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第3話・事件は突然に➁

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「な……なんで…こんなところに…!」
「あー…あはは、どうも。生徒会長の赤城です」

戸惑いながら告げてくる男子生徒を刺激しないように、俺は緩く笑みを浮かべて言葉を放つ。
もうこうなったら取りあえず落ち着かせるしか方法がない。
ある程度落ち着いたら隙をついて腕を掴んでしまおうと。

「せ、生徒会長…?そうか、今年は一年生が…」
「そう。その一年生会長です」
「それで…その会長が何故こんなところに…」
「それは勿論、先輩を助けるためにですよ」

こうして近づいて、生徒が二年生である事がタイの色で確認出来たため告げる。

「助けるって…そんなの僕は頼んでないだろ!放っておいてくれ…!僕なんてこのまま死んでしまった方がいいんだ!その方が僕だって楽になれるんだから!もう、辛い思いをしなくてもよくなって、僕は…!」
「確かに。死んだら辛いのはなくなるでしょうね」
「そうだよ!だから…!」
「でも、なくなるのはそれだけじゃないだろ」
「え…?」
「確かに死んだら辛いのはなくなる。けれどな、それと同時にこれから得られるはずだった嬉しい事、楽しい事、幸せだなって思う事も全部なくなるんだよ。あんたはそれで良いのか?」
「っ……!それは…、でも、僕にそんな幸せなんて…」
「来ないって何故言い切れる?未来を読む事が出来るなら別だが、出来ないのに来るか来ないかなんて分からないだろ。死ぬのは簡単だ。でも簡単だからこそ、安易に選んでいい事じゃないんだよ」
「…っ…」
「あんたが死んで悲しむ人はいないのか?あんたを生んでここまで育ててくれた両親や、一緒に過ごしてきた兄弟はいないのか?仲のいい友人や共に過ごしたクラスメート達が、本当に誰も悲しまないと思うのか?」

静かに淡々と語りかける様に言葉を投げかける。
とは言ってもこれは賭けに近かったけれど。
男子生徒の境遇が、本当に俺が言うような幸せも感じられないものであれば、俺の言葉はただの恵まれているからこそ言える言葉だと捉えられてしまい逆効果になるだけだ。
けれど、先程からの反応を伺っている限り、まだ迷っているようにも見える事から、彼自身心底絶望してしまっているわけではないように見えたから。
どうやら、俺の賭けは勝ったようで、俺の言葉に先輩は再び目を見開いて息を飲みこんだ。
見開かれた瞳は戸惑いに揺れているのが感じ取れたから、ゆっくりと開いている方の手を差し伸べて言葉を続ける。

「辛い事があっても一人で抱え込まなくていい。誰かに話したって、頼ったっていいんだ。人は1人で生きている訳じゃない。1人で生きているつもりでいても気づかないうちにどこかで誰かに支えられているんだ。弱い生き物だからな」
「でも…っ」
「もし、身近にいるものに、身近にいるからこそ迷惑かけたくない、話せないっていうなら、全然知らない奴に話してみるのもいいんじゃないのか?知らないからこそ話せるっていう事もあるだろうし。例えば俺達生徒会員とかにな」
「君達に…?」
「ああ、俺は生徒会って言うのは生徒の力になるために存在していると思っているからな。まあ、うちのメンバーは揃って変わり者が多いが、それでも弱って助けを求めてくる相手を突き放すような奴は1人としていないし、聞き上手な奴もいる。生徒会室の扉はいつだって開けてあるから」
「あ…僕は…」
「勿論俺達じゃなくても誰でもいい。大丈夫。きっと先輩が思っている以上に先輩の力になってくれる人はいるから。今だってこうして心配して止めようとしてくれている生徒達だっているんだしな。だから、俺と一緒に皆のところへ戻ろう」

手を差し伸べたまま、穏やかに微笑んでそう告げて、先輩の反応を待つ。
その頃には、頼んでいた生徒が呼びに行ってくれていたのであろう教師陣と、駆け付けてくれたんだろう律樹達ももう既に屋上にいて、東校舎の下には大勢の生徒達が心配そうにこちらを見上げて様子を見守る姿も見られる。
とりあえず俺に飛び降り願望があったわけではないと言う事は理解してくれたのであろう律樹達も黙って事の成り行きを見守ってくれていた。
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