上 下
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12(完)

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 守は前回の教訓から、初め小さく合せた。
 魚は一旦、猛スピードで滝を下流側に走ると、再び滝壺に向かって左に走った。
 今回の守は俊敏に動いた。
 滝の方に素早く移動して、滝の中に足を入れた。不必要な道糸のテンションをなるべく和らげるためだ。
 それでも、そいつはぐいぐいと引っ張り、今度は右に走り、滝壺の一番深いところに潜った。
 そんなやりとりが何分か続いた。守には、そのやり取りが一時間にも感じられた。
 獲物は、滝の右の深みに潜ったまま動かなくなった。
 守は、竿を少し畳み、短くした。
 そして、一呼吸置くと、竿もろとも倒木の方に一気に下がった。
 魚影はくねりながら、水面近くに浮かんできて、浅瀬を引きずられ、河原の石の上に引っ張り上げられた。
 それでも胴体をばたつかせて暴れる魚を、守はしゃがんで両腿で挟むように押さえつけた。
 息が上がっていた。守はそのままの状態で、魚を見下ろしながら、息を整えた。
 獲物は、五十センチを優に超える巨大岩魚だった。
 守が初めて目にするサイズの岩魚だった。
 そのあたりの岩魚にしては、斑点が薄く、白っぽい肌をしていた。
 それは、確かにヒトミの肌の色と同じ、艶めかしい薄い緑色をたたえていた。
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