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奇襲
第百七十一話 陰謀
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話はエイミアの事に移る。エイミアは速足で、闘技場の試合場の選手たちの出口に向かった。彼女が確かめたいことがあったからだ。クラリーナの能力、黒騎士の強さ、どう考えても異常だ、彼女は直情的だ、自分のこの目この耳で確かめないと気が済まない。
エイミアが廊下で待ち構えているとクラリーナたちがやって来た。そして赤髪の聖騎士にまるで、親友であったかのようにエイミアは親しく振舞い、クラリーナに話しかける。
「試合を見させてもらったわ、素晴らしい能力だわ、きっと貴女は決勝に辿り着くでしょうね」
「あ、はい、ありがとうございます。神階第一階層のエイミアさんに認められると何だか照れちゃいますね、とても嬉しいです」
「ええ貴女はスマートで、とても美しい剣技、しなやか体術、もはや人間離れしていて、元が人間だったとは思えないほどだわ、どこの流儀かしら」
「流儀ですか? いえ、私の師は、家に仕えていたオブラックという騎士です。もともと私の家はエミック公爵家の傍流で、家は伯爵位をいただいておりました。父が健在の頃は、伯爵の家として割と栄えていたのですが、男子が産まれず、私が教会団に入ったため、爵位は叔父が継ぎました。
また、我がコンフォルス家はもともと武芸を育むことを是として、多くの騎士が私の周りに居ました。一応私は女子爵の爵位を持っていますが、何せ領地が相続できなかったので、多くの騎士たちは叔父の方に仕えてしまいました、もう82年前ぐらいですかね。
まあ取敢えず私は武門の家系ですから、女であっても厳しく鍛えられましたね。それに鍛錬は欠かせませんね、聖教徒騎士団副隊長として」
「貴女の剣術はヴァルキュリアの、第4、第5階層の連中と比べてもそん色ないわ、私が保証してあげる」
「ありがとうございます、日ごろの鍛錬と神の加護のおかげです。貴女の言葉を誇りに思います」
クラリーナがそう言った瞬間、エイミアは右手を差し出し、握手を求めた。クラリーナは喜んでその手を取り握手すると、エイミアはクラリーナをそのまま抱き寄せ耳元で囁いた。
「貴女とは仲良くしたいわ、とてもね、これからもよろしくね、クラリーナ」
「……あっ、はい、ありがとうございます、光栄です」
エイミアの行動に戸惑っていたクラリーナだったが、まっすぐな彼女はそれを喜んだ。そして口が乾かぬまま、エイミアは黒騎士に詰め寄った。
「ねえ、アンタ誰よ」
「……」
黒騎士は押し黙っていた。だがエイミアは火がついたようにその者に言葉を浴びせていく。
「アンタ誰って聞いているでしょ! 答えなさい、アンタの動きとてもじゃないけど元が人間とは思えない。いや人間なんてものじゃない、高位神族クラスの動きだったわ。私の眼はごまかせない。何でそんな奴がエインヘリャルにいるのよ、ねえ、答えなさい!」
突然怒り出したエイミアにクラリーナは困ったように彼女をなだめようとした。
「どうしたんですエイミアさん、いきなりそんなに取り乱して、貴女らしくないですよ」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、私はこんなものよ、アンタ黙ってないでなんか言いなさい! 本当は喋れるんでしょ!」
「えっ……」
その言葉にクラリーナの方が驚いた、その者が一度も言葉を発したのを聞いたことがない、そもそもなんでエイミアがそんなことを言うのか理解できなかった。
「まあまあ、エイミアさん、そんなに怒っては駄目ですよ、お肌に悪いですよ、女性は笑顔笑顔」
突然の声にエイミアは振りむき、そこに居たのはララァだった。
「ちょっと待ってなんでアンタがここにいるのよ」
エイミアの言い分はもっともだララァは教会団を抜けたと聞いた、だが平然とここに現れるということは理解しがたいものがある、疑問が生まれるのも当然だ。
「何かおかしいでしょうか、私は創造神様に仕える者です、あの方を崇めている教会団のもとに私が話をしに来るのは当たり前じゃないですか」
「よくもまあ、ぬけぬけと言えるわね、アンタ、創造神は何を考えているのよ、コイツを野放しにするなんて何のつもりよ!」
エイミアは黒騎士を指さした。ララァは何事もなく笑っている、それに対し割って入ったのがクラリーナだ。
「ララァ! 勝手にどっかに行ったと思えば、また勝手に現れて。貴女に言いたいことがたくさんあります。いいですか……」
「あらまあ、クラリー姉さまは役目を果たせばいいのですよ。私には私の役目があるだけで。それが神に仕える者として……」
「うっさい、黙って!」
二人の会話を遮ったのはエイミアだった、彼女の憤怒は収まらないようで、黒騎士に顔を近づけて威圧していた、そしてぽつりと言った。
「……アンタの動きさあ、見たことあるのよねえ。私たち前に会ってるよね、違う?」
クラリーナはその言葉に驚いたが、黒騎士はエイミアを無視して去っていく。
「こら、待ちなさい!」
エイミアは黒騎士を追いかけようとするが、クラリーナとララァが止めた。
「エイミアさんよくわからないですが、感情的になるのは良くないと思います、彼には彼の事情がきっとあるはずです」
「そうですよ、まあまあ、エイミアさんもぷりぷりしないで、男性に嫌われますよ、ヒステリーな女性は」
「うるさい、ララァ! くそ、もうどういうことよ。クラリーナ、アンタあれの中身知ってんの?」
「はい? 彼の事ですか、上からチームとして面倒見ろと言われただけですが……どういう意味です?」
「でしょうねえ、まったく、あいつ何考えてんのよ……」
「まあ、よくわかりませんが試合の後なので、そろそろ私失礼しますね、あとララァ、私のところに一度顔を見せに来なさい、いいですね?」
「あら、クラリー姉さまからご招待ですか、ドキドキしますわ、何されるのかしら、きっと罪深き私を調教なさるのですね、楽しみですわ!」
「……はあ、貴女の妄想に付き合ってられません、疲れました、失礼します」
そう言ってクラリーナはこの場から去っていった。エイミアは無言でララァをにらみ続ける。そして彼女は大声で言った。
「アウティス! いるんでしょ、姿を現しなさい、こそこそのぞき見するんじゃない!」
彼女の声に反応して、エイミアとララァしかいなかったはずの廊下に、アウティスが突然現れる。すぐさまエイミアは彼に詰め寄った。
「私は気配を絶つ能力と姿を見えなくする能力を同時に使ったつもりだったが、この二つの能力を使うというのはやはり私にはまだ不十分か。まあ、神階第一階層相手では流石に通じぬとみるべきか」
「あらアウティスさん、ごきげんよう」
そしてララァはスカートをつまみ淑女の挨拶を丁寧にする。エイミアはそれを見ると、激しくアウティスに言葉をかけた。
「アンタどういうつもりよ、何考えてんのよ」
「どういう意味だ、私は忠実に仕事をこなしているだけだが」
「とぼけるな! 黒騎士の事だ! アンタ、あれが何か知ってんの?」
「無論だ、私が教会団の精鋭として迎えたからな」
「あきれた……、馬鹿! 愚かにもほどがあるわ、アウティス! あれの正体を知りながら手ごまとして使うなんて狂気の沙汰よ、あんなのがアンタなんかに扱えるわけがない、すぐに排除なさい!」
「何を言ってる、奴は忠実だ、今日も奴の役目をこなしたではないか、言いがかりも甚だしいな」
「何のんきなことをいってんのよ、アンタの詰めの悪さはほとほとあきれ果てるほどだわ、だから佑月に負けたのよ!」
「貴様は佑月を過小評価しすぎだ、彼は稀代の策謀家でまた自分をよく知り、戦術家として優れている。奴が協力的ならあんな黒騎士などを教会団の一員として迎えなどするものか」
「ホント馬鹿ね、いい、黒騎士はアンタじゃあとても扱えない、いずれアンタの方に刃を向けるでしょう、その前に始末しろとこれだけ言ってもわからないの!」
「ずいぶん悲観的ではないか、神階第一階層の暁のヴァルキュリアとは思えない発言だ」
「茶化すな! アンタが死んだら、私も死ぬのよ、アンタの頭の鈍さは途方もなく失望させられるわ」
「今更自分の命の心配か、エイミア?」
「私にはやるべきことがあるのよ、そのためにはどんな手段でも使うつもりだわ」
「ずいぶんと堕落した神族だな」
「アンタね……!」
「まあまあ、エイミアさん落ち着いて」
言い争っているのを見てララァが二人に割って入った。それがひどくエイミアの癇に障った。
「ララァ、アンタには関係ないでしょ!」
「別に関係なくはないぞ、奴を紹介したのはララァだからな」
アウティスの発言を聞いて驚きを隠せなかったエイミアだった。思わず「ばっ……」と口ずさんだ。言いたかったのはそんな馬鹿なということだ。そして今度はララァに食いつく。
「ララァ、創造神は一体何のつもりよ。アイツを使うなんて信じられない、いったいどういうことよ!」
「いえいえ、創造神様はこのラグナロクの行方をひどく気にしておられるようで、あの人を導くよう仰せつかっただけです」
「くそ創造神め! 何がフェアな戦いよ、介入する気満々じゃないの」
その言葉が癪に障ったアウティスはエイミアを皮肉る。
「まさか神階第一階層のお前が創造神を侮蔑するとはな。不敬にもほどがある、神にその罪を告白し許しをもらえ」
「創造神はアンタの考えているような、きれいな奴じゃないわ、陰険で、無慈悲で、血も涙もないことを平気でするような奴よ、アンタが知らないだけでね……!」
「貴様、不敬だと言ってる! 訂正しろ、神を侮辱するなど許されざるべきものだ!」
「馬鹿に何言ってもわかんないみたいね、あ、そうそう、クラリーナの件だけどとっとと始末しなさい」
「貴様、何を言ってるんだ、味方を殺せだと、お前の方が狂気の沙汰だ」
「アンタにはわからないでしょうけど、クラリーナは私たちにとって、非常に邪魔なのよ」
「意味がわからん」
「説明する気はないわ、どうせアンタに言っても理解できないから。今ならアンタが始末するのは簡単でしょ、警戒されないうちにそれをやることね」
「馬鹿馬鹿しい、お前の言ってることが全く理解できん」
「どんな手でも使うと言ったはずでしょ、私は。まあ、アンタがそれに勘づくまで時間がかかりそうね、あーあ、馬鹿相手に話しするのも疲れたわ、私帰るから」
そう言ってエイミアは不機嫌そうにこの場から去っていった。取り残されたアウティスは、意味も分からずに侮辱されたことにひどく不快であった。
「女とはつくづく理解しがたいものだ、感情的で、自分の事ばかり考える。エイミア……、奴の考えがわからん」
「あらまあ、私みたいに聞き分けの良い女性もいましてよ。それは女性蔑視ですからよくないですね」
それに母のようにララァはにこやかに微笑んだ。それを見てアウティスは満足げに呟く。
「やはり神は素晴らしい、このような優れた女性を使いに選ぶとはな……」
それぞれの思惑が交差し、陰謀が駆け巡る。この戦いの終末は神でさえも予想がつかないであろうことだった。
エイミアが廊下で待ち構えているとクラリーナたちがやって来た。そして赤髪の聖騎士にまるで、親友であったかのようにエイミアは親しく振舞い、クラリーナに話しかける。
「試合を見させてもらったわ、素晴らしい能力だわ、きっと貴女は決勝に辿り着くでしょうね」
「あ、はい、ありがとうございます。神階第一階層のエイミアさんに認められると何だか照れちゃいますね、とても嬉しいです」
「ええ貴女はスマートで、とても美しい剣技、しなやか体術、もはや人間離れしていて、元が人間だったとは思えないほどだわ、どこの流儀かしら」
「流儀ですか? いえ、私の師は、家に仕えていたオブラックという騎士です。もともと私の家はエミック公爵家の傍流で、家は伯爵位をいただいておりました。父が健在の頃は、伯爵の家として割と栄えていたのですが、男子が産まれず、私が教会団に入ったため、爵位は叔父が継ぎました。
また、我がコンフォルス家はもともと武芸を育むことを是として、多くの騎士が私の周りに居ました。一応私は女子爵の爵位を持っていますが、何せ領地が相続できなかったので、多くの騎士たちは叔父の方に仕えてしまいました、もう82年前ぐらいですかね。
まあ取敢えず私は武門の家系ですから、女であっても厳しく鍛えられましたね。それに鍛錬は欠かせませんね、聖教徒騎士団副隊長として」
「貴女の剣術はヴァルキュリアの、第4、第5階層の連中と比べてもそん色ないわ、私が保証してあげる」
「ありがとうございます、日ごろの鍛錬と神の加護のおかげです。貴女の言葉を誇りに思います」
クラリーナがそう言った瞬間、エイミアは右手を差し出し、握手を求めた。クラリーナは喜んでその手を取り握手すると、エイミアはクラリーナをそのまま抱き寄せ耳元で囁いた。
「貴女とは仲良くしたいわ、とてもね、これからもよろしくね、クラリーナ」
「……あっ、はい、ありがとうございます、光栄です」
エイミアの行動に戸惑っていたクラリーナだったが、まっすぐな彼女はそれを喜んだ。そして口が乾かぬまま、エイミアは黒騎士に詰め寄った。
「ねえ、アンタ誰よ」
「……」
黒騎士は押し黙っていた。だがエイミアは火がついたようにその者に言葉を浴びせていく。
「アンタ誰って聞いているでしょ! 答えなさい、アンタの動きとてもじゃないけど元が人間とは思えない。いや人間なんてものじゃない、高位神族クラスの動きだったわ。私の眼はごまかせない。何でそんな奴がエインヘリャルにいるのよ、ねえ、答えなさい!」
突然怒り出したエイミアにクラリーナは困ったように彼女をなだめようとした。
「どうしたんですエイミアさん、いきなりそんなに取り乱して、貴女らしくないですよ」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、私はこんなものよ、アンタ黙ってないでなんか言いなさい! 本当は喋れるんでしょ!」
「えっ……」
その言葉にクラリーナの方が驚いた、その者が一度も言葉を発したのを聞いたことがない、そもそもなんでエイミアがそんなことを言うのか理解できなかった。
「まあまあ、エイミアさん、そんなに怒っては駄目ですよ、お肌に悪いですよ、女性は笑顔笑顔」
突然の声にエイミアは振りむき、そこに居たのはララァだった。
「ちょっと待ってなんでアンタがここにいるのよ」
エイミアの言い分はもっともだララァは教会団を抜けたと聞いた、だが平然とここに現れるということは理解しがたいものがある、疑問が生まれるのも当然だ。
「何かおかしいでしょうか、私は創造神様に仕える者です、あの方を崇めている教会団のもとに私が話をしに来るのは当たり前じゃないですか」
「よくもまあ、ぬけぬけと言えるわね、アンタ、創造神は何を考えているのよ、コイツを野放しにするなんて何のつもりよ!」
エイミアは黒騎士を指さした。ララァは何事もなく笑っている、それに対し割って入ったのがクラリーナだ。
「ララァ! 勝手にどっかに行ったと思えば、また勝手に現れて。貴女に言いたいことがたくさんあります。いいですか……」
「あらまあ、クラリー姉さまは役目を果たせばいいのですよ。私には私の役目があるだけで。それが神に仕える者として……」
「うっさい、黙って!」
二人の会話を遮ったのはエイミアだった、彼女の憤怒は収まらないようで、黒騎士に顔を近づけて威圧していた、そしてぽつりと言った。
「……アンタの動きさあ、見たことあるのよねえ。私たち前に会ってるよね、違う?」
クラリーナはその言葉に驚いたが、黒騎士はエイミアを無視して去っていく。
「こら、待ちなさい!」
エイミアは黒騎士を追いかけようとするが、クラリーナとララァが止めた。
「エイミアさんよくわからないですが、感情的になるのは良くないと思います、彼には彼の事情がきっとあるはずです」
「そうですよ、まあまあ、エイミアさんもぷりぷりしないで、男性に嫌われますよ、ヒステリーな女性は」
「うるさい、ララァ! くそ、もうどういうことよ。クラリーナ、アンタあれの中身知ってんの?」
「はい? 彼の事ですか、上からチームとして面倒見ろと言われただけですが……どういう意味です?」
「でしょうねえ、まったく、あいつ何考えてんのよ……」
「まあ、よくわかりませんが試合の後なので、そろそろ私失礼しますね、あとララァ、私のところに一度顔を見せに来なさい、いいですね?」
「あら、クラリー姉さまからご招待ですか、ドキドキしますわ、何されるのかしら、きっと罪深き私を調教なさるのですね、楽しみですわ!」
「……はあ、貴女の妄想に付き合ってられません、疲れました、失礼します」
そう言ってクラリーナはこの場から去っていった。エイミアは無言でララァをにらみ続ける。そして彼女は大声で言った。
「アウティス! いるんでしょ、姿を現しなさい、こそこそのぞき見するんじゃない!」
彼女の声に反応して、エイミアとララァしかいなかったはずの廊下に、アウティスが突然現れる。すぐさまエイミアは彼に詰め寄った。
「私は気配を絶つ能力と姿を見えなくする能力を同時に使ったつもりだったが、この二つの能力を使うというのはやはり私にはまだ不十分か。まあ、神階第一階層相手では流石に通じぬとみるべきか」
「あらアウティスさん、ごきげんよう」
そしてララァはスカートをつまみ淑女の挨拶を丁寧にする。エイミアはそれを見ると、激しくアウティスに言葉をかけた。
「アンタどういうつもりよ、何考えてんのよ」
「どういう意味だ、私は忠実に仕事をこなしているだけだが」
「とぼけるな! 黒騎士の事だ! アンタ、あれが何か知ってんの?」
「無論だ、私が教会団の精鋭として迎えたからな」
「あきれた……、馬鹿! 愚かにもほどがあるわ、アウティス! あれの正体を知りながら手ごまとして使うなんて狂気の沙汰よ、あんなのがアンタなんかに扱えるわけがない、すぐに排除なさい!」
「何を言ってる、奴は忠実だ、今日も奴の役目をこなしたではないか、言いがかりも甚だしいな」
「何のんきなことをいってんのよ、アンタの詰めの悪さはほとほとあきれ果てるほどだわ、だから佑月に負けたのよ!」
「貴様は佑月を過小評価しすぎだ、彼は稀代の策謀家でまた自分をよく知り、戦術家として優れている。奴が協力的ならあんな黒騎士などを教会団の一員として迎えなどするものか」
「ホント馬鹿ね、いい、黒騎士はアンタじゃあとても扱えない、いずれアンタの方に刃を向けるでしょう、その前に始末しろとこれだけ言ってもわからないの!」
「ずいぶん悲観的ではないか、神階第一階層の暁のヴァルキュリアとは思えない発言だ」
「茶化すな! アンタが死んだら、私も死ぬのよ、アンタの頭の鈍さは途方もなく失望させられるわ」
「今更自分の命の心配か、エイミア?」
「私にはやるべきことがあるのよ、そのためにはどんな手段でも使うつもりだわ」
「ずいぶんと堕落した神族だな」
「アンタね……!」
「まあまあ、エイミアさん落ち着いて」
言い争っているのを見てララァが二人に割って入った。それがひどくエイミアの癇に障った。
「ララァ、アンタには関係ないでしょ!」
「別に関係なくはないぞ、奴を紹介したのはララァだからな」
アウティスの発言を聞いて驚きを隠せなかったエイミアだった。思わず「ばっ……」と口ずさんだ。言いたかったのはそんな馬鹿なということだ。そして今度はララァに食いつく。
「ララァ、創造神は一体何のつもりよ。アイツを使うなんて信じられない、いったいどういうことよ!」
「いえいえ、創造神様はこのラグナロクの行方をひどく気にしておられるようで、あの人を導くよう仰せつかっただけです」
「くそ創造神め! 何がフェアな戦いよ、介入する気満々じゃないの」
その言葉が癪に障ったアウティスはエイミアを皮肉る。
「まさか神階第一階層のお前が創造神を侮蔑するとはな。不敬にもほどがある、神にその罪を告白し許しをもらえ」
「創造神はアンタの考えているような、きれいな奴じゃないわ、陰険で、無慈悲で、血も涙もないことを平気でするような奴よ、アンタが知らないだけでね……!」
「貴様、不敬だと言ってる! 訂正しろ、神を侮辱するなど許されざるべきものだ!」
「馬鹿に何言ってもわかんないみたいね、あ、そうそう、クラリーナの件だけどとっとと始末しなさい」
「貴様、何を言ってるんだ、味方を殺せだと、お前の方が狂気の沙汰だ」
「アンタにはわからないでしょうけど、クラリーナは私たちにとって、非常に邪魔なのよ」
「意味がわからん」
「説明する気はないわ、どうせアンタに言っても理解できないから。今ならアンタが始末するのは簡単でしょ、警戒されないうちにそれをやることね」
「馬鹿馬鹿しい、お前の言ってることが全く理解できん」
「どんな手でも使うと言ったはずでしょ、私は。まあ、アンタがそれに勘づくまで時間がかかりそうね、あーあ、馬鹿相手に話しするのも疲れたわ、私帰るから」
そう言ってエイミアは不機嫌そうにこの場から去っていった。取り残されたアウティスは、意味も分からずに侮辱されたことにひどく不快であった。
「女とはつくづく理解しがたいものだ、感情的で、自分の事ばかり考える。エイミア……、奴の考えがわからん」
「あらまあ、私みたいに聞き分けの良い女性もいましてよ。それは女性蔑視ですからよくないですね」
それに母のようにララァはにこやかに微笑んだ。それを見てアウティスは満足げに呟く。
「やはり神は素晴らしい、このような優れた女性を使いに選ぶとはな……」
それぞれの思惑が交差し、陰謀が駆け巡る。この戦いの終末は神でさえも予想がつかないであろうことだった。
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