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二つの死闘

第百九十二話 トリックスター②

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 アメリーの合図とともに、前から武器が投擲とうてきされてくる! 僕は慌ててAKMを構えつつ、自身にとびかかってくる刃の元を撃ち落としていく。

 充満する弾丸の発射音と硝煙の臭いが鼻について、部屋中にこびりつく。あっという間に戦場と化した何の変哲もない客室、見ると壁はまっさらだ。静寂と狂劇に僕は息を切らした。

「ほう、器用な真似をするな、佑月は飛び道具で襲った武器を能力で落とし、エイミアは流石にこれしきでは、得意の剣術で跳ね飛ばしたか、なるほど……、いいデータだ」

 アメリーが嬉しそうに、僕らの様子を眺めていたようだ。エイミアは毅然きぜんとした態度でむしろアメリーを挑発する。

「まさかこれしきの策で私たちを倒そうとしていたの? 期待外れもいいところだわ、腕が鈍ったんじゃない」

「なんの、かの暁のヴァルキュリアを相手にして、たったこんな芸当で、勝てるとはみじんも思ってないさ。ただ、試しただけさ。子どもなどにうつつを抜かす、平和ボケな相手じゃ私の名が廃る。ふっ、いいだろう、第一段階は認めてやる、さて次はどうかな?」

 またもやアメリーの後ろの壁から隙間なく武器が現れる、それに対し僕は銃を構えた、しかし妙だ、また同じ手で通用すると思っているのだろうか? そう考えていると、エイミアがあたりを見渡して僕に注意を喚起かんきする。

「佑月! 後ろを見て! そっちからも攻撃が来るわ!」

 僕が振り返った瞬間後ろにもおびただしい武器が現れてきた、ちぃ! 舌打ちをした瞬間、アメリーが合図し今度は一度だけではなく三分ほど制圧攻撃が始まった! 

 危険を察知した僕はどんどん投げ込まれてくる武器に対し、身をひるがえし、あるいは銃で撃ち落とし、守りに徹する。くそっ、なんて数だ、弾倉マガジンを大量に用意してよかった。背負ったL118A1を落とさないよう気をつけながら、巧みに自分の身を守る。

 その中アメリーが鳥の鳴き声のような掛け声をかけながら二つの剣でエイミアに切りかかった! 黒炎のヴァルキュリアと呼ばれるにふさわしい、燃え盛る炎のような二刀流の斬撃を次々と繰り出していく!

 対しエイミアは自分の身長より長い長剣でいなし、また、襲い掛かってくるエインヘリャルの攻撃を斬り上げて防いでいる。

 アメリーは喜びに満ちあふれた声で、エイミアと切り結びつつ、歓喜を表した。

「守りで精一杯か、エイミア! 神階第一階層は伊達であったか!」
「冗談! これしきの事で私を倒そうなんて片腹痛いわ!」

 エイミアがそう言うと、飛んできた槍を、剣を、棍棒をどんどん奪い取って、返って、アメリーに投げつけた。それを難なく二つの剣でどんどん斬り落とすアメリー! あっちはどうやら一進一退のようだ。

 しかし、僕は自分の身を守ると同時に、見えないエインヘリャルのからくりを急いで解かなければならなかった。このまま攻撃を続けられると体力が切れて、いずれ僕もやられる。また、弾倉はかなりあるとはいえ、いつかは弾切れになる。

 僕は合間を見て部屋を観察するがどう見ても普通の部屋だ。どういうことだ、ここにエインヘリャルがいるとソフィアは言ったし、逃げないようクラリーナが見張っていた、それに、エイミアも否定しないのだから、エインヘリャルの気配がここにあるのだろう。

 だが、敵がどこにいるかわからない以上、反撃しようとしても、手も足も出ない。どうしたものか……⁉ 何か不自然な点に気づけばいいが、この絶え間ない攻撃の中、冷静に観察しようにも、限りがある。

 くそ、アメリーは、自信満々にエイミアが現れても、戦闘に突入したわけだ、きっちり罠を張っていた。僕は行動不能だし、エイミアは投擲とうてきとアメリーを相手にしなければならず、僕をフォローできない。

 このままだとじり貧。なら、僕自身がこの状態をひっくり返す必要がある。そう思っていた矢先だった。エイミアと距離をとったアメリーは軽く手を挙げ、投擲を静止した、何のつもりだ……!

  どうやら、アメリーはむしろこの状況を楽しんでいたようで、笑いながら、語り掛けてくる。

「上々だ、いいぞ、佑月、エイミア。合格だ、ではこちらも本気を出していく必要があるようだ……!」

 その合図とともに、またもやおびただしい武器が現れる。そう思った瞬間だった。

「佑月! 見て横からも来るわ!」

 急いで横方向を見ると四方から武器が現れてくる、まさか……全方位攻撃だと……!

 アメリーが手を下ろすと同時に、絶え間なくあらゆる方向から、マシンガン、もしくは機関銃のように、刃や鉄の塊が僕たちに襲い掛かった、僕は全身を動かし、あるいは飛び上がりかわしていくが、何せ数が違う、僕の服を切り裂き、ボロボロになっていく、その時だった──。

「佑月、上!」

 まさか──、そう思った瞬間上からも大量の武器が注がれてくる、しまった! これは防げない! 

 僕が銃で撃ち落とそうとするが、間に合わない! その刹那せつな、エイミアが僕の隣に駆け付ける。死の覚悟をしたひと時、手を見たり動かしたりして、自分が生きていることを確認すると、全方向攻撃をエイミアがバリアを張って防いでいた。

「エイミア! 助かる」
「特別だからね、今回だけよ」

「でも、始めからそういう能力があるなら教えてくれればいいじゃないか、僕も戦略が立てられるし」
「嫌よ、私、能力使うと疲れるし、いちいち私の力を一から説明すると三日はかかるわ。まあ、今回だけってことで、このことを頭の中から消しなさい」

 彼女のふてぶてしい態度に、僕はくすりと笑ってしまった。しかし、エイミアのバリアは、リンディスと違い、目に見えて金色にまたは透明にまくを張って、投げ込まれる攻撃を、弾き飛ばしていく。おそらくリンディスとは原理が違うのだろう。

 とりあえず助かったと思ったら、アメリーがすかさずエイミアに切りかかってくる! 最初は剣を黄金の膜が弾いたものの、力づくでバリアを壊していく。

 エイミアは剣で受け止め、また、アメリーに斬りかかり、その間僕は自分を守るため、部屋の隅でなるべく攻撃が当たらないよう、位置取りをし、AKMで武器を落としていく。

 優勢に戦いを進めているアメリーは満足げに高笑いをしながら、エイミアに襲い掛かる。

「ははは……、どうした、守り一方か! エイミア・ヴァルキュリア!」
「うるさい! ババア、気が散る!」

「減らず口がいつまで続くかな、ほら、後ろから来たぞ!」

 アメリーの言葉に反応したエイミアは華麗に飛び上がって、剣でどんどん叩き落して、エインヘリャルの攻撃を防ぐが、何せ手数が多い、流石にエイミアでも不利か……! 僕が合間を狙って、アメリーに対し銃口を向けると、エイミアは殺気を察したのか、すぐさま制止する。

「邪魔よ、佑月! このババアは、私、じきじきに倒す!」

 彼女はプライドが高いのだろう、ここまで不利に追い詰められて沽券こけんに関わったのか、僕の援護を拒む。そのうちにアメリーはまたもや斬りかかり、二人はつばぜり合いになった。

「ははは、これが神階第一階層の力か、こんなものだとは思わなかったぞ、ヴァルキュリア大戦のとき、お前の相手にメリッサを選んだのは間違いだったな。所詮捨て石のつもりで、お前の相手をさせたが、どうやら、私自身が戦ったら、十分に勝てたぞ!」

「──っ! メリッサ……!」
「そうだ! あのような下級ヴァルキュリアではなくこの私自身が、大戦の英雄となるべきだったのだ! 今頃、あいつも、私の策で切り刻まれているころだろう、ははは!」

「あんた……、どうやら私を本気にさせたいようね……!」
「なんだ? どうした、暁のヴァルキュリア。どうせ神界大戦のときはまぐれだったのだろう、貴様はもともと名誉を受ける資格はなかったのだ。このように大したことのない女にはな──っ!」

 アメリーの侮辱を受け取った瞬間、エイミアは目をつぶった。そして彼女が掛け声を上げると、夥しい武器もアメリーも僕自身も吹き飛ばされた。なんだ! エイミアを中心として激しい風圧が部屋の中で流れ出ていく。なんという重圧だ⁉

 エイミアは静かに目を見開き、アメリーをにらみつけた。

「アンタは勘違いしている……!」
「な、何⁉」

「一つ、私が誇り高い戦いを挑んで、わざわざ手を抜いてたたかっているのに、それをアンタの実力だと思い込んでいること」
「手を抜いて……?」

「二つ、メリッサはアンタの思うようなレベルの低いヴァルキュリアじゃない。私の本気を目の当たりにして、彼女は勇敢に戦った、もちろん私はそれをリスペクトしている。なのに、それを思い違いしていること」
「本気だと……!」

「三つ、私を本気で怒らせたこと! 後悔しろ、絶望しろ! これが神階第一階層の力だ!」

 彼女が言葉を放つと、エイミアはうなり声のような声とともに黄金のオーラをまとった、そして、エイミアが顔に向けて剣身けんしんをかざすと、そこから金色のオーラが伸びていく、すさまじい圧力に、僕は思わず膝をつき、それはアメリーも同じだった。

 これが神階第一階層、暁のヴァルキュリアなのか……? 

 エイミアは瞳を金に輝かせて、高らかに宣言した。

「アメリー。アンタがこれから見るのは、夢でも、天国でも、ヴァルハラでもない、ただの地獄という現実。それだけよ! 死ぬ覚悟はできたか、黒炎のヴァルキュリア!!!」

 そして、エイミアはアメリーに駆け出し、怒りの反撃が始まった──!
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