瞽女(ごぜ)、じょんがら物語

 日本では、特に昭和の時代には、「悲劇のヒーロー、ヒロイン」が好まれた。
 しかし、「瞽女」を語る時、必ずしもそれは正しい文脈ではない。
 明治時代まで、盲人は珍しい存在ではなかった。医学が未発達で、栄養・衛生環境が悪かったからだ。
 明治天皇が越後行幸の際に、沿道に盲人が多いことを嘆いて、研究資金を提供したほどである。
 特に、小作人など貧しい家庭に生れた視覚障害者は、生きるすべが無かった。
 「口減らし」にあうしかなかった。その中にあって、比較的裕福な家の子供が、瞽女の修行に出された。修行のためには、いわゆる今で言う「入学金・授業料」が必要だから、小作の家では難しい。
 一方、男子の視覚障害児はどうか。
 明治以前、当道座(とうどうざ)という、男性盲人のための自治的互助組織が存在した。 この組織に入座して、修行すれば、特権が手に入った。「検校(けんぎょう)」である。しかし、この組織とて、資金力がなければ入れなかった。
 明治になり、この当道座システムが廃止され、津軽では「坊様」という人たちが増えていった。
 坊様に、三味線と流行歌を伝授したのが、広域に活動した「瞽女」であったと云う。
 これまで、それらの瞽女を「はなれ瞽女」「はぐれ瞽女」と言ってきたが、必ずしもそうではないだろう。
 瞽女唄が元になったという「津軽じょんがら節」は、今や世界中で知られる。
 三味線が津軽三味線となった瞬間に、「伝統芸能」は「ガレージ音楽」になった。“ガレージ”三味線は、スパニッシュギターがそうであったように、やがて「芸術」の域へと高まっていった。
 そして、まもなく、オーケストラをバックに演奏される津軽三味線が当たり前になる時代が来ると、筆者は密かに期待している。
24h.ポイント 0pt
0
小説 192,645 位 / 192,645件 歴史・時代 2,390 位 / 2,390件

あなたにおすすめの小説

時代小説の愉しみ

相良武有
歴史・時代
 女渡世人、やさぐれ同心、錺簪師、お庭番に酌女・・・ 武士も町人も、不器用にしか生きられない男と女。男が呻吟し女が慟哭する・・・ 剣が舞い落花が散り・・・時代小説の愉しみ

虹ノ像

おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。 おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。 ふたりの大切なひとときのお話。 ◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。

泣いた鬼の子

ふくろう
歴史・時代
「人を斬るだけの道具になるな…」 幼い双子の兄弟は動乱の幕末へ。 自分達の運命に抗いながら必死に生きた兄弟のお話。

忠義の方法

春想亭 桜木春緒
歴史・時代
冬木丈次郎は二十歳。うらなりと評判の頼りないひよっこ与力。ある日、旗本の屋敷で娘が死んだが、屋敷のほうで理由も言わないから調べてくれという訴えがあった。短編。完結済。

豊玉宗匠の憂鬱

ももちよろづ
歴史・時代
1860年、暮れ。 後の新選組 副長、土方歳三は、 机の前で、と或る問題に直面していた――。 ※「小説家にな●うラジオ」ネタ有り、コメディー。

忍び零右衛門の誉れ

崎田毅駿
歴史・時代
言語学者のクラステフは、夜中に海軍の人間に呼び出されるという希有な体験をした。連れて来られたのは密航者などを収容する施設。商船の船底に潜んでいた異国人男性を取り調べようにも、言語がまったく通じないという。クラステフは知識を動員して、男とコミュニケーションを取ることに成功。その結果、男は日本という国から来た忍者だと分かった。

吉宗のさくら ~八代将軍へと至る道~

裏耕記
歴史・時代
破天荒な将軍 吉宗。民を導く将軍となれるのか ――― 将軍?捨て子? 貴公子として生まれ、捨て子として道に捨てられた。 その暮らしは長く続かない。兄の不審死。 呼び戻された吉宗は陰謀に巻き込まれ将軍位争いの旗頭に担ぎ上げられていく。 次第に明らかになる不審死の謎。 運命に導かれるようになりあがる吉宗。 将軍となった吉宗が隅田川にさくらを植えたのはなぜだろうか。 ※※ 暴れん坊将軍として有名な徳川吉宗。 低迷していた徳川幕府に再び力を持たせた。 民の味方とも呼ばれ人気を博した将軍でもある。 徳川家の序列でいくと、徳川宗家、尾張家、紀州家と三番目の家柄で四男坊。 本来ならば将軍どころか実家の家督も継げないはずの人生。 数奇な運命に付きまとわれ将軍になってしまった吉宗は何を思う。 本人の意思とはかけ離れた人生、権力の頂点に立つのは幸運か不運なのか…… 突拍子もない政策や独創的な人事制度。かの有名なお庭番衆も彼が作った役職だ。 そして御三家を模倣した御三卿を作る。 決して旧来の物を破壊するだけではなかった。その効用を充分理解して変化させるのだ。 彼は前例主義に凝り固まった重臣や役人たちを相手取り、旧来の慣習を打ち破った。 そして独自の政策や改革を断行した。 いきなり有能な人間にはなれない。彼は失敗も多く完全無欠ではなかったのは歴史が証明している。 破天荒でありながら有能な将軍である徳川吉宗が、どうしてそのような将軍になったのか。 おそらく将軍に至るまでの若き日々の経験が彼を育てたのだろう。 その辺りを深堀して、将軍になる前の半生にスポットを当てたのがこの作品です。 本作品は、第9回歴史・時代小説大賞の参加作です。 投票やお気に入り追加をして頂けますと幸いです。

東洲斎写楽の懊悩

橋本洋一
歴史・時代
時は寛政五年。長崎奉行に呼ばれ出島までやってきた江戸の版元、蔦屋重三郎は囚われの身の異国人、シャーロック・カーライルと出会う。奉行からシャーロックを江戸で世話をするように脅されて、渋々従う重三郎。その道中、シャーロックは非凡な絵の才能を明らかにしていく。そして江戸の手前、箱根の関所で詮議を受けることになった彼ら。シャーロックの名を訊ねられ、咄嗟に出たのは『写楽』という名だった――江戸を熱狂した写楽の絵。描かれた理由とは? そして金髪碧眼の写楽が江戸にやってきた目的とは?