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ママ
第七十六話 挑戦者②
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「佑月! 一気に潰すぞ」
「それは得策ではないんじゃないかな。相手の能力のポテンシャルが非常に高い、能力を生かして守りに入られると厄介だ。それに、あの性格だとすぐにやってくるだろう、そいつを迎撃したほうが効率がいい」
「何故消極的になる、圧倒的に優勢ではないか?」
「こちらの攻撃に、ばたついていただけだ、対策を練られると、奴の能力でこちらを圧倒できる。相手の引き出しを見てから、こっちが対策を練った方が勝率が高い」
「納得しがたい」
メリッサはそう言って、ふてくされる。彼女の性格は直情的だ。その感情は理解できる、正直彼女のやり方でも、成功するかもしれない。だが僕の戦いは、理詰めではないと、自分の戦術を信じられない、そういう種の人間なんだ僕は。
相手の襲撃に備えて、SG552を新しいものに交換して弾を補充する。名銃であるSG552をあんな下品な奴に使われたのは、ショックだけど仕方ないだろう、ここは異世界、なんでもあり得る。
次も銃で来てくれると、仕留めやすいのだが、まあ、そうはいかないだろう。奴は武器を交換できる、しかもどれほどの武器の種類を製造できるかわからない。困った相手だ。
だが、まだ若いことが、唯一の救いだ。これが20代後半から30代の敵になると能力を十分に生かしてやってくる。まだ、戦いやすい、そう感じたところで、ため息が出てしまった。
日向さんは多分、知らず知らずに手加減していたんだろうな、あれだけの戦闘技術があれば最初の一撃で僕は死んでいた。この先生き残るには、あのレベルと戦わないといけないのかと先が思いやられる。
どっと老け込む気がする、疲れた目でメリッサ方を見ると不思議そうに、こちらを見ている。
……そうだな、守るものがある以上、やるしかないか。
警戒態勢のまま、ヴィオネスを追跡する、住みかを見つけると、こちらがぐっと有利になる、相手に見つからないようにしないと意味がない、奇襲が僕好みだ。
「エインヘリャルがいるぞ」
そうだった、メリッサのヴァルキュリアレーダーがあったんだ。無論、相手も察知しているだろう。厄介だな、奇襲がやりにくい。
厳重に調べながら移動する。十字路に入ったところで、事態は動いた。道の暗がりからヴィオネスが襲いかかってきた、まさにちょうど後ろ向きになっていたとこに、斬りかかられる。
――剣かっ!
とっさのことで粟食らったが、殺気とでもいうのだろうか、違和感で振り向き、相手が視認できると、即座に体が動いていた。
「くらえ! おっさん」
まるで、洗練されていない。僕は腕力任せの斬撃を悠々とかわしていく。
「ヴィオネス様! 距離を離してはなりません」
「よし! わかった」
赤いヴァルキュリアがヴィオネスに指示をする。光り輝く剣を不器用に振り回す姿が、あまりにも惨めに感じられ、僕に何故メリッサが剣術を教えてくれないのか、理解できた、あれは生半可な技術で実用化できるものではない。
とはいえ距離を離さないと銃は撃てない。剣を躱した瞬間に、僕は右回りに回り込む。銃床を折りたたみ、短くしたSG552を片手撃ちで撃ち、奴の右肩に当たり、血が飛び散る。
何このくらいなら、警戒するほどのことでもない。だが、不自然な物音がした、岩と岩がこすれて硬質感のある音だ。僕が剣戟から逃れた後、光の剣が家の壁を切りつけていた、そこから亀裂が入りセメントの自重で、崩壊し、家がこちらへと倒れてくる。
なっ! 急いでその場から離れる。雪崩のように滑り落ち壊れていく家、重い大きな音をさせて、鮮やかに壊滅した。
この威力、度し難い──。
ヴィオネスは僕から距離を離さないように、剣を振りかぶってくる。何故だ、何故そんなにも動ける、何発も5.56mm弾をお見舞いしたはずだ。動揺した表情を僕がしたのだろう、奴は口元をゆがませ、上半身の服をはだけ始め自分の裸体をさらけ出し、剣をしまう。
怪訝そうに相手の行動を見ていると、奴の体で開いている弾痕の穴がみるみる塞がっていく。
「これぞ、エインヘリャルの再生能力を向上させる能力を写し取った力だ。お前の攻撃など屁でもない。この剣の威力を見よ!」
奴は自慢の剣を出し、近くにあった家を切りつける、スライスチーズのように石造りの壁が裂け、いとも簡単に家が崩れ落ちてくる。
「これが鏡の能力だ! 写し取った武器、能力を蓄積できる! しかも同時に能力を発揮できるのだ。そのようなおもちゃで俺を倒そうなど、笑いが止まらん、これが俺の真の力だ!」
「素晴らしいです、ヴィオネス様!」
ほう、ルリアが感動している、了解した、なら僕は相手が服を着ようとしている時に、銃を撃った。そして勢いよくヴィオネスが跳ね飛ぶ。
「貴様ぁ――! 卑怯な真似は許さん!」
「台詞の最中に攻撃するなど言語道断です! 頑張ってください、ヴィオネス様!」
メリッサはあくびをして、木箱に座ったあと、退屈そうに横になって見ている。僕もそうしたいのだが、あいにくヴィオネス劇場の登場人物故、相手をしなければならない、正直言って代わってほしい。
ヴィオネスは大きく振りかぶり、剣を振り回し僕に迫ってきた。
「そら! そら! そら!」
僕は悠然とそれをかわし相手の疲労を待つ。地頭が悪いと、どんな素晴らしい能力を持ってもこうなるのか、この戦いの過酷さを知る。ゲームスラングでチートとか巷で言われる能力を与えても、こんな馬鹿をさらすようだ。いや、ある意味勉強になったよ。
疲労困憊でヴィオネスが肩で息をする中、僕は銃を構えた。
「危ない、ヴィオネス様! 近づいてください!」
「うおおお――!」
狼狽したルリアの指示でこいつが僕の体に抱きついてきた。残念ながらそういう趣味はないんだけどな。
僕は冷静に少年の脇から腕を通し、背中へと銃を回して、バースト射撃をした。
ダダダっと音が鳴った後、ヴィオネスの体から力が抜け崩れ落ち、静かに横たわった。
「いやああ――! ヴィオネス様!」
ルリアがヴィオネスを地面から引っ剥がす。奴を抱きかかえ、泣いている、その姿が哀れであったため、目を細めて、僕はとどめを刺そうと銃を構える。そのときだった、どこか勝利を確信してしまっていたのだろう、集中力を切らしていた。
その間隙に、ルリアは剣を抜き、太陽光を刃の部分に反射させ僕に目潰しをしたのであった。
しまった! こいつらに逃げられる! 視界を取り戻した時にはすでに遅く、ヴィオネスとルリアはその場から立ち去っていった。
「間抜けだな。お前も」
メリッサはつまらなそうに僕をなじる。
「すまないな、最後の最後で失態を見せてしまった」
僕は少し自己嫌悪に陥る。
「まあ、奴が相手なら別に怖くもないだろう、根城を探すぞ。どうせ引きこもって出てこなくなるだろう」
少し休みたいが、メリッサはすこぶる不機嫌だ、早く片付けないと、どんなとばっちりを受けるかわからない、その瞬間僕はふと悪寒が走る。
「──なあ、もしメリッサが奴だったら、倒せそうな弱いエインヘリャルを見つけたらどうすると思う」
「あの単細胞だ。普通に殺しに行くだろうな」
僕は何も言わない、その沈黙の意味を悟ったメリッサは、目を見開き、
「──そうか、あの娘が危ない!」
ヴァルキュリアの感知能力は、エインヘリャルの位置を明確に察知する。僕たちの宿には小さい女の子のエインヘリャルを留守番させている。最悪のシナリオが思い浮かび、急いで女の子の待つ宿へと向かった。
「それは得策ではないんじゃないかな。相手の能力のポテンシャルが非常に高い、能力を生かして守りに入られると厄介だ。それに、あの性格だとすぐにやってくるだろう、そいつを迎撃したほうが効率がいい」
「何故消極的になる、圧倒的に優勢ではないか?」
「こちらの攻撃に、ばたついていただけだ、対策を練られると、奴の能力でこちらを圧倒できる。相手の引き出しを見てから、こっちが対策を練った方が勝率が高い」
「納得しがたい」
メリッサはそう言って、ふてくされる。彼女の性格は直情的だ。その感情は理解できる、正直彼女のやり方でも、成功するかもしれない。だが僕の戦いは、理詰めではないと、自分の戦術を信じられない、そういう種の人間なんだ僕は。
相手の襲撃に備えて、SG552を新しいものに交換して弾を補充する。名銃であるSG552をあんな下品な奴に使われたのは、ショックだけど仕方ないだろう、ここは異世界、なんでもあり得る。
次も銃で来てくれると、仕留めやすいのだが、まあ、そうはいかないだろう。奴は武器を交換できる、しかもどれほどの武器の種類を製造できるかわからない。困った相手だ。
だが、まだ若いことが、唯一の救いだ。これが20代後半から30代の敵になると能力を十分に生かしてやってくる。まだ、戦いやすい、そう感じたところで、ため息が出てしまった。
日向さんは多分、知らず知らずに手加減していたんだろうな、あれだけの戦闘技術があれば最初の一撃で僕は死んでいた。この先生き残るには、あのレベルと戦わないといけないのかと先が思いやられる。
どっと老け込む気がする、疲れた目でメリッサ方を見ると不思議そうに、こちらを見ている。
……そうだな、守るものがある以上、やるしかないか。
警戒態勢のまま、ヴィオネスを追跡する、住みかを見つけると、こちらがぐっと有利になる、相手に見つからないようにしないと意味がない、奇襲が僕好みだ。
「エインヘリャルがいるぞ」
そうだった、メリッサのヴァルキュリアレーダーがあったんだ。無論、相手も察知しているだろう。厄介だな、奇襲がやりにくい。
厳重に調べながら移動する。十字路に入ったところで、事態は動いた。道の暗がりからヴィオネスが襲いかかってきた、まさにちょうど後ろ向きになっていたとこに、斬りかかられる。
――剣かっ!
とっさのことで粟食らったが、殺気とでもいうのだろうか、違和感で振り向き、相手が視認できると、即座に体が動いていた。
「くらえ! おっさん」
まるで、洗練されていない。僕は腕力任せの斬撃を悠々とかわしていく。
「ヴィオネス様! 距離を離してはなりません」
「よし! わかった」
赤いヴァルキュリアがヴィオネスに指示をする。光り輝く剣を不器用に振り回す姿が、あまりにも惨めに感じられ、僕に何故メリッサが剣術を教えてくれないのか、理解できた、あれは生半可な技術で実用化できるものではない。
とはいえ距離を離さないと銃は撃てない。剣を躱した瞬間に、僕は右回りに回り込む。銃床を折りたたみ、短くしたSG552を片手撃ちで撃ち、奴の右肩に当たり、血が飛び散る。
何このくらいなら、警戒するほどのことでもない。だが、不自然な物音がした、岩と岩がこすれて硬質感のある音だ。僕が剣戟から逃れた後、光の剣が家の壁を切りつけていた、そこから亀裂が入りセメントの自重で、崩壊し、家がこちらへと倒れてくる。
なっ! 急いでその場から離れる。雪崩のように滑り落ち壊れていく家、重い大きな音をさせて、鮮やかに壊滅した。
この威力、度し難い──。
ヴィオネスは僕から距離を離さないように、剣を振りかぶってくる。何故だ、何故そんなにも動ける、何発も5.56mm弾をお見舞いしたはずだ。動揺した表情を僕がしたのだろう、奴は口元をゆがませ、上半身の服をはだけ始め自分の裸体をさらけ出し、剣をしまう。
怪訝そうに相手の行動を見ていると、奴の体で開いている弾痕の穴がみるみる塞がっていく。
「これぞ、エインヘリャルの再生能力を向上させる能力を写し取った力だ。お前の攻撃など屁でもない。この剣の威力を見よ!」
奴は自慢の剣を出し、近くにあった家を切りつける、スライスチーズのように石造りの壁が裂け、いとも簡単に家が崩れ落ちてくる。
「これが鏡の能力だ! 写し取った武器、能力を蓄積できる! しかも同時に能力を発揮できるのだ。そのようなおもちゃで俺を倒そうなど、笑いが止まらん、これが俺の真の力だ!」
「素晴らしいです、ヴィオネス様!」
ほう、ルリアが感動している、了解した、なら僕は相手が服を着ようとしている時に、銃を撃った。そして勢いよくヴィオネスが跳ね飛ぶ。
「貴様ぁ――! 卑怯な真似は許さん!」
「台詞の最中に攻撃するなど言語道断です! 頑張ってください、ヴィオネス様!」
メリッサはあくびをして、木箱に座ったあと、退屈そうに横になって見ている。僕もそうしたいのだが、あいにくヴィオネス劇場の登場人物故、相手をしなければならない、正直言って代わってほしい。
ヴィオネスは大きく振りかぶり、剣を振り回し僕に迫ってきた。
「そら! そら! そら!」
僕は悠然とそれをかわし相手の疲労を待つ。地頭が悪いと、どんな素晴らしい能力を持ってもこうなるのか、この戦いの過酷さを知る。ゲームスラングでチートとか巷で言われる能力を与えても、こんな馬鹿をさらすようだ。いや、ある意味勉強になったよ。
疲労困憊でヴィオネスが肩で息をする中、僕は銃を構えた。
「危ない、ヴィオネス様! 近づいてください!」
「うおおお――!」
狼狽したルリアの指示でこいつが僕の体に抱きついてきた。残念ながらそういう趣味はないんだけどな。
僕は冷静に少年の脇から腕を通し、背中へと銃を回して、バースト射撃をした。
ダダダっと音が鳴った後、ヴィオネスの体から力が抜け崩れ落ち、静かに横たわった。
「いやああ――! ヴィオネス様!」
ルリアがヴィオネスを地面から引っ剥がす。奴を抱きかかえ、泣いている、その姿が哀れであったため、目を細めて、僕はとどめを刺そうと銃を構える。そのときだった、どこか勝利を確信してしまっていたのだろう、集中力を切らしていた。
その間隙に、ルリアは剣を抜き、太陽光を刃の部分に反射させ僕に目潰しをしたのであった。
しまった! こいつらに逃げられる! 視界を取り戻した時にはすでに遅く、ヴィオネスとルリアはその場から立ち去っていった。
「間抜けだな。お前も」
メリッサはつまらなそうに僕をなじる。
「すまないな、最後の最後で失態を見せてしまった」
僕は少し自己嫌悪に陥る。
「まあ、奴が相手なら別に怖くもないだろう、根城を探すぞ。どうせ引きこもって出てこなくなるだろう」
少し休みたいが、メリッサはすこぶる不機嫌だ、早く片付けないと、どんなとばっちりを受けるかわからない、その瞬間僕はふと悪寒が走る。
「──なあ、もしメリッサが奴だったら、倒せそうな弱いエインヘリャルを見つけたらどうすると思う」
「あの単細胞だ。普通に殺しに行くだろうな」
僕は何も言わない、その沈黙の意味を悟ったメリッサは、目を見開き、
「──そうか、あの娘が危ない!」
ヴァルキュリアの感知能力は、エインヘリャルの位置を明確に察知する。僕たちの宿には小さい女の子のエインヘリャルを留守番させている。最悪のシナリオが思い浮かび、急いで女の子の待つ宿へと向かった。
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