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マハロブ市街戦
第二百七話 浮気裁判
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「はっ!?」
あれ、いつの間にか僕たちの屋敷のベッドに僕はいる。な、なにがあったんだ!? 昨日は確か、クラリーナとディナーをするって言われて、それで確かクラリーナの屋敷に行ったような、行ってないような。
くそ、頭が痛い。いったい何があったんだ、まったく記憶がないぞ。ふと僕は右手を見た、だが何もない。しかし何かあったような気がする、確か柔らかいものをもんだような……。
……駄目だ! 何も思い出せない。いったい何があったんだ! この僕に!?
とりあえずふらふらと、乱れた服を整えて部屋の外に出た。そう言えばお腹が空いた、今何時だ? とりあえず誰かに聞こうか、メリッサがいないし。
お、あそこにいるのはユリアじゃないか! よし、話しかけよう。
「あの、ユリア!」
彼女は僕の声が聞こえないのかそのまま通り過ぎて行った。えっ、声が聞こえなかったのかな。
僕は客間に行った。そこにはシェリーとダイアナがいた。よし二人にきこうか。
「なあ、シェリー、ダイアナ、昨日何があったか知らないか?」
「そういえばさあ、ブライアンがまた性懲りもなく私に稽古つけろってさあ、懲りねえんだよなあ、あいつ」
「シェリー、だめよ。いくらエインヘリャルとはいえ、骨が折れるし、痛いんだから。手加減してあげないと」
あれ、聞こえないのかなあ。
「おーい、シェリー、ダイアナ聞こえてるー?」
「ホント男ってバカだよなー、一回死なないとだめなのかなー」
「まあ、そうだけど、ブライアンだって仲間なんだから面倒見てあげなよ、純粋だし。誰かさんと違って……」
何で聞こえないのかわからない。こんなに接近しているのに、まるで僕がいないみたいじゃないか。まさか、僕はエインヘリャルの能力により何かされたのか!?
「なあ、シェリー! ダイアナ! 返事してくれよお願いだ!」
「……!」
その瞬間、いきなり僕は彼女らに両腕を抱えられて、引きずられていく。
「ちょっとまって! どういうこと、どういうことなんだ、教えてくれ!」
「言い訳は裁判所で聞きますから」
とダイアナが言った。何だ聞こえているじゃないか、よかった、エインヘリャルの攻撃じゃなかったんだな。
「裁判所って何! 一体何なんだこの状態は」
「うるさい! 黙って入れ!」
そうすると僕は大きな客間の方に引きずられていき、その部屋の中に叩き込まれた!
いってー何するんだ。乱暴にするなよ、僕はこれでも繊細なんだぞ。
目の前にはエイミアが正面のテーブルに座っており、右のテーブルには、レイラが立っており、左のテーブルにはユリアが立っていた。ほかには、サラとミーナがすわっており、空いた椅子に、シェリーとダイアナが座った。
「エイミア聞いてくれ! みんな僕の言うことを聞いてくれないんだ! どうなっているんだこの状態は!」
エイミアは僕の訴えを無視して冷淡に言い始めた。
「被告人がそろったようですね、それでは第一回マハロブ浮気裁判をはじめます」
はあ? 被告人、浮気? いったい何のことだ。僕の戸惑いにもかかわらずエイミア話をつづけた。
「被害者、前へ」
そうするとメリッサとナオコが隣の部屋からいっしょに現れて、しずしずと涙をこらえている様子だった。ど、どうしたんだメリッサ、何か悪いことがあったのか!?
「メリッサ! 聞いてくれ、いったいこれはどういうことなんだ、誰か説明してくれ!」
「被告人! 静粛に! 席につきなさい!」
とエイミアがハンマーを振り下ろし、僕の言葉を制止する。横から、シェリーとミーナが言う。
「見苦しいぞ、浮気野郎!」
「サイテー、この期に及んでしらを切るとか……」
え、なに、どういうこと? 僕の戸惑いにもかかわらずメリッサは涙ながらに言う。
「夫は童貞でした……。女も知らず、いまだ35歳、ネットで言う魔法使いです。中学校の頃少しばかり女っ気がありましたが、それも童貞こじらせてぶち壊し。女心もわからない、ただの益体なし、ひっどい童貞のおっさんでした。
でも、私は彼のことを好きになりました、それは彼が純粋だと私は思ったからです、彼なら私を裏切らないと。
でもその夢は昨日打ち砕かれました……」
え、な、何……もったいぶって。
「それで、昨日彼はある女の手紙を受け取って、出かけると夫は言いました。私は嫌な予感がいたしました。最近夫の様子が変だと、でもまさか、ウチの夫に限ってそんな……。だから、私は止めませんでした……、それは私が夫を信じていたからです! 信じたかったのです! 夫を!」
「ママ……」
メリッサの涙がらの訴えに慰め擁する娘のナオコ。すすり泣く声が観客席から聞こえてきた。
「健気だなあ……」
「女ってそうだもんね、好きだから信じたい、そう思いたい」
「うわあ、この話の先聞きたくないよー」
「悲しいね……」
メリッサは言葉を絞り出すように話し続ける。
「でも、この娘のナオコがパパの様子がおかしかったって言うんです。私は不安で仕方ありませんでした。そうして、いてもたってもいられず、周りに彼はどこに行ったかみんなにききまわっていたのです。そしたら、アイリ―さんがおっしゃりました。
『クラリーナ先輩とディナーを楽しむために、屋敷に向かった』と……。信じられませんでした。まさか、妻帯者でありながら他の女と、夕食を食べに行く!? そんな男がこの世に存在するなんて! 明らかにそれだけでアウトじゃないですか! 浮気じゃないですか!
私はアイリ―さんを問いただしました。でもクラリーナさんの屋敷は絶対に教えられない、自分の命にかかわるからと言いました。そして、彼女はすまなそうに言うんです──!」
「え、なになに!」
「この時点で断れよ妻がいるなら、さあ!」
「嫌な予感……」
「あーあ、一線越えちゃったか……」
横から僕に対してブーイングが飛んでくる。な、なに? 女性と夕食したら駄目なの、妻がいると、別にそこまで悪くないじゃないか。僕だって男なんだよ。
メリッサは必死に皆に訴えかける。
「アイリ―さんは言いました! この世界で手紙をやり取りするのは、恋人同士の証だと! 男と女と夕食を共にすることは、二人がベッドインすることだと! 明らかにこれは夫の裏切りです!」
え、そうなの、いやだって、昨日……。あれ、記憶がない。ちょっ、ちょっと待ってまさか……!
横から僕に対して罵声が飛んでくる。
「サイテー!」
「信じられない浮気野郎……」
「殺しちまえばいいんだよ! 浮気野郎なんて!」
「そうねシェリー。殺した方がいいよね、浮気野郎は」
ちょっとまって、横から殺せコールが聞こえてくる。殺気だった裁判所。それを鎮めるため、エイミアはハンマーを激しく叩く!
「静粛に! 静粛に! 被害者からの証言は終わってません! 静粛に!」
辺りが静まった後、涙を拭きながらメリッサは言った。
「それでも私は彼を信じたかった! きっと彼なら私を、娘のナオコを思い出して帰ってくると! でもそれは間違いでした。彼は夜明けの朝に帰ってきました。服を乱し、女の臭いをつけながら! もう私は我慢できません! 夫を、いや、池田佑月を浮気罪で死刑にしてください!」
「まったまった、まった!」
僕が慌てて止めようとするが横からの拍手でかき消される。エイミアはハンマーを叩いて、はっきり言った。
「もはやこれ以上の尋問はひつようありません、被告人の罪は明らか、よって、池田佑月を死・け……」
「待った!」
横からレイラが叫びだした。
「待ってください、佑月さんからの言葉を聞いてません。まだ、真実は明らかにされていないのです。まだ裁判は途中です。裁判長! 被告人の証言を聞いてください!」
「れ、レイラ……!」
「大丈夫です! 私信じていますから、佑月さんを! 私がしっかり弁護しますんで、安心して泥船に乗ってください!」
いや、泥船は駄目だろ……。そこに横からユリアの声が上がる。
「異議あり! これ以上の証拠が必要ですかレイラ! どうかんがえても浮気は明らかです。それでも抵抗するつもりですか、レイラ?」
「ええ、私は真実を明らかにする、それが弁護士としての使命。たとえあなたが相手でも、闘います、ユリア!」
二人が火花を散らし始める。
「わかりました、貴女がそういうなら、始めましょうか、被告人の証言を……!」
とのユリアの言葉にエイミアが疲れた顔で言った。
「ちょっとーユリア。私が裁判長よ、勝手に進行しないでよ。結構張り切ってるんだからこれでも」
「すみません、検事役は不慣れなもので、では裁判長、どういたしますか?」
「わかりました、それで被告人の証言を聞きましょう。被告人前へ」
え、前に出ろってことか、僕はさっきメリッサがいた証言席に立った。それに対しエイミアは言う。
「では、被告人。昨日何があったか正直に言ってください。言っておきますが、うその証言をしたら、法廷侮辱罪で死刑です。その時点で貴方の人生が終わります。いいですね?」
「あ、え……と、はい」
「では被告人、証言を」
僕は昨日のころを思い出しながら言い始めた。
「えーと昨日は、手紙でクラリーナに誘われて、いやちがう、僕が誘ったのかな──」
「待った!」
横からユリアが僕の証言を制止する。
「貴方がディナーに誘ったんですね?」
「あ、そうだけど……」
「うわ、自分から? 信じられない」
「最低な浮気野郎だよ」
「下心見え見え……」
「死刑ね……」
横からの言葉に僕は不利な証言をしてしまったことに気づいた。それを見てか、
「待った!」
とレイラが制止する。
「ちょっと待ってください、何故佑月さんはクラリーナさんとディナーに行ったんですか?」
「え、それは……日頃お世話になっていたお礼と、ナオコ救出の手助けをしてくれた礼で」
「そう、体で払おうとしたんです佑月さんは。裁判長、もう審議の必要はありません。今すぐ死刑宣告を──」
「異議あり!」
ユリアが僕にかぶせるように言ったのを、レイラが制止する。
「ユリア、それは誘導尋問です! あきらかに体で払うなんてムジュンしているじゃないですか。だって、佑月さんは35歳の冴えないおっさんで、童貞の魔法使いですよ、女性の方が嫌がりますよ」
ちょっ、ひどっ!?
「確かにそうですね、これは大きなムジュンがあります、ユリア検事、誘導尋問はやめなさい」
「くっ!」
エイミアの判断にユリアは屈した。僕の心は複雑だ。そしてレイラは僕に優しく言う。
「何故、お礼にディナーをと思ったのですか?」
「何故ってクラリーナと僕は友達で……」
「うそもうそも百回つけば真実になると? 裁判長、被告人はうその証言をしました。法廷侮辱罪を!」
ユリアの言葉に僕は驚き否定する。
「違う! ほんとだ! 僕と彼女は友達だ! たぶん、僕はそう思うけど……」
「待った!」
逆にレイラは僕に制止をかける。
「ちょっと待ってください、さっきメリッサさんの証言で出てきた、この世界ではディナーを共にするのはベッドインすることだと言いましたね。しかし、友達とベッドインなんてありえません!」
「だから、嘘をついているのでしょう?」
「違います、被告人は真実を言ってるのです」
とレイラはユリアに胸を張る。
「な、なんですかレイラ、真実って……」
「彼、佑月さんは、ディナーを共にすることをベッドインすることだと知らなかったのです! ただ夕食を食べるだけだと思っていたんです! 彼は私たちと同じ異世界人、この世界の習慣なんて知らないから!」
「なんと!」
「くう!!」
エイミアとユリアはレイラの弁護に衝撃を受けている。そうだ、そうだよ、僕が浮気なんかするわけないじゃないか。メリッサ一筋だよ。
レイラは勝ち誇りながら僕に言った。
「では真実が明らかになったところで、証言を続けてください、佑月さん……」
「ああ、わかったよ。それで彼女、クラリーナの屋敷に行ったんだ。それで、その……。そのあとは……」
「そのあとは?」
みんなが前のめりになって僕にきいてきた。
「……覚えていない。頭痛がして……思い出せない……」
「うそもうそもうそも千回言えば真実になる──」
「異議あり!」
レイラはユリアの言葉に制止をかける。
「忘れたようね、ユリア」
「な、何を?」
「彼が玄関に寝ていたのを彼の部屋に運んだのは私とユリアだってことを……」
「……! そ、それが何を……!」
「彼は顔を真っ赤にして、酒の匂いがプンプンしていました! 彼は酒に酔っていました。まさかうその証言をする気ですか! ユリア! 佑月さんは酒に酔っていた、だから覚えていない、全くムジュンのない真実の証言です!」
「くっ!」
よし、レイラ。弁護が上手いじゃないか。伊達に能力をコミュニケーションに全ぶりしているわけじゃないな。しかしエイミアは困ったように言う。
「しかし、これでは佑月に死刑を宣告できないわ。冤罪で人を殺すのは流石に、私でも無理よ」
「大丈夫です。裁判長。私は仕事を完璧にこなす女です。完璧な立証は完璧な証人から。裁判長! 証人を用意しております。決定的な証人を……!」
えっ、証人、いったい誰がいるんだ……?
「証人、入ってきなさい!」
そして裁判所に少女が入ってきて僕は頭を抱えた。蒼髪のゴスロリ服、そうだ……、厄介な奴に見られたんだった……! その証人は言った。
「はいはい、貴方の奴隷、ララァですよ、佑月様。いい一晩をすごしましたね──」
あれ、いつの間にか僕たちの屋敷のベッドに僕はいる。な、なにがあったんだ!? 昨日は確か、クラリーナとディナーをするって言われて、それで確かクラリーナの屋敷に行ったような、行ってないような。
くそ、頭が痛い。いったい何があったんだ、まったく記憶がないぞ。ふと僕は右手を見た、だが何もない。しかし何かあったような気がする、確か柔らかいものをもんだような……。
……駄目だ! 何も思い出せない。いったい何があったんだ! この僕に!?
とりあえずふらふらと、乱れた服を整えて部屋の外に出た。そう言えばお腹が空いた、今何時だ? とりあえず誰かに聞こうか、メリッサがいないし。
お、あそこにいるのはユリアじゃないか! よし、話しかけよう。
「あの、ユリア!」
彼女は僕の声が聞こえないのかそのまま通り過ぎて行った。えっ、声が聞こえなかったのかな。
僕は客間に行った。そこにはシェリーとダイアナがいた。よし二人にきこうか。
「なあ、シェリー、ダイアナ、昨日何があったか知らないか?」
「そういえばさあ、ブライアンがまた性懲りもなく私に稽古つけろってさあ、懲りねえんだよなあ、あいつ」
「シェリー、だめよ。いくらエインヘリャルとはいえ、骨が折れるし、痛いんだから。手加減してあげないと」
あれ、聞こえないのかなあ。
「おーい、シェリー、ダイアナ聞こえてるー?」
「ホント男ってバカだよなー、一回死なないとだめなのかなー」
「まあ、そうだけど、ブライアンだって仲間なんだから面倒見てあげなよ、純粋だし。誰かさんと違って……」
何で聞こえないのかわからない。こんなに接近しているのに、まるで僕がいないみたいじゃないか。まさか、僕はエインヘリャルの能力により何かされたのか!?
「なあ、シェリー! ダイアナ! 返事してくれよお願いだ!」
「……!」
その瞬間、いきなり僕は彼女らに両腕を抱えられて、引きずられていく。
「ちょっとまって! どういうこと、どういうことなんだ、教えてくれ!」
「言い訳は裁判所で聞きますから」
とダイアナが言った。何だ聞こえているじゃないか、よかった、エインヘリャルの攻撃じゃなかったんだな。
「裁判所って何! 一体何なんだこの状態は」
「うるさい! 黙って入れ!」
そうすると僕は大きな客間の方に引きずられていき、その部屋の中に叩き込まれた!
いってー何するんだ。乱暴にするなよ、僕はこれでも繊細なんだぞ。
目の前にはエイミアが正面のテーブルに座っており、右のテーブルには、レイラが立っており、左のテーブルにはユリアが立っていた。ほかには、サラとミーナがすわっており、空いた椅子に、シェリーとダイアナが座った。
「エイミア聞いてくれ! みんな僕の言うことを聞いてくれないんだ! どうなっているんだこの状態は!」
エイミアは僕の訴えを無視して冷淡に言い始めた。
「被告人がそろったようですね、それでは第一回マハロブ浮気裁判をはじめます」
はあ? 被告人、浮気? いったい何のことだ。僕の戸惑いにもかかわらずエイミア話をつづけた。
「被害者、前へ」
そうするとメリッサとナオコが隣の部屋からいっしょに現れて、しずしずと涙をこらえている様子だった。ど、どうしたんだメリッサ、何か悪いことがあったのか!?
「メリッサ! 聞いてくれ、いったいこれはどういうことなんだ、誰か説明してくれ!」
「被告人! 静粛に! 席につきなさい!」
とエイミアがハンマーを振り下ろし、僕の言葉を制止する。横から、シェリーとミーナが言う。
「見苦しいぞ、浮気野郎!」
「サイテー、この期に及んでしらを切るとか……」
え、なに、どういうこと? 僕の戸惑いにもかかわらずメリッサは涙ながらに言う。
「夫は童貞でした……。女も知らず、いまだ35歳、ネットで言う魔法使いです。中学校の頃少しばかり女っ気がありましたが、それも童貞こじらせてぶち壊し。女心もわからない、ただの益体なし、ひっどい童貞のおっさんでした。
でも、私は彼のことを好きになりました、それは彼が純粋だと私は思ったからです、彼なら私を裏切らないと。
でもその夢は昨日打ち砕かれました……」
え、な、何……もったいぶって。
「それで、昨日彼はある女の手紙を受け取って、出かけると夫は言いました。私は嫌な予感がいたしました。最近夫の様子が変だと、でもまさか、ウチの夫に限ってそんな……。だから、私は止めませんでした……、それは私が夫を信じていたからです! 信じたかったのです! 夫を!」
「ママ……」
メリッサの涙がらの訴えに慰め擁する娘のナオコ。すすり泣く声が観客席から聞こえてきた。
「健気だなあ……」
「女ってそうだもんね、好きだから信じたい、そう思いたい」
「うわあ、この話の先聞きたくないよー」
「悲しいね……」
メリッサは言葉を絞り出すように話し続ける。
「でも、この娘のナオコがパパの様子がおかしかったって言うんです。私は不安で仕方ありませんでした。そうして、いてもたってもいられず、周りに彼はどこに行ったかみんなにききまわっていたのです。そしたら、アイリ―さんがおっしゃりました。
『クラリーナ先輩とディナーを楽しむために、屋敷に向かった』と……。信じられませんでした。まさか、妻帯者でありながら他の女と、夕食を食べに行く!? そんな男がこの世に存在するなんて! 明らかにそれだけでアウトじゃないですか! 浮気じゃないですか!
私はアイリ―さんを問いただしました。でもクラリーナさんの屋敷は絶対に教えられない、自分の命にかかわるからと言いました。そして、彼女はすまなそうに言うんです──!」
「え、なになに!」
「この時点で断れよ妻がいるなら、さあ!」
「嫌な予感……」
「あーあ、一線越えちゃったか……」
横から僕に対してブーイングが飛んでくる。な、なに? 女性と夕食したら駄目なの、妻がいると、別にそこまで悪くないじゃないか。僕だって男なんだよ。
メリッサは必死に皆に訴えかける。
「アイリ―さんは言いました! この世界で手紙をやり取りするのは、恋人同士の証だと! 男と女と夕食を共にすることは、二人がベッドインすることだと! 明らかにこれは夫の裏切りです!」
え、そうなの、いやだって、昨日……。あれ、記憶がない。ちょっ、ちょっと待ってまさか……!
横から僕に対して罵声が飛んでくる。
「サイテー!」
「信じられない浮気野郎……」
「殺しちまえばいいんだよ! 浮気野郎なんて!」
「そうねシェリー。殺した方がいいよね、浮気野郎は」
ちょっとまって、横から殺せコールが聞こえてくる。殺気だった裁判所。それを鎮めるため、エイミアはハンマーを激しく叩く!
「静粛に! 静粛に! 被害者からの証言は終わってません! 静粛に!」
辺りが静まった後、涙を拭きながらメリッサは言った。
「それでも私は彼を信じたかった! きっと彼なら私を、娘のナオコを思い出して帰ってくると! でもそれは間違いでした。彼は夜明けの朝に帰ってきました。服を乱し、女の臭いをつけながら! もう私は我慢できません! 夫を、いや、池田佑月を浮気罪で死刑にしてください!」
「まったまった、まった!」
僕が慌てて止めようとするが横からの拍手でかき消される。エイミアはハンマーを叩いて、はっきり言った。
「もはやこれ以上の尋問はひつようありません、被告人の罪は明らか、よって、池田佑月を死・け……」
「待った!」
横からレイラが叫びだした。
「待ってください、佑月さんからの言葉を聞いてません。まだ、真実は明らかにされていないのです。まだ裁判は途中です。裁判長! 被告人の証言を聞いてください!」
「れ、レイラ……!」
「大丈夫です! 私信じていますから、佑月さんを! 私がしっかり弁護しますんで、安心して泥船に乗ってください!」
いや、泥船は駄目だろ……。そこに横からユリアの声が上がる。
「異議あり! これ以上の証拠が必要ですかレイラ! どうかんがえても浮気は明らかです。それでも抵抗するつもりですか、レイラ?」
「ええ、私は真実を明らかにする、それが弁護士としての使命。たとえあなたが相手でも、闘います、ユリア!」
二人が火花を散らし始める。
「わかりました、貴女がそういうなら、始めましょうか、被告人の証言を……!」
とのユリアの言葉にエイミアが疲れた顔で言った。
「ちょっとーユリア。私が裁判長よ、勝手に進行しないでよ。結構張り切ってるんだからこれでも」
「すみません、検事役は不慣れなもので、では裁判長、どういたしますか?」
「わかりました、それで被告人の証言を聞きましょう。被告人前へ」
え、前に出ろってことか、僕はさっきメリッサがいた証言席に立った。それに対しエイミアは言う。
「では、被告人。昨日何があったか正直に言ってください。言っておきますが、うその証言をしたら、法廷侮辱罪で死刑です。その時点で貴方の人生が終わります。いいですね?」
「あ、え……と、はい」
「では被告人、証言を」
僕は昨日のころを思い出しながら言い始めた。
「えーと昨日は、手紙でクラリーナに誘われて、いやちがう、僕が誘ったのかな──」
「待った!」
横からユリアが僕の証言を制止する。
「貴方がディナーに誘ったんですね?」
「あ、そうだけど……」
「うわ、自分から? 信じられない」
「最低な浮気野郎だよ」
「下心見え見え……」
「死刑ね……」
横からの言葉に僕は不利な証言をしてしまったことに気づいた。それを見てか、
「待った!」
とレイラが制止する。
「ちょっと待ってください、何故佑月さんはクラリーナさんとディナーに行ったんですか?」
「え、それは……日頃お世話になっていたお礼と、ナオコ救出の手助けをしてくれた礼で」
「そう、体で払おうとしたんです佑月さんは。裁判長、もう審議の必要はありません。今すぐ死刑宣告を──」
「異議あり!」
ユリアが僕にかぶせるように言ったのを、レイラが制止する。
「ユリア、それは誘導尋問です! あきらかに体で払うなんてムジュンしているじゃないですか。だって、佑月さんは35歳の冴えないおっさんで、童貞の魔法使いですよ、女性の方が嫌がりますよ」
ちょっ、ひどっ!?
「確かにそうですね、これは大きなムジュンがあります、ユリア検事、誘導尋問はやめなさい」
「くっ!」
エイミアの判断にユリアは屈した。僕の心は複雑だ。そしてレイラは僕に優しく言う。
「何故、お礼にディナーをと思ったのですか?」
「何故ってクラリーナと僕は友達で……」
「うそもうそも百回つけば真実になると? 裁判長、被告人はうその証言をしました。法廷侮辱罪を!」
ユリアの言葉に僕は驚き否定する。
「違う! ほんとだ! 僕と彼女は友達だ! たぶん、僕はそう思うけど……」
「待った!」
逆にレイラは僕に制止をかける。
「ちょっと待ってください、さっきメリッサさんの証言で出てきた、この世界ではディナーを共にするのはベッドインすることだと言いましたね。しかし、友達とベッドインなんてありえません!」
「だから、嘘をついているのでしょう?」
「違います、被告人は真実を言ってるのです」
とレイラはユリアに胸を張る。
「な、なんですかレイラ、真実って……」
「彼、佑月さんは、ディナーを共にすることをベッドインすることだと知らなかったのです! ただ夕食を食べるだけだと思っていたんです! 彼は私たちと同じ異世界人、この世界の習慣なんて知らないから!」
「なんと!」
「くう!!」
エイミアとユリアはレイラの弁護に衝撃を受けている。そうだ、そうだよ、僕が浮気なんかするわけないじゃないか。メリッサ一筋だよ。
レイラは勝ち誇りながら僕に言った。
「では真実が明らかになったところで、証言を続けてください、佑月さん……」
「ああ、わかったよ。それで彼女、クラリーナの屋敷に行ったんだ。それで、その……。そのあとは……」
「そのあとは?」
みんなが前のめりになって僕にきいてきた。
「……覚えていない。頭痛がして……思い出せない……」
「うそもうそもうそも千回言えば真実になる──」
「異議あり!」
レイラはユリアの言葉に制止をかける。
「忘れたようね、ユリア」
「な、何を?」
「彼が玄関に寝ていたのを彼の部屋に運んだのは私とユリアだってことを……」
「……! そ、それが何を……!」
「彼は顔を真っ赤にして、酒の匂いがプンプンしていました! 彼は酒に酔っていました。まさかうその証言をする気ですか! ユリア! 佑月さんは酒に酔っていた、だから覚えていない、全くムジュンのない真実の証言です!」
「くっ!」
よし、レイラ。弁護が上手いじゃないか。伊達に能力をコミュニケーションに全ぶりしているわけじゃないな。しかしエイミアは困ったように言う。
「しかし、これでは佑月に死刑を宣告できないわ。冤罪で人を殺すのは流石に、私でも無理よ」
「大丈夫です。裁判長。私は仕事を完璧にこなす女です。完璧な立証は完璧な証人から。裁判長! 証人を用意しております。決定的な証人を……!」
えっ、証人、いったい誰がいるんだ……?
「証人、入ってきなさい!」
そして裁判所に少女が入ってきて僕は頭を抱えた。蒼髪のゴスロリ服、そうだ……、厄介な奴に見られたんだった……! その証人は言った。
「はいはい、貴方の奴隷、ララァですよ、佑月様。いい一晩をすごしましたね──」
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