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太陽と月の出会い
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「この犬畜生が‼」
「獣の分際で」
腹に蹴りをくらい息が詰まった。
よろめき地面に倒れると追い打ちをかけ背中に痛みが走る。
「汚らしい! 近づくじゃねーよ」
だったら放っておいてくれ。
近づくなといいながら寄ってたかっていたぶりまわしているのはどこのどいつだ。
大勢の容赦ない蹴りが体にくい込む。最初は数えていた暴力の数も二十を超えたあたりからわからなくなった。
だけどお前たちの顔は忘れない。地に這いつくばり、泥にまみれ耐えた屈辱は体に刻まれている。
覚えていろ。大人になったらお前らなんて一人残らず噛み殺してやる。
獣人は人間よりも遥かに身体能力が優れている。とはいえ、まだ成長段階の体は大人数人を相手にすると手も足も出ないどころか逃げることすらままならない。
食って掛かかりたかったが、腹を蹴られた反動で掠れたうめき声が出ただけだった。
その声を苦痛ととらえたのだろう。一人の男が満足そうに髪を鷲掴む。
まだ幼く軽い体は軽々と宙に浮いた。
「気味悪い目ェしやがって。毒虫と同じ色だ」
男と目線が揃うと、男は吐き捨てた。
「ああ、だけどまだ毒虫の方が蜜をつくるぶんましってもんだ」
下卑た笑いを浮かべる男はウジ虫にどことなく似ている。
こいつは馬鹿か。
蜂のことをいっているのなら黄色と黒の縞模様だ。長年気味悪がられてきた黄色い瞳も、さすがに縞模様ではない。
抵抗したいが、好き勝手に殴られた体はいうことをきかない。手足も尻尾もだらりと力なく垂れ下がったままピクリとも動かなかった。
悔しまぎれに男の顔に唾を吐きかける。血液が混ざった唾液は僅かに赤く、男の頬を汚した。
「このクソ餓鬼ゃっ!!」
体に駆け抜けた衝撃で地面に投げ捨てられたのだとわかった。
刃の擦れる音とともに男が腰に携えていた剣が抜かれる。
「殺してやる」
男は相当血がのぼっているのか、顔は熟れたトマトのようだ。口汚く罵っているが、もはやその意味を理解する余裕はなかった。
野次たちも男を煽る。人々の目に宿るものは憎悪と恐怖だ。
今より遥か昔、獣人の数が多かった頃は人間が殺されていたと聞く。
人間から忌み嫌われている獣人なんて殺された方がいい。ここにいる誰もがそう思っている。
振り上げられた剣が、曇天の合間を縫って降り注ぐ僅かな光を反射し不気味に光る。
逃げないと殺される。
だけど、そんな力はどこにも残されていなかった。
記憶にある限り親も身寄りもない。誰かの助けなど期待するだけ無駄だった。
生きること諦めたその時、甲高い声が喚声を割った。
「やめなさい!!!」
「獣の分際で」
腹に蹴りをくらい息が詰まった。
よろめき地面に倒れると追い打ちをかけ背中に痛みが走る。
「汚らしい! 近づくじゃねーよ」
だったら放っておいてくれ。
近づくなといいながら寄ってたかっていたぶりまわしているのはどこのどいつだ。
大勢の容赦ない蹴りが体にくい込む。最初は数えていた暴力の数も二十を超えたあたりからわからなくなった。
だけどお前たちの顔は忘れない。地に這いつくばり、泥にまみれ耐えた屈辱は体に刻まれている。
覚えていろ。大人になったらお前らなんて一人残らず噛み殺してやる。
獣人は人間よりも遥かに身体能力が優れている。とはいえ、まだ成長段階の体は大人数人を相手にすると手も足も出ないどころか逃げることすらままならない。
食って掛かかりたかったが、腹を蹴られた反動で掠れたうめき声が出ただけだった。
その声を苦痛ととらえたのだろう。一人の男が満足そうに髪を鷲掴む。
まだ幼く軽い体は軽々と宙に浮いた。
「気味悪い目ェしやがって。毒虫と同じ色だ」
男と目線が揃うと、男は吐き捨てた。
「ああ、だけどまだ毒虫の方が蜜をつくるぶんましってもんだ」
下卑た笑いを浮かべる男はウジ虫にどことなく似ている。
こいつは馬鹿か。
蜂のことをいっているのなら黄色と黒の縞模様だ。長年気味悪がられてきた黄色い瞳も、さすがに縞模様ではない。
抵抗したいが、好き勝手に殴られた体はいうことをきかない。手足も尻尾もだらりと力なく垂れ下がったままピクリとも動かなかった。
悔しまぎれに男の顔に唾を吐きかける。血液が混ざった唾液は僅かに赤く、男の頬を汚した。
「このクソ餓鬼ゃっ!!」
体に駆け抜けた衝撃で地面に投げ捨てられたのだとわかった。
刃の擦れる音とともに男が腰に携えていた剣が抜かれる。
「殺してやる」
男は相当血がのぼっているのか、顔は熟れたトマトのようだ。口汚く罵っているが、もはやその意味を理解する余裕はなかった。
野次たちも男を煽る。人々の目に宿るものは憎悪と恐怖だ。
今より遥か昔、獣人の数が多かった頃は人間が殺されていたと聞く。
人間から忌み嫌われている獣人なんて殺された方がいい。ここにいる誰もがそう思っている。
振り上げられた剣が、曇天の合間を縫って降り注ぐ僅かな光を反射し不気味に光る。
逃げないと殺される。
だけど、そんな力はどこにも残されていなかった。
記憶にある限り親も身寄りもない。誰かの助けなど期待するだけ無駄だった。
生きること諦めたその時、甲高い声が喚声を割った。
「やめなさい!!!」
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