上 下
164 / 211
奇襲

第百六十四話 接触

しおりを挟む
 クラリーナに案内され、青軍猛虎隊が試合会場から外に出る廊下の途中で、僕とメリッサは彼らに出くわした。

 そのリーダー格の金髪の美青年がクラリーナを見ながら不思議がって彼女に尋ねた。

「貴女は確か……クラリーナさんですね。何度か前に戦って煮え湯を飲まされましたが、どうかなさいましたか?」

「いえいえ、今回私はこの大会の管理責任者の一人として、紹介をさせていただきに来ました。私の担当であるメリッサとその仲間たちのチームのリーダーの佑月さんが、あなた方の試合を見てたいへん感銘を受けたそうです」

 それを聞いて不安がって、電気のバリアを張った茶髪の女性が美青年の胸に顔を埋めながら、クラリーナをにらみつつ言った。

「気を付けてマティス。クラリーナは私たちの仲間をさんざん殺した教会団の手先よ、きっと何かたくらみがあるのよ、きっと……」
「いや、リンディスそれはないだろう。クラリーナさんは正々堂々と僕たちと戦い、そして、その被害が僕たちに出ただけだ、彼女自身は信頼できると思う」

「でも……!」

 とのリンディスは納得いかない様子だ。続いてターバンの男がクラリーナをにらみながら言った。

「クラリーナ! お前のせいで仲間が32人も殺された、そのような戯言信じられるか!」

 彼女とどうやら因縁があるみたいだな猛虎隊と。クラリーナの実力はよくわからないが、このチームを散々苦しめたんだ、相当な実力者なのだろう。マティスはターバンの男に対して首を振る。

「パッシーダ、彼女はそんな女性じゃない、仲間を失った苦しみ哀しみ憎しみが僕にもある。でも、彼女は彼女なりの正義があって僕たちと戦っただけだ。的外れな誹謗中傷はよくない」
「しかし……!」

 マティスはどうやらクラリーナと同類で、僕みたいな色々戦略を巡らせて戦うタイプじゃなく正統派で、正義感が強いように見える。聞くからに好青年の答えだ。クラリーナはにこやかに微笑みながら言った。

「あなた方のご心痛お察しいたします、しかしながら、敵として戦うことがあっても、私は誠実に生き、これまで神を信じて戦ってきました。戦いに誤りがあったとは考えていませんが、どうかこの場は私を信じて、お怒りを鎮めていただけないでしょうか?」

 クラリーナの丁寧な物腰や口調に、猛虎隊も少しばかり安堵したのだろう、すっかり警戒心を解いて、マティスは僕たちの方を見た。

「で、彼が、えっと、佑月さんでしたっけ?」
「ああ、僕が佑月だ、マティス君よろしく頼む」

 そう言って、僕は彼に握手のため腕を伸ばした。横目でメリッサを見ると、表情には出さないがすぐさま戦闘態勢に入れるよう、姿勢を整えていた。

「よろしくお願いします、佑月さん。あなた方の前回の試合は拝見させていただきました。実に考えられた戦い方をするみたいですね。私たちとは反対ですが、敬意を表します」

「いや、僕たちはまだまだだ、君たちは本当に素晴らしい戦い方をする。自分たちの能力を最大限に生かし、まるでスキがない。正直、今、肝を冷やしているよ」

「いえ、まだまだですよ。私はもっと彼らの力を上手く扱えるよう難儀なんぎしております。なあ、リンディス?」

 そう言って茶髪の美しいロングヘア―の彼女に話を振る。どうやらマティオは彼女とかなり親密らしい。僕はリンディスに手を差し出す、彼女は戸惑った様子だが、僕はなるべく自然に笑みを浮かべていたためか少し頬が緩んでいた。

「佑月だ、よろしく頼む。リンディスさん」
「ええ、リンディスです。よろしくお願いします」

「察するに君が戦術を?」
「私は、ただ、皆が戦いやすいようにしただけです。戦術などそんな大層な……」

「いや、実に美しい試合だった。君の能力は素晴らしい。君たちはきっと優勝候補だろう、この大会の」
「そんな、私たちは何度も教会団との戦いにやぶれ、メンバーもかなり変わってしまいましたが、その経験をもとに戦っているだけです」

 彼女は照れながら、クラリーナをちらりと見た。やはりクラリーナは警戒されているようだ。

「君のような女性がチームを支えてくれるとすごく助かると思うよ、ええと、マティス君はどう思うかい?」

「その通りだと思います。私は彼女に何度も救われてきました、彼女がいなければ私なんかとっくに死んでますよ」

「そんな、マティス……私をからかわないで……!」
「だってそうだろ、僕たちの仲じゃないか、リンディス。正直な気持ちで言ってるんだ、今まで支えてくれてありがとう、君ほど愛おしい人はいないよ」

 彼らの仲睦まじい言葉に僕はわずかにほくそ笑んだ。

「君たちは、失礼だが、付き合っているのかい、いや下種な勘繰りだね、余計なことを口走ってしまった」

 マティスはそれに対し胸を張って答えた。

「ええ、そうです、婚約者なんですよ。この大会が終われば僕たち結婚するんです!」
「それは、素晴らしいじゃないか! 君たちを応援したくなったよ、このマハロブは相当美しいからね、いい結婚式があげられると思うよ」

 僕の褒め殺しに段々リンディスは笑顔になり、すっかり警戒心を解いてしまっていた。

「実は、私、この街で結婚式を挙げたいと思っています。みんなに祝福されて、私たちが結ばれるのは素敵なことです。優勝して彼のプロポーズを受けて、館の近くの聖クレオール教会がいいかなって思ってます」

「へえ、そんなところがあるんだ。僕もこの世界で結婚式を挙げたけど、田舎の町で上げたからね、あそこはあそこでいいところなんだがね」

 僕が結婚式を挙げたと聞いてすっかりリンディスは安心した表情で笑っていた。

「中央通りをまっすぐ行ったところに大きな教会があるんです。私、生前、田舎に住んでいたからこの街みたいな都会に憧れているんですよ。幸い館から近いところには、ほかに大きい建物がないし、情緒があって素晴らしい立地条件に私たち今、住まわせてもらっています」

「そうかとてもよかったね、君たち二人に幸あらんことを。君たちと出会えて、正々堂々、僕たちは心置きなく戦えるよ、マティスくん、いい試合をしよう」

「ええ、もちろんです、佑月さん!」

 そう言って僕と再びマティスと握手を交わす。用が済んで振り返るとクラリーナが感動した様子で微笑んでいた。メリッサは状況を飲み込めないのか、戸惑っていた。

「メリッサ、クラリーナ、みんなが待っている、帰ろう」
「え、ああ、そうか、わかった」

「では皆さんのところにご案内しますね、素晴らしい試合になりそうで、私としてはとても嬉しいです」

 そう言ってクラリーナの背中を追って僕たちは歩いてついていった。……ああ、いい試合ができそうだ、それは僕たちにとってね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...