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マハロブ市街戦

第二百九話 浮気裁判③

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 僕が負けたら即死の浮気裁判デスマッチが続く。それなのにララァは決定的な証言をすると言い始めたんだ。僕はかたずをのんで、彼女の言葉を見守るしかなかった。しかし、これから始まるのは本当に決定的な証言だった。

「あのご主人様と、クラリー姉さまの結ばれる素敵な日、そんな時間を私は放っておくことなどできませんでした。私は佑月様を姉さまの屋敷に案内した後、見張っておりました。

 すると窓からクラリー姉さまの部屋からおびただしいろうそくの火が灯されているではありませんか! 私はっきり見えました。あれはクラリー姉さまと佑月様です。

 白いドレスを着たクラリー姉さまと佑月様は仲良さげに、食事をとっておりました。不倫の花は情熱の花。赤々と燃えあがった、二人の恋の炎を止めるものはもうおりません、佑月様はクラリー姉さまを抱きしめました。

 なんとご主人様はクラリー姉さまの豊かな胸をもみしごきながら、ドレスの一部をはぎ、窓の前で、大人の行為を始めたのです。きゃ! お二人、見えてましてよ!

 しかし、彼らの情事は止まることなく、ひどく透明な窓にクラリー姉さまの乳首が丸見え、二人の獣のごとく交わり、夜の長い時間を楽しみ、そして二人は一つになったのです! きゃ!」

「ええええぇぇ──!?」

 裁判会場にみんなの声が響き渡る。ララァ以外、つまり僕も含めてだ! 嘘、まじか!? 全然記憶にないぞ! なんで覚えてないんだ! くっそお、あの美人のクラリーナと本当にヤったなら死刑でもいいけど、記憶にないなんて!?

 くっそお!! 何故だ、何故覚えてない! ヤったんだぞ、あのクラリーナと! しかも彼女、処女だろ! くそおおおおおおお、何たる失態か! せっかくヤれたのに! 思えば35年、今まで女とは無縁の日々を送っていた。

 捨てたかった童貞を、あのクラリーナで見事、昇天したのに、何故覚えてない! ぐはあ! 記憶を戻してくれるなら、今すぐでいい! 僕を殺してくれぇ──!!!

 ユリアは静かに僕に言った。

「罪を認めますか? 被告人」
「記憶を戻してくれるなら、認めます」

「はっ?」
「はっ?」
「はっ?──」

 女全員が僕の答えに毒づく。だが僕は男だはっきり言うぞ!

「ヤれたんなら、殺されても文句ない! でも記憶がないんだ! 頼むお願いだ! 記憶を返してくれ! お願いだぁ! せっかく童貞卒業したのに、しかも相手がクラリーナなのに、覚えてないとか……死んでも死にきれない……! 返してくれ! 僕の記憶を返してくれ! 頼むうぅ──!」

 僕の言葉にユリアはあきれた様子でエイミアの方を見る。

「どうします、これ?」
「どうしようね?」

 そしてユリアはレイラに尋ねた。

「ねえ、貴女、まだやる気? 貴方の弁護相手、もう半分罪認めているけど」
「えーと、そのー」

 レイラはあきれた様子で僕の方に向いた。

「あのー、ヤっちゃったんですか?」
「わからないんだ!」

「でも、エッチですよ? 気持ちよかったですよね、男の人は最初が特に」
「だから、記憶にないって」

「……ああ、裁判長。じゃあヤってないです。男が童貞卒業したときは、めっちゃ記憶に残りますから、その時の快感まで。みんな言ってましたよ、私が相手した人、みんな」

「はい?」

「いや、だから、ヤってないですって」
「はあ……」

 その言葉にエイミアはユリアにこそこそ尋ねた。

「ねえ男ってそうなの? 女の方は初めての相手覚えてないとかよく聞くけど」
「知りませんよ、私ヴァルキュリアですよ!」

「私だってヴァルキュリアよ、処女よ。ねえシェリー、貴女はどうだったの?」

 とつぜんのエイミアの質問にシェリーが戸惑った。

「知らねーよそんなこと! 何なんだよ、これは!」
「だって、ユリア」

「つまり、この中で、経験済みなのレイラだけ?」

 ユリアの質問にレイラは胸を張った。

「えっへん! ざっと、百人は超えてますね!」

 いや、冗談にできないほどのかわいそうな過去なんだけどなあ、レイラ。まあ、彼女はあまり自覚がないのだけど。彼女の自信満々な答えに、エイミアはハンマーを下ろした。

「審議再開」
「──待った!」

 今度はメリッサが待ったをかける。

「いやいやいや、本人認めているだろ! 私にこれ以上恥をかかせるつもりか! エイミア!? いいから佑月を殺せ!」

「だってさあ、ここまできたらさあ、最後まで聞きたいじゃない、エッチな話し」
「ですよね」

 ユリアの同意にメリッサ以外女性陣がうなずく。いや、そんなことどうでもいい、僕の記憶を戻してくれ! 頼むっうううぅ!

「あのご主人様と、クラリー姉さまの結ばれる素敵な日、そんな時間を私は放っておくことなどできませんでした。私は佑月様を姉さまの屋敷に案内した後、見張っておりました」

「待った!」

 すぐさまララァの証言にレイラは制止をかけた。

「見張っていた……? 何故です?」
「じゃあ、何故審議が続いてるんですか?」

「エロいから」
「エロいからです」

 エイミアとユリアは深々とうなずいた。

「そうじゃなくて、見張ってるって、何故見えたんですか、屋敷の外にいたんですよね、はっきり見えるものですか、夜なのに? ふつう見えないからあきらめるでしょう?」
「私の視力は. 3. 141592653589793238462643以下略です」

「問題ないわね」
「問題ないです、だから続行です」

 エイミアとユリアはうなずく。ララァの証言は続く。

「すると窓からクラリー姉さまの部屋からおびただしいろうそくの火が灯されているではありませんか! 私はっきり見えました。あれはクラリー姉さまと佑月様です」

「待った!」

「はっきり見えたんですか!」
「お姉さまの乳首の色まで」

「異議なし!」
「異議なし!」

 全員が親指を上げる。もちろん僕も含めてだ。

「なんで、佑月さんまで同意してるんですか!」
「見えたんだろ、仕方ないじゃないか」

 レイラのツッコミに僕は正直に話す。その言葉にあきれた様子でレイラは言った。

「私、弁護やめようかな……」

「良いですか私の証言続けますよ?」
「どうぞ、どうぞ、存分に」
「何だこの裁判は……!?」

 ララァの言葉に喜びながらエイミアが答えてメリッサがあきれた。こうなったら行くまで行くしかない! 続いて証言は続く。

「白いドレスを着たクラリー姉さまと佑月様は仲良さげに、食事をとっておりました。不倫の花は情熱の花、赤々と燃えあがった、二人の恋の炎を止めるものはもうおりません、佑月様はクラリー姉さまを抱きしめました」

「待った!」

 またもやレイラは待ったをかけた。

「本当に佑月さんはクラリーナさんを抱きしめたんですか? 見間違いとかそういうのではなく?」
「間違いありません、この目ではっきり見ました」

「見たんだから仕方ないじゃない! さ、次よ、次。次が面白いんだから」
「裁判長……、貴女何しに来たんですか……?」

 エイミアに今度はレイラがあきれてしまう。ララァの証言に何か引っかかった。

「白いドレス……?」
「どうしたんです? 佑月さん。何か思い出せましたか?」
「……いや、もうちょっとで、出そうなんだけど──」

「出したんだろうが! お前がよおぉ!!」
「シェリー、それは流石に18禁の台詞よ、少年少女が見ているからやめなさい」

「……すまない、ダイアナ。興奮しちまった」

 僕とレイラの会話にシェリーがツッコみ、ダイアナに制止される。これ、ちゃんと公開できるのかな……。

「皆さま盛り上がってますね、私も大満足です」

 と、当の本人のララァはにんまり、当事者の僕はしんなりだ。彼女の証言は続く。

「……ご主人様はクラリー姉さまの豊かな胸をもみしごきながら、ドレスの一部をはぎ、窓の前で、大人の行為を始めたのです。きゃ! お二人、見えてましてよ!」

「待った!」

「異議あり! ちょっと待ってください何で裁判長が待ったをかけるんですか!」
「エロいからです」

 エイミアの待ったに異議を申し立てるレイラだが、ユリアが納得したようなので、エイミアがララァをゆさぶる。

「想像するに、それバックなのね! いきなりバックなのね! 正面じゃないのね!」
「もちろんバックで、ズカンズカンです、ガスンガスン、ぶるんぶるんです」

「窓に手をついてるのよね、クラリーナは!」
「もちろんです、たわわなお乳が、窓ガラスにべっとりでぽよんぽよんです」

「異議あり!」

 エイミアとララァが盛り上がっていると、メリッサが異議を申し立てる。

「お前何しに来たんだよ! エイミア!!」
「……いやさあ、他人の浮気ってさあ、面白くない?」

「私は面白くない! これ以上エロい話を広げると、私が裁判長に法廷侮辱罪で死刑にするぞ!」

「ええ──、そんなあ、面白いのに……」
「面白いですのにねえ……」

 エイミアとユリアが首をかしげるが、メリッサは許さなかった。

「お前ら……! 他人事だと思って。後で覚えていろよ……!」

 どうやら場が落ち着いたようなので、ララァは話をつづけたようだ。

「……しかし、彼らの情事は止まることなく、ひどく透明な窓にクラリー姉さまの乳首が丸見え、二人の獣のごとく交わり、夜の長い時間を楽しみ、そして二人は一つになったのです! きゃ!」

「待った!」
「異議あり!」

「ええ、メリッサちゃん、ダメ?」
「駄目だエイミア! ふざけるのもいい加減にしろ!」

「聞きたくない? NTRを」
「そんな趣味ない!」

「……先っちょだけ」
「童貞のおねだりか! いいからやめろつってんだろ!」

「ええー、ここまで来て──?」
「最後まで聞こうよ、最後までさあ?」
「いいじゃん、どうせ死刑なんだから、全部聞いて清々しよう」
「最後まで……突っ切ろう?」

 エイミアが話しを広げようとするがメリッサが必死に止めて、周りがむしろはやし立てる。何しに来たんだコイツラ……。

 ん? 最後まで、最後まで……!

「あっ!」
「どうしました佑月さん?」

 僕の言葉にレイラが反応する。

「違う……」
「何がです?」

「ドレスの色だ、白じゃない、赤だ。クラリーナのドレスは赤だ。間違いない」
「え……赤……?」

「これ以上の審議は無用です、はい、佑月、お前死刑な」
「異議あり!」

 メリッサの言葉に、レイラが堂々と異議を申し立てた。

「やっと見つけました、決定的なムジュンを……」
「え、何、どこらへん? まさか今更ドレスの色がどうとかそういう話? 別にいいじゃん色ぐらい違っても」

 エイミアは驚いていたが、レイラは冷静だった。

「そうです、色です。これはある事実を物語っているのです。……そう、この証言が嘘であることを」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」

 エイミアとユリアとララァまでもが聞き返した。どういうことだ……。僕はヤったのか、ヤってないのか、どっちなんだ!?

 レイラは落ち着いてからくりを解き明かし始めた。

「ララァさん、さっきの証言に、『部屋からおびただしいろうそくの火が灯されている』そう言いましたね?」
「あ、はい、確かに見ましたよ、ろうそくがいっぱい灯されているのを。まさか私が見ていなかったと貴女は言うつもりですか、レイラさん?」

「──いえ、貴女はしっかりと見ていたんです。ろうそくが多すぎて白く光った、ガラス越しの窓の中を。そう、遠くからね……!」
「ひゃん!?」

 僕は事態が飲み込めなかった。

「ど、どういうことなんだ、レイラ?」
「佑月さんまで、ちょっと正気に戻ってください。簡単な話じゃないですか、大量のろうそくを灯されると、外からは白く光って、中が見えなくなるんですよ。特に夜はね。その窓の中、ララァさんが、佑月さんとクラリーナさんの出来事をわかるはずがないじゃないですか。

 それはもう、赤いドレスを白いドレスと勘違いするほどにね。

 ──つまりこの証言はララァさんが遠くで夜ひっそりのぞき見をしながら、中を想像した妄想話です!」

「きゃああああぁあ──!?」

 エイミアのハンマーがあらぶりだした。

「え? これ妄想!? 全部! 本当、ララァ?」

「えっと……私の視力は1.41421356237309504880……」
「下がってるじゃないですか!」

「きゃん!?」

 レイラのツッコミにララァが涙ぐむ。

「ご主人様……、レイラさんがいじめますう」
「いや、どっちかって言うと、いじめられているのは僕だ」

 ユリアはこの荒れた裁判状況に納得しながら告げた。

「やっぱりララァさんの証言は当てになりませんね」
「さっき完璧な証言とか言ってたくせに」

「人は間違えるものよ、レイラ?」
「私も8回ぐらい間違って死刑にしたけど、レイラ?」

「ユリア、エイミアさん……。私がまともに見える……」

 レイラがもうあきれ果てていた。レイラすごいじゃないか、実は頭が良かったのか、勉強が、特に算数が出来ないだけで。ようやく決断をしたエイミアはハンマーを大きく叩いた。

「この証人の証言は当てにできません、よってこの場では死刑かどうか決められません!」
「くっ⁉」

 ユリアは衝撃を受けていた。いや、自分でやったんだろ。ララァ呼んでさあ。よせばいいのに、初めからこうなることはわかっていたさ、ほ、ほんとうだよ……?

「ま、待ってください!」
「もういいわよ、ララァ、あんたの言うこと嘘ばっかじゃない」

「違います、今度は本当に見たんです!」
「あんた三回証言してるのよ、穴だらけの」

「だから、告げなきゃいけないことがあるんです」
「裁判長、どうします?」

「ああもう、最後だから言っちゃえ、はいはいじゃあ、ララァどうぞ」
「はい……!」

 そしてララァは最後の証言を始めた。

「私朝になるまで少し寝てたんです。言う通り中が見えなくて、退屈で……。そして、大きな音がしたので、私目が覚めました。

 佑月様は、馬車に乗ってました。横から見えたんです。そしてクラリー姉さまは佑月様に熱い口づけをしたんです! 別れのキスですよ。これぜったいヤってますよね?」

「えっ、それだけ……?」

 むしろララァの証言にエイミアが驚いたぐらいだ。

「キスぐらいするでしょ、ねえ? メリッサ」
「いや、それもう浮気だから」

「いいじゃんキスぐらい、私も佑月とキスしたい!」
「私もしたーい!」

 と、エイミアとレイラの言葉に続くものがいた。

「私も……!」

 その声はユリアだった。えっ……? なっ、ど、どういうこと?

「とりあえず佑月は死刑で」
「いやいや、メリッサ。裁判長は私だから」

「あのー私の証言は……」

 ほっとかれたララァは寂しそうにしているようで、かまってほしいんだろう。だがエイミアはめんどくさそうに言った。

「あーはいはい、どうでもいい。まあ、穴があるかどうかすらもわからないし、一応証言として残しておくね、参考程度に。わかったから帰りなさい」

 ララァは「ホントなのに……」とつぶやいて去った。その言葉にレイラは首をかしげる。

「クラリーナさんが佑月さんにキスをした……?」

 覚えてないよ、それさえも! 本当だったらいいのに! くそおおおぉ! 酒が憎い! 酒が!

 場が静まり返ったのを見てとり、ユリアは勝ち誇ったように宣言した。

「まあここまでは五分五分のようですね」
「まるでマシンガンが撃たれた壁みたいに穴だらけですが……」

「そういうことを言っていられるのも今のうちよ、レイラ、私はその現場を見た決定的な証人を用意しているのよ」
「なんですって!?」

 なんだって!? そんな奴がいるのか、僕が個人的に聞きたいよ! それ! ユリアは静かに笑っていた。

「完璧な証拠は完璧な証言、そして完璧な証人からよ」
「それ二回目ですよ」

「今度は本当よレイラ。入ってください、完璧な証人!」

 その瞬間、部屋のドアを開けたとき、僕は一瞬で誰かがわかり打撃を受けてしまった!

「ぐはあああああぁぁ!」
「何で貴方が衝撃を受けているんですか!」

「だってレイラ、彼女は……」
「彼女……! うわ……」

 そしてその彼女は証言台に立ち自己紹介を始めた。

「私は聖教徒騎士団副隊長、クラリーナ・リーデ・エルス・コンフォルスです……」
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