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散髪を終えて真一が部屋に戻ると、晶子は何やら携帯電話で話していた。
真一は窓際のソファに腰掛けると、窓の外を見降ろしながら、彼女の話にそれとなく耳を傾けた。
店の設計の話をしているのが分かった。
街はようやく傾いてきた夏の太陽光線で、オレンジ色に染まり始めていた。
それでも外は、まだ気温は三十度を超え、湿度もかなり高いはずだった。
それに比べるとホテル内は別世界だった。
「真一さん、来週ね、お店の建築業者の方とお打ち合わせをしたいの」「ご都合がよろしくない日はございますかしら」
予定など、あるはずもなかった。
「いや、いつでも」
「先方様から、ご連絡がありますのでね、決まりましたら、同席してください」
部屋がノックされ、ルームサービスが料理を運んできた。
「ありがとう」「そうね、白ワインを追加でいただくわ」「真一さんはお飲み物のご希望はありますかしら」
「あ、僕も、白ワインをいただきます」
食事の間、晶子は、メモしておいたことを一つ一つ真一に質問した。
晶子の質問は、真空ガラスというのは、どれくらいの遮音効果があるのか、や、映画はどのようなラインナップを考えているか、料理についてはモデルになる店を知っているか、などについてだった。
「ワインについては、わたくしの知人で、すばらしいソムリエの方がいらっしゃるので、その方にお願いできますわ」
「できれば、日本ではあまり知られていないけれど、お勧めのワインのようなものを紹介してもらえるといいんだけど」
真一が注文を付けた。
「価格帯は、どう致しましょうか」
「幅広く、リーズナブルなものから高級なものまである方がいいのと、肝心なのは週替わりのセレクトにして、ワインリストを置かないこと」「レストランでもビストロでもなく、バーだから、その都度、料理に合うものを用意しておけば十分だし、注文しやすいと思うんだ」
晶子は、納得という感じで頷いた。
「全部、グラスで提供できるアイデアはよろしいと思いますわ」
二人の会話は、やがて映画や音楽の話になり、徐々に仕事から離れていった。
晶子は、ワインが好きらしく、結局二人で三本のワインを開けた。
「真一さん、ごめんなさい」「わたくし、もう運転ができませんの」「車を呼んでもらいますので、そちらでお帰りいただくか、明日でよろしければ、わたくしがお送り致しますが、どうなさいますか」
「ああ、もうこんな時間かあ」
午後十一時を回っていた。
正直、真一はこの後に及んで、一時間以上もタクシーで移動する気力がなかった。
「明日になさってくださる」「よろしいでしょ」
真一は、泊っていくことに決めた。
「そうと決まったら、もう少し飲みましょう」
「ええ、まだ飲むの」
「あら、駄目かしら、真一さんは、もうお飲みにならないのでしたら、お風呂になさったら」「いま、お湯を溜めますわ」
晶子は、ルームサービスに追加のワインを頼み、それからバスルームへ入って行った。
バスタブに横になりながら、真一は、最近のめまぐるしい生活の変化を改めて想い返した。
つい一カ月前までは、正直、生きることすら困難な状況にあった真一だった。
「真一さん、お湯加減はいかがですか」
「ああ、ちょうどいいよ」
「ごめんなさい、真一さん」「やはり、わたくしも、シャワーをいただいてよろしいかしら」
シャワールームは、バスタブがある部屋の奥にあり、扉があるものの、ガラスの扉なので中が通して見えるようになっていた。
「ちょっと待って」
真一は、急いで、シャワールームが見えないように、体の向きを反対にした。
「よろしいかしら」
白いバスタオルを巻いて、晶子はバスルームに入ってきて、そのまま、小走りにシャワールームに入った。
真一は、目をつむり、聞くともなくシャワールームの水の音を聞きながら、バスタブに浸かっていた。
十分ほどが経ち、晶子はシャワールームを出ると、バスタブの縁に腰かけた。頭にはバスタオルがターバンのように巻きつけられている。
「ご一緒してもよろしいかしら」
真一は、返事をする代わりに、体を起こし、背中の方にスペースを作った。
「ありがとう、真一さん」
静かに言うその晶子の言葉に、真一は我に返った。簡単に彼女の要求に応えてしまったことを後悔した。
「とても大切なことを一つ、真一さんにお伝えしておかないといけませんの」
晶子は、唐突に深刻な声で話し始めた。
「わたくし、すごく希少な病気の持ち主なの」「どういう病かは、またおいおいお話することにしても、時々、前触れもなく気を失うことがあるかもしれませんの」「その時は、どちらにも連絡をなさらないでよろしいので、わたくしをこの部屋に残して帰ってくださらない」
即答するには、理解が追いつかない真一だった。
「こんなお話を急にされたら、戸惑われますね」「ごめんなさい」
「いや、大丈夫」
しばらく沈黙があった。
彼女の脚が、真一の腰に触れていて、それは妙に冷たかった。
そのことで背中合わせとばかり思っていた真一は、そうでは無いことが分かった。
「真一さん、お身体を洗って差し上げるわ」
そういうと、彼女は立ちあがってと、洗面台のアメニティを物色した。
「あまり、いいものはないですわ」「あ、真一さん、そろそろこちらを向いてくださる」
真一は言われたとおりにした。
晶子は立ったまま、琥珀色の入れ物を持って中の液体をバスタブに注いだ。
「真一さん、お湯を勢いよく出してくださらない」
お湯の勢いで泡はよく立ち、バスタブは間も無く泡で満たされていった。
必然的に晶子の姿が目に入った。
着痩せするのだ、と思っていた。
小柄だが、均整のとれた体だった。
胸や腰はかなり豊満でもあった。
「そんなに見ないでくださらない」「まずは背中から洗いましょう」
真一はまた晶子に背を向ける形で座った。
晶子は掌を使って、首筋から下へ下へと洗っていった。
腰まで洗ったところで、彼女は、仰向けに寝てください、と言った。
真一が仰向けになると、晶子は、真一に一旦またがった。
「どうしましょうかね」
しばらく考えてから、晶子は、真一に覆いかぶさるようにして洗い始めた。
「重くないかしら」「真一さん、お疲れですね、いろんなところが凝ってらっしゃるわ」
彼女の肌は、真一の体に密着しながら移動していった。
真一は、意識をして、感覚が過剰に反応しないように、自分の頭に命令してみた。
しかし、やはりそれは無駄な努力だった。
真一のペニスは間も無く硬直し始めた。
彼女はそれに気づかない素振りで、その部分になるべく触れないように洗っているようだった。
マッサージを兼ねて晶子が洗うので、真一の身体は全体的に熱を持ち、解され、そして癒されていった。
足の指のそれぞれの間に、晶子が手の指を差し込んだ時だった。
「痛ててて」
真一は激痛に声をあげた。
「あらまあ、真一さん、内臓もお疲れのようねえ」「急にやり過ぎますと、身体に毒ですわ、また、今度やって差し上げるわ」「髪の毛とお顔は、ご自分で洗って下さい」
晶子はそういうと、再度、シャワールームに入り、泡を流し、バスルームを出た。
ドアを閉める直前に晶子は真一に声をかけた。
「ベッドでお待ちしていて、よろしいかしら」
真一は窓際のソファに腰掛けると、窓の外を見降ろしながら、彼女の話にそれとなく耳を傾けた。
店の設計の話をしているのが分かった。
街はようやく傾いてきた夏の太陽光線で、オレンジ色に染まり始めていた。
それでも外は、まだ気温は三十度を超え、湿度もかなり高いはずだった。
それに比べるとホテル内は別世界だった。
「真一さん、来週ね、お店の建築業者の方とお打ち合わせをしたいの」「ご都合がよろしくない日はございますかしら」
予定など、あるはずもなかった。
「いや、いつでも」
「先方様から、ご連絡がありますのでね、決まりましたら、同席してください」
部屋がノックされ、ルームサービスが料理を運んできた。
「ありがとう」「そうね、白ワインを追加でいただくわ」「真一さんはお飲み物のご希望はありますかしら」
「あ、僕も、白ワインをいただきます」
食事の間、晶子は、メモしておいたことを一つ一つ真一に質問した。
晶子の質問は、真空ガラスというのは、どれくらいの遮音効果があるのか、や、映画はどのようなラインナップを考えているか、料理についてはモデルになる店を知っているか、などについてだった。
「ワインについては、わたくしの知人で、すばらしいソムリエの方がいらっしゃるので、その方にお願いできますわ」
「できれば、日本ではあまり知られていないけれど、お勧めのワインのようなものを紹介してもらえるといいんだけど」
真一が注文を付けた。
「価格帯は、どう致しましょうか」
「幅広く、リーズナブルなものから高級なものまである方がいいのと、肝心なのは週替わりのセレクトにして、ワインリストを置かないこと」「レストランでもビストロでもなく、バーだから、その都度、料理に合うものを用意しておけば十分だし、注文しやすいと思うんだ」
晶子は、納得という感じで頷いた。
「全部、グラスで提供できるアイデアはよろしいと思いますわ」
二人の会話は、やがて映画や音楽の話になり、徐々に仕事から離れていった。
晶子は、ワインが好きらしく、結局二人で三本のワインを開けた。
「真一さん、ごめんなさい」「わたくし、もう運転ができませんの」「車を呼んでもらいますので、そちらでお帰りいただくか、明日でよろしければ、わたくしがお送り致しますが、どうなさいますか」
「ああ、もうこんな時間かあ」
午後十一時を回っていた。
正直、真一はこの後に及んで、一時間以上もタクシーで移動する気力がなかった。
「明日になさってくださる」「よろしいでしょ」
真一は、泊っていくことに決めた。
「そうと決まったら、もう少し飲みましょう」
「ええ、まだ飲むの」
「あら、駄目かしら、真一さんは、もうお飲みにならないのでしたら、お風呂になさったら」「いま、お湯を溜めますわ」
晶子は、ルームサービスに追加のワインを頼み、それからバスルームへ入って行った。
バスタブに横になりながら、真一は、最近のめまぐるしい生活の変化を改めて想い返した。
つい一カ月前までは、正直、生きることすら困難な状況にあった真一だった。
「真一さん、お湯加減はいかがですか」
「ああ、ちょうどいいよ」
「ごめんなさい、真一さん」「やはり、わたくしも、シャワーをいただいてよろしいかしら」
シャワールームは、バスタブがある部屋の奥にあり、扉があるものの、ガラスの扉なので中が通して見えるようになっていた。
「ちょっと待って」
真一は、急いで、シャワールームが見えないように、体の向きを反対にした。
「よろしいかしら」
白いバスタオルを巻いて、晶子はバスルームに入ってきて、そのまま、小走りにシャワールームに入った。
真一は、目をつむり、聞くともなくシャワールームの水の音を聞きながら、バスタブに浸かっていた。
十分ほどが経ち、晶子はシャワールームを出ると、バスタブの縁に腰かけた。頭にはバスタオルがターバンのように巻きつけられている。
「ご一緒してもよろしいかしら」
真一は、返事をする代わりに、体を起こし、背中の方にスペースを作った。
「ありがとう、真一さん」
静かに言うその晶子の言葉に、真一は我に返った。簡単に彼女の要求に応えてしまったことを後悔した。
「とても大切なことを一つ、真一さんにお伝えしておかないといけませんの」
晶子は、唐突に深刻な声で話し始めた。
「わたくし、すごく希少な病気の持ち主なの」「どういう病かは、またおいおいお話することにしても、時々、前触れもなく気を失うことがあるかもしれませんの」「その時は、どちらにも連絡をなさらないでよろしいので、わたくしをこの部屋に残して帰ってくださらない」
即答するには、理解が追いつかない真一だった。
「こんなお話を急にされたら、戸惑われますね」「ごめんなさい」
「いや、大丈夫」
しばらく沈黙があった。
彼女の脚が、真一の腰に触れていて、それは妙に冷たかった。
そのことで背中合わせとばかり思っていた真一は、そうでは無いことが分かった。
「真一さん、お身体を洗って差し上げるわ」
そういうと、彼女は立ちあがってと、洗面台のアメニティを物色した。
「あまり、いいものはないですわ」「あ、真一さん、そろそろこちらを向いてくださる」
真一は言われたとおりにした。
晶子は立ったまま、琥珀色の入れ物を持って中の液体をバスタブに注いだ。
「真一さん、お湯を勢いよく出してくださらない」
お湯の勢いで泡はよく立ち、バスタブは間も無く泡で満たされていった。
必然的に晶子の姿が目に入った。
着痩せするのだ、と思っていた。
小柄だが、均整のとれた体だった。
胸や腰はかなり豊満でもあった。
「そんなに見ないでくださらない」「まずは背中から洗いましょう」
真一はまた晶子に背を向ける形で座った。
晶子は掌を使って、首筋から下へ下へと洗っていった。
腰まで洗ったところで、彼女は、仰向けに寝てください、と言った。
真一が仰向けになると、晶子は、真一に一旦またがった。
「どうしましょうかね」
しばらく考えてから、晶子は、真一に覆いかぶさるようにして洗い始めた。
「重くないかしら」「真一さん、お疲れですね、いろんなところが凝ってらっしゃるわ」
彼女の肌は、真一の体に密着しながら移動していった。
真一は、意識をして、感覚が過剰に反応しないように、自分の頭に命令してみた。
しかし、やはりそれは無駄な努力だった。
真一のペニスは間も無く硬直し始めた。
彼女はそれに気づかない素振りで、その部分になるべく触れないように洗っているようだった。
マッサージを兼ねて晶子が洗うので、真一の身体は全体的に熱を持ち、解され、そして癒されていった。
足の指のそれぞれの間に、晶子が手の指を差し込んだ時だった。
「痛ててて」
真一は激痛に声をあげた。
「あらまあ、真一さん、内臓もお疲れのようねえ」「急にやり過ぎますと、身体に毒ですわ、また、今度やって差し上げるわ」「髪の毛とお顔は、ご自分で洗って下さい」
晶子はそういうと、再度、シャワールームに入り、泡を流し、バスルームを出た。
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