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第11話・生徒会お悩み相談室②

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だって、これってもしかしなくともあれじゃないか?
この感じからして、斎藤先輩はその幼馴染みの事が実は好きでパターン。
そうだとすれば、俺は春が来たと思った途端に失恋したことになるんだが。
一日も持たなかったとか、いくら恋愛運が壊滅的に最悪な物でも流石に酷いよな。

なんて思いながらも、聞けずにいたのは肯定されてしまったら失恋確定になってしまうから。
いや、仕方ないと言えば仕方ないんだけれど。
どうにもいたたまれない気持ちになってしまうと、なかなか聞けずにいた俺の様子を察してか、律樹は軽くため息をつくと、先輩に向かって問いかけた。

「斎藤先輩は、その相手の事が好きなんですか?その、恋愛的な意味で」

律樹の言葉に先輩は一瞬きょとりとした表情を見せた後、慌てて首を大きく横に振って言ってきた。

「え、あ、違う違う!そういうんじゃないんだよ!確かに大事は大事だけれど、家族と言うか弟みたいな意味での大事で大切ではあるけれど。恋愛的な意味ではないな。何度か恋人作って一緒にいる所を見掛けても微笑ましい気持ちにはなったし応援したいとは思ったけれど辛くもなかったし」

そう言った先輩の言葉と様子が、偽っているように見えなかった事から、本当に恋愛的な意味ではないのだろうと分かって、俺は内心ほっと息をついた。
良かった。最短失恋記録更新せずに済んだと。

「恋愛的な好きではないけれど、大事な幼馴染みで弟で親友だったから、彼には幸せになって貰いたいって思ってた。ううん、今でも思ってはいるんだけれど、今の僕にはそう思う資格もないのかもしれないな」

それだけ言うと、先輩は一度言葉を止めてまた寂しげな笑顔を浮かべた。

「僕が、彼を裏切ってしまったから」
「裏切った?」
「うん…。ずっと信頼してくれていた彼の思いを裏切るような真似を僕はしてしまったんだ。……そうするしかなかったし、そうした事を後悔はしていなかった筈なんだよね。きっとこうして溝が出来て距離を取られてしまう事も分かっていたから。覚悟は決めていた筈なのに、いざそうなったらやっぱりとても辛くなってしまったとか、自分勝手だな。僕」

自嘲気味に笑いながら寂しげにそう告げる先輩の姿を見て、俺は大きく目を見開く。
先輩のその姿が、誰かを彷彿とさせてしまったから。


『陽斗……御免な。…裏切って、御免…』


俺を見て、悲しげに泣き笑いを浮かべた『誰か』を――。


「それで、辛さに耐えられなくなって衝動的に馬鹿な事を考えてしまったのが、この間の事だったんだ。平気だと思っていたのにね。本当に弱いな、僕は」


『弱かったんだ…。俺が弱かったから……御免…御免な…』


違う。そうじゃない。
お前は悪くない、お前は何も悪くなかったんだ。
悪いのは、そこまで悩ませていて気づけなかった俺だったんだから。
だから、お前が謝る必要なんて、ないんだ。


「――――」


小さく。
本当に小さく俺の口から零れた、『誰か』の名前は隣に座っていた律樹の耳には届いてしまったようで、大きく息を飲み動きが止まる気配を感じ取る。
けれど、それに構う事なく俺はゆっくりと口を開いていた。

「斎藤先輩」
「うん?」
「本当にそう思うなら、やっぱり命を絶とうと思ったりしては駄目ですよ。…先輩の大切な幼馴染みが先輩がどんな思いでいて、どんなに辛かったのか、何も気づけないままに先輩を失って。後から先輩の本心を知った時、どれほど悩み、悲しみ、苦しみ、後悔する事か。何もできなかった何も気づけなかった無力な自分を憎んで心を閉ざしてしまうかもしれない」
「赤城君……」
「陽斗………」

俺の言葉に先輩は大きく目を見開き、律樹は悲しげに目を伏せる。
俺の言葉によって、その場に流れた重く悲しげな空気を吹き消す様に声をあげたのは、俺自身だった。

「だから、もう一度話をしてみましょう!先輩!」
「え?」
「何をどうして裏切ったのかは分からないし、深くは聞きませんが。先輩も先輩の大切な幼馴染みもちゃんとこうして生きている。話をすることだって出来るんだから、今は仲違いしていても何度も諦めずに話をしていれば分かり合えることだって出来る筈ですから!」
「でも……」
「大丈夫。俺達も協力しますから。先輩は弱いんじゃない。優しいだけなんだ。きっと先輩の幼馴染にだってそれは分かっている筈だから、今はいろんな誤解があって心を閉ざしているかもしれないけれどいつかは分かってくれますよ!」

そう言って、強く応援する俺は、何故、俺がこんなに先輩のことが気になってしまうのか。
勿論、先輩に好意は感じているのは本当だけれど。
それを踏まえてもお節介なほどに力になろうと思えとしまう理由が、分かったから。
分かってしまったから。
きっと、先輩の姿に『誰か』の面影を重ねてしまっているのだと分かってしまったから。
分かってしまったら、どうしたって放って置くことなど出来ずにいる俺の思いは、きっと律樹には伝わっていたのだろう。
何かいいだげな視線を向けながらも、何も言えずに結局また静かに悲しげに目を伏せてしまった姿に気が付いていたけれど、あえて気づかない振りをする事しか今の俺には出来なかった。
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