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ウェディングロード
第百二十八話 結婚式計画
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そのまま商人の館で一泊とめてもらった後、これから僕たちはどうするべきか相談し合った。そしてメリッサは少しうつむいて静かに告げる。
「教会団の本拠地に殴り込むよりも先にやるべきことができた」
僕はメリッサとエイミアの前でスープを飲みながら語り出した。途端、客間は静まりかえる。メリッサは照れて恥ずかしそうに顔をわずかに背ける。
エイミアは何があったのか興味津々の様子でこちらを眺めていた。ナオコは他の居間で館の者に面倒を見てもらっている。最近あの子は現地人と片言ながら話ができるようになったらしい。若い子は柔軟だ。
そしてメリッサは少し上目遣いでこちらを見たので僕がはっきりと宣言する。
「僕とメリッサの結婚式だ」
エイミアははっとした様子でメリッサを見た。……メリッサは静かにこくりと頷く。それを見てまばゆく輝いた顔でエイミアは拍手しはじめた。
「そっかー、おめでとう。決心したんだ! やるじゃん、お姉さん祝福するわ、おめでとー」
しっとりとした目でメリッサが小さく「ありがとう」とつぶやく。エイミアは僕とメリッサの表情を交互に見ながら言った。
「で、どこでするの、式」
「そこが問題なんだ」
深刻そうにメリッサがエイミアの方向を向いた。
「教会は教会団の一員だ、敵対する私たちの結婚式なんて面倒見てくれないだろう。そこで、エイミアに聞きたいのだけれど」
「何、なに?」
「教会団の手の及ばない教会がある町を知らないかと」
「あーなるほど」
納得した様子で頷くエイミア。ふむふむとあごに手を添えて考えをめぐらせて……いるのだろうか、ふりなのだろうか、わからないけど。なんかにやにや笑っている。怖いな……何を言うか予想がつかないから。
「それじゃあここから西に二つ山を超えたところにコルドという小さな町があるわ。そこの教会はかなり古くからあるティンクル教会といって、教会団とは独立した方針で布教活動を行っていてね、その神父のじじいが偏屈者で教会団も手を焼いていたわね」
「そこならやってくれそうかい?」
二人の話に割って入る僕。エイミアは僕の方を向いた。
「説得次第ね。教義に反する式を挙げるのは難しいから、二人の誠意次第かしら」
「なるほどそれならやってみる価値はあるな」
俄然メリッサはやる気だ。なるほどそれなら僕も腹をくくる。
「それじゃあコルドという町に行こう。そこで僕とメリッサの結婚式を挙げる」
はっきりとした僕の言葉に、深く頷く僕たち。そして両手を挙げて体を伸ばしてエイミアが口を大きく開けた。
「結婚式かー、うらやましい。いいなあ、ねえ、佑月なんとかならない?」
「危険な冗談へのコメントは差し控える」
僕はすぐさま砲撃を回避する。ちらりとこちらを見るメリッサ。ふう、あぶないあぶない。パスがえぐい。
「エイミアも出席してくれるのだろうか?」
不安げにメリッサがエイミアの顔をうかがった。
「それって参加者として、それとも新婦として?」
「参加者として祝福してくれるよな、エイミア」
僕はエイミアに釘を刺す。くすくす嫋やかに笑う金髪の女性、さらりとした細い髪の毛を指を通して、エイミアははっきりと言う。
「当たり前じゃん、お姉さんは大人だからね」
ほっと胸をなで下ろす僕とメリッサ。祝ってくれる人がいなければ式にならないから、不安だった。でもこれで大丈夫だ。
「ナオコちゃんに知らせた方が良いんじゃない?」
「もちろんそのつもりだ」
エイミアの当然の提案に同意してナオコを呼んだ。
「パパ~ママ~、話しって何?」
ナオコはパタパタと客間に入ってくる。メリッサは腰をかがめナオコの黒の前髪をさらりとなでる。優しそうな目をするメリッサにナオコは不思議そうに見つめていた。メリッサはまっすぐとナオコを見つめながら。
「あのな、ママとパパは結婚するんだ」
「結婚?」
幼いナオコには言葉の意味がわからなかったのだろうか、可愛らしく首をかしげる。僕がわかりやすく説明した。
「今まで、パパとママは心だけでつながっていたんだ。でも、今度からは本当の家族になるんだ。もちろん、ナオコも本当の娘として迎える。ナオコ、僕たちと本当の家族になるかい?」
難しそうに考えるナオコは、少しうんうんと考え込む。そして、どうやら彼女の心の中で納得した様子で、
「うん、パパはパパ! ママはママ! 私たち家族だね!」
その返事に僕とメリッサは安堵と興奮で二人してナオコを抱きかかえた。
「そうだ! 僕はパパだ」
「ママもちゃんとナオコのこと大切にするからな」
僕たちの笑顔につられて太陽のように晴れ晴れとした笑顔になったナオコ。
「わーい、パパ、ママ、ありがとう!」
僕はナオコを優しく抱きしめる。家族って良いな。僕はもう一人じゃない。一人じゃないんだ。
「──じゃあエイミアお姉ちゃんは何になるのかな?」
またもや邪魔をしようとエイミアが割って中に入ってくる。答えづらいことを聞いてくるなこの人は。赤の他人と言えば激怒するだろうし、エイミアも家族だと言えばメリッサが機嫌を損ねるだろうし、面倒くさい。
ナオコに無邪気に笑いながら、
「エイミアお姉ちゃんは、お姉ちゃん!」
「あうぅっ……」
と指摘されあっさりと子どもに撃退されてしまった。この人は詰めが甘いな。
すると、トントンとドアを叩く音がした。メリッサがドアを開けると、商人の召使いが現れた。
「あなた方に面会したいという方がいらっしゃっています。教会団の方という話しですが……」
メリッサの表情に僕たちは顔を見合わした。なんだなんだ、どうなっているんだ?
「教会団の本拠地に殴り込むよりも先にやるべきことができた」
僕はメリッサとエイミアの前でスープを飲みながら語り出した。途端、客間は静まりかえる。メリッサは照れて恥ずかしそうに顔をわずかに背ける。
エイミアは何があったのか興味津々の様子でこちらを眺めていた。ナオコは他の居間で館の者に面倒を見てもらっている。最近あの子は現地人と片言ながら話ができるようになったらしい。若い子は柔軟だ。
そしてメリッサは少し上目遣いでこちらを見たので僕がはっきりと宣言する。
「僕とメリッサの結婚式だ」
エイミアははっとした様子でメリッサを見た。……メリッサは静かにこくりと頷く。それを見てまばゆく輝いた顔でエイミアは拍手しはじめた。
「そっかー、おめでとう。決心したんだ! やるじゃん、お姉さん祝福するわ、おめでとー」
しっとりとした目でメリッサが小さく「ありがとう」とつぶやく。エイミアは僕とメリッサの表情を交互に見ながら言った。
「で、どこでするの、式」
「そこが問題なんだ」
深刻そうにメリッサがエイミアの方向を向いた。
「教会は教会団の一員だ、敵対する私たちの結婚式なんて面倒見てくれないだろう。そこで、エイミアに聞きたいのだけれど」
「何、なに?」
「教会団の手の及ばない教会がある町を知らないかと」
「あーなるほど」
納得した様子で頷くエイミア。ふむふむとあごに手を添えて考えをめぐらせて……いるのだろうか、ふりなのだろうか、わからないけど。なんかにやにや笑っている。怖いな……何を言うか予想がつかないから。
「それじゃあここから西に二つ山を超えたところにコルドという小さな町があるわ。そこの教会はかなり古くからあるティンクル教会といって、教会団とは独立した方針で布教活動を行っていてね、その神父のじじいが偏屈者で教会団も手を焼いていたわね」
「そこならやってくれそうかい?」
二人の話に割って入る僕。エイミアは僕の方を向いた。
「説得次第ね。教義に反する式を挙げるのは難しいから、二人の誠意次第かしら」
「なるほどそれならやってみる価値はあるな」
俄然メリッサはやる気だ。なるほどそれなら僕も腹をくくる。
「それじゃあコルドという町に行こう。そこで僕とメリッサの結婚式を挙げる」
はっきりとした僕の言葉に、深く頷く僕たち。そして両手を挙げて体を伸ばしてエイミアが口を大きく開けた。
「結婚式かー、うらやましい。いいなあ、ねえ、佑月なんとかならない?」
「危険な冗談へのコメントは差し控える」
僕はすぐさま砲撃を回避する。ちらりとこちらを見るメリッサ。ふう、あぶないあぶない。パスがえぐい。
「エイミアも出席してくれるのだろうか?」
不安げにメリッサがエイミアの顔をうかがった。
「それって参加者として、それとも新婦として?」
「参加者として祝福してくれるよな、エイミア」
僕はエイミアに釘を刺す。くすくす嫋やかに笑う金髪の女性、さらりとした細い髪の毛を指を通して、エイミアははっきりと言う。
「当たり前じゃん、お姉さんは大人だからね」
ほっと胸をなで下ろす僕とメリッサ。祝ってくれる人がいなければ式にならないから、不安だった。でもこれで大丈夫だ。
「ナオコちゃんに知らせた方が良いんじゃない?」
「もちろんそのつもりだ」
エイミアの当然の提案に同意してナオコを呼んだ。
「パパ~ママ~、話しって何?」
ナオコはパタパタと客間に入ってくる。メリッサは腰をかがめナオコの黒の前髪をさらりとなでる。優しそうな目をするメリッサにナオコは不思議そうに見つめていた。メリッサはまっすぐとナオコを見つめながら。
「あのな、ママとパパは結婚するんだ」
「結婚?」
幼いナオコには言葉の意味がわからなかったのだろうか、可愛らしく首をかしげる。僕がわかりやすく説明した。
「今まで、パパとママは心だけでつながっていたんだ。でも、今度からは本当の家族になるんだ。もちろん、ナオコも本当の娘として迎える。ナオコ、僕たちと本当の家族になるかい?」
難しそうに考えるナオコは、少しうんうんと考え込む。そして、どうやら彼女の心の中で納得した様子で、
「うん、パパはパパ! ママはママ! 私たち家族だね!」
その返事に僕とメリッサは安堵と興奮で二人してナオコを抱きかかえた。
「そうだ! 僕はパパだ」
「ママもちゃんとナオコのこと大切にするからな」
僕たちの笑顔につられて太陽のように晴れ晴れとした笑顔になったナオコ。
「わーい、パパ、ママ、ありがとう!」
僕はナオコを優しく抱きしめる。家族って良いな。僕はもう一人じゃない。一人じゃないんだ。
「──じゃあエイミアお姉ちゃんは何になるのかな?」
またもや邪魔をしようとエイミアが割って中に入ってくる。答えづらいことを聞いてくるなこの人は。赤の他人と言えば激怒するだろうし、エイミアも家族だと言えばメリッサが機嫌を損ねるだろうし、面倒くさい。
ナオコに無邪気に笑いながら、
「エイミアお姉ちゃんは、お姉ちゃん!」
「あうぅっ……」
と指摘されあっさりと子どもに撃退されてしまった。この人は詰めが甘いな。
すると、トントンとドアを叩く音がした。メリッサがドアを開けると、商人の召使いが現れた。
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メリッサの表情に僕たちは顔を見合わした。なんだなんだ、どうなっているんだ?
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