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七月十八日(水) アサバスカ氷河、コロンビア氷原
七月十九日(木) イーグル川
カムループス湖
七月二十日(金) イングリッシュ・ベイ・ビーチ
七月二十一日(土) ヘイスティングスの PNE遊園地
七月二十二日(日) ライオンズ・ゲート橋の袂
七月二十三日(月) ビクトリア、ライム・ベイ・パーク
七月二十四日(火) コモックス湖畔
キャンベル・リバー湖畔
ロック・ベイ
七月二十五日(水) クレイクォットプラトー州立公園東側の川辺
ロング・ビーチ
晴れ渡っていた。
昨日までと違って、その夜は月が出るだろう。
寄り道した甲斐があった。
その日、隆史がロング・ビーチの砂浜に到着したのは、午後二時を回った頃だった。
二〇年前と全く変わらない原始的な砂浜が広がっていた。
隆史はその日、ビーチに野営するつもりでいたので、すぐにテントを張った。
その後で浜辺を歩いてみた。
運がいいのか悪いのか、隆史以外にはひとけはなかった。
海岸にただ一つある大岩のあたりに、遺灰を撒いた。
そして、短パンとTシャツに着替え、ビーチの真ん中に寝転んだ。
気温は意外に高く、そうして寝転ぶにはちょうどいい気候だった。
しばらく空を眺めているうちに、まるで無人島に打ち上げられたような気分になった。
全くそのつもりは無かったのだが、隆史はすぐに心地よい眠りに落ちた。
そして、また、あの少年の夢を見た。
少年は、レイダー・ヒルの展望デッキから、海を眺めていた。
いつものように背を向けていたが、何故か隆史には、少年が微笑んでいるのが分かった。
声もかけずに、隆史と少年は、月が照らす海原に見とれていた。
しばらくして、隆史は海とは反対側の空を振り返り、仰ぎ見た。
少年も隆史に倣うように、振り向いた。
「ここの星はやっぱり、すごいわ」
隆史がそう言うと、少年はそのことには同意せずに、意外なことを口にした。
「ありがとうね、パパ」
感謝されるような父親ではない、と隆史は言おうとしたが声にならなかった。
声が出なかったのだった。
金縛りにかかったようだ。
しかし、不思議と苦しさはなかった。
それどころか、隆史は、自分が得体のしれない幸福感に満たされていることに気付いた。
隆史の目には、無意識に涙が湧いては溢れ、とめどなく頬を伝っていった。
掛ける言葉は見つからず、ようやく体を動かして、隆史は海の方を向き直った。
少年の姿はすでに無くなっていた。
目を覚ますと、隆史は、沈む夕陽に照らされていた。
隆史は、起き上がるとテントに戻った。
トレーナーとジーンズに着替えた。
原生林を抜け、車にたどり着くと、隆史はすぐに車を走らせた。
レイダー・ヒルまでは遠く無いはずだった。
隆史は、車を走らせながら、夢のことを考えていた。
違和感がある。
鳥肌が立つ。
隆史の疑念はもはや確信に近くなっていた。
戸田が言ったことを頭で繰り返した。
震災で亡くなった洋子の子。
それが、もう一つの点だった。
レイダー・ヒルの駐車場に着いた。
車を降りたが、隆史の目には景色は入ってこなかった。
頭がジンジンしていた。
全ての点は繋がりそうだった。
しかし、それを隆史の心が拒絶していた。
七月十九日(木) イーグル川
カムループス湖
七月二十日(金) イングリッシュ・ベイ・ビーチ
七月二十一日(土) ヘイスティングスの PNE遊園地
七月二十二日(日) ライオンズ・ゲート橋の袂
七月二十三日(月) ビクトリア、ライム・ベイ・パーク
七月二十四日(火) コモックス湖畔
キャンベル・リバー湖畔
ロック・ベイ
七月二十五日(水) クレイクォットプラトー州立公園東側の川辺
ロング・ビーチ
晴れ渡っていた。
昨日までと違って、その夜は月が出るだろう。
寄り道した甲斐があった。
その日、隆史がロング・ビーチの砂浜に到着したのは、午後二時を回った頃だった。
二〇年前と全く変わらない原始的な砂浜が広がっていた。
隆史はその日、ビーチに野営するつもりでいたので、すぐにテントを張った。
その後で浜辺を歩いてみた。
運がいいのか悪いのか、隆史以外にはひとけはなかった。
海岸にただ一つある大岩のあたりに、遺灰を撒いた。
そして、短パンとTシャツに着替え、ビーチの真ん中に寝転んだ。
気温は意外に高く、そうして寝転ぶにはちょうどいい気候だった。
しばらく空を眺めているうちに、まるで無人島に打ち上げられたような気分になった。
全くそのつもりは無かったのだが、隆史はすぐに心地よい眠りに落ちた。
そして、また、あの少年の夢を見た。
少年は、レイダー・ヒルの展望デッキから、海を眺めていた。
いつものように背を向けていたが、何故か隆史には、少年が微笑んでいるのが分かった。
声もかけずに、隆史と少年は、月が照らす海原に見とれていた。
しばらくして、隆史は海とは反対側の空を振り返り、仰ぎ見た。
少年も隆史に倣うように、振り向いた。
「ここの星はやっぱり、すごいわ」
隆史がそう言うと、少年はそのことには同意せずに、意外なことを口にした。
「ありがとうね、パパ」
感謝されるような父親ではない、と隆史は言おうとしたが声にならなかった。
声が出なかったのだった。
金縛りにかかったようだ。
しかし、不思議と苦しさはなかった。
それどころか、隆史は、自分が得体のしれない幸福感に満たされていることに気付いた。
隆史の目には、無意識に涙が湧いては溢れ、とめどなく頬を伝っていった。
掛ける言葉は見つからず、ようやく体を動かして、隆史は海の方を向き直った。
少年の姿はすでに無くなっていた。
目を覚ますと、隆史は、沈む夕陽に照らされていた。
隆史は、起き上がるとテントに戻った。
トレーナーとジーンズに着替えた。
原生林を抜け、車にたどり着くと、隆史はすぐに車を走らせた。
レイダー・ヒルまでは遠く無いはずだった。
隆史は、車を走らせながら、夢のことを考えていた。
違和感がある。
鳥肌が立つ。
隆史の疑念はもはや確信に近くなっていた。
戸田が言ったことを頭で繰り返した。
震災で亡くなった洋子の子。
それが、もう一つの点だった。
レイダー・ヒルの駐車場に着いた。
車を降りたが、隆史の目には景色は入ってこなかった。
頭がジンジンしていた。
全ての点は繋がりそうだった。
しかし、それを隆史の心が拒絶していた。
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