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宿命と対決

第百二十五 誓い

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「馬鹿な……私が負けるだと……?」

 赤い血の塊を吐き、おびただしい銃弾を受けて黒い法衣がさらにどす黒く濡れていく。そして、一歩、一歩、螺旋階段らせんかいだんを後ずさりするアウティスだった。

「私は……神に選ばれたはず……なぜこうも、神は私に目をそむけられるのか。……私は……」

 僕は目をつぶり、鉄の言葉を投げかける。

「お前が神を信じているというなら、これが答えだ。……お前は選ばれた存在じゃない。ただの人間だ、かなり強かったのは認めるがね。──認めろ、これが結果だ」

 表情が凍り付く、アウティスはフラフラと後ずさりをし、階段を一つ踏み外した。いや、お前が踏み外した階段はこれだけじゃないはずだ……!

「そんなはずはない……! 私は常に正直だった! 誠実だった! それを神がお見捨てになるはずがない。違う……認めん、認めんぞ、このような……!」

 ──その瞬間大きく転び、中央の空洞の吹き抜けへとアウティスは消えていく。闇へと沈む断末魔。叶わぬ祈り、届かぬ叫び、闇へ闇へと墜ちていった。

 僕は感慨もなく凍て付いた心でそれを見下ろす。

「……哀れな奴」

 僕はコツコツと階段を降りていく、どっと疲れが来た。しかし、この落ち着きようは何だ。何か変だ。強敵を倒したというのに何の感情もわかない。昔のメリッサの言葉を思い出す。

 ロストテクノロジーを手に入れると機械の兵士のようになる──と。感情が消えていく? すると、もう僕は……? もしかしたら取り返しのつかないところまで……? 
 
 ……何の神のお告げが来るわけもなく、ただ、自分の靴が地面の石を叩く音だけが聞こえる。

 最下層にたどり着いた時、中央に赤い血の跡が残っていた。奴は消えたのか。消えるところを確認出来なかったことに少し不安が残るけど……。──そう感じた刹那せつな不安は現実のものとなった。

「見事だ、佑月──」

「その声はアウティス!?」

 奴の低い声が塔に響き渡る、姿は見えない。

「今回は勝ちを譲ろう。だがしかし、貴様はまだ詰めが甘かったようだ。このまま再戦と行きたいものだが、いかんせん肉体疲労が激しい。今はろくに歩くのも難儀する状況でな……」

 何故奴が生きている!? 確かにとどめを刺した。地面にも血の跡が残っていたのに。頭の中で、アウティスとの戦いの記憶を巡らせる。

 ──そういえばコイツ蹴りや突きでコンクリートを砕いていた。いくら訓練しても生身の人間の能力では不可能だ。まさか、強化の能力を使っていたのか!

 そう考えるとつじつまが合う。銃に撃ち抜かれる瞬間、胴体部を強化させたんだ。そして、奴のエインヘリャルとしての魂を撃ち抜くほどの貫通力が足りなかったのか!

 また、高い塔の中を落ちて行っても、胴体を強化させて、体を落下の衝撃から守ったということか! 奴の言う通り、とどめまで詰めを考えなければならなかったんだ……!

「では、またの戦いが来ることを楽しみにしているぞ。さらばだ、佑月──!」

 僕の苦々しい思いにもかかわらず、奴の笑い声が響き渡る。……まあ、いいさ。何度来ようと打ち破ってやる。──僕には守るべきものがあるんだ。

 ふとメリッサのことが気になった。そうだ! メリッサを助けないと!

 十字架にはりつけにされたメリッサ、僕がやってきたのを確認すると声を上げた。

「佑月!」
「メリッサ!!」

 急いでメリッサの元に駆け寄り十字架に結んでいるロープをショートソードで切る。

「佑月、お前がここにいると言うことは勝ったんだな!」
「ああ、とどめは刺し損ねたけど」
「そうか……」

 表情が暗いメリッサ。まさか……?

「まさかアウティスに何かされたのか!?」

「いや、特に……嫌がらせをされただけだ。別に私には何の興味も持っていない様子だったんだ。だから私を鎖につないで何もしないとかちょっと変だなと思って、つねづね、うんまあ、それは置いておいたほうが良いな……」

「そうか、辛かっただろうね……」

 僕はメリッサの白い手首に赤いロープの跡がぎっしりついているのを見て、アウティスに憤激ふんげきする。あいつ次に会ったら必ず……! しかし、メリッサは何だか哀しそうな目をしていた。

「佑月……強くなったんだな。一人であんな相手を倒せるようになるなんて。私は何もできず捕まってしまった。……これじゃあ、ヴァルキュリア失格だな。私なんか足手まといだ」

「──何を言っているんだ!」

 僕が大声を出したため、メリッサは少しびっくりした表情をする。

「メリッサ……君がいてくれたからこそ、強くなれた。君が支えてくれたからここまでこれたんだ。君がいなければ、僕なんてただの駄目なおっさんだよ。メリッサを守るためにここまで強くなろうと頑張ってきたんだ」

「佑月……!」

 メリッサは目をうるませている。──そうだ、このときだ。このタイミングで言わなければいけないことがある──!

「メリッサ……!」
「ん……?」

 突然の僕の真剣な表情に彼女は少し戸惑とまどっていた。

「──メリッサ、僕は君を愛している、……結婚しよう、僕たち本当の家族になるんだ……!」

 その言葉にメリッサは顔を太陽のように輝かせて応えてくれた。
 
「佑月……!」

 瞳から真珠のような涙がこぼれ落ちた、そして彼女の絹のような繊細な白い肌を輝かせて頬をつたい、自然とメリッサは柔らかく優しい表情をし、頬を染め笑みを浮かべた。

「……はい、私は、メリッサは佑月のお嫁さんになります……」

 その愛おしさに僕はたまらず抱きしめキスをし、彼女もそれに応える形で愛を示す。

「絶対幸せにすると誓うよ、──君を守る。もうこの唇を、この腕を放さない」
「……うん……ふつつか者ですがよろしくお願いします……!」

 二人とも頬を染めながら十字架の下で誓いの言葉を交わす。神様一度だけ願いを叶えてくれるなら、二人を、この心を、この言葉を、永遠にして欲しい……! 神聖な礼拝堂のもと、神が見つめる中、僕たちは永遠を誓った……。
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