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ウェディングロード
第百三十九話 雲海
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「レイラ!」
僕の叫びも虚しく崖から滑り落ちていくレイラ! それを見たメリッサは崖を駆け下り、レイラの手を取る。片手で宙づりの彼女を支えるのは、メリッサでもかなり苦しそうだった。僕はメリッサのもう片方の手を取り、二人を支えた。
「えっ……」
レイラは何が起こったかわからない様子でぼうっとこちらを眺めている。メリッサは励まそうと言葉を投げかけた。
「何をやってる! ぼやっとするな、置いていかれたくないだろ、早く崖にしがみつけ!」
「は、はい!」
慌てて崖にしがみつくレイラに僕とメリッサは息をつく。動揺を隠せないレイラは「すみません。すみません」と謝っていた。メリッサはため息をついた、どうやら無事に済んだようだ。
「わびなら後で聞く、今は集中しろ」
「は、はい……!」
僕は、メリッサの言葉に付け加えた。
「気にするな。僕たちは仲間だ、一人じゃない」
その言葉にみるみる顔色を取り戻すレイラは喜んだ声で「はい!」と頷く。そして彼女も勇気を奮い立たせて崖をよじ登った。そうか仲間か……。自分で言っておきながら、僕にはその実感がなかった、あまりにもメリッサとナオコとの旅に慣れ過ぎてしまっていたからだ。
一時間ほどたった後、ようやく崖の終わりが見えた、上でエイミアたちの談笑が聞こえてくる。ナオコを背負っている僕は「ナオコ行くぞ、しっかり捕まっていろ」と声をかけた。
ナオコも僕を力一杯抱きしめて「うん!」と叫ぶ。僕は崖のはじに手を差し伸べ、体を持ち上げ、一気に崖の頂上へと倒れ込んだ。息をととのえた後、メリッサを見た。
「いけるか、メリッサ!」
「当然至極! 私を誰だと思っている」
そう言うと矮躯を巧みに扱って難なく崖をよじ登った。後はレイラだけだ。
「後もう少しだ頑張れ、レイラ!」
「……はい!」
声に余裕はない。震える腕で少しずつ崖を登っていき、ついに崖のはじまで手を伸ばす。そこから体を持ち上げる力はレイラにはもうない。僕とメリッサは彼女に手を差し伸べ、崖の頂上へと持ち上げた。レイラはひどく息を切らした様子だった。
「あ、ありがとう……ござい……ます!」
そして一気に僕たちは倒れ込んだ。すぐさま僕は周りを見た。
「全員いるな!」
その言葉に一同頷いた。これでなんとか困難を一つ乗り越えたか。こうして仲間一人欠けることなく僕たちは一つの試練を乗り越えた。
昼過ぎまで僕たちは山の頂上を目指して歩く、途中で疲れを癒すために休憩を取った。アデルが用を足す素振りを見せたので、僕もそれに付いていく。
コイツは、飄々とした様子で「アンタも小便?」と聞く。何も言わず小さな崖の上から僕たちは用を足す。僕の用事はこれだけではない。
「なんで、崖を登るときにレイラを支えてやらなかったんだ?」
彼にとって予想外の質問だったのか、何故? と言った表情だった。
「放っとけばいいんだよ。勝手に付いてくる」
「レイラは一人では登れなかった、それがわからなかったのか?」
「僕も冷たいと思いましたね」
横を見るとブライアンが用を足している。なんだ付いてきたのか。おせっかい焼きは僕だけではないようだ。
「見ていればあれこれと、レイラさんにきつい言葉を投げつけているようですけど、いざという時、支えてやらないと女性は怖いですよ」
その言葉にアデルは居心地悪そうにしていた。
「いいんだよ。女なんて優しくすれば図に乗るし、おだてれば金使うし、あれこれ愚痴ばっかり言いやがる。突きはなしとけば良いんだよ」
その言葉に僕は苦虫を噛みつぶしたような顔をしてしまっただろうな、男の僕でもそれは余りにもひどいと思った。余計なことと思いながらも、アデルに問いただす。
「レイラはお前と付き合ってるんじゃないのか? 確かそう言ってただろう」
そう言うと、アデルは平然とした様子で、
「ああ、俺の女だよ、別にいいだろ、あいつが勝手に俺に付き合うって言って引っ付いてきたんだ、放っておけばいい、どうせそんな女だ」
と言ったのは驚いた。ブライアンと僕は顔を見合わせる。アデルはさっさと用を済ませてみんなの元に帰っていった。ブライアンは不思議そうに「照れ隠しなのか、本気なのかわかりますか?」と僕に尋ねてきた。僕はただただ「わからん」と答えた。
休憩を済ませた後、僕たちは距離を稼ぐため一歩でも多く山を登る。そして日が傾く。夕食を済ませた後、各自でバラバラになる。寝るまでに散歩したり、おしゃべりしたり様々だ。ゆっくりとレイラがみんなと外れて森に向かったのを見て、僕はそれを静かに追った。
「──夜の森は危険だぞ」
僕の言葉に「きゃっ」とレイラは驚き、僕であるのを確認すると、胸をなで下ろした様子だ。
「あの、もっと開けたところで星空が見たくて、つい……」
「昼間の崖はよく頑張ったと思うよ」
「いえ、佑月さんのおかげです。私、一人では絶対登り切れませんでした。ありがとうございます!」
そう歓喜の声を上げるや否やレイラは自然と僕の胸の中に飛び込む。……ちょっと、ちょっと、待ってくれ。僕は慌てて彼女の肩を持ち引き離した。
「いや、その、すまない……僕には」
「あ! そ、そうですね、メリッサさんがいらっしゃいますものね。申し訳ありません、ただ佑月さんが投げかけてくれた言葉がかっこよくて、つい、ドキドキしてしまって……」
「僕が何か言ったかな?」
「はい、僕に付いてこいとか、一人じゃないとかです。私、とても嬉しかったんです。私は自分だけじゃあ何もできないから、とても守られている感じがして胸が熱くなりました!」
必死でみんなして登っていたとしか憶えてない僕は、そんなこと言ったのかとその記憶がなく、どうして良いかわからずただ「ああ……」と頷くだけだった。時間がたつと彼女は少し落ち着きを取り戻す。そうだ、用件があるのだった。
「……あの、いいかい、君はアデルと付き合っているんだよね?」
その事を僕が尋ねると、レイラの顔がみるみる青ざめていった。
「何言ってるんですか、違います! あれは二人の冗談です、私、付き合ってなんかいません! 誰がそんなことを言ったんですか、本気にしないでください!」
すごい剣幕の表情に僕は驚きを隠せない。前も付き合ってるとか何とかいってたが、なんだ冗談なのか、そうか、そうなのか……。
「いや、違うんなら良いんだ。そう……なんだ、君はアデルと付き合っていないんだね?」
「はい! そうです! 誤解しないでくださいね……!」
そうして熱っぽく潤んだ目で僕を見つめてくる、いや、そういう目をされると困るんだよ、今、気分が多分盛り上がっているのは理解できても、女性というのはこう、雰囲気に流されて何するかわかったものではないと男の自分は思った。
「そうか、わかった。夜の森は気をつけるんだよ」
僕はそう言ってこの場から立ち去った。後ろから「佑月さん……」と小さな声が聞こえた後、少し何か僕は心のどこかで納得のいかない部分があったが、今問い詰めるのは危険と思いそのままにしておいた。
朝が来て霧が濃くなっていた。僕たちは、はぐれないようにグループごとに固まって歩くことにした。僕のグループは僕とメリッサとナオコとレイラとユリアだ。敵が遭遇する可能性を考えて僕のグループは先頭だ。霧で後ろが見えない。
「みんな付いてきているかー!」
大声で叫んだ僕はみんなの状態が気になって仕方がない。後ろから「お~!」と聞こえたときは安心した。徐々に霧が晴れてくる。
霧が晴れると僕たちは雲の上にいた。広がる雲海。隙間から見える緑の地上。白い息を吐きながら不思議な幻想的な風景に心が奪われた。
「すごい……!」
レイラが感嘆の声を上げる。メリッサは碧い瞳をキョロキョロさせている。
「ねえ、パパ。雲が下にあるよ! 雲がバーと広がって」
表現出来そうもない感動的な風景にナオコは胸を躍らせていた。ユリアは歩きながら寝ていた。
「ここらへんでみんなを待つとするか」
と、僕たちは少し開けた場所で休憩をした。他のグループも続々たどり着いてくる。
ブライアンは感激した様子で「上の方はこんなんになっていたんですね」と言いながら声をうわずっている。エイミアはまぶしそうに雲の海を眺めていて、僕たちの行き先の道を越えた先に広がる、緑の大地に古びた町を見つけた。
「あれがコルドよ」
そのときだ、彼女が指をさしたその先にゆらりと人影が現れた。
「──誰だ!?」
僕が叫ぶと突然マントを羽織った剣士が剣を抜き、こちらに走り込んでくる!
僕の叫びも虚しく崖から滑り落ちていくレイラ! それを見たメリッサは崖を駆け下り、レイラの手を取る。片手で宙づりの彼女を支えるのは、メリッサでもかなり苦しそうだった。僕はメリッサのもう片方の手を取り、二人を支えた。
「えっ……」
レイラは何が起こったかわからない様子でぼうっとこちらを眺めている。メリッサは励まそうと言葉を投げかけた。
「何をやってる! ぼやっとするな、置いていかれたくないだろ、早く崖にしがみつけ!」
「は、はい!」
慌てて崖にしがみつくレイラに僕とメリッサは息をつく。動揺を隠せないレイラは「すみません。すみません」と謝っていた。メリッサはため息をついた、どうやら無事に済んだようだ。
「わびなら後で聞く、今は集中しろ」
「は、はい……!」
僕は、メリッサの言葉に付け加えた。
「気にするな。僕たちは仲間だ、一人じゃない」
その言葉にみるみる顔色を取り戻すレイラは喜んだ声で「はい!」と頷く。そして彼女も勇気を奮い立たせて崖をよじ登った。そうか仲間か……。自分で言っておきながら、僕にはその実感がなかった、あまりにもメリッサとナオコとの旅に慣れ過ぎてしまっていたからだ。
一時間ほどたった後、ようやく崖の終わりが見えた、上でエイミアたちの談笑が聞こえてくる。ナオコを背負っている僕は「ナオコ行くぞ、しっかり捕まっていろ」と声をかけた。
ナオコも僕を力一杯抱きしめて「うん!」と叫ぶ。僕は崖のはじに手を差し伸べ、体を持ち上げ、一気に崖の頂上へと倒れ込んだ。息をととのえた後、メリッサを見た。
「いけるか、メリッサ!」
「当然至極! 私を誰だと思っている」
そう言うと矮躯を巧みに扱って難なく崖をよじ登った。後はレイラだけだ。
「後もう少しだ頑張れ、レイラ!」
「……はい!」
声に余裕はない。震える腕で少しずつ崖を登っていき、ついに崖のはじまで手を伸ばす。そこから体を持ち上げる力はレイラにはもうない。僕とメリッサは彼女に手を差し伸べ、崖の頂上へと持ち上げた。レイラはひどく息を切らした様子だった。
「あ、ありがとう……ござい……ます!」
そして一気に僕たちは倒れ込んだ。すぐさま僕は周りを見た。
「全員いるな!」
その言葉に一同頷いた。これでなんとか困難を一つ乗り越えたか。こうして仲間一人欠けることなく僕たちは一つの試練を乗り越えた。
昼過ぎまで僕たちは山の頂上を目指して歩く、途中で疲れを癒すために休憩を取った。アデルが用を足す素振りを見せたので、僕もそれに付いていく。
コイツは、飄々とした様子で「アンタも小便?」と聞く。何も言わず小さな崖の上から僕たちは用を足す。僕の用事はこれだけではない。
「なんで、崖を登るときにレイラを支えてやらなかったんだ?」
彼にとって予想外の質問だったのか、何故? と言った表情だった。
「放っとけばいいんだよ。勝手に付いてくる」
「レイラは一人では登れなかった、それがわからなかったのか?」
「僕も冷たいと思いましたね」
横を見るとブライアンが用を足している。なんだ付いてきたのか。おせっかい焼きは僕だけではないようだ。
「見ていればあれこれと、レイラさんにきつい言葉を投げつけているようですけど、いざという時、支えてやらないと女性は怖いですよ」
その言葉にアデルは居心地悪そうにしていた。
「いいんだよ。女なんて優しくすれば図に乗るし、おだてれば金使うし、あれこれ愚痴ばっかり言いやがる。突きはなしとけば良いんだよ」
その言葉に僕は苦虫を噛みつぶしたような顔をしてしまっただろうな、男の僕でもそれは余りにもひどいと思った。余計なことと思いながらも、アデルに問いただす。
「レイラはお前と付き合ってるんじゃないのか? 確かそう言ってただろう」
そう言うと、アデルは平然とした様子で、
「ああ、俺の女だよ、別にいいだろ、あいつが勝手に俺に付き合うって言って引っ付いてきたんだ、放っておけばいい、どうせそんな女だ」
と言ったのは驚いた。ブライアンと僕は顔を見合わせる。アデルはさっさと用を済ませてみんなの元に帰っていった。ブライアンは不思議そうに「照れ隠しなのか、本気なのかわかりますか?」と僕に尋ねてきた。僕はただただ「わからん」と答えた。
休憩を済ませた後、僕たちは距離を稼ぐため一歩でも多く山を登る。そして日が傾く。夕食を済ませた後、各自でバラバラになる。寝るまでに散歩したり、おしゃべりしたり様々だ。ゆっくりとレイラがみんなと外れて森に向かったのを見て、僕はそれを静かに追った。
「──夜の森は危険だぞ」
僕の言葉に「きゃっ」とレイラは驚き、僕であるのを確認すると、胸をなで下ろした様子だ。
「あの、もっと開けたところで星空が見たくて、つい……」
「昼間の崖はよく頑張ったと思うよ」
「いえ、佑月さんのおかげです。私、一人では絶対登り切れませんでした。ありがとうございます!」
そう歓喜の声を上げるや否やレイラは自然と僕の胸の中に飛び込む。……ちょっと、ちょっと、待ってくれ。僕は慌てて彼女の肩を持ち引き離した。
「いや、その、すまない……僕には」
「あ! そ、そうですね、メリッサさんがいらっしゃいますものね。申し訳ありません、ただ佑月さんが投げかけてくれた言葉がかっこよくて、つい、ドキドキしてしまって……」
「僕が何か言ったかな?」
「はい、僕に付いてこいとか、一人じゃないとかです。私、とても嬉しかったんです。私は自分だけじゃあ何もできないから、とても守られている感じがして胸が熱くなりました!」
必死でみんなして登っていたとしか憶えてない僕は、そんなこと言ったのかとその記憶がなく、どうして良いかわからずただ「ああ……」と頷くだけだった。時間がたつと彼女は少し落ち着きを取り戻す。そうだ、用件があるのだった。
「……あの、いいかい、君はアデルと付き合っているんだよね?」
その事を僕が尋ねると、レイラの顔がみるみる青ざめていった。
「何言ってるんですか、違います! あれは二人の冗談です、私、付き合ってなんかいません! 誰がそんなことを言ったんですか、本気にしないでください!」
すごい剣幕の表情に僕は驚きを隠せない。前も付き合ってるとか何とかいってたが、なんだ冗談なのか、そうか、そうなのか……。
「いや、違うんなら良いんだ。そう……なんだ、君はアデルと付き合っていないんだね?」
「はい! そうです! 誤解しないでくださいね……!」
そうして熱っぽく潤んだ目で僕を見つめてくる、いや、そういう目をされると困るんだよ、今、気分が多分盛り上がっているのは理解できても、女性というのはこう、雰囲気に流されて何するかわかったものではないと男の自分は思った。
「そうか、わかった。夜の森は気をつけるんだよ」
僕はそう言ってこの場から立ち去った。後ろから「佑月さん……」と小さな声が聞こえた後、少し何か僕は心のどこかで納得のいかない部分があったが、今問い詰めるのは危険と思いそのままにしておいた。
朝が来て霧が濃くなっていた。僕たちは、はぐれないようにグループごとに固まって歩くことにした。僕のグループは僕とメリッサとナオコとレイラとユリアだ。敵が遭遇する可能性を考えて僕のグループは先頭だ。霧で後ろが見えない。
「みんな付いてきているかー!」
大声で叫んだ僕はみんなの状態が気になって仕方がない。後ろから「お~!」と聞こえたときは安心した。徐々に霧が晴れてくる。
霧が晴れると僕たちは雲の上にいた。広がる雲海。隙間から見える緑の地上。白い息を吐きながら不思議な幻想的な風景に心が奪われた。
「すごい……!」
レイラが感嘆の声を上げる。メリッサは碧い瞳をキョロキョロさせている。
「ねえ、パパ。雲が下にあるよ! 雲がバーと広がって」
表現出来そうもない感動的な風景にナオコは胸を躍らせていた。ユリアは歩きながら寝ていた。
「ここらへんでみんなを待つとするか」
と、僕たちは少し開けた場所で休憩をした。他のグループも続々たどり着いてくる。
ブライアンは感激した様子で「上の方はこんなんになっていたんですね」と言いながら声をうわずっている。エイミアはまぶしそうに雲の海を眺めていて、僕たちの行き先の道を越えた先に広がる、緑の大地に古びた町を見つけた。
「あれがコルドよ」
そのときだ、彼女が指をさしたその先にゆらりと人影が現れた。
「──誰だ!?」
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