クロロの大冒険〜田舎の少年が組織に入り”オーラ”を習得、葛藤や紆余曲折を経て大人になり親になり、やがて星を救う物語〜

M3 STUDIO

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組織(ハウス)入団編

ー 11 ー 二次試験⑥

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-   じいさん   -



コミュニティ・エリアの大通り…。
陽は少し傾いてきたが、祭りのような人出とひしめく露店は相変わらずで、ムワっとした熱気が立ち込めている。

クロロは、ぽんっと虹色キューブを頭上に投げた。
青空を背景に、ホログラム・シールのように七色をキラキラと反射させる。

クロロ「よっと」
ぱしんと右手で掴む。

クロロ「んじゃ、元の部屋に帰るか!」

モーリーが開いたは、この通りをずっと進んだ先にあったはずだ。

コン太「そうだな…!しかし、振り返るととんでもないよな。SFの世界に入り込み(まだいるわけだが)、バイトを探して断られ、謎のウサギに出会い、地底でとんでもない昆虫型宇宙人と戦闘して、偶然通りがかった魚の宇宙人に、飴と虹色キューブを交換してもらう…こんな訳のわからないことがあるなんて…マンガみたいだな」

クロロ「ああ、お前もマンガから出てきたキャラクターみたいだけどな!」

コン太がクロロの頭を小突く。

コン太「なんだと!おい、それはどういう意味だ!」

クロロ「ごめんごめん!それにしてもよ、他のみんなもこんなマンガみたいに、うまくやってんのかな?」

コン太「ううむ…ん?」

コン太の視線の先には、青果店があった。巨大なリヤカーの荷台には木箱が所狭しと並べられ、見たこともない野菜や果物に混じって、虹色キューブが山のように積まれていた。

コン太「お、おいクロロ見ろよあれ、あんなに沢山…!やっぱり果物なんだな、しかしそうとわかってマジマジとみても、ボクには宝石にしか見えないけどな…あっ!しかも1個3ギョランだって?や、安いな、やっぱり最初の店のはコンビニ価格だったか~…っておい!クロロ、さっきから聞いてるのか?」

クロロ「…」

コン太「おいってば!」

クロロ「こ、コン太…あれ見えるか?その、虹色キューブ売ってる店のタコみたいな店員が、テレビ観てるだろ?」

コン太「あん?どれどれ」

野菜と果物が積まれた荷台の向こう側には、タコみたいな宇宙人の店員が立っている。
なんだか皺くちゃでおじいさんみたいだが、クロロの言う通り、レジやら引き出しやらが雑多に置かれた中に、ブラウン管式のような古いテレビが置かれ、タコ店主がじっと見入っている。

コン太「古いテレビだな~、あれがどうかしたか?」

クロロ「もうちょっと近づいて見てみよう!さっき、じいちゃんが映ってたと思うんだ!」


コン太が目をまんまるにする。
コン太「じ、じいちゃんって…デュラムさんか?ま、まさか」

クロロとコン太は青果店の前に立った。
幸い、タコ店主の耳が遠いからか、ブラウン管テレビからは割と大音量で音が流れている。

”さあ、お待たせしました!今週の挑戦者による、もう間も無く始まります!”
蝶ネクタイをつけた、ナメクジみたいなアナウンサーがマイクを振り上げた。

クロロ「う、うちゅういちちゃれんじ?なんだそれ?」

タコ店主「おおこれは、あんたたち、地球人じゃな。なんだか今日はの。宇宙一チャレンジ、観るの初めてかいな?」
タコの店員が皺くちゃの顔をさらに皺でいっぱいにして微笑んだ。

タコ店主「宇宙一チャレンジはの、格闘番組じゃよ。予選を勝ち抜いた腕自慢が、チャンピンに挑戦する。もしチャンピンを倒すことができたら、その挑戦者が次のチャンピオンになる。そんで、賞金もがっぽりじゃ」

コン太「が、がっぽり…」

タコ店主「生放送でどんでん返しもドラマもあるから、ここらじゃ人気番組じゃよ。わしも昔っから超大ファンでの、番組が始まってからは、毎週欠かさず見ておる!」

その次の瞬間、テレビ画面にデュラムの姿が映し出された!

クロロ「あっ!ほらコン太!じいちゃんだ!」
コン太「ほ、本当だ!一体どうなってるんだ…!?」

”今週のチャレンジャーはなんとこの星、地球からの達人です!飄々としながらも流れるような動きで予選を過去最速ペースで通過!かつてないチャレンジャーといえます!”
アナウンサーの紹介に照れた表情で顎髭をくいくいと引っ張っている。

タコ店主「ほう!ここでも、またまた地球人か!しかもあんたらの知り合いのようだとはなあ。本当に今日は地球人とよう会う日じゃ。が、このチャレンジャーはどうかの…」

クロロ「さっきの地球人たち、って…?」

タコ店主「おほん、なんでもないじゃよ」

画面には円形の”ステージ”のようなものが映し出されている。ボクシングリングより二回りほど大きく、ステージ上にはロープとか柵のようなものはない。屋外に設置されているようで、リングの周囲を観客が囲んでいる。
着飾ったが煌びやかな電光掲示板を運びながら、リングの上空を周回している。
どうやらここで格闘チャレンジが行われるようだ。

デュラムが徐にステージに上がっていく姿が映し出されている。

”さあっ!チャレンジャーの準備は万端だっ!!!そして、もう間も無く王者、チャンピオンの登場です!!!”

アナウンサーの掛け声でボボボンと花火が上がった!ブラウン管からだけでなく、クロロたちの背後からも同じように花火の音が…

コン太「え?この会場って…もしかしてこの近くか?」
振り返ると、青空に花火の白い煙が風に乗ってゆらりと流れている。

タコ店主「まあ、言うても狭い一帯じゃからのう。ステージはここから通りを3本挟んだ広場じゃ。今から行っても混んどるかと思うが、同郷の知り合いってことであれば、こんな古臭いテレビよりかは、生で観た方がええじゃろう」

クロロ「そっか!そうしよう!コン太行こうぜ!」
コン太「よし!でもな、試験終了の時間がやばくなったら引き上げるぞ!」

クロロがタコ店主ににかっと笑いかける。
クロロ「ありがとう!いろいろ教えてもらって!んじゃ行ってくる!」

砂埃を巻き上げ、あっという間に見えなくなった。



-   宇宙一チャレンジ   -



円形の闘技場…。
ステージのように小高くなっているおかげで、取り囲んでいる観客の顔がよく見える。

デュラム「ふうむ…」
顎髭を指先でくるくるといじりながら、周囲をぐるりと見渡す。

デュラム「…イケてるおなごが一切おらんの…宇宙人は苦手じゃわい」
いわゆる地球人タイプは宇宙では珍しいのか、コミュニティ・エリアでは全く見かけなかった。
昆虫、爬虫類、動物…それらを二足歩行にして、人と同じくらいまで大きくしたようなタイプの宇宙人が主流のようだ。

デュラム「しかし、まだ始まらんのかの。じ、時間は大丈夫かいな…」
陽は少し傾きかけている…。二次試験のタイムリミットは16時だ!



デュラムもクロロたちと同様、二次試験開始後すぐに虹色キューブが売られているのを確認したが、使えるお金マーネもなく盗むようなこともできず、右往左往していたところ、”宇宙一チャレンジ”予選の張り紙を発見。
他の選択肢がなかったどころか、格闘での賞金稼ぎとは、これほど自分にぴったりの案件はない。即、予選会場に足を運んだというわけだ。

予選会場は、今いるステージのようなしっかりしたものではなく、平屋の脇の空き地だった。
空き地には腕自慢と思われる様々な宇宙人たちが10数人集まっていた。
カナヘビ、カエル、アライグマにピラニアタイプ…

予選はバトルロイヤル方式で、空き地に集められた応募者全員で戦闘し合い、残った一人にチャンピオン挑戦権が与えられるというものだったが…

デュラム(いやはや、予選はこちらがびっくりするくらいあっけなかったわい。地球人じゃないから、対人の格闘技は通用せんかもとか、カナヘビのしっぽやカエルの跳躍力がどんな技になるのか、とか。随分と警戒したがいざ始まれば素人の喧嘩と変わらんかったのう…)

あっという間の予選突破、それも過去最速タイムで決着となった。



デュラム(チャンピオンというのがどれくらいの力量かしらんが…。はよ始まらんかの…)

そのとき、視線の隅で見慣れた顔を捉えた。

デュラム「あっ、あやつら」

クロロとコン太だ。
観客をかき分けながら、ステージ下の最前列まで近づいてきた。

コン太「ぷはあ、いやでも、すごい人だ…これは」


クロロ「おーい、じいちゃん!」
クロロがデュラムを見上げながら、笑顔で手を振っている。

デュラム「おお、おぬしたち、よくここが分かったの」
コン太「テレビでやってたのを見たんです!」

デュラム「て、テレビ?なんと、わしはテレビに出とったんか(か、かっこよく映ってたかいな?)ま、まあいい。して、おぬしら、もしや例のキューブを…」

クロロ「へへん」
クロロとコン太は顔を見合わせニカっと笑うと、「じゃーん」と虹色キューブを取り出した。

デュラム「おお!見事じゃの!」

その時、ステージにいたナメクジのアナウンサーがマイクを振り上げた。
”大変お待たせしました!!!チャンピオンの登場です!!!”

ワーと大歓声が上がる!!!

クロロ「おおっ、す、すげえ叫び声…!じいちゃーん!がんばれよーーーっ!!!」
クロロが周りに負けないような大きな声でステージに向かって叫んだ!

デュラム「ふぉふぉふぉ!!!(しかし、クロロとコン太か、大したもんじゃわい!わしも負けていられんな…)」



-   チャンピオン登場   -



大歓声の中、再び花火が打ち上げられ、観客の熱狂が振動となり空気を震わせる!
モルフォ蝶みたいに煌びやかな虫型宇宙人がステージ上空を舞い、シンクロナイズド・スイミングのようなパフォーマンスを空中で繰り広げる!
気球に乗った、宇宙人種を超えたアーティスト・グループ(※メンバー:ウグイス型、セミ型、カエル型、スズムシ型、オオカミ型の宇宙人たち)が抜群のハーモニーを響かせる。

コン太「これはすごい…!SFオタクのボクでも見たことない光景だ…!」
クロロ「ほえ~、オリンピックの開会式みたいだな!」

フクロウ型の宇宙人がステージ上をホバリングし、目をスポットライトのように光らせ、ステージ脇の階段に光を当てた!

大歓声がもう一段階ヒートアップする!

スポットライトを浴びながら、ステージに現れたのは、身長2メートルはありそうな””型の宇宙人だ!
(アリのマスクを被り、アリのコスプレをしたプロレスラーと言ったほうがイメージが近い)

”史上最強のチャンピオン、の登場だーーー!!!”

赤いマントをなびかせ、黒い拳を高らかに振り上げ、どすどすとステージを一周する。
昆虫タイプだからか、2本の足に…いずれも筋肉隆々なのが見て取れる。

”はるばる惑星ギヌックより地球へ…彗星のごとく現れた無名の青年が伝説の1ページを刻み始めたのは9大会前…そして今日、この無敗の帝王が宇宙一チャレンジ史上かつてない偉業を成し遂げようとしています!!!そう、伝説の…伝説の、10~連~覇~!!!皆さんは歴史が変わる瞬間の立会人になるかー!?”

観客のボルテージがブワっと上がる!

デュラム(な、なんと…記録がかかった、割と大事なタイミングでの試合なんじゃな…)


チャンピオン・アントニオがマイクを取る。
アントニオ「はっはー!たまらんね、この熱気!今日は来てくれてありがとう!!!」

観客の声援がビリビリと空気を揺らす。

アントニオ「はっはー!そして、地球人のチャレンジャー、名はなんという?」

チャンピオンがビシっと人差し指を突きつける。

デュラム「え?あ、ああ、わ、わしはデュラムと言う名じゃが…」

アントニオ「デュラム!記念すべき10連覇の相手としては地味な名だな…これからいろんなメディアにも対戦相手の名前がでるからもっと派手な名前が良かったのだが、しょうがない!今日は感謝する!私の記念すべき10連覇の踏み台になってくれることを!」

””アントニオ!!!””アントニオ!!!””
観客のアントニオコールだ。
モルフォ蝶のような宇宙人が、キラキラとした鱗粉を紙ふぶきのように撒きながら、ステージ上空を旋回している。

まるで敵地…
デュラムの敗退が確定しているかのような雰囲気…挑発的なマイクパフォーマンスも、9連覇中という確かな実力と人気の裏返しなのだろう。



デュラム「はっ!そ、そうじゃ!コン太、コン太よ」
手を振りながらコン太を呼ぶ。

デュラム「い、いま何時かわかるかの?」
コン太がごそごそとスマホを取り出して答える
コン太「あっ!も、もう15時45分…!わ、割と本当にギリギリですね…」

デュラム「な、なんと!あと15分か…う~む…賞金もらうのに3分、対戦後のお色直しに3分、買い物に2分、そしてここから例の白い部屋まで5分だとして…に、2分か…!2分であのチャンピオンを倒さないと間に合わん!」

”さあっ!ここで、チャンピオンの武勇伝をざっとおさらいしましょう!生まれは、生まれてわずか3ヶ月ですでにその才能の片鱗をのぞかせ…”

デュラム「ちょっとすまんの」

ナメクジアナウンサーの言葉を遮る。

デュラム「悪いが、時間がなくての。はじめさせてくれんか」

一瞬会場が鎮まり、失笑とブーイングが混じった異様なざわつきがステージを取り囲んだ。



アントニオ「はっはー!まあまあ。私の武勇伝のスルーは少しイラッとするが、まあ、いいだろう。すべてが予定調和じゃつまらんしな」

アントニオが赤いマントをばっと脱ぎ捨てる。
アントニオ「さあ、はじめようじゃないか!!!」

耳が割れるような声援が会場一帯を揺らした!!!



-   試合開始   -



”で、では、チャンピオンのご了解ということもあり、早速…!!!”

アナウンサーがマイクを振り上げると、一際大きな花火がステージ上で炸裂した!

”宇宙一チャレンジ、試合はじめーーーーー!!!!!”



デュラムがすっと右腕を上げ、少しだけ腰を落とした。少輪寺の構えだ。
アントニオも拳と拳をふんっと叩きつけると、4本の腕を広げて深く腰を落とす。

アントニオ「そうだ、ただの10連覇じゃつまらんからな、最速KOというのも試してみようか。確かあんたも予選を最速タイムで通過と言ったな。そんなチャレンジャーに対して最速KOだとより伝説に箔がつくってことさ…」

デュラム「…ほほう。宇宙人も冗談が言えるとは知らんかったの」

ステージを包んでいる大歓声がすっと遠のいていく…


クロロ(…あ、明らかに空気が変わった…!い、いよいよじいちゃんの戦いが初めて見れる…!)



アントニオ「ばっ!!!」

先に仕掛けたのはアントニオだ!バネような瞬発力により、一瞬でデュラムの眼前に躍り出た!

アントニオ「これで試合終了だっ!!!」

ブンっと唸る音と共に、拳が振り下ろされる!!!

アントニオの拳は、完全にデュラムを捉えたかのように見えたが…
アントニオ「な、なにっ?」

拳は紙一重で当たっていない!!!
アントニオ「このっ!」

ブブン!!!左腕でストレートを放つ!
だが、これも拳が当たる直前で綿毛のようにふわりとかわしている。

アントニオ「ちっ!」

ぐっと腰を落とすと、ビョーンと飛び跳ねた!すごい跳躍だ。デュラムの頭上遥か上を宙返りし、背後に着地する。

アントニオ「ずあっ!!!」
丸太のような脚をデュラムの背中に叩き込む!

デュラム「ふぉっふぉ」
しかし、やはり紙一重で当たらない。

アントニオ「このっ!ウロチョロしよって!」

ギッと睨みつける。

デュラム「悪いの。ふぉっふぉっふぉ。様子見が過ぎたかの。やっぱ異星人は地球人と違って””が捉えづらい。じゃが」


デュラムがすうっと右手を突き出し、腰を落とした!


デュラム「

アントニオ「えっ!?」



多くの観客は、というものを初めてその目で見ただろう。もしくは、、という意味をその身を持って体感しただろう。

そんなスピードだった。これはクロロもコン太も同じだ。

デュラムの体がフッと消え、次の瞬間には、のだ。

同時に、押し出されるようにアントニオの巨体が吹っ飛んでいた。

一瞬遅れて、”バン!”という打撃音が会場に響く!


アントニオ「うげっ…!」

宙を舞った巨体が、ずでん、とステージに叩きつけられた。
震えるように体が痙攣している。

コン太「い、いまのは一体…全然見えなかった!」
クロロ「あ、ああ。な、なんだろう、ただの早い掌底のようだったけど…トラックに衝突したみたいに吹っ飛ばされてる…!」



-   進化   -



デュラム「ふぉっふぉっふぉ、もしや、KOしちゃったかの」

会場が静まり返った…
アントニオはステージの床に這いつくばったままだ。


デュラム(…ふうむ。がブレブレで不安定じゃの…すこしやりすぎちゃったかもしれん…。とはいえ)


デュラムがナメクジアナウンサーに声をかける。

デュラム「もう、わしの勝ちってことでOK?」

”え?あ、す、ステージの外に落ちるか、明らかに戦闘不能と認められたら負けですが…”

デュラム「おや、そうじゃったか。んじゃあ」
デュラムがとことことアントニオに近づいていく。

デュラム「場外になってもらおうかの。ちょいと失礼」
アントニオの腕を取ろうとした瞬間…!



アントニオ「まだだあっ!!!」

アントニオが血走った目で飛び上がった!!!

デュラム「!!! むぅっ!こいつは…!」
デュラムはぴょんと後退りしながら、警戒モードに切り替えた。


デュラムは決して油断して近づいたわけではなかった。
生き物であれば誰しもが持つを確認した上で、であった。

多くの歴史ある武道と同じように、少輪寺においてもは道の根幹にある。
対戦相手のの状態を探りながら戦うのが鉄則だ。

試合序盤にひらひらと避け回っていたのは、まさにの探りであり、
相手が宇宙人であるため、通常の戦闘よりも慎重に行動パターンや弱点を捉えていった。

結果的に、の在り方は地球人を含めたこの星の生き物と大差ないと判断したため、
人でいうところの鳩尾を正確に狙い、打ち込んだ。

デュラムの掌底を受け、アントニオの気は、不安定に揺れ動いていた。
正常な気の状態が、凪いだ水面だとすると、アントニオの気は洗濯機で掻き回された水のようだった。

人であれば完全に脳震盪もしくは気絶を起こしている状態だ。



この気の状態で立ち上がるのは、長い武道家経験上、明らかに異常だ。

デュラム(やはり異星人…!地球人とは気の在り方も異なるか!いやはや、わしもまだまだじゃの…しかし、こいつは…)



立ち上がったアントニオから、が吹き寄せる…

クロロ「うっ!な、なんだかマジで熱いぞ…!」
コン太「お、おい、あいつなんだか変だ!」

アントニオの真っ黒な体から湯気が立ち上り、熱した鉄のように鈍い赤みを帯びてきている。
体を小刻みに震わすと、「ぐおおおおおっ!!!!!」っと雄叫びを上げた!!!


アントニオの体から蒸気が噴き出し、熱波が吹き抜ける!!!

クロロ「あつつっ!!!」



シュウウウウウ………

風がゆっくりと蒸気を剥ぎ取っていく…



クロロ「げげっ!あ、あいつ、か、!!!」

デュラム「な、なんと!!!」

真っ黒だった体が、赤黒く変色し、元々2メートルはあった体がさらに一回り大きくなっている。
身体中がイバラのような棘に覆われ、蟻というよりみたいだ。


観客も歓声よりもざわめきの方が大きくなっている…


アントニオ「くっくっく…驚いているようだな、地球人。それにオーディエンスもびっくりしているようだから、解説してやろう。我々は、自分の意志で””が可能なのだよ。急激な細胞変化を引き起こすために、細胞同士の摩擦で身体中が火をように熱くなり、幼虫が蛹になるようにドロドロと体を震わせる」

デュラム(!!!そうか、それに伴いも不安定じゃったということか…!なんとも…これが異星人か…!)


アントニオ「俺をここまでさせたのは、地球へ来て初めてだ、貴様の強さは認めてやろう…だがな…こうなった俺は、更に強いぞ。覚悟するが良い!!!」

そう言って、棘に覆われた拳を振り上げると、ステージに叩きつけた!


デュラム「!!!」

隕石でも落ちたかのように、轟音とともにステージに大きくヒビが入った!
アントニオ「こいつを貴様に喰らわしてやる!」

そう言うと、ステージの床を蹴り飛ばし、一瞬でデュラムの鼻先に迫った!!!

クロロ(は、はやっ!!!さ、さっきの排水溝のやつら以上だっ!!!)


アントニオ「つあっ!!!」

蒸気の尾を引く真っ赤な棘の拳をデュラムに叩きつける!

デュラム「!!!むん!!!」


紙一重で躱したが、腕と拳の棘が皮膚を切り裂き、鮮血がほとばしった!

デュラム「ちっ!(…先ほどとは段違いのスピード…!そしてこの棘が厄介じゃ…棘の分、攻撃のリーチが長い…!)


アントニオ「はっはー!!!」
デュラム「!!!」

一発目の拳の後方からが間髪入れずに襲い掛かる!!!
デュラム「し、しまった!こやつは地球人よりもんじゃったか…!やむを得ん…!」


デュラムはステージの床にビタっと足裏をつけ、ぐぐっと腰を落とした!!!
そしてスッと手のひらを差し出すと、まるで闘牛士が猛牛をいなすように拳を受け流した!

まるで柳が暴風をあしらうかのように、ふわりとした仕草だ。

アントニオ「!!!こっこのっ!」

機関車のような勢いだったアントニオは、バランスを崩して前につんのめった!



その隙に、デュラムはコン太をキッと睨みつけた!
デュラム「コン太よ!いま何分じゃっ!?」

コン太が慌てて叫ぶ!
コン太「あ、も、もう、55分です!15時55分!」

デュラム「!!!めっちゃやばいじゃないか!」



アントニオ「ぐぐっ!」

アントニオが体勢を立て直し、敵を振り返る!
「!!!」
デュラムがいつの間にか自分の真後ろに!
そして背中にピタリと両の手を付け、呼吸を整えていた。


クロロ「!!!」

デュラムの掌がぼんやりと光り輝き、がステージを漂う!

デュラム「もう時間じゃ。お主とはもうちょっと相手をしたかったが…」


光が膨らむ!


デュラム「奥義・発勁じゃっ!!!はぁっ!!!!!」

稲光がデュラムの身体を包み、次の瞬間!ガスバーナーのような光がアントニオの体から噴射したように見えた!

そのまま、アントニオが白目を剥き、糸が切れたマネキンのように、膝から崩れ落ちた…!



-   決着   -



ざわざわ…

観客が顔を見合わせている…

コン太「な、何が起きたんだ?デュラムさんの身体が光ったように見えたけど…」


デュラムが呆然としているナメクジのアナウンサーに近づく。
デュラム「ほい、これはもう戦闘不能と言わんのかな?」

デュラムがステージに倒れているアントニオに目をやる。完全に気を失っているようだ。

デュラム「なに、安心せい。死んではおらん。ちょいとこやつのをガツンと震わせただけじゃ」


“あ、あ…。た、確かにこれは…!せ、戦闘不能と判断できるでしょう!つまり!とんでもないことになりましたが…!!!しょ、勝者はチャレンジャーです!地球人のチャレンジャーです!”


おおっ!っと、会場を包む空気が揺れ、歓声が爆発した!

クロロ「やったー!じいちゃん!すげえぞー!」


デュラム「ふぉっふぉっふぉ…っと、いかん!余韻に浸っとる場合じゃないわい…」


デュラムはアナウンサーを捕まえた。

デュラム「しての、早く賞金が欲しいんじゃが」

アナウンサー「しょ、賞金ですね!ちょっと申し訳ないんですが、色んな手続きがあるので、後日お振り込みとなります…」

デュラム「えっ?い、いますぐもらえるもんじゃないんかえ?」

アナウンサー「そ、そりゃあ…セキュリティ上、大金を現金で用意しておくわけにはいかないですし…」

デュラム「な、なんと…!!!」


クロロ「お、おい、嘘だろ!?せっかく優勝したのに!」

デュラム「な、なんとかならんのか?わしは大金はいらんくて、あの、虹色のキューブが一個あれば十分なんじゃが…!」


アナウンサー「そ、そう言われましても…」

コン太「そ、そんな!こんなオチって…」

3人は冷や汗を流して思わず顔を見合わせた…!



“ちょいと待たれよ!”

クロロ・コン太・デュラム「!!!」


声のする方を振り向くと、なんとさっきのが涙を流しながら立っているではないか!そのまま徐にステージに登壇する…

タコ店主「感動したっ!」

デュラム「えっ?」

タコ店主「今の戦い、わしゃあ、いたく感動したんじゃ!伝説級の10連覇がかかった試合として普段以上にドキドキしながらの観戦じゃったが、まさか伝説をひっくり返すこの展開!後にも先にも、こんな魂を揺さぶるような試合はないじゃろう!!!放送初回からのファンとして、心より敬意を表する!最高じゃっ!!!」

そう言うと、懐からゴソゴソと、虹色キューブを取り出した!!!


デュラム「そ、それは!」

タコ店主「これで良ければ、いくらでも持っていけば良い!」

デュラム「な、なぜそれを!」


タコ店主「今日はとにかく、地球人によう会う日での。最初に会った者達もこれを望んでおったし、この2人の坊主らも持っておった。なんの理由かはわからんが、地球人がこれを所望してるのは、よう分かったでの!そんで持ってきたというわけじゃ!」


タコ店主がデュラムに虹色キューブを手渡した。


クロロ「じ、じいちゃん!やったな!」

デュラム「ふぉっふぉっふぉ、これは予想外じゃわい!」

コン太「そ、そんな中申し訳ないですが、もうホントに時間がないですよ!早くしないと!」

デュラム「そうじゃった!タコの人よ、感謝する!そして、アナウンサーよ!」

ナメクジアナウンサーを手招きする。
デュラム「わしゃ、もう賞金はいらん!このタコの人に全額渡してくだされ!それじゃ!」


そう言うと、急げ急げ!と焦りながら、3人の地球人はスタコラと会場から姿を消した。

アナウンサー・タコ店主・観客「…(ぽかーん)」
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

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