色の壁に囲まれたレビオラ本部ー。
チャップマンのオーラ弾により、本部ビルは半壊…、詰めかけていた幹部、構成員は皆逃げ出し、広大な敷地には、黒い煙を噴き上げる無人兵器の残骸が散らばるのみだ…。
ガランと静まり返った空気が辺りを満たしている。
そんな重い空気を引き裂くように、白く輝く光の柱が2本、立ち昇る!!!
クロロとコン太だ!
死への覚悟を決めたと同時に、堰を切ったように溢れる光のオーラが、クロロとコン太の体中から迸っていた!
ミッションの直前、モーリーがこう言っていた…
…
……
………
オーラを使う経験が、オーラそのものの成長に直結します。
そして、よりリスクのある実戦の方が、成長スピードが早い。特に、命の危機を感じるようなケースでは急成長を遂げます。生存本能がオーラのレベルを数段階引き上げるのです
………
……
…
もちろん、2人にはモーリーの言葉を反芻するような余裕はなかったが、獣人と向き合えるほどの気力が、クロロとコン太の体に漲っていた!
「…」
獣人が目を細め、2本の光の柱を見つめる。
(…唐突に、ガキどもの”質”が変わった…。この変わり様、なんやよう分からんけど…)
ベロリと舌なめずりをする。
「それがっ、どうしたっ!!!」
ドンっ!!!
光のオーラを飲み込むような、禍々しい黒紫のオーラが獣人から噴き上がる!
ギュンッ!!!
そのままコンクリートの地面を吹き飛ばし、2人に向かって飛び出した!
「いくぞっ!!!」
「うおぉっ!!!」
ギュギュンッッッ!!!!!
獣人と同じタイミングで、クロロとコン太も一気に飛び上がる!!!
2つの光のオーラと、黒紫のオーラが尾を引き、一点でぶつかろうとしている!!!
ゴゴゴ…!
3つのオーラが激突する間際、獣人が直角に飛び上がった!!!
「!!!」
クロロとコン太の真上に躍り出た獣人は、次の瞬間、両手をハの字のように振り下ろし、間髪入れずに両掌からオーラ弾を放った!!!
「ばっ!」
ドドン!!!
2人の頭上に漆黒のオーラ弾が迫る!!!
「!!!くっ!」
「あぶないっ!!!」
直撃寸前のところで、上空に飛び上がる!!!
「ふうっ、あぶな…」
メキっ!!!
コン太の脇腹に獣人の踵がめり込んだ!!!
あまりにも強烈なクリーンヒットだ!!!
そのまま隕石のように吹っ飛び、本部ビルに突っ込む!!!
ズドドドン!!!
壁を突き破り、柱を薙ぎ倒しながらビル内に吸い込まれていく…!
衝撃で窓ガラスが砕け、破片が陽の光を受けながら散らばり落ちる!
「くくっ、あっけな。一丁上がりや」
獣人が牙を剥き出しながら、ニタリと笑う。
「このヤロー!!!」
クロロが怒りのオーラを噴出し、獣人に飛びかかる!
空中で、上段下段と素早く拳と蹴りを打ち分けながら、獣人の体に一気に叩き込む!!!
「ふん、パワーはあるが、荒いわ!そんなん当たるか!」
下卑た笑みを顔に貼り付けたまま、クロロの打撃を捌いていく!
「うおおっ!!!」
オーラを凝縮した、クロロ渾身の右ストレートが、虚しく空を切る!!!
「ガラ空きやな!もらい!」
「!!!」
獣人が両手を頭上で組み、隙だらけになったクロロの背中へ打ちつける!
ズドン!!!
「うぐわっ!!!」
強烈な一撃が体を貫き、一気にコンクリートの地表に叩きつけられた!!!
「ぐうっ!」
上体を起こし、頭上の獣人を睨みつける!
…が、いない!?
「こっちや」
後!?
ズドン!!!
獣人のローキックがクロロの胴体に炸裂し、無人兵器の残骸へと吹き飛ばされた!
「くっそー!」
兵器の破片を跳ね上げながら、残骸の山から飛び出し、眼前でほくそ笑む獣人と向き合う!
「はあっ、はあっ!」
肩で息を切る。一撃が重い…!鈍く、深い痛みが、クロロの全身を軋ませている。
「ほほお、タフやの」
黒々とした顎の毛を撫でながら、目を細める。
(くそ…、生半可な攻撃じゃびくともしねえ!だったら…!これならどうだっ!)
クロロが右腕を背中側に引き上げる。
「…3…!2…!」
右の掌にオーラの光が集まり、膨らんでいく…!
「!!!これは!」
獣人の毛がゾクっと逆立つ!
これは…!あのしじいの攻撃とは比べもんにならへん!…このパワー、食らったらアカンやつや!
「…1っ!!!」
ドンっと、光が弾け、クロロの周囲を煌々と照らす!!!
「ファイアー!!!」
掛け声とともに、引いた右腕を一気に突き出した!!!
クロロの掌から爆炎が噴き上がり、衝撃波と共に巨大な光弾が飛び出す!!!
「んが!ごっつ速い!!!」
体ごと動かして避ける暇はない!!!
瞬く間に眼前へと迫る光弾に対して、辛うじて首を横に倒す!!!
「ぐうっ!」
ズオオオっ!!!!!
獣人の尖った左耳を掠め、灼熱の光弾が通り抜ける!
そのまま上空へと弧を描き、藍色の空に吸い込まれていった!
「ち、ちくしょう!は、外れた!」
クロロが右腕をだらりと下げる。
「…ぐ、ぐぬおお…」
獣人の左耳にビシっと激痛が走った!
ゆっくり手を伸ばす…
耳の半分が削り取られ、生暖かい鮮血が指を濡らした。
…あ、あれをまともに食らったらヤバイちゅうもんやない!
「はあっはあっ…!」
クロロが鋭い瞳で獣人を睨みつけている!
「なめやがって!くそガキがあっっっ!!!」
咆哮と共に、鋭く尖った人差し指をクロロに向ける!
「!!!」
ピッ!
獣人の指先がキラリと光った!
その瞬間!クロロの右膝を激痛が走り抜ける!
「うぐっ!!!」
な、何だっ?
「ふん、これでまともに動けんやろ。次も足がいいか?それとも腕にしたろか?」
クロロが右膝に目を向ける…!
痛々しい鮮血とともに、黒い煙が立ち上っている…!
(あ、あの光…!攻撃だった!?そ、そうか、チャップマンを消したのと同じ技…!お、オーラの光線か…!?)
ジンと痺れるような、深く重い痛みが右足に広がっている…!
くっ…ま、まずい!こ、これじゃ動けねえ!
あ、あの攻撃…!
あまりに速い!避けるどころか、反応すらできなかった…!
苦しむ様子をニタニタと嗤いながら、獣人が指先をクロロの上半身に向ける!
「決めた!妙な技できんように、腕からいてまうわ!」
冷たい目を細め、狙いを定める!
「や、やべっ!」
その時、本部ビルの瓦礫が音を立てて吹っ飛び、一つの影が飛び出してきた!
「!?」
獣人が思わず振り向く!
「こ、コン太!?」
「つえりゃー!!!」
オーラを纏った空手仕込みの手刀が、獣人の腕に直撃する!
「ぐおっ!!!」
手刀の衝撃で獣人の指先から光線が放たれ、クロロの手前のコンクリートを削り飛ばした!!!
「たあっ!!!」
バランスを崩した獣人の懐に、コン太の鮮烈な上段蹴りが炸裂!
毛むくじゃらの巨体が粉塵を巻き上げながら、本部ビルの壁に突っ込んでいく!
「や、やった!!!」
ふ、不意打ちではあるけど、強敵相手にここまで芯を捉えた攻撃を入れれたのは初めてかも…
コン太がクロロの元に駆け寄る!
「こ、コン太!ぶ、無事だったのか!」
「あ、ああ!何とかな…!だ、だがクロロ、おまえその足…」
クロロの右足が腫れ上がり、黒い大きな染みが滲んでいる…
「だ、大丈夫だ…いちち!で、でも、すばしっこくは動けねえかも」
クロロがシャツを破り、傷口をキツく縛り付ける。
ドドン!!!
本部ビルの壁が崩れ落ち、獣人が怒りの形相で現れた!!!
「なめよって、クソガキども…!」
目の奥にドス黒い殺意が煮えたぎっている。
「くそっ!さっきのコン太の一撃も効いてねえのかっ!た、タフだな…!」
「…」
コン太が振り向き、ぐっと口を結んで、クロロに目をやる。
「!?」
「く、クロロ!おまえ、さっきの必殺技、まだ撃てるか!?」
「!? あ、ああ!あと一発ってとこだがな…だ、だけどあいつを吹き飛ばすには目一杯オーラを溜めねえと…!」
クロロがぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「な、なんとかボクが、あいつを引きつける!その間にオーラを最大限溜めろ!」
「え?ひ、引きつけるっておまえ…!」
「て、天狗の時だってうまくいっただろ!オーラを溜め切ったら、隙を狙って放つんだ!じゃないとあいつ…倒せないぞ!」
獣人は怒りで震える体を押さえ付けるように、ゆっくりと向かってきている。
「だ、だけどよ…」
「頼んだぞっ!!!」
クロロの言葉を待たずに、コン太が飛び出した!!!
「あっ!!!」
思わず腕を伸ばす!
「くっ!あいつ!」
コン太の背中がみるみるうちに小さくなっていく…
こ、コン太!…あいつ、本気だ!
クロロが唇を噛み締める。
「わ、わかったぜ!コン太!フルパワーでやってやる!死ぬんじゃねえぞ!」
ぐぐぐっと拳を握り締め、全身のオーラを右腕に集中させていく…!
ー 死闘 ー
コン太の眼前に、獣人が迫る!
(あ、あのオーラの光線…!とにかくあれだけは気をつけなきゃならない…!よしっ!!!)
コン太が両手の指先にオーラを集める!
「はあっ!!!」
ボボボン!ボボボボボン!!!
散弾銃のように細かなオーラの弾が空中に弾ける!!!
オーラ弾がぎゅんっ弧を描き、光の雨のように降り注ぎながら、周囲のコンクリートに突き刺さる!
「!!!なんのつもりや!」
粉塵が巻き上がり、一帯が茶色い砂煙に包まれる!
「煙幕だっ!これでオーラの光線もうかつに撃てないだろう!その隙に…!」
「子供だましがっ!」
獣人が太い腕をブンっと薙ぎ払う!!!
ギュオっ!!!
台風のような突風が煙を攪拌し、吹き飛ばしていく!
ボンっ!!!
煙がかき消えるより早く、茶色の煙幕を突き破り、コン太が正拳突きを叩き込む!
ドカン!!!
獣人がとっさに両腕でガードする!
ビリビリっ!
衝撃が獣人の毛皮を揺らす!
「このガキっ!腕がしびれたやないかっ!!!」
空気を切り裂き、丸太のような膝蹴りがコン太の鳩尾を捉える!
「うぐわっ!!!」
直撃の勢いでコン太の体が浮き上がる!
その背を、今度は体重を乗せた肘打ちが襲う!
「ぐはあっ!」
ドンっと、コンクリートに叩きつけられる!衝撃で、地表に蜘蛛の巣状の亀裂が走る!
「こ、コン太っ!」
クロロが思わず声を上げる!
「だ、大丈夫だ!で、でも早くしてくれ!」
そう言いながら、うつ伏せの状態から素早く体を捻り、円を描くように獣人の両足に払いをかける!
バキン!!!
足を取られ、獣人がバランスを崩す!
「このっ!!!鬱陶しいのう!!!」
殺意が燃えたぎる瞳をコン太に向ける!
「ううっ!も、もう無理かもっ!」
コン太が泣き出しそうな顔で獣人から距離を取る!
「よしっ!い、いま溜め切ったぞっ!!!」
クロロが残ったオーラを絞り切り、一気に右手に込める!
グオッッッ!!!!!
直径2メートルはあるだろう巨大な光の塊が、クロロの右手で渦を巻いている!!!
「コン太っ!離れろっ!」
クロロが叫び、コン太が素早く地面を蹴りつけ空中に飛び出した!!!
「今度は外さねえぞっ!!!」
クロロが獣人を睨みつける!!!
しかし!!!
ビッ!
「!!!」
獣人の掌から光が弾け、同時にコン太が一瞬で本部ビルに吸い込まれていった!!!
オーラの光線がコン太を捉えたのだ!
爆発と共に本部ビルが完全に倒壊し、衝撃波が敷地内を貫いた!!!
「そ、そんなっ!」
クロロの心臓がドクンと波打ち、冷や汗が吹き出す。
「はははっ!ドアホがっ!」
ビッ!ビビビッ!!!
コン太が突っ込んだ位置を狙い、追撃の光線を執拗に放っていく!
いくつもの爆炎が煌めき、真っ黒く煤けた瓦礫が幾重にも積み重なっていく…!
「ふはは!ジ・エンドってやつや!」
そう言って唐突にぐるりとクロロの方を振り向く!
「!!!」
「…その光…!おまえ…!煙で見えん間に、えらいこと企んどったな!」
クロロの右手を覆うオーラを見つめて顔を顰める。
そして間髪入れずに掌をクロロに差し出した!
「く、くそっ!ばれたっ!い、今から必殺を放っても、ま、間に合わねえ!」
「ふはは!残念だったな!その光の塊をぶつけるつもりだろうが、俺の引き金のほうが速いわ!黒髪っ!おまえもあの世に行きや!」
ぜ、絶体絶命ってやつか!?せ、折角コン太が作ってくれたチャンスが…!
クロロの頬を冷や汗が伝う。
い、いや、最後まで諦めるな!!!諦めた瞬間、負けになるぞ!
ピカッ!!!
そんなクロロの意志を踏みにじるかのように、容赦なく獣人の掌が光った!!!
ドン!!!
光の刹那、クロロもろともかき消すように、猛烈な爆炎が高く噴き上がる!!!
………………
……………
………
……
…
視線の先、燃え盛る爆炎をクロロは見つめていた。
!?
何が起こったのか、分からなかった。
クロロの10メートルほど先に、獣人が背を向けて立っている。
そして、その更に先で、黒々とした煙が渦を巻いて立ち上っているのだ…
(あ、あの煙のところ…お、オレがさっきいたところ…?)
極めて不可思議なことに、位置関係は正にその通りだった。
先ほど、クロロが立ち尽くしていた場所に黒煙が上がり、何故か、獣人の背後にクロロが移動している!
まるで、獣人の後ろにテレポーテーションしたかのように…!
一体どうしてそうなっているのか、その理由を考えようとして、止めた。
今が最大のチャンスだ!!!
クロロの右手には、先ほど溜め切ったオーラが、眩いほどに輝いている!
クロロが右腕を上げる!!!
しかし!!!
それよりも早く、獣人が振り向いた!!!
獣の本能が、強烈なクロロのオーラを捉えたのだった!!!
「黒髪っ!いつの間に!?」
獣人の目が驚きで一瞬見開かれたが、すぐに獲物を狩る獣の光を宿す!
「そんな瞬間移動みたいな隠し球があったとはな…だが、どこに逃げようが結果は変わらんぞ!」
獣人の掌がクロロを捉える!
!!!
その時!!!
獣人の後方からオーラの弾が飛び出し、後頭部で弾け、炸裂した!!!
獣人が反射的に頭を抑える!
い、いまだっ!!!!!
「だあっーーーーー!!!!!」
クロロが渾身の必殺技を放つ!!!
爆発的な光の奔流が敷地内を白く染めていく!!!
ズッ…!!!
巨大な光の塊が獣人の目前に迫る!!!
「し、しまった!!!ぐおーっ!!!」
咄嗟に、光の塊に向かって、光線を放つ!
バシュッ!!!
しかし、圧倒的なオーラの塊の前で、光線は紙屑を吹き飛ばすかのこどく、かき消された!
「ち、ちくしょーーー!!!」
灼熱のオーラが獣人の体を包む!!!
毛皮が燃え尽き、塵となり、オーラの激流に消えて行く…!!!
「うぐわーーー!!!」
断末魔の叫びがレビオラの敷地にこだまする!そして…
ドーーーーーン!!!
鼠色の壁を揺るがす衝撃波が駆け抜けた!!!
………
……
…
「はあっ、はあっ…」
頬を撫でる風が、少しずつ煙を剥がしていく…。
コンクリートが抉り飛ばされ、茶色い土が剥き出しになった地面には、スキンヘッドの構成員がうめき声をあげながら倒れていた…。
変身が解かれたその体には、もはや闘うためのオーラは残っていないようだ…。
「へ、へへ…や、やったぜ!」
ガラガラ…
倒壊した本部ビルの瓦礫を押しのけ、ボロボロになったコン太が姿を現した。
「コン太!!!無事だったか!」
「や、やったな、クロロ!!!」
コン太の右手から光のカケラが溢れている。オーラ弾の名残だ。
「そ、そうか!獣人の頭を狙ったオーラ弾…コン太だったのか!」
「な、ナイスアシストだっだろ?」
そう言ってコン太が親指を上げる。
「へへ、最高だぜ!」
クロロも親指を突き出し、とびきりの笑顔を見せた。
………
……
…
獣人との激戦の名残で、静まり返った敷地には所々で黒煙が上がっている…。
一方で、鳥のさえずりが時折耳に届き、青い空には雲がゆっくりと流れている。
先程までの死闘が嘘のようだ。
…
「いや、しかし驚いたな。クロロ、おまえ一体どうやって、一瞬であの構成員の後ろに行ったんだ?」
コン太がヨロヨロとした足取りでクロロの隣に腰を下ろしながら、本部ビルの瓦礫の隙間から見たシーンを呼び起こす。
…獣人の掌から光線が放たれたその瞬間、クロロが消え、獣人の背後に移動していたのだ!
「い、いや、オレも実は分かんねえんだ…しょ、正直言って、何がどうなったのかも分かってねえ…」
クロロの腕が震える。
あの瞬間ー。
言葉で言い表すのが難しいほど、不思議な体験だった。
獣人の手が光ったと同時に、ギュンっと吸い込まれるような感覚が走った。
そして、一人称視点の映画で場面が切り替わるかのように、それまでとは全く別の視界が広がっていたのだ!
「まっ、でもよ!あのやばいやつを倒せたし、結果オーライってことだな!」
ははは、と笑いながら、コン太に目をやり、ギョッとする。
「お、おい、コン太!なんだ、その服?」
「ふ、服?」
コン太が自分の体に視線を落とす。
!!!
コン太の体を、真っ黒なボディ・スーツのような薄い膜が覆っていた!
それは、首から上と手首から先だけを残して、体中に広がっているようだった。
「お、おまえ、そんなタイツみたいなの、着てたっけ?」
「い、いや、そんなはずはない!な、なんだこれは?」
手に触れてみるが、まるで皮膚と一体のように貼り付いている。
「も、もしかして…これが守ってくれたのか?」
獣人との死闘を思い返す。
自分でも不思議だったのだ。
初っ端に食らった、骨がメキッと軋むような蹴り…、胴体を貫いた光線…
どう考えても、無事でいられるような被ダメージじゃなかった。
改めて、黒いボディ・スーツのようなものに、目をやる。
「…な、なあ、おまえの瞬間移動みたいな出来事とか、この黒いスーツって、もしかして…」
クロロとコン太が顔を見合わせる。
「お、オレたちの、イマジネット・オーラ…なのか?」
…
その時、甲高い音がキィーンと空気を貫き、ドンっという衝撃が足元を揺らした!!!
「う、うわあっ!」
「なな、なんだっ!?」
シュウウ…
超スピードによる空気の摩擦なのか、全身から蒸気を上げた、片膝立ちの人の影が陽炎のようにゆらめいている…。
風がゆっくりと蒸気のベールを剥がしていく。
それは、真っ白な詰襟のロングコートに身を包み、マスクのようなプロテクターで口元を覆った、黒い短髪の大男だった。
切れ長の瞳から、鋭い視線をクロロたちに向けながら、徐に立ち上がる。
先ほど死闘を繰り広げた獣人のような禍々しさはないが、突き刺すように冷徹で、氷壁のような威圧感を放つオーラを投げかけている。
「お、おい…は、ハウスの人…かな?」
「…だ、だったら、あんな殺気はいらねえよな…」
大男が放つオーラは、友好的どころか、殺意混じりの物々しいものだ…
「う、うそだろ…て、ことは…チャップマンの研究…?も、もう一人いたってことか?」
「ま、まいったな…足がやられて、オーラもすっからかんだってのに…!」
クロロたちに向かって、マスクの大男がゆっくりと足を踏み出した…!
見上げるような灰色の壁に囲まれたレビオラ本部ー。
チャップマンのオーラ弾により、本部ビルは半壊…、詰めかけていた幹部、構成員は皆逃げ出し、広大な敷地には、黒い煙を噴き上げる無人兵器の残骸が散らばるのみだ…。
ガランと静まり返った空気が辺りを満たしている。
そんな重い空気を引き裂くように、白く輝く光の柱が2本、立ち昇る!!!
クロロとコン太だ!
死への覚悟を決めたと同時に、堰を切ったように溢れる光のオーラが、クロロとコン太の体中から迸っていた!
ミッションの直前、モーリーがこう言っていた…
…
……
………
オーラを使う経験が、オーラそのものの成長に直結します。
そして、よりリスクのある実戦の方が、成長スピードが早い。特に、命の危機を感じるようなケースでは急成長を遂げます。生存本能がオーラのレベルを数段階引き上げるのです
………
……
…
もちろん、2人にはモーリーの言葉を反芻するような余裕はなかったが、獣人と向き合えるほどの気力が、クロロとコン太の体に漲っていた!
「…」
獣人が目を細め、2本の光の柱を見つめる。
(…唐突に、ガキどもの”質”が変わった…。この変わり様、なんやよう分からんけど…)
ベロリと舌なめずりをする。
「それがっ、どうしたっ!!!」
ドンっ!!!
光のオーラを飲み込むような、禍々しい黒紫のオーラが獣人から噴き上がる!
ギュンッ!!!
そのままコンクリートの地面を吹き飛ばし、2人に向かって飛び出した!
「いくぞっ!!!」
「うおぉっ!!!」
ギュギュンッッッ!!!!!
獣人と同じタイミングで、クロロとコン太も一気に飛び上がる!!!
2つの光のオーラと、黒紫のオーラが尾を引き、一点でぶつかろうとしている!!!
ゴゴゴ…!
3つのオーラが激突する間際、獣人が直角に飛び上がった!!!
「!!!」
クロロとコン太の真上に躍り出た獣人は、次の瞬間、両手をハの字のように振り下ろし、間髪入れずに両掌からオーラ弾を放った!!!
「ばっ!」
ドドン!!!
2人の頭上に漆黒のオーラ弾が迫る!!!
「!!!くっ!」
「あぶないっ!!!」
直撃寸前のところで、上空に飛び上がる!!!
「ふうっ、あぶな…」
メキっ!!!
コン太の脇腹に獣人の踵がめり込んだ!!!
あまりにも強烈なクリーンヒットだ!!!
そのまま隕石のように吹っ飛び、本部ビルに突っ込む!!!
ズドドドン!!!
壁を突き破り、柱を薙ぎ倒しながらビル内に吸い込まれていく…!
衝撃で窓ガラスが砕け、破片が陽の光を受けながら散らばり落ちる!
「くくっ、あっけな。一丁上がりや」
獣人が牙を剥き出しながら、ニタリと笑う。
「このヤロー!!!」
クロロが怒りのオーラを噴出し、獣人に飛びかかる!
空中で、上段下段と素早く拳と蹴りを打ち分けながら、獣人の体に一気に叩き込む!!!
「ふん、パワーはあるが、荒いわ!そんなん当たるか!」
下卑た笑みを顔に貼り付けたまま、クロロの打撃を捌いていく!
「うおおっ!!!」
オーラを凝縮した、クロロ渾身の右ストレートが、虚しく空を切る!!!
「ガラ空きやな!もらい!」
「!!!」
獣人が両手を頭上で組み、隙だらけになったクロロの背中へ打ちつける!
ズドン!!!
「うぐわっ!!!」
強烈な一撃が体を貫き、一気にコンクリートの地表に叩きつけられた!!!
「ぐうっ!」
上体を起こし、頭上の獣人を睨みつける!
…が、いない!?
「こっちや」
後!?
ズドン!!!
獣人のローキックがクロロの胴体に炸裂し、無人兵器の残骸へと吹き飛ばされた!
「くっそー!」
兵器の破片を跳ね上げながら、残骸の山から飛び出し、眼前でほくそ笑む獣人と向き合う!
「はあっ、はあっ!」
肩で息を切る。一撃が重い…!鈍く、深い痛みが、クロロの全身を軋ませている。
「ほほお、タフやの」
黒々とした顎の毛を撫でながら、目を細める。
(くそ…、生半可な攻撃じゃびくともしねえ!だったら…!これならどうだっ!)
クロロが右腕を背中側に引き上げる。
「…3…!2…!」
右の掌にオーラの光が集まり、膨らんでいく…!
「!!!これは!」
獣人の毛がゾクっと逆立つ!
これは…!あのしじいの攻撃とは比べもんにならへん!…このパワー、食らったらアカンやつや!
「…1っ!!!」
ドンっと、光が弾け、クロロの周囲を煌々と照らす!!!
「ファイアー!!!」
掛け声とともに、引いた右腕を一気に突き出した!!!
クロロの掌から爆炎が噴き上がり、衝撃波と共に巨大な光弾が飛び出す!!!
「んが!ごっつ速い!!!」
体ごと動かして避ける暇はない!!!
瞬く間に眼前へと迫る光弾に対して、辛うじて首を横に倒す!!!
「ぐうっ!」
ズオオオっ!!!!!
獣人の尖った左耳を掠め、灼熱の光弾が通り抜ける!
そのまま上空へと弧を描き、藍色の空に吸い込まれていった!
「ち、ちくしょう!は、外れた!」
クロロが右腕をだらりと下げる。
「…ぐ、ぐぬおお…」
獣人の左耳にビシっと激痛が走った!
ゆっくり手を伸ばす…
耳の半分が削り取られ、生暖かい鮮血が指を濡らした。
…あ、あれをまともに食らったらヤバイちゅうもんやない!
「はあっはあっ…!」
クロロが鋭い瞳で獣人を睨みつけている!
「なめやがって!くそガキがあっっっ!!!」
咆哮と共に、鋭く尖った人差し指をクロロに向ける!
「!!!」
ピッ!
獣人の指先がキラリと光った!
その瞬間!クロロの右膝を激痛が走り抜ける!
「うぐっ!!!」
な、何だっ?
「ふん、これでまともに動けんやろ。次も足がいいか?それとも腕にしたろか?」
クロロが右膝に目を向ける…!
痛々しい鮮血とともに、黒い煙が立ち上っている…!
(あ、あの光…!攻撃だった!?そ、そうか、チャップマンを消したのと同じ技…!お、オーラの光線か…!?)
ジンと痺れるような、深く重い痛みが右足に広がっている…!
くっ…ま、まずい!こ、これじゃ動けねえ!
あ、あの攻撃…!
あまりに速い!避けるどころか、反応すらできなかった…!
苦しむ様子をニタニタと嗤いながら、獣人が指先をクロロの上半身に向ける!
「決めた!妙な技できんように、腕からいてまうわ!」
冷たい目を細め、狙いを定める!
「や、やべっ!」
その時、本部ビルの瓦礫が音を立てて吹っ飛び、一つの影が飛び出してきた!
「!?」
獣人が思わず振り向く!
「こ、コン太!?」
「つえりゃー!!!」
オーラを纏った空手仕込みの手刀が、獣人の腕に直撃する!
「ぐおっ!!!」
手刀の衝撃で獣人の指先から光線が放たれ、クロロの手前のコンクリートを削り飛ばした!!!
「たあっ!!!」
バランスを崩した獣人の懐に、コン太の鮮烈な上段蹴りが炸裂!
毛むくじゃらの巨体が粉塵を巻き上げながら、本部ビルの壁に突っ込んでいく!
「や、やった!!!」
ふ、不意打ちではあるけど、強敵相手にここまで芯を捉えた攻撃を入れれたのは初めてかも…
コン太がクロロの元に駆け寄る!
「こ、コン太!ぶ、無事だったのか!」
「あ、ああ!何とかな…!だ、だがクロロ、おまえその足…」
クロロの右足が腫れ上がり、黒い大きな染みが滲んでいる…
「だ、大丈夫だ…いちち!で、でも、すばしっこくは動けねえかも」
クロロがシャツを破り、傷口をキツく縛り付ける。
ドドン!!!
本部ビルの壁が崩れ落ち、獣人が怒りの形相で現れた!!!
「なめよって、クソガキども…!」
目の奥にドス黒い殺意が煮えたぎっている。
「くそっ!さっきのコン太の一撃も効いてねえのかっ!た、タフだな…!」
「…」
コン太が振り向き、ぐっと口を結んで、クロロに目をやる。
「!?」
「く、クロロ!おまえ、さっきの必殺技、まだ撃てるか!?」
「!? あ、ああ!あと一発ってとこだがな…だ、だけどあいつを吹き飛ばすには目一杯オーラを溜めねえと…!」
クロロがぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「な、なんとかボクが、あいつを引きつける!その間にオーラを最大限溜めろ!」
「え?ひ、引きつけるっておまえ…!」
「て、天狗の時だってうまくいっただろ!オーラを溜め切ったら、隙を狙って放つんだ!じゃないとあいつ…倒せないぞ!」
獣人は怒りで震える体を押さえ付けるように、ゆっくりと向かってきている。
「だ、だけどよ…」
「頼んだぞっ!!!」
クロロの言葉を待たずに、コン太が飛び出した!!!
「あっ!!!」
思わず腕を伸ばす!
「くっ!あいつ!」
コン太の背中がみるみるうちに小さくなっていく…
こ、コン太!…あいつ、本気だ!
クロロが唇を噛み締める。
「わ、わかったぜ!コン太!フルパワーでやってやる!死ぬんじゃねえぞ!」
ぐぐぐっと拳を握り締め、全身のオーラを右腕に集中させていく…!
ー 死闘 ー
コン太の眼前に、獣人が迫る!
(あ、あのオーラの光線…!とにかくあれだけは気をつけなきゃならない…!よしっ!!!)
コン太が両手の指先にオーラを集める!
「はあっ!!!」
ボボボン!ボボボボボン!!!
散弾銃のように細かなオーラの弾が空中に弾ける!!!
オーラ弾がぎゅんっ弧を描き、光の雨のように降り注ぎながら、周囲のコンクリートに突き刺さる!
「!!!なんのつもりや!」
粉塵が巻き上がり、一帯が茶色い砂煙に包まれる!
「煙幕だっ!これでオーラの光線もうかつに撃てないだろう!その隙に…!」
「子供だましがっ!」
獣人が太い腕をブンっと薙ぎ払う!!!
ギュオっ!!!
台風のような突風が煙を攪拌し、吹き飛ばしていく!
ボンっ!!!
煙がかき消えるより早く、茶色の煙幕を突き破り、コン太が正拳突きを叩き込む!
ドカン!!!
獣人がとっさに両腕でガードする!
ビリビリっ!
衝撃が獣人の毛皮を揺らす!
「このガキっ!腕がしびれたやないかっ!!!」
空気を切り裂き、丸太のような膝蹴りがコン太の鳩尾を捉える!
「うぐわっ!!!」
直撃の勢いでコン太の体が浮き上がる!
その背を、今度は体重を乗せた肘打ちが襲う!
「ぐはあっ!」
ドンっと、コンクリートに叩きつけられる!衝撃で、地表に蜘蛛の巣状の亀裂が走る!
「こ、コン太っ!」
クロロが思わず声を上げる!
「だ、大丈夫だ!で、でも早くしてくれ!」
そう言いながら、うつ伏せの状態から素早く体を捻り、円を描くように獣人の両足に払いをかける!
バキン!!!
足を取られ、獣人がバランスを崩す!
「このっ!!!鬱陶しいのう!!!」
殺意が燃えたぎる瞳をコン太に向ける!
「ううっ!も、もう無理かもっ!」
コン太が泣き出しそうな顔で獣人から距離を取る!
「よしっ!い、いま溜め切ったぞっ!!!」
クロロが残ったオーラを絞り切り、一気に右手に込める!
グオッッッ!!!!!
直径2メートルはあるだろう巨大な光の塊が、クロロの右手で渦を巻いている!!!
「コン太っ!離れろっ!」
クロロが叫び、コン太が素早く地面を蹴りつけ空中に飛び出した!!!
「今度は外さねえぞっ!!!」
クロロが獣人を睨みつける!!!
しかし!!!
ビッ!
「!!!」
獣人の掌から光が弾け、同時にコン太が一瞬で本部ビルに吸い込まれていった!!!
オーラの光線がコン太を捉えたのだ!
爆発と共に本部ビルが完全に倒壊し、衝撃波が敷地内を貫いた!!!
「そ、そんなっ!」
クロロの心臓がドクンと波打ち、冷や汗が吹き出す。
「はははっ!ドアホがっ!」
ビッ!ビビビッ!!!
コン太が突っ込んだ位置を狙い、追撃の光線を執拗に放っていく!
いくつもの爆炎が煌めき、真っ黒く煤けた瓦礫が幾重にも積み重なっていく…!
「ふはは!ジ・エンドってやつや!」
そう言って唐突にぐるりとクロロの方を振り向く!
「!!!」
「…その光…!おまえ…!煙で見えん間に、えらいこと企んどったな!」
クロロの右手を覆うオーラを見つめて顔を顰める。
そして間髪入れずに掌をクロロに差し出した!
「く、くそっ!ばれたっ!い、今から必殺を放っても、ま、間に合わねえ!」
「ふはは!残念だったな!その光の塊をぶつけるつもりだろうが、俺の引き金のほうが速いわ!黒髪っ!おまえもあの世に行きや!」
ぜ、絶体絶命ってやつか!?せ、折角コン太が作ってくれたチャンスが…!
クロロの頬を冷や汗が伝う。
い、いや、最後まで諦めるな!!!諦めた瞬間、負けになるぞ!
ピカッ!!!
そんなクロロの意志を踏みにじるかのように、容赦なく獣人の掌が光った!!!
ドン!!!
光の刹那、クロロもろともかき消すように、猛烈な爆炎が高く噴き上がる!!!
………………
……………
………
……
…
視線の先、燃え盛る爆炎をクロロは見つめていた。
!?
何が起こったのか、分からなかった。
クロロの10メートルほど先に、獣人が背を向けて立っている。
そして、その更に先で、黒々とした煙が渦を巻いて立ち上っているのだ…
(あ、あの煙のところ…お、オレがさっきいたところ…?)
極めて不可思議なことに、位置関係は正にその通りだった。
先ほど、クロロが立ち尽くしていた場所に黒煙が上がり、何故か、獣人の背後にクロロが移動している!
まるで、獣人の後ろにテレポーテーションしたかのように…!
一体どうしてそうなっているのか、その理由を考えようとして、止めた。
今が最大のチャンスだ!!!
クロロの右手には、先ほど溜め切ったオーラが、眩いほどに輝いている!
クロロが右腕を上げる!!!
しかし!!!
それよりも早く、獣人が振り向いた!!!
獣の本能が、強烈なクロロのオーラを捉えたのだった!!!
「黒髪っ!いつの間に!?」
獣人の目が驚きで一瞬見開かれたが、すぐに獲物を狩る獣の光を宿す!
「そんな瞬間移動みたいな隠し球があったとはな…だが、どこに逃げようが結果は変わらんぞ!」
獣人の掌がクロロを捉える!
!!!
その時!!!
獣人の後方からオーラの弾が飛び出し、後頭部で弾け、炸裂した!!!
獣人が反射的に頭を抑える!
い、いまだっ!!!!!
「だあっーーーーー!!!!!」
クロロが渾身の必殺技を放つ!!!
爆発的な光の奔流が敷地内を白く染めていく!!!
ズッ…!!!
巨大な光の塊が獣人の目前に迫る!!!
「し、しまった!!!ぐおーっ!!!」
咄嗟に、光の塊に向かって、光線を放つ!
バシュッ!!!
しかし、圧倒的なオーラの塊の前で、光線は紙屑を吹き飛ばすかのこどく、かき消された!
「ち、ちくしょーーー!!!」
灼熱のオーラが獣人の体を包む!!!
毛皮が燃え尽き、塵となり、オーラの激流に消えて行く…!!!
「うぐわーーー!!!」
断末魔の叫びがレビオラの敷地にこだまする!そして…
ドーーーーーン!!!
鼠色の壁を揺るがす衝撃波が駆け抜けた!!!
………
……
…
「はあっ、はあっ…」
頬を撫でる風が、少しずつ煙を剥がしていく…。
コンクリートが抉り飛ばされ、茶色い土が剥き出しになった地面には、スキンヘッドの構成員がうめき声をあげながら倒れていた…。
変身が解かれたその体には、もはや闘うためのオーラは残っていないようだ…。
「へ、へへ…や、やったぜ!」
ガラガラ…
倒壊した本部ビルの瓦礫を押しのけ、ボロボロになったコン太が姿を現した。
「コン太!!!無事だったか!」
「や、やったな、クロロ!!!」
コン太の右手から光のカケラが溢れている。オーラ弾の名残だ。
「そ、そうか!獣人の頭を狙ったオーラ弾…コン太だったのか!」
「な、ナイスアシストだっだろ?」
そう言ってコン太が親指を上げる。
「へへ、最高だぜ!」
クロロも親指を突き出し、とびきりの笑顔を見せた。
………
……
…
獣人との激戦の名残で、静まり返った敷地には所々で黒煙が上がっている…。
一方で、鳥のさえずりが時折耳に届き、青い空には雲がゆっくりと流れている。
先程までの死闘が嘘のようだ。
…
「いや、しかし驚いたな。クロロ、おまえ一体どうやって、一瞬であの構成員の後ろに行ったんだ?」
コン太がヨロヨロとした足取りでクロロの隣に腰を下ろしながら、本部ビルの瓦礫の隙間から見たシーンを呼び起こす。
…獣人の掌から光線が放たれたその瞬間、クロロが消え、獣人の背後に移動していたのだ!
「い、いや、オレも実は分かんねえんだ…しょ、正直言って、何がどうなったのかも分かってねえ…」
クロロの腕が震える。
あの瞬間ー。
言葉で言い表すのが難しいほど、不思議な体験だった。
獣人の手が光ったと同時に、ギュンっと吸い込まれるような感覚が走った。
そして、一人称視点の映画で場面が切り替わるかのように、それまでとは全く別の視界が広がっていたのだ!
「まっ、でもよ!あのやばいやつを倒せたし、結果オーライってことだな!」
ははは、と笑いながら、コン太に目をやり、ギョッとする。
「お、おい、コン太!なんだ、その服?」
「ふ、服?」
コン太が自分の体に視線を落とす。
!!!
コン太の体を、真っ黒なボディ・スーツのような薄い膜が覆っていた!
それは、首から上と手首から先だけを残して、体中に広がっているようだった。
「お、おまえ、そんなタイツみたいなの、着てたっけ?」
「い、いや、そんなはずはない!な、なんだこれは?」
手に触れてみるが、まるで皮膚と一体のように貼り付いている。
「も、もしかして…これが守ってくれたのか?」
獣人との死闘を思い返す。
自分でも不思議だったのだ。
初っ端に食らった、骨がメキッと軋むような蹴り…、胴体を貫いた光線…
どう考えても、無事でいられるような被ダメージじゃなかった。
改めて、黒いボディ・スーツのようなものに、目をやる。
「…な、なあ、おまえの瞬間移動みたいな出来事とか、この黒いスーツって、もしかして…」
クロロとコン太が顔を見合わせる。
「お、オレたちの、イマジネット・オーラ…なのか?」
…
その時、甲高い音がキィーンと空気を貫き、ドンっという衝撃が足元を揺らした!!!
「う、うわあっ!」
「なな、なんだっ!?」
シュウウ…
超スピードによる空気の摩擦なのか、全身から蒸気を上げた、片膝立ちの人の影が陽炎のようにゆらめいている…。
風がゆっくりと蒸気のベールを剥がしていく。
それは、真っ白な詰襟のロングコートに身を包み、マスクのようなプロテクターで口元を覆った、黒い短髪の大男だった。
切れ長の瞳から、鋭い視線をクロロたちに向けながら、徐に立ち上がる。
先ほど死闘を繰り広げた獣人のような禍々しさはないが、突き刺すように冷徹で、氷壁のような威圧感を放つオーラを投げかけている。
「お、おい…は、ハウスの人…かな?」
「…だ、だったら、あんな殺気はいらねえよな…」
大男が放つオーラは、友好的どころか、殺意混じりの物々しいものだ…
「う、うそだろ…て、ことは…チャップマンの研究…?も、もう一人いたってことか?」
「ま、まいったな…足がやられて、オーラもすっからかんだってのに…!」
クロロたちに向かって、マスクの大男がゆっくりと足を踏み出した…!
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