115 / 211
宿命と対決
第百十五話 坂道の第一歩
しおりを挟む
「アウティスの……ヴァルキュリア……⁉」
僕の表情が強張ってくる。ということは明確な敵か……!
「そんなに怖い顔しないの、せっかちはダメ」
エイミアの口調に眉をしかめた僕だった。
「いまさら、負け犬の僕に何のようだ。笑いに来たのか、メリッサを人質にして何がしたい?」
「もう、急ぐとお姉さん楽しくなーい。いい? いい男は女を焦らすの。焦らして焦らして、この男じゃないと満足出来ないと思わせるもの、わかる?」
僕より年上には見えないけど、ヴァルキュリアは神だから年なんて関係ないか。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
「あーらら、そこがダメ。先を知ったら面白くないじゃない、結果の見えるやりとりなんて大人が楽しむものじゃないの」
やりにくい女性だな。僕の周りにいなかったタイプだ、扱いが難しい。
「……わかったどうすればいい?」
「私に付いてきて、きっと貴方も満足するわ」
「そうさせてもらうとありがたいね──」
「パパ……」
心配そうな目で見つめるナオコに僕はそっと頭を撫でた。
「この娘を連れていっていいか?」
「あら、可愛いね、いくつ?」
ナオコは首を振る。
「そうだよね、レディーに年を聞くなんて失礼だね。ごめんね」
そう言ってエイミアはナオコの頭をなでた。
友好的に接してきているのにナオコはなぜか彼女をしかめっ面で見ていた、警戒しているのかな。とにかくメリッサの安否を確認しないと。
エイミアと僕たちは門を出る。黒服の兵士が付いてこようとしたのに、それを手の合図で必要ないと示すエイミア。……ほんと何が目的だ、僕は焦らされている。相手のペースに乗せられては駄目だ、常に冷静ではないと。
僕たちは道を歩いた、長い坂道。途中から森に入っていく。アウティスのヴァルキュリアならケリモ車でも使えばいいのに、徒歩で進んでゆく、無言で過ぎる時間、あっという間に日が落ちかけている。
「あらら」
エイミアは困った様子でこちらを見た。何かあったのか?
「どうしたんだ?」
「私、この世界に来てからずっとほかの誰かに日常の些事は任せていたのよね。食事とかどうしよう困っちゃった」
「……じゃあ、鳥か、ウサギでも狩ってこようか?」
「いいね、いやあ、助かるわ。いい男がついていると女は楽でいいね」
そう言って彼女はウインクする、なんか人懐っこいヴァルキュリアだな。アウティスのパートナーとは思えない。
「……それならナオコの面倒をみてくれないか?」
メリッサを人質にしている以上、もう人質は必要は無い。ヴァルキュリアだからエインヘリャルのナオコに危害を加えることが出来ないはずだ、なら任せて安全だろう。
「O.K. 私、子ども好きなのよね。子ども産んだことないけど、子守くらい出来るから、だいじょーぶ、だいじょーぶ。いってらっはいね」
「わかった、なら任せる……」
不安を抱えながらも僕は狩りに出かけた。
狩りといっても銃弾を消費するわけにはいかない、いつメリッサと会えて武器が交換出来るかわからない。冷静に、丁寧に一つずつ処理していく。僕は荷物に入っているトラバサミや仕掛け弓でウサギや鳥たちを罠にはめて狩っていく。もう、慣れたもんだ。
「イノシシは角んこ、もじもじウサギ~あつまって~いっしょに回り回ってウサギは逃げちゃった~イノシシはクルクルお星さま~」
エイミアとナオコがいる場所に戻ると二人とも何か変な歌を歌いながら手をつないでいた。もうすっかり日が落ちたというのに火もおこしていない。……はあ、バッグの中から火打ち石を出す。メリッサはヴァルキュリアの中でも優秀だな、まあ、僕の妻だし。
メリッサに習ったとおりの手さばきで肉を解体した、内臓を取り出し首を落とし逆さにして血を抜く。そして、じっくりと焼くと夜は更けていき、ナオコとエイミアは手をつないで寝ていた。
何だこのヴァルキュリアは、世話のかかる……。ため息をついて僕は二人を起こした。
「あら、寝ちゃった?」
「そうだね」
「ねえ、パパ、おなか空いた」
「食事出来ているよ」
ナオコにウサギのようなものだった肉を串刺しにして焼いたものを手渡す。
「はふ、あつい! ふう、ふう、むむ、……お肉固い」
「ああ、ゴメンね。やっぱママのようにはいかないね」
「ママの料理美味しかった……ママ……」
不思議そうな顔をしてエイミアはこちらの顔を見ていた。
「ヴァルキュリアのことママって呼んでるの?」
「子どもには母親が必要だ」
「あらら、それは悪いことをしちゃったね」
「あれだけのことをして悪いこともないだろ」
「……はあ、アウティスは本気であれを正義だと思っているのよ」
「その口ぶりだと君の意見は違うようだ」
そう僕が言うと、エイミアは顔をそむけた。
「──アウティスは純粋でプライドが高い男なのよ」
「純粋さは無邪気に他人を傷つける。汚れていた方がましだ」
「そうね、そうかもね。あっ私もお肉いただくわね」
火に手を差し伸べようとしたので僕はその手を止めて、肉の串を手渡す。
「ありがとう、優しいのね」
「優しさだって人を傷つける。ついさっき僕が経験したことだ」
「でも純粋さも優しさもない男なんて魅力があるのかしら?」
「あるかもしれないし、無いかもしれないね。男に詳しい口ぶりだね」
「まあ、ある程度は。恋は女性のたしなみね」
「教養がおありのようで」
そして話が詰まる。それ以上会話を続けるわけでもなく、食事を続けた。食べ終わって食事の片づけをしていると、ナオコは眠りについていた。気づくとエイミアがいない。
何を考えているかわからない女は、見ていないところで何をするかわからない。ナオコの寝顔を確認して、エイミアを探してみることにした。
エイミアは岩の上にのって夜空の星を見ていた。彼女の後ろには大きな月が輝いている。満月を背景に、月影に濡れた金髪の長い髪を煌めかせ、黄金色に輝かせて風で吹かれている。少し見とれていると、こちらに気づいたようで彼女は優しく微笑んだ。
「ねえ、私とお話ししない?」
「……いいよ」
僕は静かにエイミアの隣に座った。
僕の表情が強張ってくる。ということは明確な敵か……!
「そんなに怖い顔しないの、せっかちはダメ」
エイミアの口調に眉をしかめた僕だった。
「いまさら、負け犬の僕に何のようだ。笑いに来たのか、メリッサを人質にして何がしたい?」
「もう、急ぐとお姉さん楽しくなーい。いい? いい男は女を焦らすの。焦らして焦らして、この男じゃないと満足出来ないと思わせるもの、わかる?」
僕より年上には見えないけど、ヴァルキュリアは神だから年なんて関係ないか。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
「あーらら、そこがダメ。先を知ったら面白くないじゃない、結果の見えるやりとりなんて大人が楽しむものじゃないの」
やりにくい女性だな。僕の周りにいなかったタイプだ、扱いが難しい。
「……わかったどうすればいい?」
「私に付いてきて、きっと貴方も満足するわ」
「そうさせてもらうとありがたいね──」
「パパ……」
心配そうな目で見つめるナオコに僕はそっと頭を撫でた。
「この娘を連れていっていいか?」
「あら、可愛いね、いくつ?」
ナオコは首を振る。
「そうだよね、レディーに年を聞くなんて失礼だね。ごめんね」
そう言ってエイミアはナオコの頭をなでた。
友好的に接してきているのにナオコはなぜか彼女をしかめっ面で見ていた、警戒しているのかな。とにかくメリッサの安否を確認しないと。
エイミアと僕たちは門を出る。黒服の兵士が付いてこようとしたのに、それを手の合図で必要ないと示すエイミア。……ほんと何が目的だ、僕は焦らされている。相手のペースに乗せられては駄目だ、常に冷静ではないと。
僕たちは道を歩いた、長い坂道。途中から森に入っていく。アウティスのヴァルキュリアならケリモ車でも使えばいいのに、徒歩で進んでゆく、無言で過ぎる時間、あっという間に日が落ちかけている。
「あらら」
エイミアは困った様子でこちらを見た。何かあったのか?
「どうしたんだ?」
「私、この世界に来てからずっとほかの誰かに日常の些事は任せていたのよね。食事とかどうしよう困っちゃった」
「……じゃあ、鳥か、ウサギでも狩ってこようか?」
「いいね、いやあ、助かるわ。いい男がついていると女は楽でいいね」
そう言って彼女はウインクする、なんか人懐っこいヴァルキュリアだな。アウティスのパートナーとは思えない。
「……それならナオコの面倒をみてくれないか?」
メリッサを人質にしている以上、もう人質は必要は無い。ヴァルキュリアだからエインヘリャルのナオコに危害を加えることが出来ないはずだ、なら任せて安全だろう。
「O.K. 私、子ども好きなのよね。子ども産んだことないけど、子守くらい出来るから、だいじょーぶ、だいじょーぶ。いってらっはいね」
「わかった、なら任せる……」
不安を抱えながらも僕は狩りに出かけた。
狩りといっても銃弾を消費するわけにはいかない、いつメリッサと会えて武器が交換出来るかわからない。冷静に、丁寧に一つずつ処理していく。僕は荷物に入っているトラバサミや仕掛け弓でウサギや鳥たちを罠にはめて狩っていく。もう、慣れたもんだ。
「イノシシは角んこ、もじもじウサギ~あつまって~いっしょに回り回ってウサギは逃げちゃった~イノシシはクルクルお星さま~」
エイミアとナオコがいる場所に戻ると二人とも何か変な歌を歌いながら手をつないでいた。もうすっかり日が落ちたというのに火もおこしていない。……はあ、バッグの中から火打ち石を出す。メリッサはヴァルキュリアの中でも優秀だな、まあ、僕の妻だし。
メリッサに習ったとおりの手さばきで肉を解体した、内臓を取り出し首を落とし逆さにして血を抜く。そして、じっくりと焼くと夜は更けていき、ナオコとエイミアは手をつないで寝ていた。
何だこのヴァルキュリアは、世話のかかる……。ため息をついて僕は二人を起こした。
「あら、寝ちゃった?」
「そうだね」
「ねえ、パパ、おなか空いた」
「食事出来ているよ」
ナオコにウサギのようなものだった肉を串刺しにして焼いたものを手渡す。
「はふ、あつい! ふう、ふう、むむ、……お肉固い」
「ああ、ゴメンね。やっぱママのようにはいかないね」
「ママの料理美味しかった……ママ……」
不思議そうな顔をしてエイミアはこちらの顔を見ていた。
「ヴァルキュリアのことママって呼んでるの?」
「子どもには母親が必要だ」
「あらら、それは悪いことをしちゃったね」
「あれだけのことをして悪いこともないだろ」
「……はあ、アウティスは本気であれを正義だと思っているのよ」
「その口ぶりだと君の意見は違うようだ」
そう僕が言うと、エイミアは顔をそむけた。
「──アウティスは純粋でプライドが高い男なのよ」
「純粋さは無邪気に他人を傷つける。汚れていた方がましだ」
「そうね、そうかもね。あっ私もお肉いただくわね」
火に手を差し伸べようとしたので僕はその手を止めて、肉の串を手渡す。
「ありがとう、優しいのね」
「優しさだって人を傷つける。ついさっき僕が経験したことだ」
「でも純粋さも優しさもない男なんて魅力があるのかしら?」
「あるかもしれないし、無いかもしれないね。男に詳しい口ぶりだね」
「まあ、ある程度は。恋は女性のたしなみね」
「教養がおありのようで」
そして話が詰まる。それ以上会話を続けるわけでもなく、食事を続けた。食べ終わって食事の片づけをしていると、ナオコは眠りについていた。気づくとエイミアがいない。
何を考えているかわからない女は、見ていないところで何をするかわからない。ナオコの寝顔を確認して、エイミアを探してみることにした。
エイミアは岩の上にのって夜空の星を見ていた。彼女の後ろには大きな月が輝いている。満月を背景に、月影に濡れた金髪の長い髪を煌めかせ、黄金色に輝かせて風で吹かれている。少し見とれていると、こちらに気づいたようで彼女は優しく微笑んだ。
「ねえ、私とお話ししない?」
「……いいよ」
僕は静かにエイミアの隣に座った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる