上 下
63 / 211
スナイパー同士の戦い

第六十三話 スナイパー同士の戦い④

しおりを挟む
 崖からまっ逆さまに両足を地面にたたきつけられた! 戸惑いながらも相手の追撃が来ないよう中腰で走り抜けようとするが足が動かない、転がるようにその場を離れるしか、もはや方法はなかったのだった。

 案の定僕の落ちた先に12.7ミリ弾が撃ち込まれて、崖が崩れていく、それに対し僕は草場に身を隠す。足の状態を見ると、両足が腫れ上がっている、もともと脱臼した上で骨が折れていたが、今度は両足がボッキリいったらしい。

 どうせいいさ匍匐前進ほふくぜんしんで進むんだから、足なんて飾りだ、何も問題はない。

 さっき敵が撃ってきたところを這いずりながら探ると、血がついている、かなりの出血だ、おそらくあの重いM107を持って遠くまで行けないだろう、少なくとも今のところは山を下りられる心配はない、血をたどってみよう。

 日は沈み山に静寂が訪れる、僕はこの4日間ほとんど不眠不休で追っかけて、精神も体もボロボロだ、満身創痍まんしんそういで足を引きずりながら血の跡を追っていた、這いつくばって文字通り手探りで探索したため、手がとっくにまともに動かなくなってきている。

 ──だが、今日は妙に冴えていた。敵に一撃を加えたという手応えがあったためか、それとも精神がいかれてしまったのか、まあ、どちらでもいい。僕にとって必要なのは生きること、そしてメリッサの元に帰ること、それだけだ。

 途中ロープを見つけたがおそらく罠だろう、そのロープを慎重に回避すると、前を見上げた途端、穴が見事にカモフラージュされた落とし穴があった、しかし、そんな手には引っかからない。

 草が結んである場所がある、よく見ると細い線でつながっており、たどってみると矢が飛んでくる仕組みになっていたので、線に引っかからないように回避した。

 その他にも罠が仕掛けてあった、僕はそれを見事に回避する、我ながらよく成長したものだ、昔なら10回は死んでいた。これだけ罠を張り巡らせるということは何かしら意味があるのだろう。

 理由はすぐにわかった、700メートル先に他とは全く違う景色が見える。夜だからまともにみえない、もう少し近づいてみよう、夜だからスコープでも判別がつけにくいはずだ。

 500メートルまで近づいたとき盛り上がった土や岩が見える、あれはまさか……!

 見た瞬間絶望した、塹壕ざんごうが堀りめぐらされており、丁寧に土が盛って、さらにご丁寧に岩で補強している。まるで要塞じゃないか!

 しかも500メートルの距離までしか身を隠せる木がなく、木に上っても無理だ、そもそも塹壕がこの地点よりもなだらかな高い丘の位置に掘ってあり、上にポジションを取れる場所がない。近づくにはこの身をさらして突撃するしかない。

 これは無理だ。メリッサが来てくれているのを期待して待つか、もう彼女に祈るしかない、もし来れば武器を交換してグレネードランチャーに変更できるさ、そうでもしないと無理だ、ははは。

 ──そう思った瞬間、気持ちがぷつりととぎれて、その場で眠りこけた。

 ……目が覚めるとあたりが真っ白だった。朝霧か、これではどちらも相手が見えないな、――相手が見えない……、そうか! なら突破口はある! 奴が何故ここまで脅威か、それはM107の威力とスコープという目があるからだ、今の状態ならスコープも役立たずだ。

 いける! いけるぞ!
 
 幸運なことに両足の骨折は治っており高熱も引いた、ゆっくり休んだおかげだ、エインヘリャルの回復能力はすごいものだ、これならやれる、僕は勇気を出して木々から飛び出し、匍匐前進で要塞へと近づいていく。

 距離400メートル、まだなにも見えない。

 距離300メートル、盛った土がへこんでいるところがあるそこから銃口が見えた
、こちらから銃口が見えると言うことは僕の影が見えると言うことだ。ん、ということは──

 ……しまった、やばい!

 とっさに僕は大声を上げ銃口に向かって走り出す。

 途端にとんでくる銃声、はずれたことを確認した、突然の突撃に驚いたのだろう、相手の弾はそれた。距離280……260……240……220メートル!

 また銃声が鳴り、今度は正確にこちらに向かって撃ってくる、だが相手は高所にいることが災いして、角度的に頭を下げて中腰で走ってくる相手では照準が大きくぶれ、誤差が出て、ましてはこの霧の中では命中精度を上げにくく、弾は上方向へそれた。

 距離200メートル! 相手の姿がうっすらと見える、僕は体を伏せ相手に向かって撃つ!

 鼓膜を破りそうな音の中、残り4発。未だ手応えがない、まだだ! まだいける!

 トリガーを引き、排莢、残り3発、くそっ! 手が震えて当たらない、銃口がこちらをとらえてくる、……おそらく次が最後の一撃になる、いくぞ、メリッサ! 僕を信じてくれ!

 狙いを定めて引き金を引いた瞬間、天恵があった、残り2発!  相手の肩に当たったのだろう、うっすらと影の部分が弾け飛ぶ、やった当たった、よしいけるぞ!

 ……だが弾は後2発しかない、しまった、もう弾がない、決着をつけるとどめの1発用に置いておかなければならないのだ、なら、次残り2発目は致命傷でなければならない、……くそっ!

 僕は全力で敵に向かって走り出した、距離150……100メートル。息が切れ心臓が破裂しそうだ。それでも走るのをやめることはできない。相手が、力を振り絞って反撃したらそこで僕の死だ。

 50……30……20……10――僕は駆け上がりジャンプして相手を押し倒した!

「捕まえたぞ! スナイパー!!!」

 柔らかい肩を掴み、その姿をよく見る、え……少女……? とても美しい黒髪の少女がそこにいた、……うそだろ? この顔見覚えがある――。まさか⁉

「もしかして……日向直子ひゅうがなおこ……さん……?」
「私の名前の知っているのは誰!?  え……貴方、池田佑月いけだゆづき……君……?」

 間違いない、今まで相手してきた強敵のスナイパーは僕の中学の初恋の相手、日向直子その人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...