ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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二つの死闘

第百八十五話 協力

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 日が落ち始める。早くクラリーナを見つけないと、このままだと夜になる。時間が惜しい、前に行った店のマスター、クラリーナのヴァルキュリア、ソフィアが働いているレストランに僕は向かった。クラリーナを探すための何か手掛かりがないか調べるためにだ。

 レストランに入ると給仕の男が迎えてくれたが、僕は現地の言葉がわからない、身振り手振りで、自分が異世界人で、言葉が話せなくて、ソフィアに用があることを伝えた。

 そういう手合いに慣れているのか、彼は丁寧に案内してくれ、ソフィアと会った。彼女は開口一番「どうしたの?」と尋ねてきたので「クラリーナに用があるんだ」と端的に伝えると「ははーん」と言って、にやつく。

 どうやら誤解が生じていたので急ぎ口調で僕は、

「君の想像と違う、僕の娘のナオコがさらわれたんだ、この街に詳しい、クラリーナに捜索を協力して欲しいんだ」

「なんですって!」

 との告げたことに、驚き、ソフィアは少しの間目をつぶったあと、目を開く。そして、彼女は丁寧に告げる。

「クラリーナに聞いたところ、ラミラス通りの商店街にいるらしいわ」
「クラリーナに聞いた?」

 どういうことだ、彼女たちには僕の知らない通信手段があるというのか。ソフィアは真面目な顔で、

「そういう場合じゃないでしょ、急いでいったほうがいいわ、時間が惜しいでしょ?」
「ああ、そうだった、すまない、この恩はいずれ返す、ありがとう、ソフィア」

「がんばれ、パパ」

 と言って彼女は微笑む。僕の礼に可愛い笑顔で答える素敵な女性だ。ソフィアの言う通りラミラス通りで捜索を開始しようと思ったが、人ごみの中、すぐにクラリーナは目についた。というのも、ララァと大きな声で言い合っていたのだ。

 まだ二人はそんなことをしているのか、とため息をつきそうになったが、そういう場合ではない。

 彼女たちに近づいて頼みごとを言おうとするが、僕には気づかず、周りに話を理解できないようにするためか、エインヘリャル語で喧嘩けんかしていたので、僕にも話の内容が理解できた。

「ララァ、いい加減、観念して、貴女の家の再興をなさい。親不孝だと思いませんか、折角、セメルツァー伯爵家に産まれていながら、家をつぶしたままでいるなんて」

「でもクラリー姉さま、わたくしもう神族になってしまいましたし、神に仕える身です。今更、人間の家のことなど」

「世の中には伝統というものがあります。当然富める者にはその義務があります。貴女は幼少のころから様々のところから恩恵を受けていたはずです。

 なら仕えていた者、貧しき者への恩を返さなければなりません、貴女のせいで路頭に迷っている者もいまだにいるんですよ。勝手なことを言わないでください」

「でも私一度死んだんですよ、それをいまさら」
「現に貴女は生きているではないですか。貴女は神族で新世界でも生きているのでしょう、セメルツァー伯爵家も永遠に生き続けます。それが今まで尽くしてくれた者への報い、その物じゃないですか、先祖代々の」

「えっと、わたくし用事が……」
「今度ばかりは逃がしませんよ、徹底的にあなたの性根を叩き直してあげます。大体ですね──」

 話は長く続きそうで、途中何度も僕が間に入ろうとするが、彼女たちのマシンガントークに付け入るスキがない。どうしたものか。

「なら、ララァ、貴女が死んだ後のことで起こした責任はきちんと取るつもりでしょうね」
「死んだあと。……えーとお姉さま、いったい何のことでしょうか?」

 ララァがそう言った後、クラリーナは彼女に手のひらを向けて差し出した。

「まあ、お姉さまがエスコートしてくれるのかしら、ドキドキ致しますわ」
「違います、胡麻化ごまかしても無駄です。返してください!」

「えっーと何を」
「お金です、返してください」

「あらー、なんてことでしょう。わたくし、手持ちのお金が……」
「下働きでも何でもして、お金を返しなさい。貴女の寿命は永遠ですから、1000年もすれば返せるでしょう」

「まあ、急に用事が出来ました、残念ながらそれではー」
「今日は逃がさないと言ったでしょ、私を甘く見過ぎです」

 逃げようとするララァに対して間髪入れずに、ララァの手を握る。恐ろしい速さだった。

「あれー」
「貴女には労働の尊さを叩き込む必要があります。うちでしっかり働いてもらいますからね」

 彼女たちがもめているのが極まったので、二人の間に自然に入れるように、なるべく僕は通行人のふりして尋ねた。

「二人ともどうしたんだい?」

「佑月さん」
「佑月様」

 二人は僕にやっと気づいたようで、クラリーナは真剣な表情で僕に訴えかけた。

「佑月さん、ひどいと思いません? この、人に借りた大金を返さないんですよ、おかげで、私の専用シェフを解雇してしまう羽目になり、外食ばかりの生活になってしまったんですよ!」

「それはクラリー姉さまが味にうるさいからですよ。嫌になったんですよ、きっとそうでしょうとも」
「口の減らない娘にはこうです!」

「いったいでふ、おねえはま、ほほがちぎれてしまいまふ」


 クラリーナはララァのほほを引っ張り、罰を与える。だいぶ親しそうだな二人は。どういう関係なんだろうか本当に。

「貸したお金って何のことかい? クラリーナ」

「聞いてください! あれは十年前です、ララァとリリィが酔っ払って、夜中にクレオール教会に忍び込んで火をつけて、大炎上ですよ。信じられます⁉ あの伝統のある美しい教会を!」

「いやあ、あの時は盛大に燃えましたね。古いものはいつか壊れるものですねえ、いやはや、困ったものです」

「張本人の貴女の言うことですか!」
「ねえはま、いはい、いはい」

 またクラリーナはララァのほほを無理やり引っ張る、何だかお餅みたいに柔らかいほほだなこりゃ。

「で、お金って何のことだい? まさか……」
「そのまさかですよ、この娘の犯行が教会団にばれて、再建費を支払うよう命じられたんですけど、その費用を私が全部肩代わりしたんですよ。おかげでもう、ウチの財政が火の車になって、大変でしたよ!」

「まあそれは大変! あんな大きな教会を、ご苦労様です、お姉さま」
「……」

 今度はクラリーナは無言でララァのほほを引っ張る、よっぽど大変だったのだろう、目に殺気が宿っていた。

「それはひどいなあ、でもクラリーナ、なんでそんな大金をララァに貸したんだい。君たちはどういうつながりがあるのか、僕にはちょっと」

「ああ、紹介してませんでしたね。彼女、ララァは私の従姉妹いとこです」
「随分年が離れた従姉妹ですけどね」

「そうか、なるほど……」

 二人は従姉妹だったのか、家の話をしているあたり、二人は近しい関係と思っていたが、まさか従姉妹とは……。クラリーナが100歳ぐらいだから、ララァは実は何歳だろうな。

「そういうことならララァ、クラリーナにお金返してあげなよ。さすがに顔を合わせにくいだろうし、せっかくの不老不死の体を持った親族なんか、あまりいないよ。付き合いが長くなるだろうし」

「とはいっても、先立つものがないのですよ、困ったことに」
「貴女が錬金術の実験とか言って、親のセメルツァー伯爵家の館を爆破したからでしょ、路頭に迷った者を私が面倒見たのですよ、貴女のお父上もお母上もね」

「いやあ、その時わたくし死んでしまいましたから、記憶が──」

 ララァの伝説はすごいな、およそ僕なんかとは違い、歴史に名を連ねただろう、悪い意味で。

「まあ、とりあえずララァは何とかして、クラリーナに借りた金を返すこと。それは僕からもきつく言っておくよ。それよりもクラリーナ、君に頼みがあるんだ」

「はあ、佑月さんなんでしょう?」

 やっと本題に入れたので僕は真剣な顔つきをし始めるよう引き締めた。

「……僕の娘のナオコがさらわれた、おそらくヴァルキュリアの仕業だと思う」
「何ですって⁉」

 二人は同時に声を出して驚いた、経緯を詳しく説明して、クラリーナは僕に怒り始めた。

「なんで早く言ってくれなかったんですか! 借金より大事な話じゃないですか!」
「借金も大事な話だけど、中に入るスキがなくてね。遅れてすまない、何か心当たりがあるかい二人は?」

 二人は考え込む、どうやら両人は本気で知らないらしい。お互いの表情を探り合うが、どうも相手も知らない様子だということを納得したようだ。そして一言クラリーナとララァは口をそろえて言う。

「アメリー……」

 二人と声が重なったので答え合わせをし始めた。

「私たち聖教徒騎士団が関知していないことです。その様子だとララァ、貴女は知らないようですね、審問官たちはどうです?」

「残念ながら、その動きはありませんね。審問官といえども個々のチームに対して介入する気はないでしょう。戦力的にお姉さまのチームが圧倒的に有利ですから。となると、やはり対戦相手のアメリーでしょうね」

「そうね、彼女はやけにメリッサさんに対抗意識持っていたようだし、勝つために手段を選ばないでしょう、佑月さんはどう思います?」

「僕も同意見だ、二人が知らないというなら、おそらくアメリーしか考えられない」

 三人はうなずいた。そしてすぐさまクラリーナは神妙な顔つきで、これからのことを指示し始めた。

「なら、答えは一つです。佑月さん、私たち聖教徒騎士団が捜索に当たります。人手は多いほうがいいでしょう。貴方は奇襲に備えて自宅で待機してください、発見次第、こちらから連絡します。ララァ、貴女、審問官たちに顔が利くでしょう、その辺から情報を探りなさい」

「わかりましたわ、お姉さま」

 クラリーナ個人に協力を頼むつもりだったけど、聖教徒騎士団まで動くとは驚きだ。どういうつもりか念のため彼女に尋ねた。

「でもいいのかい、君たち騎士団も介入を避けたいだろう?」

「いえ、むしろここは積極的に協力すべきことです。教会団を挙げて、人質の禁止を命じたのに、すぐさま破られるとは、ウチのメンツにかかわります。佑月さん、大ごとになって申し訳ないですが、責任をもってナオコさんを助けますのでご安心ください」

 クラリーナ、ララァは二人ともうなずく。僕は彼女らの厚意に感謝をしなければならない。

「クラリーナ、ララァすまないね、ありがとう」

「私たち二人がついていればもう見つかったも同然です、ねえ、お姉さま?」
「もちろんです、急ぎ騎士団の召集をかけますので、佑月さん、では」

「ああ、頼むよ、重ね重ねありがとう二人とも!」

 そう言って僕は彼女らに手を振った。二人はすぐさま今後の予定を打合せしているようだ。僕はアメリーたちに隙を見せないようにすぐさま館に戻るのだった。
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