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第99章 人間ダ・ヴィンチ
Vol.06 万能人の自己PR術──レオナルド・ダ・ヴィンチの場合| ※無料で拝読出来る範囲で 3
しおりを挟む君主国ミラノを統治していたスフォルツァ家は、古い由緒をもたない新興貴族。実際のところ、スフォルツァという名前はルドヴィコの祖父の代までしかさかのぼれず、しかもスフォルツァ家の記念すべき祖となった彼は、農夫出身の兵士でした。そんなわけでミラノは、伝統や法による統治というより、強力な軍事力によって支配されていました。
軍事に権力基盤を置くルドヴィコ・スフォルツァにとって、新しい軍事技術は喉から手が出るほど欲しいはず。逆に、ミラノとしてはそのような強力な技術が近隣他国に流れるとマズいだろう。レオナルドはそう考え、ありとあらゆる軍事技術、それも「一般に知られていないようなすばらしく効果的な武器」を提供できる人物として、自らをプレゼンしたのでしょう。
就活では相手企業の事前リサーチが重要なように、レオナルドもまた雇用主のニーズを見極めて、ピンポイントでそこに自分を売り込もうと画策したのです。
ところで、手紙の内容からは、あたかもレオナルドが軍事関係の研究に勤しみ、その道の達人となったかのように思われます。しかし、本当にそうなのでしょうか。
ちょうど同じ頃、レオナルドは自分がフィレンツェで制作したさまざまな作品を列挙したメモを書いています。ミラノにもっていく絵画や素描などの作品をリストアップしたもので、いわばレオナルドのポートフォリオです。
そこに含まれる作品は、たとえば聖母像、聖ヒエロニムス像、友人の肖像、花のデッサンといった絵が中心で、技術に関するものといえば、航海の道具、給水のための機械、窯の三点のみ。いずれも軍事用というよりは民間用のものです。
つまり、レオナルドが軍事技術者として自らをプレゼンしたとき、彼は軍事に関わるものを作ったことがほとんどありませんでした。要は、ハッタリ!
いくらミラノのニーズに合わせたとはいえ、いままでまったく経験のないものを自らの強みとして提示するとは、なかなか大胆です。なんとしてもミラノで第二の人生を歩み出したいというレオナルドの必死さが透けて見えるようです。
さて、レオナルドの履歴書に、ミラノのルドヴィコ・スフォルツァはどのように反応したのでしょうか。
驚きの結末が待っていました。
残り: 1286文字 / 全文 : 4217文字
※ 転載終わり
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