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スナイパー同士の戦い
第五十八話 アンチマテリアルライフル②
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銃声の恐怖に怯え、悲鳴を上げ、狂ったように荒ぶる人々の群れ、これは当然だろう、しかし、この世界の人間が銃声を聞いてそれが危険な音だと察知していることに、僕は少し違和感を覚えた。
今までの経験から言うと、この世界の人間の銃声への反応は薄いものだ、大きな音に驚くものの、どれほど危険な武器で、それがどういう音なのか理解出来る者がここには存在しないのだから。
……まあそれはいい、とりあえず考えよう、今僕に何が出来る、アンチマテリアルライフルは強力でやっかいだ、しかも一発、二発で僕の肩をかすめるほどの命中精度を持った、狙撃手という危険極まりない敵……。そうだ、これは狙撃なんだ、なら敵の位置を知らなければならない。
「メリッサ、どう思う?」
「これは、銃だな」
「いやそうじゃない、どこから音が聞こえたのか解らないか?」
知りたいのは相手の距離と位置、メリッサはすごく耳がいい、僕が聞こえない遠くからの声でも、理解出来る卓越した聴覚を持っていた。僕の意図を理解したのか、口元に手を当てた彼女は、少し考え込んだ様子で問いに答えた。
「おそらく、かなり遠いところから撃ってるな、音がすごく反響している、街並みのせいもあるだろうが、山彦のようだった。なら、山から撃ってるんじゃないか」
「山か……」
周辺をつぶさに調べると1000メートル以上先に大きな山々が並んでいる、なるほど、あそこからか……そう思っていた矢先だった――!
「佑月! 足が!」
銃声と彼女が同時に叫び、僕の太股の肉が欠けたような感触と、激痛が全身に駆け巡った。しまった! 遠距離射撃なら銃声よりも実弾が先に届く、咄嗟のことで銃の摂理を失念していた。銃声が聴こえてから反応するのでは遅いのだ。
「佑月、肩を貸す!」
メリッサが慌てた口調でまくし立てながら、肩を貸し立たせようとするが、僕はそれに応じなかった。
「次の弾がやってくる、低い姿勢でこの場から離れよう!」
メリッサがうなずき、難しい姿勢ながらも僕を連れて中腰で離れようとした。
12.7mm弾がターンと音を立てる前に、僕の肩をかすめ、地面の土にめり込む。かすっただけで僕の肩の肉ははがれ飛び散った。痛みをこらえながら、低い姿勢を保ち片足で前に進む。
見えない敵から狙われる恐怖、森の中で味わった経験がなければ、きっと僕はパニックになっていただろう。
だが、敵は容赦なく弾を放ってくる、今度は僕の真正面に突き刺さった、一発でもまともに当たれば死亡。恐ろしいほどのストレスが僕にかかってくる。
平衡感覚を失い体勢を崩し地面に倒れ込んだとき、さっき僕がいた頭の部分に次の弾が飛んできて、流石に僕も恐怖を感じ始めた。
もし、バランスを崩さなければ死んでいた、一発にその威力がある。考えると寒気がしてくる、とにかくこの場から離れないと。片足で一所懸命に地面をけった、だが、遅々として進まない。
瞬く間に次々と弾が飛んできて、あまりにも連続的に撃ってくるため、匍匐前進で進んでいく。弾はすでに一二発が連続的に飛んできている。敵の能力を想像すると頭が真っ暗になりそうだ。
僕たちはなんとか広場から脇道へと逃れた、その際もかまわず撃ってくる、屋根をつらぬき、壁を貫き破壊してどんどん撃ってくる。敵が諦めたのは一〇分ほど容赦ない銃撃が終わった頃だった。
あまりの痛みで胸が苦しい、もはや何も考えられない、希望も見えない気持ちになって落ち込む様子にメリッサは気づいた。
「どうしたんだ? 足がそんなにも痛むのか」
「足は痛いよ。問題は敵の能力さ」
「敵の能力?」
珍しくオウム返しに尋ねてくる。
「ああ、最低だね。スナイパーライフルいや、銃は普通、弾数に制限がある。スナイパーライフルは大体一〇発ぐらいかな。弾が切れた場合、弾倉を変えなければいけない。
その間近づくこともできるだろうが、敵の弾数を数えると今までに三八発も撃ってきているおそらく弾数に制限がない、無限に撃てる上にリロード時間がない、最悪だ」
「っ……」
あまりのことに彼女の白い顔を青くした。正確に現状を把握して、少し慌てた様子だ。
「障害物をつたって近づけばいいじゃないか」
「山から撃ってきている、ならちかづくには山を登らないといけないな、スナイパーライフルにとって山は引きこもるのに最適な地だ。
──なら木々から頭を出したところを狙い撃ちさ、だから障害物は期待できそうもない。しかも射撃精度から予測すると相手はスコープでこちらを狙撃している、おそらく千キロ以上離れたところから撃ってきているのだろう。
考えてもみてくれ、山に潜んでいる以上正確な位置も特定できそうもない、どうにかして相手の居場所を見つけるところから始めないといけないんだ、どれほど大変か君なら解るだろう?」
「……なんとかならないのか?」
「絶望的だね。この町から離れた方がましだ」
僕の言葉にメリッサは生気を失っていた。
「メリッサ、聞きたいんだけど、同じ世界からエインヘリャルが来ることが可能なのかい?」
「可能だヴァルハラでお前たちの世界の住人から、パートナーを探すヴァルキュリアに何度も出会った。すでに何人かこの世界に送り込まれているだろう」
なるほど、なら特殊部隊のエインヘリャルが送り込まれるのは当然と考えるべきだ、頭を抱えどうしたものかと思案した。
今までなら別世界から来た能力者相手だから勝つことができた、今度は同じ世界から送り込まれたエインヘリャルだ、そうなると僕と敵の能力の差が出てくる。これは戦いを避けた方が賢明かもしれない。
現実を考えて意気消沈していた、スナイパーライフルの恐ろしさを知っている僕は、とても戦う気持ちになれなかった。また銃弾の音が遠くから聞こえた、何事かと思っているとゴゴッと音がして周りから悲鳴が聞こえてくる。何だ? 何が起きている?
「メリッサ何が起きているか探ってくれないか」
「わかった、ここでじっとしていてくれ」
「敵に顔を見られている可能性があるから、気をつけて行ってくれ」
メリッサは了解したといい探索に出かけた。その間僕は沈んだ気持ちをなんとか持ち上げようと楽しいことを考えていて、メリッサの手料理を思い浮かべた。
あの上手い料理を食べたい、そして、メリッサを抱きしめたい、それにキスしたいな、……はは、バカな妄想をしているがそうでもしないとやってられない。
しばらくするとメリッサが帰ってきた、見ると美しい顔が真っ青だった。ゆっくりとメリッサが重たげな唇で告げた。
「やられた、町を出る道がすべて水で沈んでいる。どうやら、あの威力でダムを決壊させたらしい」
──ここまで来ると笑いが出てくる。
「アンチマテリアルライフルなら、この世界の簡単なダムぐらいなら決壊させるのは簡単だろうね、えげつないよ」
僕のとる道は二つ、なんとか襲いかかる銃撃の中、山を登ってスナイパーを倒すか、水が引くまでこの町で逃げ回るか、ああ、もう一つあったな周りの山を登って超えて逃げるか。
「とりあえず宿を探そう、僕はもう疲れたよ」
「といってもその足じゃあ」
「匍匐前進したい気分なんだ」
メリッサが地図を見て宿を決めようとすると、僕はあることを思いついた。
「最初狙われた広場から離れたところにしてくれ」
僕の注文に、わかったと彼女はうなずき、宿に目星をつける。そして僕たちは移動を開始した。
案の定襲いかかる銃弾の嵐、その音響に耳を塞ぎつつ、上を向くと何やら赤い光が空に浮かび上がっていることに気づいた。
なるほどそれで僕をエインヘリャルだと判別したのか。……また重要なことを発見した、最初は僕の体すれすれに銃弾が飛んできたが、宿の方向に近づくと弾が僕の手前側にのめり込む。なるほどそうか、それで……。相手の姿を思い浮かべ、対策を練る。
宿に着くと宿の主人はびっくりした顔で僕を見た。血まみれの男を見たら誰でもそうなる、仕方ない。メリッサは僕を気づかいながらベッドに寝かしつけてくれた。 匍匐前進で疲れたのだろう、僕は夕方には眠気で気を失った。
夜が明け朝が来る、隣のベッドでメリッサがあくびしながら、椅子に座っているこちらを眺めて、僕の表情に驚いたみたいだ。
「おはよう、メリッサ」
僕の気持ちは晴れ晴れとし、窓の外をゆっくりと眺めていた。
「逃げるつもりか?」
彼女は怪訝そうに尋ねた。
「何を言ってるんだい、このまま黙って逃げるわけにはいかないよ。僕がスナイパーのエインヘリャルを倒す」
その言葉にメリッサは歓喜した表情を隠しきれなかった。
今までの経験から言うと、この世界の人間の銃声への反応は薄いものだ、大きな音に驚くものの、どれほど危険な武器で、それがどういう音なのか理解出来る者がここには存在しないのだから。
……まあそれはいい、とりあえず考えよう、今僕に何が出来る、アンチマテリアルライフルは強力でやっかいだ、しかも一発、二発で僕の肩をかすめるほどの命中精度を持った、狙撃手という危険極まりない敵……。そうだ、これは狙撃なんだ、なら敵の位置を知らなければならない。
「メリッサ、どう思う?」
「これは、銃だな」
「いやそうじゃない、どこから音が聞こえたのか解らないか?」
知りたいのは相手の距離と位置、メリッサはすごく耳がいい、僕が聞こえない遠くからの声でも、理解出来る卓越した聴覚を持っていた。僕の意図を理解したのか、口元に手を当てた彼女は、少し考え込んだ様子で問いに答えた。
「おそらく、かなり遠いところから撃ってるな、音がすごく反響している、街並みのせいもあるだろうが、山彦のようだった。なら、山から撃ってるんじゃないか」
「山か……」
周辺をつぶさに調べると1000メートル以上先に大きな山々が並んでいる、なるほど、あそこからか……そう思っていた矢先だった――!
「佑月! 足が!」
銃声と彼女が同時に叫び、僕の太股の肉が欠けたような感触と、激痛が全身に駆け巡った。しまった! 遠距離射撃なら銃声よりも実弾が先に届く、咄嗟のことで銃の摂理を失念していた。銃声が聴こえてから反応するのでは遅いのだ。
「佑月、肩を貸す!」
メリッサが慌てた口調でまくし立てながら、肩を貸し立たせようとするが、僕はそれに応じなかった。
「次の弾がやってくる、低い姿勢でこの場から離れよう!」
メリッサがうなずき、難しい姿勢ながらも僕を連れて中腰で離れようとした。
12.7mm弾がターンと音を立てる前に、僕の肩をかすめ、地面の土にめり込む。かすっただけで僕の肩の肉ははがれ飛び散った。痛みをこらえながら、低い姿勢を保ち片足で前に進む。
見えない敵から狙われる恐怖、森の中で味わった経験がなければ、きっと僕はパニックになっていただろう。
だが、敵は容赦なく弾を放ってくる、今度は僕の真正面に突き刺さった、一発でもまともに当たれば死亡。恐ろしいほどのストレスが僕にかかってくる。
平衡感覚を失い体勢を崩し地面に倒れ込んだとき、さっき僕がいた頭の部分に次の弾が飛んできて、流石に僕も恐怖を感じ始めた。
もし、バランスを崩さなければ死んでいた、一発にその威力がある。考えると寒気がしてくる、とにかくこの場から離れないと。片足で一所懸命に地面をけった、だが、遅々として進まない。
瞬く間に次々と弾が飛んできて、あまりにも連続的に撃ってくるため、匍匐前進で進んでいく。弾はすでに一二発が連続的に飛んできている。敵の能力を想像すると頭が真っ暗になりそうだ。
僕たちはなんとか広場から脇道へと逃れた、その際もかまわず撃ってくる、屋根をつらぬき、壁を貫き破壊してどんどん撃ってくる。敵が諦めたのは一〇分ほど容赦ない銃撃が終わった頃だった。
あまりの痛みで胸が苦しい、もはや何も考えられない、希望も見えない気持ちになって落ち込む様子にメリッサは気づいた。
「どうしたんだ? 足がそんなにも痛むのか」
「足は痛いよ。問題は敵の能力さ」
「敵の能力?」
珍しくオウム返しに尋ねてくる。
「ああ、最低だね。スナイパーライフルいや、銃は普通、弾数に制限がある。スナイパーライフルは大体一〇発ぐらいかな。弾が切れた場合、弾倉を変えなければいけない。
その間近づくこともできるだろうが、敵の弾数を数えると今までに三八発も撃ってきているおそらく弾数に制限がない、無限に撃てる上にリロード時間がない、最悪だ」
「っ……」
あまりのことに彼女の白い顔を青くした。正確に現状を把握して、少し慌てた様子だ。
「障害物をつたって近づけばいいじゃないか」
「山から撃ってきている、ならちかづくには山を登らないといけないな、スナイパーライフルにとって山は引きこもるのに最適な地だ。
──なら木々から頭を出したところを狙い撃ちさ、だから障害物は期待できそうもない。しかも射撃精度から予測すると相手はスコープでこちらを狙撃している、おそらく千キロ以上離れたところから撃ってきているのだろう。
考えてもみてくれ、山に潜んでいる以上正確な位置も特定できそうもない、どうにかして相手の居場所を見つけるところから始めないといけないんだ、どれほど大変か君なら解るだろう?」
「……なんとかならないのか?」
「絶望的だね。この町から離れた方がましだ」
僕の言葉にメリッサは生気を失っていた。
「メリッサ、聞きたいんだけど、同じ世界からエインヘリャルが来ることが可能なのかい?」
「可能だヴァルハラでお前たちの世界の住人から、パートナーを探すヴァルキュリアに何度も出会った。すでに何人かこの世界に送り込まれているだろう」
なるほど、なら特殊部隊のエインヘリャルが送り込まれるのは当然と考えるべきだ、頭を抱えどうしたものかと思案した。
今までなら別世界から来た能力者相手だから勝つことができた、今度は同じ世界から送り込まれたエインヘリャルだ、そうなると僕と敵の能力の差が出てくる。これは戦いを避けた方が賢明かもしれない。
現実を考えて意気消沈していた、スナイパーライフルの恐ろしさを知っている僕は、とても戦う気持ちになれなかった。また銃弾の音が遠くから聞こえた、何事かと思っているとゴゴッと音がして周りから悲鳴が聞こえてくる。何だ? 何が起きている?
「メリッサ何が起きているか探ってくれないか」
「わかった、ここでじっとしていてくれ」
「敵に顔を見られている可能性があるから、気をつけて行ってくれ」
メリッサは了解したといい探索に出かけた。その間僕は沈んだ気持ちをなんとか持ち上げようと楽しいことを考えていて、メリッサの手料理を思い浮かべた。
あの上手い料理を食べたい、そして、メリッサを抱きしめたい、それにキスしたいな、……はは、バカな妄想をしているがそうでもしないとやってられない。
しばらくするとメリッサが帰ってきた、見ると美しい顔が真っ青だった。ゆっくりとメリッサが重たげな唇で告げた。
「やられた、町を出る道がすべて水で沈んでいる。どうやら、あの威力でダムを決壊させたらしい」
──ここまで来ると笑いが出てくる。
「アンチマテリアルライフルなら、この世界の簡単なダムぐらいなら決壊させるのは簡単だろうね、えげつないよ」
僕のとる道は二つ、なんとか襲いかかる銃撃の中、山を登ってスナイパーを倒すか、水が引くまでこの町で逃げ回るか、ああ、もう一つあったな周りの山を登って超えて逃げるか。
「とりあえず宿を探そう、僕はもう疲れたよ」
「といってもその足じゃあ」
「匍匐前進したい気分なんだ」
メリッサが地図を見て宿を決めようとすると、僕はあることを思いついた。
「最初狙われた広場から離れたところにしてくれ」
僕の注文に、わかったと彼女はうなずき、宿に目星をつける。そして僕たちは移動を開始した。
案の定襲いかかる銃弾の嵐、その音響に耳を塞ぎつつ、上を向くと何やら赤い光が空に浮かび上がっていることに気づいた。
なるほどそれで僕をエインヘリャルだと判別したのか。……また重要なことを発見した、最初は僕の体すれすれに銃弾が飛んできたが、宿の方向に近づくと弾が僕の手前側にのめり込む。なるほどそうか、それで……。相手の姿を思い浮かべ、対策を練る。
宿に着くと宿の主人はびっくりした顔で僕を見た。血まみれの男を見たら誰でもそうなる、仕方ない。メリッサは僕を気づかいながらベッドに寝かしつけてくれた。 匍匐前進で疲れたのだろう、僕は夕方には眠気で気を失った。
夜が明け朝が来る、隣のベッドでメリッサがあくびしながら、椅子に座っているこちらを眺めて、僕の表情に驚いたみたいだ。
「おはよう、メリッサ」
僕の気持ちは晴れ晴れとし、窓の外をゆっくりと眺めていた。
「逃げるつもりか?」
彼女は怪訝そうに尋ねた。
「何を言ってるんだい、このまま黙って逃げるわけにはいかないよ。僕がスナイパーのエインヘリャルを倒す」
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