ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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ウェディングロード

第百四十二話 下山そして

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 山を登るのは困難だけど、山を下りるのは面倒だ。しかし、登るよりもずっと気が楽になる。山から見える木々や花に風流を感じながらゆっくりと降りていく。先頭に立って降りていくのはシェリー、どんどん進んで僕たちをおいていく。それをブライアンがどうやら気に障った様子だ。

「ちょっと、シェリーさん! 子ども連れなんですよ、もっとペースを合わせてください!」
「あーい? そんなら先に行ってるよ、あたしはあたしのペースで行くだけさ」

 その言葉にブライアンは彼女をにらみつける。

「何言ってるんですか! パーティーなんですよ! 自分勝手な行動は慎むのが当然でしょう」
「あー? それがあんたが言えたことかい、ブライアン君」

 ぎょっとした顔したブライアン、何かシェリーは知っているのか。

「貴女には関係ないでしょう、僕の仲間を殺したのは貴女ですから」
「確かに殺したよ、でもね、アンタのせいでもあるんじゃないか、ブライアン君」

 気まずい雰囲気が流れている。これ以上まずい事態になる前に、ここは止めよう。そう思った矢先にアデルが、余計なことだというのに、口を挟んできた。

「へえ何か知ってるんだアンタ、是非聞きたいね」

 雰囲気を察したレイラが「アデル、黙ってて」と言うけど、シェリーの口は止まらなかった。

「コイツ、盾役のくせに、形勢が悪くなると一番早く逃げ出したんだよ。なあ、ブライアン君」
「それは……」

 ブライアンは押し黙る。アデルは嬉しそうにしながら彼を嘲笑した。

「へえ! 仲間思いのブライアンが、仲間を見捨てて逃げ出したんだ。そりゃあ、面白いな」

 これ以上は止めよう、そう思った瞬間、エイミアが言葉の弾丸をぶっ放した。

「あんたたちいい加減にしなさいよ! 過去は過去、今は今でしょ! 私たちこれから佑月とメリッサちゃんの結婚式に行くんでしょ、こんなゴタゴタした状態で心の底から祝えるの! せっかくの結婚式をアンタたち台無しにする気!? 少しはメリッサちゃんの気持ちを考えなさい! ねえ、メリッサちゃん?」

 うれいを帯びて少し色っぽく見えたメリッサが静かに語る。

「うん……どうせならみんなに祝って欲しい。私と佑月の門出だから」

「ほら、聞いたでしょ! もうこの話もおしまい。ブライアンも仲間を失った思いからシェリーに突っかかるのもわかるけど、二人とも仲間になったんだからそこは押さえなさい!」

 ブライアンは憔悴しょうすいしきった顔で「わかりました……」とつぶやく。エイミアの叱りにシェリーは普段の様子に戻ったようだ。

「わかったよ、せっかくの結婚式だ。女の晴れ舞台だもんな。許してやるよ。ならみんなで、盛大に祝おうじゃないか!」

 オーと声を上げたのは女性陣だけだったが、シェリーのヴァルキュリアである、20歳ぐらいの背の低い女性の姿をした金髪のダイアナは「皆さーん仲良くしましょうね仲良く」と新入りながら雰囲気を盛り上げてくれた。

 仲間を見捨てたことを指摘されて落ち込んでいた、ブライアンに僕は「気にするな」と肩を叩く。確かにそのことは不安だがそれよりも僕たちは先に進まなければならない。

 夕食の時間、メリッサの料理に舌鼓したつづみを打った後、シェリーは食事に大喜びでメリッサの肩を叩き始めた。

「アンタの飯美味いねー、気に入った。佑月に飽きたら私が嫁にもらってやるよ!」

 と、上機嫌だ。ダイアナは上品に微笑みながら食が進んだようでこれまた上機嫌。僕の妻の料理が口に合ってよかったよ。

 飯の時間になるとみんな雰囲気が温かくなる、ホント、メリッサ様々だ。

 就寝の時間になると、僕はそわそわし出した。横に寝ているメリッサに「起きているかい」と声をかける。メリッサも僕と同じで眠れなかったのだろう「起きてるぞ」と返答してくる、僕は静かに起き上がった。

「ちょっと星空を見ないか」

 そう言って僕たちは鬱蒼うっそうとした木々の中から少し開けた場所に出ると一面が星の光で散りばめられた、温かい風景に包まれる。

「僕の世界とは違う星空だけど、美しいのは変わらないよね」
「そうだな、何か私たちが星に温かく見つめられているみたいだな」

 女性らしい優しい表現をするメリッサ。それを見ると僕は安心から深いため息が出てくる。

「どうしたんだ?」

 銀色の髪の毛が星々の夜空に輝き碧い瞳がきらりと光る。

「何やら気が重い、もちろん仲間のことだけど」

 結婚式のことで気が重いと解釈されないように、言葉を選んで話す。結婚式に不安なのは二人とも一緒だ。

「そうだな。特徴がありすぎる仲間がそろったな」
「ああ、そうだね」

 メリッサは碧い瞳を夜空に向けた。

「まず、レイラは精神が弱い。他人に依存しすぎている。誰かがそばにいないとまともに戦えない」

「そうだね、だから僕は仲間だとか、一緒だとか、ガラにもなく芝居じみた台詞を言わなきゃいけない。そうじゃないと、彼女はとてもじゃないけど自分で勇気を出して行動出来ないタイプだ。彼女の扱いはとても難しい」

「でも他人を治療する能力は貴重だ。パーティーにいるといないとで戦術がまったく変わってくるだろうな」

「そうだな、次にアデルだが……見ての通り性格がねじ曲がっている。チームの和を乱す。僕の視点から見ればだが物を創作する能力は素晴らしい。あの能力を生かせれば、かなりの戦力になるだろう」

 メリッサは僕の批評に続いた。

「ブライアンは仲間を見捨てた件は気になるな。いざという時仲間を守ることができないとパーティーの結束力なんてすぐに消えてしまう。特に壁役では精神面が重要だ」

「そうだね、あとシェリーはまだ仲間に入ったばかりでよくわからないけど、やっぱり戦士だけあって気位が高い。エゴが強い。実力は確かなんだけれども扱いには気をつけないといけないな」

「あの女は強い、寝首をかかれないよう気を付けることだな、しかし、問題児ばかりだな、リーダー」

 僕はリーダーという言葉に少し吹く。僕がリーダーか、ガラじゃないと思いながらも僕がまとめなきゃいけないんだよな。

「……メリッサ、僕を支えてくれるかい?」
「もちろんだ、ダーリン」

 彼女のその言葉に急に体が熱くなる。

「ダーリンって……」
「いいだろもうすぐ夫婦になるんだし」
「そうか夫婦になるんだな」

 僕は寝っ転がり星空を見上げる。

「メリッサ、絶対に結婚式成功させような」

 その言葉にメリッサは深く頷いた。

「ああ、最高の結婚式にしよう。こんなにも世界に終わりが迫っていても、光があるんだと神様に見せつけよう」

 その言葉に勇気づけられて僕とメリッサは手をつなぎそっとキスをした。

 夜が更け、目を覚ましたあと、僕たちは少し歩いて行けば、もう町が見えてくる。エイミアが先頭に立って指さした。

「見て! あれがコルドよ」

 パーティ各々が声を上げる、コルドの町は山の中で独特の装いの街並み、だがそれは風情があってとても美しかった、僕たちの結婚式の場所にふさわしいと思い、メリッサの手をしっかりと握ったのであった。
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