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昔は、笠踊りをする子供たちの数が違った。
リハーサルを兼ねた前夜祭を合せると、相当の距離を踊り歩いたものだった。
それは市内全域と郡部も一部含まれたので、本当に、二日間で足の裏は肉刺だらけになった。
守も、小学校の低学年から踊り子として毎年祭りに参加した。
慢性化した過疎と少子化で、踊子のグループ自体が激減し、踊りながら歩く道のりも、今ではメインストリートのほんの一部になった。
昔でいうところの「トリ」の部分しか行進しなくなったわけだ。
最盛期、このメインストリートからテレビ中継が行われたことを守は思い出していた。
メインストリートの屋台の数も激減した。守の感覚値で、最盛期の五分の一、あるいはそれ以下だった。
守は、諏訪神社の参道になっている通りを出て、左に折れ、メインストリートを市の中心の方に歩いて行った。
人通りもまばらで、歩くのに全くストレスがなかった。
屋台の種類も、同じようなものの繰り返しで、バリエーションが少なくなったように感じた。
国道との交差点を過ぎても、守はメインストリートを歩き続けた。
同級生の家族などに出くわしたら厄介だとは思ったが、その可能性も低いと思えるほどに、人通りは少なかった。
しばらくして守は、かつて老舗の書店があった路地を右に入った。
守の母が勤めていた病院へ行く時の近道となっていた路地だった。理由もなく、懐かしさのあまりついつい曲がってしまっただけだった。
道はしばらく行くと左にカーブして、昔は和菓子店があった角を通り過ぎて、さらに細くなった。
やがて、道は突き当たり、かつて病院があった通りに出た。
守は、病院とは反対に左に折れ、メインストリートに戻るルートを歩き始めてから、ふと思い出した。
そこからメインストリートに戻る手前の左側に、鈴木ヒトミの実家があるはずだった。
鈴木ヒトミの実家の前で、守はふと立ち止まった。
車二台分は入る駐車スペースには、婦人用の自転車が一台停まっているだけだった。
コンクリートの駐車スペースは、打ち水をしたばかりなのか、濡れていて、涼しさを演出していた。
玄関は開け放たれ、網戸が立てられていた。
中から、青白い光が漏れているのは、どうやら仏壇の盆ぼんぼりのようだった。
玄関の奥から、人影が歩いてきたので、守は、また歩き始めた。
守がメインストリートに出る前に、その自転車は追いついた。
「守くんでねえが」
守が振り向くと、いつか蕎麦屋で会った父の釣り仲間の男が自転車に乗って守に近づいてきた。どうやら、鈴木ヒトミの家から出てきたのは、その男らしかった。
男は自転車を降りて、守と並んで歩いた。
「守くん、お参りに来たんでねが」
守が、何の話か分からない素振りで男を見返すと、男は言った。
「ヒトミちゃん、亡ぐなったんだぜ」
守は、聞いてはいけないことをついに聞いてしまったことに、体が硬直して、その場に立ち尽くしてしまっていた。
男は構わず、後を続けたが、もはや守の耳は音を受け付けていなかった。
「この間、守くんど、蕎麦屋であったべ」「あの日がら二日後だど」
リハーサルを兼ねた前夜祭を合せると、相当の距離を踊り歩いたものだった。
それは市内全域と郡部も一部含まれたので、本当に、二日間で足の裏は肉刺だらけになった。
守も、小学校の低学年から踊り子として毎年祭りに参加した。
慢性化した過疎と少子化で、踊子のグループ自体が激減し、踊りながら歩く道のりも、今ではメインストリートのほんの一部になった。
昔でいうところの「トリ」の部分しか行進しなくなったわけだ。
最盛期、このメインストリートからテレビ中継が行われたことを守は思い出していた。
メインストリートの屋台の数も激減した。守の感覚値で、最盛期の五分の一、あるいはそれ以下だった。
守は、諏訪神社の参道になっている通りを出て、左に折れ、メインストリートを市の中心の方に歩いて行った。
人通りもまばらで、歩くのに全くストレスがなかった。
屋台の種類も、同じようなものの繰り返しで、バリエーションが少なくなったように感じた。
国道との交差点を過ぎても、守はメインストリートを歩き続けた。
同級生の家族などに出くわしたら厄介だとは思ったが、その可能性も低いと思えるほどに、人通りは少なかった。
しばらくして守は、かつて老舗の書店があった路地を右に入った。
守の母が勤めていた病院へ行く時の近道となっていた路地だった。理由もなく、懐かしさのあまりついつい曲がってしまっただけだった。
道はしばらく行くと左にカーブして、昔は和菓子店があった角を通り過ぎて、さらに細くなった。
やがて、道は突き当たり、かつて病院があった通りに出た。
守は、病院とは反対に左に折れ、メインストリートに戻るルートを歩き始めてから、ふと思い出した。
そこからメインストリートに戻る手前の左側に、鈴木ヒトミの実家があるはずだった。
鈴木ヒトミの実家の前で、守はふと立ち止まった。
車二台分は入る駐車スペースには、婦人用の自転車が一台停まっているだけだった。
コンクリートの駐車スペースは、打ち水をしたばかりなのか、濡れていて、涼しさを演出していた。
玄関は開け放たれ、網戸が立てられていた。
中から、青白い光が漏れているのは、どうやら仏壇の盆ぼんぼりのようだった。
玄関の奥から、人影が歩いてきたので、守は、また歩き始めた。
守がメインストリートに出る前に、その自転車は追いついた。
「守くんでねえが」
守が振り向くと、いつか蕎麦屋で会った父の釣り仲間の男が自転車に乗って守に近づいてきた。どうやら、鈴木ヒトミの家から出てきたのは、その男らしかった。
男は自転車を降りて、守と並んで歩いた。
「守くん、お参りに来たんでねが」
守が、何の話か分からない素振りで男を見返すと、男は言った。
「ヒトミちゃん、亡ぐなったんだぜ」
守は、聞いてはいけないことをついに聞いてしまったことに、体が硬直して、その場に立ち尽くしてしまっていた。
男は構わず、後を続けたが、もはや守の耳は音を受け付けていなかった。
「この間、守くんど、蕎麦屋であったべ」「あの日がら二日後だど」
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