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ウェディングロード

第百四十一話 頂上での戦い②

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 風が冷たく流れていく、雲の上の戦い、赤い剣士は白い息を吐き、金色の民族文様のネックレスが橙色だいだいいろの光を跳ね返した瞬間、空気を切り裂き軽々と剣を振り下ろす!

 僕はそれに先んじて、セミオートで弾幕を張った。あらかじめ察していたシェリーは剣を振り下ろすことで弾を跳ね返した。まずは一手、銃口を見て弾の予測をしていると感じた僕は、銃口をシェリーの足下へ向ける。

 やはり、右足を外に出し右回りに近づいてきた、僕はそれに合わせて彼女の胸部に銃を放つ! 静かに鳴り響いた銃声、シェリーの胸をわずかにそれて、服を切り裂き皮一枚分貫いたのみだった。

 僕の右肩が切られたことで銃の精度が落ちているようだ、赤い剣が僕の腕を宙に放たんと振り下ろされる!

 だが、赤い剣が伸び地を切り裂いただけだ。すでに僕はもう彼女の剣筋に慣れていた、そこから予測をして、あらかじめ体を動かすことを決めていたため、際どい攻撃にも関わらず、紙一重でかわした。

 シェリーは目を見開いている。こう思ったはずだ、――完全にとらえたはずなのに――と。

 僕は静かにシェリーのこめかみに銃口を当てる。これでこの戦いの形勢は決まった。彼女はビクリとし固まった。

 そして、僕が無表情でそれをただ見つめていると、シェリーは怒った様子で「馬鹿にしているのか!?」と僕の腕を剣で振り払おうとする、だが僕は悠々と眺めながら腕を上げるだけで良い。負けじとシェリーは剣を振り回すが僕は全て紙一重でかわしていく。

 どうもシェリーは動揺を隠せない様子だ。自分より強い相手と戦った経験がないのだろう、いったん距離をとりこちらの様子をうかがっていた。

 僕の余裕の態度に彼女の気がそがれ、興奮が冷めたのか、急に痛みがむしばんだのだろうか、撃ち抜かれた太ももをかばっている。戦士の気性なのか顔には出さない、だがシェリーは追い詰められていることをきっと感じているのだ。様子がおかしい。

 僕は、痛めた右足をさする。痛むぐらいで走れるな、よし! こちらから攻めよう。

 セミオートのまま相手の胸部分に弾を集めて放った。彼女は銃口から察知し、かがむことで避けた……つもりだったのはずと思っていたと見えるが、僕はそれを読んでいた、低い体勢であるシェリーの左肩を撃ち抜く! 

 モロに食らったため銃弾は彼女の体奥深くまでおそらく貫いた。苦しそうに声を上げてうずくまる。僕はそれを冷たい目で見つめながら、彼女へと走り込み頭に銃を当てた。

 彼女は震えていた。武者震いか、恐怖かわからない。得体の知れない何かに心がむしばまれているのではないか、顔が引きつっている。

 だが趨勢すうせいが決まったところで負けを認めるような人間なら戦士ではない、彼女の左手はもう力が入らないのか、右手の片手一本で僕の腕を薙ごうと剣を振るった。

 片手であっても鋭い剣先。だが僕はそれをただ腕を上げることでかわす。シェリーの咆吼ほうこう、僕を切り裂くため何度も振るおうと片手一本で剣を扱うのだけれども、全てそれを紙一重でかわす。

 これほどの屈辱と恐怖はないはずだ。強気だった人間が崩壊していくその様をゆっくりと眺めていた。

 汗まみれで息も切れ切れのシェリーは、剣を投げ出し、大の字で地に横たわった。

「殺せ……」

 実力差が出てしまった。そうなれば彼女もいさぎよい。僕は顔元に銃口を向ける。ネックレスを握って目をつぶって最後の時を待つ。

 ……何も言わずただ、静かに僕はシェリーに向けて銃を放った。

 ──ドォン!!

 シェリーは目を閉じたまま静かに、眠っているようだった。オレンジ色の太陽が輝きはなっている。それに照らされて彼女の黒い肌も色味を帯びていき、不思議な光景に目を奪われる。生と死の狭間の姿を僕は見た。

 シェリーはハッと目を開く、彼女は自分が生きていたことに驚いたようだった。彼女は顔の右横を見る、弾痕だんこんが地面に焦げ付いていた。

「何故? 何故……殺さなかった……?」

 シェリーの問いに僕は、

「僕のパーティはね、前線の人間がいないんだ。勇気があって強い人間を僕は探していたんだ」

 僕のその言葉に彼女はぷっと息を漏らし笑い始める。メリッサが口をはさむかと思ったが、そんな無粋な真似はしないようだ、戦士の矜持きょうじだな、たぶん後で文句を言うだろう彼女なら。

「こんな口説かれ方はじめてだよ、私が欲しいって言うのかい。こいつは傑作けっさくだ……ははは」

 ひとしきり笑った後、彼女はすっと涙を流す。恐怖から解放されたからではないと思う、戦いに負けたあの苦い感じを噛みしめてしまったのだろう。一筋の涙が光に当たりきらめき輝く。

「いいよ、あたしは負けたんだ。あんたの好きにすれば良い。ただし……条件がある」
「なんだい?」

「……二食は食わせてくれないと嫌だね。あたしは空腹が嫌いなんだ」
「うちは三食だ、それに、うちの飯は美味いぞ」
「そうかい、そうかい、はは、いいね、楽しみにしている」

 そう言って僕とシェリーは握手を交わす。白い雲の海に包まれながら、緑の大地が萌え誇る中、オレンジ色の太陽に照らされて、僕たちは光り輝いていた。そう、山の頂上でシェリー。僕は彼女と出会った。
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