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組織(ハウス)入団編
ー 6 ー 二次試験①
しおりを挟むー通過者ー
クロロとコン太は、ジャングルに空いた長方形の穴をくぐり、レコード・ショップの白い部屋に戻った。
室内には、既にアルマジロウスの鎧のかけらを手にした受験者たちが控えていた。
ーーー黒づくめの少年
部屋の隅で腕を組み目を閉じている。
クロロたちが部屋に入っても微動だにせず、何を考えているのか、まるで読めない。
ーーー落とし穴でアルマジロウスを仕留めたパンクな二人組
床にべったりと座っており、クロロたちが入ってくるとジロリと睨みをきかせ、舌打ちをした。
ピンクモヒカン「んだよ、ガキかよ!あの試験官まだか?もう時間じゃねえか、さっさとしろよ、まったくよ~!」
緑モヒカン「…」
緑モヒカンは無言で折り畳みナイフをいじっている。
ーーー手榴弾をばら撒く危ない軍人
何やらぶつぶつと独り言を呟きながら、早足で部屋の中を歩き回っている。
さすがは軍人というところか、うろうろするにしても歩く姿勢がシャンとしていて、歩幅やリズムが一定だ。
黒づくめの少年やパンクな二人組とはまた違う近寄りがたさがある。
ーーー黒髪の美女、ペンネ
コンパクトミラーを取り出し、鼻歌を歌いながら化粧直しをしている。試験の緊張感は一切見られない。これからデートにでも行くような感じだ。
コン太「…や、やっぱり、みんな一次試験、合格なんだよな…」
(しかし…ペンネさんを除いて、やばそうなヤツらばかりだ…。ま、万一組織にはいってコイツらと同じチームになったら大変だな…ああ~!ペンネさん以外は全員不合格になりますように…!)
肩をすくめながら部屋の奥へと足を進める。
ふと、クロロが立ち止まった。
クロロ「…ん?おい、コン太、あそこ…見てみろよ」
クロロの視線の先には、顎髭を蓄えた老人の姿があった。
水泳帽のような形の黒のチャイナハットを被り、オレンジ色の拳法着を纏っている。
クロロ「あそこのじいちゃん。あのじいちゃんだけは岩山で見てないよな…」
老人は瞑想をしているかのように、胸の前で手を合わせ、静かに目を閉じている。
コン太「ほ、ほんとだ。で、でも、あの人…な、なんかどこかで見たことがあるんだけどな…」
クロロ「え?知り合いってことか?」
コン太「い、いや、知り合いとかじゃなくて…う~ん、そうだな…テレビなのか雑誌なのか…どこだったか…って!えええ!?」
話の途中、いつのまにかクロロが老人の目の前に立ち、「ねえねえ」と拳法着を引っ張っている。
「う、うん?な、なんじゃな、おまえは」
さすがの老人もびっくりした様子だ。
「あはは、ごめんごめん。オレ、クロロっていうんだ。なあ、じいちゃん、コン太と知り合いなのか?」
そう言って、あたふたしているコン太を指さす。
老人「…はて…コン太?う~む。すまん、ちょっと覚えがないのう。女の子なら忘れんじゃろうがなあ…」
慌ててコン太が駆けつける。
コン太「あわわ、ご、ごめんなさい!なんだかこいつが無礼なことを!」
クロロの頭をげんこつで小突きながら、頭を下げる。
老人「ふぉふぉふぉ、構わん、構わん。話相手もおらんで、ずっと退屈しとったところじゃ」
そう言って、顎髭をくいくいっと引っ張った。
コン太「ああっ!顎髭を引っ張る仕草…!その仕草で思い出しました!あ、あなたは、少輪寺拳法のデュラム九段ではないでしょうか?生きる伝説とまで言われている…」
デュラム「ほう、よく知っとるの、コン太とやら。もう引退した老ぼれじゃがな」
コン太「や、やっぱり!こ、光栄です!」
デュラム九段。
九段とは少輪寺拳法における最高位を指す。
決して筋肉質ではなく、むしろひょろりとした外見の老人だ。試合においてもその穏やかな印象は変わらない。
しかし、油断すれは一瞬で床に転がされる。
一見隙だらけに見えるが、空中に漂う綿毛のように、あらゆる攻撃を受け流す。まるで動きが読まれているみたいに。
避けてばかりではなく、攻撃も超一流だ。
生じた隙は見逃さず、相手の弱点、急所を正確に突き、勝負を制する。
少輪寺の真髄を体得した者として、長らく頂点に君臨していた。
クロロ「ひえー!じいちゃん、すげえんだな!も、もしかしてじいちゃんがこの部屋一番乗りか?」
デュラム「そうじゃよ」
えっへんとばかりに腰に手を当てる。
クロロ「す、すっげえ!」
デュラム「じゃが、一番乗りがいいとも限らん。まあ聞いてくれんか。わしが部屋に入ってからまもなく、あそこの少年が入ってきた。あいつは暗いのう。黙ったまま、挨拶もせん。そのあともま~た変わった奴らが入ってきた。トサカの二人組、そして軍人。
気分がどんより、落ち込みまくりじゃよ。
しかしまあ、ようやくプリプリの女子が来ての。どう話かけようかしばらく思案しとったら、お主らに話かけられたってことじゃ」
コン太(め、瞑想でもしてるのかと思ったら、ひっかけ文句を探していたのか…お、奥が深そうな人だな…)
クロロ「プリプリの女子って、あいつのことだろ?」
そう言って、ペンネの方を見つめた。
コン太「あいつ、じゃなくてペンネさんだろ」
コン太が目を細めて正す。
クロロ「そういえば、そのペンネさんって、さっき魔法みたいなことして一次試験突破してたよな。どうやったか聞いてこようぜ!」
コン太「い、いやいややめとけよ!失礼だろうが。それに、企業秘密みたいなものかもしれないだろ。そんなもの、見ず知らずのやつにすんなり教えてくれるわけないだろうが!」
デュラム「ほう。クロロと言ったか。それは良い考えじゃな。じゃあ、わしも行こうかの」
コン太「いやいや、うそでしょ?」
デュラム「いやはや。話のきっかけがなかなか思い浮かばんじゃて。これは、まさに棚ぼたってやつじゃわい」
コン太(こ、この人は~)
クロロ「さすが、じいちゃん!よし行こうぜ!」
デュラム「ふぉふぉふぉ」
レッツゴーとばかりに顎髭をくいっと勢いよく引っ張った。
ーペンネの秘密ー
クロロ「おっす!」
クロロが右手を上げてペンネに声を掛ける。
その後ろにデュラム。
デュラムの影にコン太が続いている。
ペンネ「あら?何かしら」
髪を揺らし、ペンネが鏡から目を離す。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
クロロ「へへっ、オレ、クロロってんだ。ペンネさんだろ?」
ペンネは大きな目をぱちくりさせる。
クロロ「さっき、モーリーと話してるところを聞いたんだ!」
ペンネ「ああ、それで」
コン太「ぼ、ボクは名乗るほどのものではないのですが、一応、名前はコン太と言います」
コン太がささっと前に躍り出て、すかさず頭を下げる。
デュラム「わしはデュラムといい、この子らの保護者みたいなものです」
キリっとした顔で顎髭をくいくいと引っ張る。
ペンネ「…あ、あらそう」
クロロ「さっきの試験、みんなどうやって突破してたのか見てたんだけどさ、ペンネさんが一番謎だったんだよな…なんだか、あの怪獣たちがみんな大人しくなっちまって…ねえ、あれ、どうやったの?」
コン太「お、おまえ、いきなり…!あ、あはは、失礼しました、わ、忘れてください」
コン太が頭をかきながら笑ってごまかす。
コン太「おい、クロロ、この先の試験でライバルになるかもしれないようなヤツに、教えられるわけないだろう!手の内を明かす、みたいなことになりかねないし!ほんと初対面なのにズケズケと…」
ペンネ「別にいいわよ」
コン太「えっ?」
ペンネ「教えてあげるわよ。ぜんぜん。減るもんじゃないし」
コン太「ええーっ!?」
クロロ「ほら、見たことかよ。おまえは考えすぎなんだよ~」
クロロが横目でコン太を睨め付ける。コン太は納得がいかずに天を仰ぐ。
ペンネがコンパクトをパチンと閉じて言った。
ペンネ「あれはね、フェロモンよ」
クロロ「ふぇろもん?なあ、コン太、ふぇろもんってなんだ?」
コン太「フェロモンってのはな、そのなんだ、異性が異性を呼び寄せるというか」
ペンネ「ちょうど繁殖期でオス同士の争いが激しいって聞かされてたからね、ピンときたわけよ」
すらっとした指を立てる。
デュラム「しかし、ピンときたからといって、どうこうできるもんじゃないと思うがの…」
ペンネ「それがね、私、職業柄とにかくいろんなツールを持ち歩いてるの。その中のフェロモンアイテムに、たまたま効くやつがあったのよね」
クロロ「職業柄って…?」
ペンネ「スパイよ。フリーランスのね」
コン太・デュラム「す、スパイだって?」
クロロ「また難しい言葉がでてきたな…」
コン太「で、でもそんな道具をいっぱい持ってるようには見えませんけどね…」
タイトなワンピースを纏ったシルエットは、むしろ手ぶらのようにすら見える。
ペンネ「ふふふ。色々なところに色々なものを隠しているのよ」
「ふぉふぉふぉ、それは大したもんじゃの。どれ、せっかくじゃ。どこに隠してるんですかゲームでもしたらどうかの?なに、ちょっとくすぐったいだけじゃ」
デュラムが両目をにんまりと曲げながら、鼻の下を伸ばす。
ペンネ「ふふふ、いざというときのために、神経系の毒物とか、体を麻痺させる薬とか色々もってるのよね。ねえ、デュラムさん、少輪寺で鍛えた身体にどれくらい効くのか試してみてもいいかしら?」
ペンネがデュラムに冷たい目を向ける。
デュラム「じょ、冗談じゃよ!冗談!ふぉふぉふぉ!こりゃまいったまいった!」
デュラムが手を振って後ずさる。
コン太「し、しかし、いま少輪寺と言いましたよね…?やはりデュラムさんのことはご存知だったのですか?」
ペンネ「有名人だからねー。でも、他にもいくつか名の通った人たちが通過してるわね」
室内をぐるっと見渡す。
クロロ「ええっ?みんなのこと知ってるのか?」
ペンネ「そりゃあスパイだからね。というか、むしろそれぞれの界隈で有名だから知ってる、ってところかな」
ー有名人ー
ペンネ「まずはあの二人組」
ピンクモヒカンと緑モヒカン。パンクスタイルの2人組だ。
ペンネは、彼らに聞こえないように、ひそひそ声で話始めた。
2人はカッペリーニ兄弟と呼ばれるチンピラ。血のつながった実の兄弟であり、緑モヒカンが兄のカッペ。ピンクモヒカンが弟のペリーニ。
チンピラではあるけれど、国際的にいろんな案件が舞い込んでくるような、スーパーチンピラだという。
案件のほぼ全ては、極悪人でさえ全力で敬遠するような、非人道的な内容だ。
要人の生まれて間もない子供を<*****>したり、礼拝の最中、神の前で誰彼問わず<*****>したり、大型の病院で<*****>したり、などなど。
だが、この2人は感情が欠如したような行動を取れるようで、どんな案件だろうと必ず完遂する。だから、仕事への信頼度が非常に高い。
誰もがやりたがらないが、やらなきゃならない仕事や後始末。そういった案件のスペシャリストである。
コン太は岩山で聞いた奇声を思い出して、背筋が寒くなった。
ペンネ「まっ。近づかなければいいと思うわ」
コン太(…何がなんでも絶対に関わりたくない2人だ…)
ペンネ「そして…」
さっきからずっとブツブツ独り言を言って歩き回っている軍人に目を遣る。
ペンネ「あの軍服を着た男は、ブカティーニ軍曹。通称ボマーと呼ばれている陸軍の隊員よ」
元々は爆弾のエンジニアだったという、爆薬のスペシャリスト。
その知見を生かして軍曹まで上り詰めたが、そのうちに爆発そのものに悦びを見出したらしい。
軍の内部で度々暴発事件を起こし、懲戒の危機であったが、とある遠征で評価が変わった。
後方支援部隊としての参加であったはずだが、いつの間にか無許可で戦線に。
現場では綿密な工作作戦が展開されていたが、シナリオを全て無視するかのように、異常な量の爆薬が敵陣営に放たれ、数時間で制圧となった。敵本拠地のあった場所は、完全に地形が変わっていたということだ。
それ以来、兵士というより兵器の立ち位置で重宝され、派手な活躍を続けている。
カッペリーニ兄弟と同じく、何かが欠如したような吹っ切れた仕事をこなす。
はっきり言ってアブないやつ。
ペンネ「…というところね。ちょっとしゃべりすぎちゃったかしら」
コン太「ほえ~さすがスパイですね!何でも知ってるんですね!」
クロロ「あれ?あとあの、黒いやつは?」
クロロの視線の先には、黒づくめの少年が。部屋に入った時と変わらず、腕を組んだまま沈黙を続けている。
ペンネ「う~ん、あの子はちょっと知らないなあ。だけど知らないってのも気がかりだったの。だって、とんでもない手練れだからね。少年とはいえ、あのレベルの人間について私に情報が入らないのは普通ないからさ」
クロロ「や、やっぱりすげえヤツだったんだな…」
(…あ、そういえば黒いやつに挨拶できないままだったなあ。試験中はそれどころじゃなかったし…)
クロロ「よしっ、ちょっとオレあいつに面通しにいってくるわ!」
コン太「ちょ、お、おい!待てよ!」
コン太の静止も聞かず、クロロは黒づくめの少年の元へ歩いて行った。
ー黒づくめの少年ー
クロロ「よう!オレ、クロロってんだ!試験前に挨拶しそびれたからさ。なあ、名前なんていうんだ?」
黒づくめの少年「…」
クロロの声が全く聞こえていないかのような、もっと言うと、クロロの存在が全く無いかのような無視っぷりだ。
だがクロロもお構いなしだ。
クロロ「さっきの試験さ、別の場所から見てたけど、すげえよな!あんな動きや技、どこで覚えたんだよ!?オレも山で修行したけど…」
黒づくめの少年「失せろ」
クロロ「え?」
…
シーンとした沈黙が空気を塗り替える。
少年がギロリとクロロを睨みつける。
黒づくめの少年「失せろ。そう言ったんだ。俺は強いもの以外に興味はない…」
少年の声は小さかったが、低く、よく通る声だった。静寂な水面に響く水滴のように、より静けさを強調させる。
コン太(おい、クロロ!戻って来いよ!変な空気になってるぞ!)
コン太が小声で叫びながら、必死でおいでおいでと手を振る。
カッペリーニ兄弟はクロロらをチラチラうかがって面白がっている。
軍曹は相変わらずブツブツ言いながら歩き回っている。
クロロ「強いもの以外って…へへ、まあそうだな!悔しいけど確かにその通りだぜ、今はどうしたって敵いそうもないもんな」
クロロがニカっと笑い返す。
クロロ「だけど、オレは絶対に強くなるぜ!試験に合格して、おまえに追いつけるくらいに強くなってみせる!そしたらよ…」
黒づくめの少年「うるさい」
冷たい声と共に、黒づくめの少年の体がぼんやりとブレた!
雨に霞んだかのように…!!!
クロロ「!」
反射的に瞬きをすると、少年の姿が…
…!!!
消えた!!!
クロロ「!!!いない!?」
一瞬。ほんの一瞬で、視界から姿を消した!
な、何が…!
その時、コン太の声が響いた!
コン太「くっ、クロローーー!!!し、下っ!下だあー!」
バッと視線を下に向ける!
!!!
黒づくめの少年がいつの間にか、クロロ目の前で屈んでいる。
跳ね飛ぶ直前のバネのようにぐっと膝を曲げ、ミシミシと音が聞こえるくらいに力を込めた右腕を引いている!
黒づくめの少年「…遅い」
今度は、引いていた右腕が消えた!
そう思った瞬間!拳が眼前に迫る!
!!!!!
それは避ける隙どころか、思考の暇さえも与えられない程に、一瞬の出来事だった!
…
モーリー「いけませんね」
少年の拳は、クロロの眉間とまさに紙一重の距離で止まっていた。
いつの間にか現れたモーリーが、少年の手首を捕らえていたのだ。
受験者たちは、一瞬のできごとに目を見開く。
モーリー「クロロさん、白州さん、そこまでです。この場所も、この時間も、諍いに使われるべきではない」
チャッとメガネをかけ直すと、視線を2人に向ける。表情は穏やかだが内面は読めない。
白州「…ふん。離せ」
手首を振り解くと、ツカツカと歩いて行った。
クロロ「あ、あはは。ごめんよ」
クロロも頭を掻きながら、コン太らの元に戻る。
ピンクモヒカン「ちっ、面白そうなところだったのに」
…
コン太「おい…クロロ、大丈夫だったか?」
クロロ「…」
コン太「…おい?」
珍しく、顔を俯かせて体をプルプルと震わせている。
「…そうか、そうだろうな。今度こそレベルの違いを思い知られた、ってところだよな。うまく慰めの言葉は言えないけど、ショックを受けすぎなくてもいいから…」
コン太がクロロの肩に手を置こうとした瞬間、クロロが満面の笑みで振り返った。
クロロ「おいっ!コン太!さっきのすごかったな!!!」
コン太「えっ?お、おまえ、落ち込んでんじゃ…」
クロロ「あのものすげえパンチも、それを止めたモーリーも!世の中にはすげえやつがいっぱいいる!オレも負けてられねえ!!!絶対に組織に入ってやるぜ!!!」
クロロはメラメラと闘志を燃やしていたようだ。
コン太「…こ、こいつは…」
(ちょ、超ポジティブ思考のやつだった…!な、なぐさめて損した…)
クロロ「そんで、あいつ、ハクシュウって名前なんか!よしっ!見てろよ!もっともっと強くなるぞ!!!」
えいえいおーとばかりに腕を振り上げる。
デュラム「ふぉふぉふぉ。元気なのは良いことじゃ」
(しかし、あの黒い少年…あの若さで、全くもって只者じゃない動きじゃった…。そして、試験管のスピード…!少輪寺気功を極めた者の動きにも似ていたが、遥かにレベルが上じゃった…。この空間も含め、不思議なことだらけじゃわい)
ー二次試験ー
モーリー「さあ、みなさん!お待たせしてすみませんでした。そして、一次試験の通過、おめでとうございます!」
モーリーがニコニコした笑顔で受験者たちを見渡す。
当初は受験者で埋め尽くされていた部屋だが、ガランとしている。
通過者は、いまここにいる8人だけだ。
コン太(…そ、それだけ一次試験からいきなり過酷だった…ってことか…)
モーリー「では、早速二次試験の説明を始めましょう!そもそもこの試験、全部で3つあると冒頭申し上げました。そして、いずれもアイテムの入手をしていただく、と」
受験者たちは神妙な面持ちで話を聞いている。クロロだけが(そうだったっけ?)という表情をしている。
モーリー「次に皆さんに手に入れていただきたいアイテムは…」
エプロンのポケットに手を入れて、ごそごそとする。
モーリー「これです!」
モーリーが取り出したのは、手のひらサイズの立方体だ。
メタリックなコバルトブルーがベース色であるが、ホログラムのように、光を虹色に反射している。
ペンネ「…すごい綺麗…!これは宝石?」
ペンネがうっとりとした表情を見せる。
モーリー「確かに、宝石のように見えますよね。これが地球にあれば間違いなく宝石として扱われるでしょう」
ピンクモヒカン「んん?なんだ?どういうこった?」
軍曹「…。宇宙が原産、ということか」
モーリー「さすがは軍曹!軍にいるとその手の情報も入ってくるようですね。おっしゃる通り、これは地球外の物質であります。もっと言うと太陽系外のものですね」
コン太(!!!宇宙が原産?太陽系の外?こ、これって…!う、宇宙に行けと、そう言うことなのか…!?)
コン太に強烈な衝撃が走った。
実はコン太は無類のSF、アメコミ好きであった。はっきり言ってオタク、である。
密かな夢の一つに「宇宙旅行」を描いていたが、まさかここでチャンスが巡ってくるとは。
コン太(こんな夢みたいなことが現実に!うほほ!ほ、本当に来てよかった!!!ヒャッホーウ!!!
い、いや待て待て!冷静に考えろ。
どう考えても、宇宙産の物質を手に入れろとは馬鹿げてる…。どんな意図があるか分からないし、喜ぶのはまだ早いってことだ…。
だけど、一方でさっきのジャングルはなんだ?そして、あの空間に浮かぶドアみたいな穴はなんだ?
こんな体験をした後じゃ、宇宙が舞台ということもあながち絵空事とも言い切れない…!
でも、宇宙に行くんだとしたら、どうやって?
まず移動は?あのドアみたいな穴は宇宙まで繋がるのか?太陽系外の物質って言ってたけど、その物質が採取される場所に酸素はあるのか?気温は?重力は?
今まで観てきた映画を思い出せ。資料の数々を紐解け!!!彼らはどんな装備で宇宙空間に出ていたか。
必要な装備は組織から受験者に貸与されるものなのか。
万一、装備を自前で用意するとなると…ああ。考えることが大量だ。あらゆる方向から準備を進めていかないと置いかれるぞ…考えろ、考えろ、…ん?)
ふとコン太が隣のクロロを見ると、懐から何かを取り出していた。
おにぎりだった。
クロロ「ん?どうした?お前も腹が減ったのか。いや~これから宇宙に行くってことなんだろ。しっかり腹に入れといたほうがいいぜ。なんだ?食い物も持ってないのか、半分食うか?」
ズイっとおにぎりを顔の前に差し出してきた。
コン太「…お、おまえ~!宇宙をナメとんのかー!!!」
口から火を吹くような勢いで叫ぶ!
モーリー「これこれ、その辺にしてください。ちなみに、今回の舞台はあくまで地球です。宇宙には行きません。おにぎりも好きなだけどうぞ」
コン太(がーん!う、宇宙には行かない…!ぬ、ぬか喜びだったか…!)
モーリー「宇宙旅行を期待されていたら申し訳ないのですが、しかし、近しい舞台であることは間違いないですよ。宇宙には行かないと言いましたが、正しく言うと、地球であって地球でない場所だからです」
コン太「ち、地球であって地球でない場所…?」
モーリー「そうです。大使館で例えると分かりやすいでしょうか。大使館もその敷地は不可侵でしょう。
地球上にも、各惑星の窓口であり、地球人は原則侵入不可の領域があります。
それが、宇宙人のコミュニティエリアです!」
モーリーが腕を広げる。
コン太「そ、そそ、そんな場所があるなんて…!」
モーリー「ふふ。世は多様性の時代。地球外の方だって受け入れ始めているんですよ。もちろん秘密裏にですけどね」
モーリーが指を立てて、受験者を見渡す。
「次の試験は、コミュニティ・エリアが舞台となります!
地球上にコミュニティ・エリアは複数ありますが、試験会場はその中でも数多の惑星の貿易拠点ともなっている、いわゆる港のようなエリアです。場所はアーリ国。凄まじい人種が行き交う、賑やかなエリアですよ」
コン太に再び衝撃が訪れる!
コン太(う、宇宙人たちの貿易拠点?港?す、すごい!こいつは想像以上だぞ!!!)
クロロ「コン太、オレ、モーリーの言っている意味がマジで全くわからんのだが…」
コン太「まあ、おまえはそうだよな。宇宙だと言われて、懐からおにぎりを取り出すようなやつだ。おまえ、『スター戦争』とか『エリイアン』『20001年宇宙の旅』とか観たことあるか?あん?ないだろ?絶対!
宇宙人のコミュニティ・エリアか…。
きっと、近未来的でメタリックな素材に、曲線を中心とした有機的なフォルムで形作られたドック。
UFOをはじめとした多種多様な宇宙船。停泊するスペースシップ。
最新鋭の宇宙技術が使用された3Dビジョンや、空飛ぶ移動モビール。反重力装置が使用された動く通路とかもあるかもしれない…。そこでビジネス交渉をする各惑星の重鎮たち…。
CGでしか見たことが無い、夢の世界だ!ああ、すごいぞ!想像が止まらない!」
クロロ「おお、そうか!なんか余計に分からんくなったけど、うまい飯もあるといいな!」
コン太「このおにぎり野郎!」
モーリー「ふふふ。コン太さんもお詳しいようですが、今回の会場は少しイメージが異なるかもしれません」
モーリーは徐に古びたデジタル音楽プレーヤーを取り出した。
一次試験のときと同様、スクロールホイールやボタンを操作しながら再生位置を探し始める。
モーリー「では、準備はよろしいですか?」
プレーヤーを操作する手が止まった。ドアの方からカチャっと鍵の外れる音が響く。
キキイ…とドアが開いた。
コン太「おお!…ん?ええっ!?な、なんだここは???」
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