上 下
98 / 211
ナオコの冒険

第九十八話 ナオコの冒険②

しおりを挟む
 穏やかな時間が僕には流れていた、森の中鳥たちのさえずりに歌われる中、子ウサギに似た小動物に対し銃で仕留めた。一応、メリッサは家出したとはいえ、武器だけは渡して出ていった、つまり帰る気があるのだろう。なら、彼女が戻ってきてくれるかは僕の誠意次第かな。

 とはいえ、このまま食に不自由のままでは困る、特に僕は調理などほとんどできない、ちゃんと狩ったこの鳥や子ウサギをさばけるのだろうか。

 日は暮れ始め、ナオコもお腹空かせているだろうしここら辺で切り上げあの子と別れたとこにやってくると、ナオコがいない。……どこに行ったんだ? まさかあの子勝手に行動したんじゃないだろうな、まずい、しっかりしているとはいえまだ幼児だ、実年齢は知らないが、身体能力が欠けている。

 もしエインヘリャルに狙われたら大変なことになる。僕はとりあえず辺りを捜したのであった。

「ナオコーどこにいるんだいー? いるなら返事してくれー?」

 30分ほど声を上げながら探していると、僕に声をかけた者がいた。──メリッサだ。

「お前、どこにいたんだ!」
「こっちこそメリッサはどこへ行ってたんだよ、ナオコがいなくなって今大変なんだよ」

「ナオコがいない? まさか一人ぼっちにしたわけじゃないだろうな」
「いや、いても狩りには邪魔だし、ほら、夕食分の素材は用意できた……」

「馬鹿! そんな場合じゃない、この町に新たなエインヘリャルが潜んでいるぞ!」
「なんだって? 居場所は?」

「大体見当がついてるが、私一人ではな、だからお前を呼びに来たというのに、ナオコがいないなんて……」
「君から察知できないかい?」
「あの子の気配は微弱で、とぎれとぎれでしか感じられない、いまはわからない」

「しまった……とりあえず、今わかっている敵のエインヘリャルを仕留めることを優先しないか? まずは早めに、脅威を取り除いたほうがいいだろう。そっちの方が優先順位が高いとそう判断するけど、まあ、でもナオコのことも心配だけど」
「ああ、同感だ、私についてこい!」

 僕はメリッサに連れられて急いで、その新たにやってきたエインヘリャルを排除することにした。頼むナオコ無事でいてくれ……!

──────────────────────────────

 ナオコが気が付くと、暗い石作りの部屋に閉じ込められていたようだ。暗がりの中、支えるものが欲しくてそっと壁に手を当て、所在を探る。どこだろ、ここは。ナオコは心細くなった、なぜこうなったかを理解するには少し時間がかかったが硬く閉ざされた扉を発見して、閉じ込められたことを悟った。

 ──そうだ、あの黒髪の男の人に何か飲まされてそれで……、そしてあの人はエインヘリャル……! 危険が迫っている事を解ったため精一杯ドアをたたいた。

「誰か! 誰か!」

 叫んでも誰も来ない、そっと扉に耳を当てるとうめき声や叫び声がこの扉の向こうでまん延していることが聞き取れた。いったいどうなっているんだろう。ナオコはひしひしと恐怖を感じ始めた。

 扉を破ろうと体当たりしてもびくともしない、叫んでも誰も来ない、ナオコはついに疲れてまた眠ってしまったらしい。子どもだもんなしかたないさ。

 突然金髪の女性にたたき起こされた、長い髪をすっとかき上げ、その表情はナオコを見ながら口元を歪め笑っていた。

「ヴァルキュリア……なの?」
「そうね、エインヘリャルのおちびさん、私はセシリー、貴女の名前は?」
「私は……ナオコ」

「変わった名前ね、いいわ、ナオコ、こっちに来なさい、お腹空いているでしょ?」

 そういえば空腹であることに気づいたナオコは、どれくらい寝ていたか考えたようだ。しかし答えは出てこなかった、時計らしきものは存在しないし窓がないので、今、夜か朝かわからない。

 ナオコは素直にセシリーについていった、扉を開け廊下に足を延ばした時だ、女子供老人問わず叫び声とうめき声で廊下は狂想曲が反響していた。恐怖が体中を走り、ナオコは思わずセシリーから逃げようとする。

「誰が逃げていいって言ったの?」

 だがヴァルキュリアは総じて個人の身体能力が高くすぐさまナオコは捕まった。

「大人しくこっちにいらっしゃい、貴女も怖い目にあいたくはないでしょう?」

 その言葉はどすが効いていた。恐怖で震えあがり、為すがまま、ナオコは手を引っ張られて無理やり廊下から階段を上がらされ部屋に通された。

「やあ、元気かいおちびさん」

 通された部屋は石作りでありながら、蝋燭ろうそくで明々と灯され、いささかナオコの気も安らいだ。立ち止まってたち込める香りをかぐと美味しそうなスープの匂いだ。肉料理も置いてある。

「さあ、貴女の席はここよ、いらっしゃい」

 セシリーはテーブルの椅子を引き出し、ナオコに着席を進めた。彼女は幼い子供だすっかり安心してしまってその行為に何の疑問もなく座ってしまった。

「少し話をしようと思ってね、さあお食べ」

 前の席に座っている男は優しそうに語りかける。

「君の名前は?」
「ナオコ」

「そうか、珍しい名前だね、僕の世界じゃあ聞いたことのない発音だよ、僕はキャラディスという、よろしくね」
「よろしく」

 お腹が空いていたナオコは食べ物に口をつけ始めた、ママの料理には及ばないがなかなかおいしかったとナオコは語った。

「君は独りなのかい、ヴァルキュリアとかどうしたんだい?」
「知らない、でもパパとママがいる」

「パパとママ、貴女の、……そう、きっと親のどっちかはエインヘリャルなのね」
「そうだよ、とってもつよおいんだよ」

「そうか、それは困ったなあ、僕みたいに何とか生き延びられたエインヘリャルじゃあ到底敵いそうにないな、どうしようかセシリー?」
「一度この子を使って同盟を結ぶよう、うったえてみるのはどう?」
「それも一つの手だね」
「同盟?」

 ナオコは二人の会話に口をはさんだ、言葉の意味が理解できなかったのだろう、まだ子どもだ。

「そう、私たちと一緒に戦わないかってこと、ええ、それがいいわ、この先生き残るには戦力が必要よ」
「そうだね、教会団をどうするべきか考えているけど僕たちじゃ歯が立たない、その強い親御様と手を結べたら心強い」

「ふーん」

 一つナオコなりに考えて彼らと取引をすることにした。

「だったら、私を開放して、ならパパに言ってみるから」
「……それはできないな」
「えっ……」

「──君は僕の実験体として、様々な毒を口にしてもらわないといけないからね」
「何を言って……?」

 そのときだった、少しせき込み口に手を当てたとき、何か嫌な感触と口から飛び出たものがあった。見ると血に染まった手に虫がわいていた。

「何これ……?」
「君にもわかりやすく説明するとね、僕の能力は毒をもった虫を創る能力なんだ、困ったよ、この能力じゃあまともに戦えない、ということでね、いろいろ策を巡らせて生き残ってきたんだ、この生存戦争に──」

「あっ……!」

 自分がだまされたことに気づいたナオコはこの場から逃げようとするが体が思うように動かない……しまった……。

「君みたいな弱そうなエインヘリャルは得難えがたいからね、僕の実験体になってもらうよ、──そう、毒の試験体としてね」

 男の笑い声が響き渡る、ナオコの体が痙攣けいれんし、血が口からとめどなく流れていく、流れ出る自分の血に虫たちがうごめいていた。パパ……、ママ……どうしよう……痛いよ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...