ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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神の名のもとに

第百八話 残酷な信条

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 たいした騒ぎもなく過ぎていく日々。もう二週間になる、時は過ぎていき普通選挙の日だ、街は活気に満ちている。外に出れば行き交う人々、どこか期待のまなざし、それはこのこの街が進む道が希望へと進んでいると信じているからだろう。

 僕たちはいったん平穏になりまた、活気が出てきたミランディアの街を歩いていく。すると大声が聞こえてきた。

「教会団だ! 中央から教会団の連中がやってきた!」

 街の人々は騒めき始めた。──何が始まったんだ?

「メリッサ、みんな何を騒いでいるんだ?」
「……まずいことになった」

 ゴトゴトと音を立てて道の真ん中を進む馬車と白銀の騎士たち、車の中にはきらびやかな服を着た中年の男が見える。──どこかで見たことのある顔だな。彼が静かに通り過ぎていく、人々は息をのんで、不安げな表情を浮かべていた。

 ……あれは誰だろうか。見るとメリッサの表情が凍り付いている。

「なあ、どうしたんだい、メリッサ?」

 メリッサはぼそりとつぶやいた。

「……覚えていないのか? あれは、異端審問官のアウティスだ」

 そう言った途端、急に身をひるがえすメリッサ、ぼくはそれを追いかける。アウティス聞いたことのある名だ。確か……、いや思い出せない。

「……何だっていうんだよ、異端審問官が何だって?」
「──異端審問官のアウティス。前にフリューナグの街で会っただろう。奴は教会が異端としたものはあらゆる手段をもって、拷問、自白、処刑を行ってきた。ガチガチの教会至上主義で、原理主義者だ。オーディウス神父が危険だ!」

 オーディウス神父が!? 神父は市民の信頼が厚い、彼に何か起こればまた街が混乱するぞ。よりにもよって、選挙の日に面倒な奴が来やがって!

 教会に向かってメリッサは走るけれども、途中兵たちが邪魔をして通れなくなってある。

「どけ! 私は英雄佑月の側近だ」
「何を言っている、佑月様の命で道を封鎖しているんだぞ」
「くっ、時間が無い……!」

 メリッサは方向転換をして、回り道をし、教会へ急ごうとする、……そうか僕が混乱を避けるために道中の封鎖指示を出したんだ。それで今メリッサが今困っているのか! だがどこも封鎖されていてまともに進めなかった。……教会に着いた時にはそれから4時間はたっていた。

 教会の外はそれはもう凄惨せいさんだった。修道者たちが十字架にかけられており、胸に槍が突き刺さっている。百にも及ぶ十字架がかけられており、地面に突き刺さっている。……これじゃあまるでヴァルハラだ。

「ぐぉおおお────!」

 教会の中から男の叫び声が聞こえる。僕とメリッサは教会の中に押し入った。中には黒い服を着た騎士たちが赤い血で剣をぬらりと光らせて、こちらを見ていた。

 礼拝者だろう、市民たちの死体が教会の椅子に倒れかかっている。

「何てことを……」

 メリッサは口を押さえる。礼拝堂の奥ではオーディウス神父がうずくまっており、それを侮蔑した目でアウティスが見つめていた。

「どこの聖典に共和制を認めるなどと書いておるのかな、オーディウス神父?」
「ロタイの書、聖レニのお言葉にあります……あ、ありのままを受け入れよ、すべては神の意志だと……」

 アウティスはオーディウス神父の首をつかみ、片手で悠々と持ち上げる。

「その言葉は自然のままに生きよと意味だ。神の教えに背けとは書いていない」
「……神の教えに背いているのは教会団ではありませんか。マレサ聖典に欲を捨てよ、ただ神の言葉を聞けと……!」

「ほう、神父は神の声を聞いたというのか、それなら、是非お聞かせ願いたいものだ」
「……慈悲こそが愛だと」

「話にならん!」

 アウティスはオーディウス神父を教会の地面に放り投げた。

「堕落した市民たちに統治を任せるなど、言語道断! 神の導きあってこその民だ!  選挙に立候補したものたちを見よ! 皆が肥え太り、高価な宝石を身につけ、欲望をむき出しにした下劣な集団ではないか」

「ゴホッ……それは……教会団とて同じ……では……ありませんか……!」
「ほう、性根から腐っているらしい、神父には、いろいろ聞かせてもらわねばならんな……」

 アウティスが放り投げたオーディウス神父のもとにゆっくりと近づいていく。そこへ──

「お父様!」

 奥の扉から、十歳くらいの少女と女性が礼拝堂に入ってくる。

「──いかん! 来てはならん!」

 オーディウス神父は彼女たちにこの場から離れるように言ったのだろうか。言葉がわからないため、よく事情が飲み込めない。

「……これは、これは、どこの聖典に聖職者が妻帯してもいいと書いておったかな、オーディウス神父? これが神父だと、笑わせてくれる……!」

「せめて、娘と妻だけは神の慈悲を……」
「聞く耳持たん!」

「もはや、このような醜悪な光景、見るに堪えん。私が直接裁きを下す」

 アウティスは、右腕を掲げてオーディウス神父の胴体に手を突き刺した。──あれはまさか……⁉

「ぐあああぁ────!!!」
「オーディウス神父!」

 メリッサが叫ぶ。そしてみるみる顔が青ざめていく。

「そんな……どういうことだ……エインヘリャルなんて……」
「──どうしたんだメリッサ!」

 僕はメリッサの肩をつかむ。メリッサは奥のアウティスを指さす。

「アウティスは……、アウティスはエインヘリャルだ!」
「──何だと!」

 神父がエインヘリャルだと……? しかしそれならメリッサが気付くはずだ、いったい何故……?
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