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第162章 次世代にとって、何が大切か?
四国電力の社員さん、たった一人から始まった「クリスマスオレンジ」を広める取り組み
しおりを挟む愛媛県で広がる「クリスマスオレンジ」仕掛け人・森隆さんに聞く、地域を巻き込むムーブメントのつくり方 | greenz.jp グリーンズ
https://greenz.jp/2015/07/06/xmas_orange/
※ 画像省略 全て転載文
みなさんは「クリスマスオレンジ」というカナダの風習をご存知ですか?
カナダではクリスマスの日に、大切な人にみかんを贈るのが定番となっているのですが、実はこのとき贈られるのが日本の「温州みかん」なのです!
寒さの厳しいカナダでは、昔から冬場に食べる果物がありませんでした。しかし、19世紀に日本からカナダに移住した人々が「温州みかん」を取り寄せるように。そして、そのおいしさが評判となり、クリスマスに贈られる“聖なる果実”として、カナダ中に広がっていったそう。
このように、海の向こうで贈り物として愛されている「温州みかん」ですが、近年日本の生産者たちは人手不足や消費減少などの課題に直面しています。そこで2011年に愛媛県で始まったのが、日本でも「クリスマスオレンジ」を広めていくプロジェクト。現在では、県内各所にさまざま形で波及しています。
あくまで“文化をつくる”という視点を大事にしながら、Iターンなどの移住促進も視野に入れているこの取り組みは、将来、温州みかんの消費拡大や価格上昇、新規就農者増加などを通じて、八幡浜市、ひいては愛媛県全体を活性化する可能性を秘めているように思います。
そこで、今回は仕掛人である森隆さんに、活動を続ける上で大切にしていることについてお話を伺いました。
森隆(もり・たかし)
1960年4月12日、愛媛県大洲市生まれ。四国電力株式会社に勤務。2011年5月より同社「古民家再生プロジェクト」に携わる。2011年5月より「クリスマスオレンジ」を広めるプロジェクトを開始。
森さんは愛媛県の出身。農業との関わりは一切ありませんでしたが、2005年に勤務先の新居浜市から、地元の大洲市に4年ぶりに戻ってきたとき、地場産業の現状に危機感を抱いたそうです。
地元を離れていたのは数年間ですが、新居浜市と比べても、南予地方の産業、特にみかん栽培を中心とした第一次産業の衰退を強く感じました。
このあたりは以前、みかんや魚で外貨を稼いで“御殿”を建てる人がいたり、商店街にも多くの店がひしめき合って、活気に満ち溢れていたんです。その頃の南予地方の姿をなんとか取り戻したいと思ったのですが、具体的な方法が思いつかず、悶々としていました。
そんな中、地元の歴史博物館の学芸員の方から「クリスマスオレンジ」のことを耳にした森さん。すでにある「温州みかん」という産業に新しい冠を付すことで、ブランド価値を高めることができるのではないかと考え、すぐに行動に移します。
まず行ったのは「クリスマスオレンジ」そのものを知ってもらうための広報活動。プロジェクトに共感してくれた地元のデザイン会社にロゴ制作を依頼し、自らはフェイスブックページを開設して情報発信を行いました。
その1週間後、たまたまそのページを目にした宇和島市の方から、「クリスマスオレンジをテーマにしたラッピングコンテストをやりたい」という相談が舞い込んできます。
森さんは、このタイミングを逃すまいと、日本で初めて「クリスマスオレンジ」を銘打った「ラッピングコンテスト」の開催を提案。地元産品を集めたマルシェ、“みかんツリー”の点灯式なども行われ、多くの人で賑わいました。
すると、今度は八幡浜市役所の方から「ペットボトルにみかんを入れる」という斬新な商品パッケージの提案があり、制作に協力することに。
ちょうどいいサイズのペットボトルが見つからず苦労したそうですが、市役所の方と協力してなんとか探し当て、ペットボトルに入った「温州みかん」が、イベントなどにお目見えしました。お客さんの反応も上々で、「気軽な贈り物に使えるね」とお褒めの言葉もいただいたと言います。
みかんはいつものみかんです。でも、そこに別のプレミア感をつけることができれば、これまで以上の価格で販売することができる。“クリスマスオレンジ”は、そのストーリーをつくる新たな切り口になると確信しました。
とはいえ、「うまくいくことばかりでもなかった」と話す森さん。これまでになかった奇抜な提案だっただけに、生産者に思いが伝わらず、怒らせてしまうこともあったのだとか。
それでも、森さんは、共感してくれた大学生に働きかけ、松山市の中心商店街で開催される「大街道マルシェ」に出店。広く一般の方向けに「クリスマスオレンジ」のPRを行うなど、根気よく活動を継続しました。
プロジェクトに共感した地元の大学生がサンタクロースに扮し、子どもがいる家庭に温州みかんを贈る「オレンジサンタプロジェクト」を開始するなど、その輪が広がっていくうちに、若者世代や子育て世代への知名度が上がり、徐々に批判の声もなくなっていきました。
産官民の協働によって広がる「クリスマスオレンジ」の輪
そして2013年、プロジェクトが大きく飛躍する出来事が起きます。「クリスマスオレンジの聖地として八幡浜をPRしよう」と、住民による実行委員会が立ちあがったのです。
これまでは、我々のチームが単独でさまざまな組織に働きかけを行い、それぞれが独自に取り組みを行っていました。
しかし今回は、地元のNPOや柑橘販売会社、市役所職員などで実行委員会を結成し、イベントだけではなく商品開発やプロモーションなどを行っていくことになったんです。その協力体制ができたのは、今後を考えるととても大きなことです。
また、これまでの取り組みが評価され、森さんは愛媛県南予地方局八幡浜支局が主導する「愛顔(えがお)のみかんプロジェクト」の「まるごと・みかんフェスタ」にも、実行委員として参加依頼を受けます。
具体的には「クリスマスオレンジ」の考えを広める立場から、イベントの各プログラムに対するアドバイスを行ったり、ハート型みかんの制作や、巨大みかんオブジェの制作実現に向けた実務サポートもさせていただきました。
ハート型みかんは、クリスマスに贈るプレゼントとしての商品価値を高めることを目的に、愛媛県の方の提案により、同実行委員会と地元の農家さんの連携で実現。型枠や木箱の製作は、地元の木工所に依頼しました。きれいなハート型にするのが難しく、試行錯誤の連続だったそう。
最近では、地元「JAにしうわ」の通販サイト「みかんの里」で、“みかんツリーキット”の販売が始まったり、イオングループの店頭でも「クリスマスオレンジ」という切り口で、温州みかんの販売がスタート。
たった一人から始まった「クリスマスオレンジ」を広める取り組みは、森さんの想像を超えて、愛媛県内各所だけでなく、徳島県や和歌山県にも広がっています。
古民家再生プロジェクトの中で見えてきた気づき
「クリスマスオレンジ」を通じて、さまざまな地域活性に取り組む森さん。その活動の原点は、仕事を通じた人々との出会いの中から生まれた、ある気づきにありました。
4年ぶりに地元に戻ってきて、「地域を元気にしたい」と考えていたとき、ある“古民家”が目に留まったのです。それが旧庄屋「末廣邸」でした。
私は若い頃から、どちらかと言うと“新しもの好き”なのですが、不思議とこの古民家の美しい佇まいに心を打たれ、蘇らせたいと思ったんです。
当時の森さんの仕事は“電化住宅の促進”。その業務を兼ねていれば、古民家再生に取り組めるかもしれないと森さんは考えます。ただ、10年前は今よりも古いものに対する目が向けられていない時代。恐る恐る上司に思いを伝えたところ、予想外に「やってみよう」という返事が返ってきたそうです。
こうして、古民家再生プロジェクトが正式に始動し、古民家再生に理解のあった末廣氏が家屋と調度品を購入し、地元工務店の協力を得ながら、「末広邸」は見事に再生されました。完成後の見学会には、老若男女800人が駆けつけ、プロジェクトの成果と意義を感じたそうです。
その後も南予地方を中心に数々の古民家を再生し、地域に貢献している実感を持ちながらも、最終的に森さんが気付いたのは、「移住者の受け皿をつくるだけでなく、その地域で働ける場所をつくる必要がある」ということでした。
古い建物を再生しても、そこに住む人がいないと、地元は盛り上がりません。地域産業を元気にしたいと考えるようになっていたときに、ちょうど「クリスマスオレンジ」と出会ったんです。
とはいえ、僕は「クリスマスオレンジ」というコトを伝え、取り組みのきっかけをつくっただけ。実行しているのは、それぞれの組織や人です。あえて商標を取ったり、使用権を管理したりしていないのは、広がりを阻害したくないから。
この広がりが“風習”になり、“文化”になっていくことを僕は目指しています。
ふるさとの変化に気づき、「どうにかしたい」というひとりの声で、一気に広まったオレンジプロジェクト。森さんのように自ら行動するのはなかなか難しいものですが、ちょっとだけ勇気を出して、“気づき”を共有することからはじめてみませんか?
きっとそれが、ムーブメントの入り口となるはずです。
(Text: 浜田 規史)
濵田 規史
ライター / NPO法人代表
愛媛県八幡浜市生まれ。山口大学卒。 複数の仕事(事業)をこなす、パラレルワーカー・NPOブロガー。人とまちの“魅える化”が得意で、主に地域活性・NPOの中間支援をやっています。2018年1月、学び場・働く場・交流の場がひとつになった拠点「コダテル」を開設。高校時代にお店を開店したことで地元が大好きになりました。 オフィシャルブログ運営、 「NPO法人八幡浜元気プロジェクト」の代表、「KITONARU」編集長などを務めています。
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