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第175章 迷子伝説
歌は世につれ、世は歌につれ
しおりを挟む※※※転載文です※※※
「夢は夜ひらく」の原曲は東京少年鑑別所で歌われていた俗謡です。
その俗謡を様々な作詞家・作曲家が書き直しています。
いずれにせよ少年鑑別所という暗い出自がこの曲の理解に重要なポイントとなっているのです。
● 園まりによる「夢は夜ひらく」
ただし園まりによる「夢は夜ひらく」は藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」とはまったく趣が異なります。
歌い出しを読んでみてください。
雨が降るから 逢えないの
来ないあなたは 野暮な人
ぬれてみたいわ 二人なら
夢は夜ひらく
出典: 夢は夜ひらく/作詞:中村泰士 富田清吾 作曲:曽根幸明
大人の愛を歌ったラブソング調であります。
藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」とは決め台詞の「夢は夜ひらく」の意味までまったく違ってきそうです。
園まりによる「夢は夜ひらく」には人生全体に及ぶ宿命的な暗さというものがありません。
片想いのつらさを嘆いてはいますが、藤圭子のように人生すべてを嘆くものではないのです。
人生すべて汲み尽くして暗さを嘆いてみせた藤圭子と石坂まさをの「圭子の夢は夜ひらく」。
こちらの方が後世まで愛されている点に注目しましょう。
「圭子の夢は夜ひらく」の続きを見ていきますね。
十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
非常に重いラインです。
つらい日々も夢の中では救われる
思春期にあたる青春時代が暗い想い出ばかり。
女性として非常につらい日々を経てきたのだと思わざるをえません。
それでも夜の夢の中だけでなら救われることがある。
人間存在の根本原理まで迫ろうとするチカラがこの曲に宿っています。
類まれなる作詞家と歌手がタッグを組む
恐ろしさまで感じさせる石坂まさをによるシリアスな作詞です。
情念を淡々としっかり歌い重ねる藤圭子の迫力にたじろぎます。
作詞家も歌手も他に類例を見ないような個性でした。
そのタッグによる相乗効果はすさまじいものがあります。
恋多き女の心境を歌い上げます。
そこには恋の喜びよりも、落ち着かない恋愛に対するため息をつくような想いが歌われるのです。
ひとりの人と密な関係でいられる充足感が私の人生にはまったくないのだと。
哀しい恋愛でしか男性と関係を築けない女性の寂しさが浮き彫りになります。
儚い夢の中でしか充足できない愛の姿です。
●未成年・藤圭子が歌う夜の街
夜咲くネオンは 嘘の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
藤圭子の生年月日は1951年7月5日、「圭子の夢は夜ひらく」の発売は1970年4月25日です。
この歌詞を歌った時点で藤圭子はまだ成人にはなっていません。
未成年でありながら夜の街の虚飾や、アルコールの嗜みなどについて歌いきった力量がすごいです。
●アイドルとしての藤圭子
藤圭子は可憐な風貌でアイドルとしての資質も多分に持ち合わせた歌手でした。
そのアイドル歌手がこんなラインを歌いきったのも時代や実力など複合的な背景があったのだと感じ入ります。
前を見るよな がらじゃない
うしろ向くよな がらじゃない
よそみしてたら 泣きをみた
夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
しっかりとした人生なんてとても送れないような私の実情が描かれたラインです。
それでも他人の挫折を我が事のように受け止められる社会的な下地がこの時代にはあったのでしょう。
このラインが愛されます。
●他者の不幸に寄り添えるチカラ
愛されたのはダメダメな私の人生でした。
そこに我が身を重ねるような人々の支持で大ヒットを記録します。
いまの時代には失われている感覚のような気がしてどこか寂しい想いもします。
共感するチカラの後退のようなもの。
もう一度社会に呼び起こしたいチカラです。
どこか捨て鉢な人生観ですが、それでも夢の中だけでなら救いはあると繰り返し歌われます。
一から十まで バカでした
バカにゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく 夢は夜ひらく
出典: 圭子の夢は夜ひらく/作詞:石坂まさを 作曲:曽根幸明
荒んだ人間関係であっても忘れがたい愛すべき存在はいたのだと歌います。
この歌にも愛や希望があったのだと想い安心しました。
どこか憎めない人々への追憶に泣かされます。
僅か一行のサビに込められた想い
元が俗謡ですからこの曲のサビは僅か一言です。
暗い生涯でも夢の中でなら人生を救い出すことができるのだと終始歌い続けたこの曲。
僅かながらも勇気ややすらぎを得た人々に支持されました。
ミリオン・セラーの大ヒット曲になった背景
オリコン・シングル・チャート、10週連続1位を記録する大ヒットでミリオン・セラーになります。
70年安保闘争が敗北に終わり、全国で火がついていた学園闘争にも影が見え始めた季節のこと。
青春の挫折をひしひしと感じざるをえない日々にこの歌がリリースされます。
また高度成長期とはいえ、その成長から取り残されたり、ふるい落とされたりした人々もいたはずです。
リリース直後から立ちどころに火がついてのミリオン・セラー。
時代背景に非常にマッチした歌でした。
●共感力の復権を願う
何よりも他者の不幸に共感できるチカラが社会全体にまだあった時代でもあります。
今でもこころに暗い影や傷を負った多くの人々がこの曲を愛して続けているのも当然でしょう。
挫折した経験や傷つきやすい感性を持った人々に夢の中での救いを歌うこの曲は福音です。
藤圭子という稀代の歌い手と、石坂まさをの壮絶な人生観がこの歌を特別なものにしています。
ぜひ後世に遺していきたい名曲なのです。
そしていま一度社会に他者の挫折や不幸への共感のチカラと優しい眼差しを取り戻していきたいと思わされます。
●藤圭子の別れの旅
非常に残念なことではありますが、藤圭子は2013年8月22日に逝去しました。
東京都新宿区のマンションから飛び降り自殺をして自らこの世を去ります。
それは不幸な人生を謡う自身の歌に取り憑かれたような最期です。
●村上春樹が出会った若き日の藤圭子
作家・村上春樹はエッセイ「村上朝日堂」の中で新人だった頃の藤圭子に会ったときの印象を書き残しています。
アルバイト先のレコード店に藤圭子が自身のレコードの売れ行きを尋ねてきたのです。
そこでは非常に気さくで丁寧な姿勢の若き日の藤圭子の姿が書かれています。
そしてこのようにいい人すぎる彼女には大スターの身であることがつらかったのではと村上春樹は述懐しました。
●藤圭子の悲劇に寄り添う
藤圭子の死の真相については明らかにされていません。
また遺族以外にそのことを知る権利は誰にもないように思われます。
それでも他者の悲劇や不幸に寄り添ってみる必要はあるかもしれません。
藤圭子が投身自殺した翌日には、彼女に先立って逝った作詞家・石坂まさをを偲ぶ会が開かれています。
いったい何たる運命の導きでしょうか?
●まとめ:儚い夢がもたらす福音の歌
「圭子の夢は夜ひらく」、その宿命的な暗さに裏打ちされた人生の不思議に想いを馳せます。
どんなに暗く悲惨な人生であっても儚い夢の中で人は救済されるという福音を大切にして生きてゆきたいです。
歌手・藤圭子と作詞家・石坂まさをの恐ろしいまでの気迫をいまこそ聴き遂げましょう。
● OTOKAKEに遺る関連記事
藤圭子は忘れがたい歌だけでなく、もっと大きな光を私たちに遺してくれました。
娘の宇多田ヒカルです。
宇多田ヒカルが母・藤圭子への想いを書いたとされる歌詞について深く掘り下げています。
ぜひ記事にアクセスしてみてください。
【宇多田ヒカル/嵐の女神】歌詞解釈!母への複雑な想いが込められて…最後のフレーズが意味するものとは? - 音楽メディア
OTOKAKE(オトカケ)
2010年リリースの宇多田ヒカルの「嵐の女神」は、母への「ありがとう」の気持ちを込めて作られた曲として知られています。その歌詞には母に対する複雑な想いも込められているとか!?涙を誘う歌詞には感動の嵐が巻き起こります!
※※※転載終わります※※※
原曲は東京少年鑑別所で歌われていた俗謡だった。
それは、時代と共に変化する。
変わりゆく歌い手さんと共に、人々の心に寄り添う曲になる。
歌詞も様々に変化していく。
そんなふうに「夢は夜ひらく」は、
語り継がれていったんですね。
それにしても、
未成年が、お酒やネオン街の歌を歌い、
歌詞には、栽培が禁止された、赤い芥子…
今の世の中では考えられないです。
今だったら、「青少年保護育成条例」からクレームが入ること間違いなしです。
この世の価値観なんて、所詮、人為で作られたものだから、
何が間違いで、何が間違ってないか?
その線引きが難しいですよね。
さしずめ
「歌は世につれ、世は歌につれ」
でしょうか?
例えば、戦時中は、
軍歌ばっかりでしたもんね。
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