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闘技大会開幕
第百五十三話 聖都マハロブ
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「よし、始めるぞ! サラ、頼む」
「……はい」
メリッサの掛け声のもとサラがヤカバの檻に向かい開けていく、僕たちはまた戦術訓練をする、内容が内容なだけに、訓練を繰り返して、体に染みつくまでにならないと機能しない、非常に高度な戦術だと僕は思う。
だいぶ、練度が上がったおかげであっという間にヤカバが散っていく、それを見てさらに効率化を求めてメリッサの指示が飛ぶ。
「フォーメーション全体を押し上げるぞ、ミーナ、レイラ、ブライアン、アデル、ダイアナ、ラインを上げろ、距離感を保ちつつ、スペースが生まれないようにしろ!」
「了解!」
僕たちは前進して、ヤカバ達へと距離を縮める、近くであれば銃はさらに当たりやすくなる。また、逆に遠くであると一対一の関係になり、当たる可能性が低くなる、近づくと、チームである以上、必然近くに行けば行くほど、相手に一対二やそれ以上の瞬間的な数的優位が生まれ、さらに銃撃が効率化し当たりやすくなる。
しかし、近くなり過ぎれば反撃を受ける、それを防ぐよう、距離を保ち、細かくポジションの指示がメリッサを飛ばしていく。メリッサはよく考えている。銃の特性を生かしつつサッカーの概念そのものを昇華した戦術は素晴らしい。
そしてヤカバの層が薄くなり、相手は前がかりになってきた。それを見てメリッサは新たな指示を僕に送る。
「佑月、敵の陣を突破しろ、裏のスペースを使い、後ろから狙撃していけ!」
「わかった!」
これは動物の心理で、後ろから攻撃されると、非常に混乱を始めてしまう、集団になればその恐怖はヒステリックになるよう駆り立てる。前がかりになることで生まれた裏のスペースへ僕は駆け込み、どんどん後ろからヤカバを狙撃していき、あっという間に、相手は崩壊した。
あまりにもすごい速さで勝負がついたことに、皆が驚いた。
「よし! みんなよくやった、我々は強い、これを実戦でやれば必ず勝てる! 以上、解散!」
その掛け声でみんなはリラックスして、非常に気持ちのいい表情をしている、僕も同じだ、これだけうまくはまるととても気分がいい、安心しつつメリッサとナオコのもとに行った。
「メリッサ、お疲れ様!」
「佑月もお疲れ様だ! 今日は上手くいったな」
メリッサも確かな感触があったようで上機嫌だ。ナオコもうれしそうに僕たちに言った。
「お疲れ様、パパ! ママ! 二人ともすごくかっこよかったよ! パパとママはホントに強いんだね!」
「ああ、そうだぞ! パパは強いんだよ、ははは……」
ナオコを抱きかかえて僕の顔まで持ち上げる。大切な僕の家族、僕の娘、僕には帰る場所がある、こんなにうれしいものはない。
「あれ、この子……」
ナオコがぽつりとつぶやいた、よくみると僕の足元でヤカバが足の匂いを嗅いでいる。やめてくれ、匂いは気を付けているつもりなんだが、なんせ中世の環境ではなあ……。
「どうやらコイツ、親とはぐれた子犬らしいな、やたらめったら私たちがヤカバを追い払う訓練をしているもんだから」
メリッサの言葉に、ナオコは「可哀そう……」と呟いた、ナオコは独りで物乞いをしていたんだ、その寂しさをかんじたのだろう、僕は言葉を失った、メリッサも同様に戸惑っていた。
「……ねえ、パパ、ママ、この子連れて行っていいかな……?」
「いや、それは……その……」
これは僕たちの責任でもある、ナオコの言葉にメリッサでさえもまごついてしまうのも当然だ。この子が群れに戻れなかったらきっと死んでしまうだろう。僕とメリッサは目を合わし、お互い罪悪感が重くのしかかり、沈黙してしまった。だから思い切って僕は話を切り出した。
「な、なあ、メリッサ、この子の名前何にする?」
「え⁉ ええっ? いや、まあ……その……ナオコ、お前世話ができるのか?」
「うん頑張る!」
「そ、そうか? ……頑張るか、そうか、はは……、じゃ、じゃあ、ナオコが日本人名だから、それにちなんでルミコにするか!」
「ルミコ……? うん、変わった響きだけど、いいね! ママ、パパ、ありがとう!」
「ちゃんと世話するんだぞ、生き物を飼うのは大変だって言うからな……いてっ⁉」
ナオコの言葉に僕が諭そうとすると、メリッサが僕の足を踏んだ、そして僕の前に近づき、「無責任……!」と、凄い勢いでにらまれた。わかってる、わかってる、ごめんよ、本来なら僕がダメだっていうべきだったんだろ、でも、仕方ないじゃないか。はあ……。
ナオコは喜んでヤカバとじゃれていた、新たな仲間の一匹が増えて、メリッサの小言を聞きながらそのままマハロブへと向かい僕たちは到着した。
かなり大きな都市で城壁も立派だ、見た感じ巨大な教会らしき建物もあった、まさに富と権力の象徴だ。
「エイミア、城門の門番に都に入る許可をもらう、ついてきてくれ」
「はい、はーい、わかったわ」
教会団とコネがあるメリッサと教会団の審問官を務めるアウティスのヴァルキュリアが二人そろって門番と交渉し始めた。やはり二人そろっていれば頼もしくあっさり都へと入る許可が取れた。
城門を抜けると、流石、聖都というだけあって、余りにも人が多く盛んだ、ミランディアよりも人が多い。
「聖都マハロブは人口36万人の大都市よ、敷地も広く、各商人の本拠地も置かれて、とてもにぎわっているわ」
エイミアがマハロブを紹介し始めた、中世ヨーロッパの都市で36万はかなり多いな、市民が食うための農作物とかの輸送が大変そうだ、車やトラックさえない時代だ、大通りですら舗装されてないところもあったため、まともに馬車すら走れない場所も多かったのに。
そう言えば個々の周辺は道路が舗装されていたな、市民がこれだけいる以上、水道関連も大変そうだ。
「で、どうするんだ? 着いたはいいものの、どこに行けば良いか知らされてないぞ」
メリッサの質問にエイミアは首を振る。
「私もわかんない、知らされてないもん、教会団本部に乗り込む? 危険を承知で」
「エイミア、その無計画さはやめてくれないか、敵の本拠地に何の準備なしに、乗り込むつもりか?」
エイミアとメリッサはどうやら困っているようだ、二人は話し合いながらどこに行けば良いか決まらないらしい。そこで、レイラがいきなり言い出した。
「じゃあ、私、街の人に闘技大会のこと聞いてきますね」
「お、おい待てレイラ、敵地だぞ、それにお前エインヘリャルだから言葉が通じないだろう!」
メリッサの静止も聞く素振りもなく、市民の男の老人にレイラは話しかけた。
「ああ、すみません、闘技大会ってどこで開催されるんです?」
「闘技大会、アンタ外人みたいだけど、参加するのかい?」
「はい! そうなんです、どこ行けば良いかわからなくて……」
「ああそれじゃあ、市役所に聞くと良い、うちの役人はきっちりしているから」
「市役所にはどう行けば良いんです?」
「ああ、それはね……」
二人が僕には理解不能の言葉で談笑していた。ど、どういうことだ。ユリアとサラ以外のヴァルキュリアがとても驚いていた。そしてレイラは老人に礼をした後こちらへと戻ってくる。
「どうやら、市役所に行けばわかるそうですね、道は聞きました、案内しますね」
「ちょ、ちょっと待て、今現地人と話して、君は言葉が理解できたのか?」
「ええまあ、変ですか?」
僕の質問にあっさり答えて、エインヘリャルたちはアデル以外びっくりした。エインヘリャルには現地語なんて全く理解できないし、習得も困難だとメリッサは言っていた、現に僕は老人が何を言っているのか全く理解できなかった。ロハ民族の言葉を勉強していたナオコも驚いた様子だった。
「すごーい、お姉ちゃん発音がきれいだし、めちゃくちゃ流暢で訛りも少ないし、ママみたいに話してたよ」
「え? はあ、まあ、え?」
メリッサとエイミアが驚いて、
「これはすごいことだぞ、エインヘリャルで現地語を話せるのはナオコがぎりぎり片言で話せるぐらいか、もともとこの世界の住人かだぞ」
「そうよレイラ、この世界の知識は私もあるけど貴女みたいに綺麗に話せる異世界人は初めてよ、どういうこと?」
と、賞賛を述べ、アデルがため息をついてこう言った。
「こいつやたら警戒心がないから、やたらめったら、現地の奴に話しかけまくって、マネしてたらいつの間にか、習得してたみたいなんだぜ、ありえないだろ、普通」
それに対しユリアは少し怒った様子だった。
「……レイラはものすごく努力したんですよ、私に発音とか聞いたり、単語とかニュアンスとか文法とか、でも何となくできちゃったんです。レイラは。ほんとにスゴイことなのに、本人はそれが良くわかってなくて……はあ……」
「ユリア、何で不機嫌なの? おしゃべりできるの楽しいじゃない、なんで怒るの?」
きょとんとしているレイラに、不幸を自覚できない彼女は、自分の才能すらも自覚できないのか、ユリアが頭を抱えるはずだ。僕も少しため息をついて、「とりあえずレイラ、市役所に案内してくれ」と、頼んだ。
市役所に行くと見たことのあるフリフリのゴスロリ服を着た蒼髪の女の子がいた、……ララァだ。
「あ、ご主人様もマハロブについたんですねー、長い旅路だったでしょう、マハロブは豊かですからゆっくり楽しんでくださいねー」
「ララァ、いつの間にかいなくなったと思えば、いつの間にか現れたりしないでくれ……」
「いえいえ、私は神様のもと、汗をかいて皆さんのために頑張ってたんですよ、ええ、大変でした。と申しますか、私もともと教会団に居たので、マハロブに詳しいですよ、私の庭みたいなものです。
エイミアさんはアウティスさんのもと各地を飛んでましたから、あまりマハロブの勝手がわからないのでは?」
「あ? あんた、神階第一階層の私に向かってマウント取る気? 喧嘩なら買うわよ」
「まあ、まあ、誤解です、太陽のごとき貴女に私みたいなミミズがかなうわけがないじゃないですか、ええ、敵いませんとも、だって……」
「ちょっとまった、まった。闘技大会に参加したいのだがララァどうすればいい?」
僕の言葉になる程っと手の平にポンと握りこぶしを置いたララァは、喜んで手続きの説明をし始めた。
「まず、闘技大会の事務局にご案内しますね、登録が済むと、参加パーティーは館が貸し与えられます。あ、壊さないでくださいね、割と高価な調度品もありますので、あと、闘技大会が開かれる一週間後に館に使者がやってきます、詳しい話はその人に聞いてください。
でも残念ながら、わたくし、教会団を抜けてしまいましたから、詳しいルールは存じておりません、こんな感じでいいでしょうか?」
「ああ、ありがとうそれ以上の説明はいいから事務局とやらに案内してくれ」
こうして僕たちパーティーは、手続きを済まし、館で旅の疲れを休めた。さてこれからが勝負だ。闘技大会、絶対に勝たねば……!
「……はい」
メリッサの掛け声のもとサラがヤカバの檻に向かい開けていく、僕たちはまた戦術訓練をする、内容が内容なだけに、訓練を繰り返して、体に染みつくまでにならないと機能しない、非常に高度な戦術だと僕は思う。
だいぶ、練度が上がったおかげであっという間にヤカバが散っていく、それを見てさらに効率化を求めてメリッサの指示が飛ぶ。
「フォーメーション全体を押し上げるぞ、ミーナ、レイラ、ブライアン、アデル、ダイアナ、ラインを上げろ、距離感を保ちつつ、スペースが生まれないようにしろ!」
「了解!」
僕たちは前進して、ヤカバ達へと距離を縮める、近くであれば銃はさらに当たりやすくなる。また、逆に遠くであると一対一の関係になり、当たる可能性が低くなる、近づくと、チームである以上、必然近くに行けば行くほど、相手に一対二やそれ以上の瞬間的な数的優位が生まれ、さらに銃撃が効率化し当たりやすくなる。
しかし、近くなり過ぎれば反撃を受ける、それを防ぐよう、距離を保ち、細かくポジションの指示がメリッサを飛ばしていく。メリッサはよく考えている。銃の特性を生かしつつサッカーの概念そのものを昇華した戦術は素晴らしい。
そしてヤカバの層が薄くなり、相手は前がかりになってきた。それを見てメリッサは新たな指示を僕に送る。
「佑月、敵の陣を突破しろ、裏のスペースを使い、後ろから狙撃していけ!」
「わかった!」
これは動物の心理で、後ろから攻撃されると、非常に混乱を始めてしまう、集団になればその恐怖はヒステリックになるよう駆り立てる。前がかりになることで生まれた裏のスペースへ僕は駆け込み、どんどん後ろからヤカバを狙撃していき、あっという間に、相手は崩壊した。
あまりにもすごい速さで勝負がついたことに、皆が驚いた。
「よし! みんなよくやった、我々は強い、これを実戦でやれば必ず勝てる! 以上、解散!」
その掛け声でみんなはリラックスして、非常に気持ちのいい表情をしている、僕も同じだ、これだけうまくはまるととても気分がいい、安心しつつメリッサとナオコのもとに行った。
「メリッサ、お疲れ様!」
「佑月もお疲れ様だ! 今日は上手くいったな」
メリッサも確かな感触があったようで上機嫌だ。ナオコもうれしそうに僕たちに言った。
「お疲れ様、パパ! ママ! 二人ともすごくかっこよかったよ! パパとママはホントに強いんだね!」
「ああ、そうだぞ! パパは強いんだよ、ははは……」
ナオコを抱きかかえて僕の顔まで持ち上げる。大切な僕の家族、僕の娘、僕には帰る場所がある、こんなにうれしいものはない。
「あれ、この子……」
ナオコがぽつりとつぶやいた、よくみると僕の足元でヤカバが足の匂いを嗅いでいる。やめてくれ、匂いは気を付けているつもりなんだが、なんせ中世の環境ではなあ……。
「どうやらコイツ、親とはぐれた子犬らしいな、やたらめったら私たちがヤカバを追い払う訓練をしているもんだから」
メリッサの言葉に、ナオコは「可哀そう……」と呟いた、ナオコは独りで物乞いをしていたんだ、その寂しさをかんじたのだろう、僕は言葉を失った、メリッサも同様に戸惑っていた。
「……ねえ、パパ、ママ、この子連れて行っていいかな……?」
「いや、それは……その……」
これは僕たちの責任でもある、ナオコの言葉にメリッサでさえもまごついてしまうのも当然だ。この子が群れに戻れなかったらきっと死んでしまうだろう。僕とメリッサは目を合わし、お互い罪悪感が重くのしかかり、沈黙してしまった。だから思い切って僕は話を切り出した。
「な、なあ、メリッサ、この子の名前何にする?」
「え⁉ ええっ? いや、まあ……その……ナオコ、お前世話ができるのか?」
「うん頑張る!」
「そ、そうか? ……頑張るか、そうか、はは……、じゃ、じゃあ、ナオコが日本人名だから、それにちなんでルミコにするか!」
「ルミコ……? うん、変わった響きだけど、いいね! ママ、パパ、ありがとう!」
「ちゃんと世話するんだぞ、生き物を飼うのは大変だって言うからな……いてっ⁉」
ナオコの言葉に僕が諭そうとすると、メリッサが僕の足を踏んだ、そして僕の前に近づき、「無責任……!」と、凄い勢いでにらまれた。わかってる、わかってる、ごめんよ、本来なら僕がダメだっていうべきだったんだろ、でも、仕方ないじゃないか。はあ……。
ナオコは喜んでヤカバとじゃれていた、新たな仲間の一匹が増えて、メリッサの小言を聞きながらそのままマハロブへと向かい僕たちは到着した。
かなり大きな都市で城壁も立派だ、見た感じ巨大な教会らしき建物もあった、まさに富と権力の象徴だ。
「エイミア、城門の門番に都に入る許可をもらう、ついてきてくれ」
「はい、はーい、わかったわ」
教会団とコネがあるメリッサと教会団の審問官を務めるアウティスのヴァルキュリアが二人そろって門番と交渉し始めた。やはり二人そろっていれば頼もしくあっさり都へと入る許可が取れた。
城門を抜けると、流石、聖都というだけあって、余りにも人が多く盛んだ、ミランディアよりも人が多い。
「聖都マハロブは人口36万人の大都市よ、敷地も広く、各商人の本拠地も置かれて、とてもにぎわっているわ」
エイミアがマハロブを紹介し始めた、中世ヨーロッパの都市で36万はかなり多いな、市民が食うための農作物とかの輸送が大変そうだ、車やトラックさえない時代だ、大通りですら舗装されてないところもあったため、まともに馬車すら走れない場所も多かったのに。
そう言えば個々の周辺は道路が舗装されていたな、市民がこれだけいる以上、水道関連も大変そうだ。
「で、どうするんだ? 着いたはいいものの、どこに行けば良いか知らされてないぞ」
メリッサの質問にエイミアは首を振る。
「私もわかんない、知らされてないもん、教会団本部に乗り込む? 危険を承知で」
「エイミア、その無計画さはやめてくれないか、敵の本拠地に何の準備なしに、乗り込むつもりか?」
エイミアとメリッサはどうやら困っているようだ、二人は話し合いながらどこに行けば良いか決まらないらしい。そこで、レイラがいきなり言い出した。
「じゃあ、私、街の人に闘技大会のこと聞いてきますね」
「お、おい待てレイラ、敵地だぞ、それにお前エインヘリャルだから言葉が通じないだろう!」
メリッサの静止も聞く素振りもなく、市民の男の老人にレイラは話しかけた。
「ああ、すみません、闘技大会ってどこで開催されるんです?」
「闘技大会、アンタ外人みたいだけど、参加するのかい?」
「はい! そうなんです、どこ行けば良いかわからなくて……」
「ああそれじゃあ、市役所に聞くと良い、うちの役人はきっちりしているから」
「市役所にはどう行けば良いんです?」
「ああ、それはね……」
二人が僕には理解不能の言葉で談笑していた。ど、どういうことだ。ユリアとサラ以外のヴァルキュリアがとても驚いていた。そしてレイラは老人に礼をした後こちらへと戻ってくる。
「どうやら、市役所に行けばわかるそうですね、道は聞きました、案内しますね」
「ちょ、ちょっと待て、今現地人と話して、君は言葉が理解できたのか?」
「ええまあ、変ですか?」
僕の質問にあっさり答えて、エインヘリャルたちはアデル以外びっくりした。エインヘリャルには現地語なんて全く理解できないし、習得も困難だとメリッサは言っていた、現に僕は老人が何を言っているのか全く理解できなかった。ロハ民族の言葉を勉強していたナオコも驚いた様子だった。
「すごーい、お姉ちゃん発音がきれいだし、めちゃくちゃ流暢で訛りも少ないし、ママみたいに話してたよ」
「え? はあ、まあ、え?」
メリッサとエイミアが驚いて、
「これはすごいことだぞ、エインヘリャルで現地語を話せるのはナオコがぎりぎり片言で話せるぐらいか、もともとこの世界の住人かだぞ」
「そうよレイラ、この世界の知識は私もあるけど貴女みたいに綺麗に話せる異世界人は初めてよ、どういうこと?」
と、賞賛を述べ、アデルがため息をついてこう言った。
「こいつやたら警戒心がないから、やたらめったら、現地の奴に話しかけまくって、マネしてたらいつの間にか、習得してたみたいなんだぜ、ありえないだろ、普通」
それに対しユリアは少し怒った様子だった。
「……レイラはものすごく努力したんですよ、私に発音とか聞いたり、単語とかニュアンスとか文法とか、でも何となくできちゃったんです。レイラは。ほんとにスゴイことなのに、本人はそれが良くわかってなくて……はあ……」
「ユリア、何で不機嫌なの? おしゃべりできるの楽しいじゃない、なんで怒るの?」
きょとんとしているレイラに、不幸を自覚できない彼女は、自分の才能すらも自覚できないのか、ユリアが頭を抱えるはずだ。僕も少しため息をついて、「とりあえずレイラ、市役所に案内してくれ」と、頼んだ。
市役所に行くと見たことのあるフリフリのゴスロリ服を着た蒼髪の女の子がいた、……ララァだ。
「あ、ご主人様もマハロブについたんですねー、長い旅路だったでしょう、マハロブは豊かですからゆっくり楽しんでくださいねー」
「ララァ、いつの間にかいなくなったと思えば、いつの間にか現れたりしないでくれ……」
「いえいえ、私は神様のもと、汗をかいて皆さんのために頑張ってたんですよ、ええ、大変でした。と申しますか、私もともと教会団に居たので、マハロブに詳しいですよ、私の庭みたいなものです。
エイミアさんはアウティスさんのもと各地を飛んでましたから、あまりマハロブの勝手がわからないのでは?」
「あ? あんた、神階第一階層の私に向かってマウント取る気? 喧嘩なら買うわよ」
「まあ、まあ、誤解です、太陽のごとき貴女に私みたいなミミズがかなうわけがないじゃないですか、ええ、敵いませんとも、だって……」
「ちょっとまった、まった。闘技大会に参加したいのだがララァどうすればいい?」
僕の言葉になる程っと手の平にポンと握りこぶしを置いたララァは、喜んで手続きの説明をし始めた。
「まず、闘技大会の事務局にご案内しますね、登録が済むと、参加パーティーは館が貸し与えられます。あ、壊さないでくださいね、割と高価な調度品もありますので、あと、闘技大会が開かれる一週間後に館に使者がやってきます、詳しい話はその人に聞いてください。
でも残念ながら、わたくし、教会団を抜けてしまいましたから、詳しいルールは存じておりません、こんな感じでいいでしょうか?」
「ああ、ありがとうそれ以上の説明はいいから事務局とやらに案内してくれ」
こうして僕たちパーティーは、手続きを済まし、館で旅の疲れを休めた。さてこれからが勝負だ。闘技大会、絶対に勝たねば……!
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