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砂城の愛
第五十三話 砂城の愛③
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セルモアの手が鎖のついたおもりを支えている木のつっかえ棒を外すと、さっき僕らが来たところの扉が閉まっていく。
「この城郭は特殊でね。ここに来た人間を閉じ込めるために、罠を張っているんだ。こちらの扉を閉めると、跳ね橋の向こう側から扉を開ける仕掛けを動かさないと、扉が開かないようになっている」
……なるほど、退路は断たれた、そう言いたいのか。
「さてここでお立ち会い。右手と左手の一方に炎柱の罠が仕掛けています。さあ、君たちはどちらに進めば良いかな?」
「そんなのお前を殺せば関係ないだろ」
苛立っていた僕は、こんなゲームをなどする気などさらさらなかった。
「もちろんそんなことしようとすると、僕は逃げるよ。罠が仕掛けてある場所をわざと通って、君たちを殺すかもしれないね」
「佑月、武器を変えろ銃なら、子どもぐらいなら仕留めやすいだろ」
後ろを振り向くとメリッサがいた、僕は呼びかけを無視した、敵の目の前で武器を変えるのを見られるのは厄介だと考えたからだ。
幸運にもセルモアに見られたのは、一回サーベルを出すときだけだ、こっちをサーベル使いだと思っているだろう。
下手に武器を変えるとやつに対策をとられるかもしれないし、もちろんこんなゲームに乗る気はない。どうにかしてサーベルで仕留める隙を与えられないものかと思案を巡らせている。これを逆手にとって奴をはめることはできないものか……。
だが、返答しない僕にメリッサは動揺を隠せない。
「佑月! どうしてなんだ。そんなにも私が嫌いになったのか!」
「──メリッサ、少し黙っててくれ!」
「佑月そこまで私のことを信頼できないのか……?」
メリッサの声が震えているのがわかる。そっちの問題はあとだ、この場を上手く切り抜けるにはどうしたものか、──頭のどこかで少し思考が変じゃないかと心のどこかで囁く、今、僕は自分のことしか考えていなかった。
どうすればいい……。
やつがルールを守る人間だと思わない、やつの言葉を信じるわけにはいかない、かといって、メリッサの言うとおり武器を変えると、奴は迷わず逃げるだろう。どれだけ罠が仕掛けているかわからないこの場所で、追いかけっこするのはあまりにも危険すぎる。
なら、どうする……?
「ほら、どうしたのおじさん、さっきみたいにトリッキーな手で切り抜けて見せてよ、大人の頭の良さが試されているよ」
「だまれ」
僕は言葉を選んでいる余裕はなかった、そんな僕の異変に気がついたのはメリッサだった。
「もしかして、考えがまとまらないのか?」
僕は無言でその言葉を流す、そうだその通りだ、メリッサを守るという目的があったから、どんな困難でも乗り越えてきた。僕の心の中でメリッサへの信頼が揺らいでいることが自覚できた。そんな中で奇策を思い浮かべられるほど、僕はできた人間じゃない。
本当はメリッサのことで頭がいっぱいだった。彼女の本当の気持ちが、知りたくてどうしようもなかった。でも、とりあえず打開しなければならないとはわかっているが、どうしても頭が回らない。くそ……なんとかしないと。
「そうか……わかった……!」
メリッサがそうつぶやくと右手方向に向かい、
「信じているからな!」
そう満面の笑顔で言って、右手方向に走り込んでいく、ちょっと待て! どういうつもりだ? 僕はぞっとする思いで彼女を止めていた。
「やめろ! メリッサ!」
「私は佑月のこと信じているからな! どんなときだって私を守ってくれると信じているから! 好きだ、佑月!」
僕の制止を振り切って、どんどん、メリッサの影が遠くなっていく、やめろ、やめてくれ、メリッサが苦しむ姿を見たくない。
「やめろぉ――――――――っ!!」
僕の言葉も虚しく、メリッサの足下から炎柱が上がり、彼女身体を炎が包む。最後に見たメリッサの姿は、純粋に微笑む清らかな美しい少女だった。
「メリッサあああ――――っ!!!」
炎が消え、跡に残っているのは消し炭だけだった。
「あはは──っ! ホントに飛び込んでやがるの! バカだなあ! 両方仕掛けてあるに決まっているだろ!」
セルモアの笑い声が城壁内に響いていく。
「ちなみに何重にも炎柱は仕掛けてあるから! 今の全くの無駄死に! 滑稽だなあ! 好きだ! だって、あのバカ女頭に何かわいているんじゃないの!」
だまれ……クソ野郎。メリッサをあんなにも追い詰めたのは僕だ。彼女の気持ちを考えてちゃんと話し合えば、もっと簡単にこの状況を打開できたはずだ。
いくら彼女は生き返ることができるとはいえ、生きたまま焼かれる痛み、僕の心ない言葉からの心の痛みがどれほどのものだったか……! まるで自分のことのように感じられてくる――そうだ、これは僕の責任だ! ……後悔の念に僕は苛まれた。
「メリッサ・ヴァルキュリア、貴女そこまで……!」
ミリアは衝撃を受けている、これがメリッサの愛の形だ、自分を犠牲にして僕を導く。不器用で純粋で、きらきら静かに光り続ける愛。
何で気づかなかったのだろう、いつも僕の前に立って守ってくれた、不器用だけど、彼女なりのきれいで、確かな想い。すっかり忘れてしまっていた、馬鹿で愚かな自分を責める。彼女が僕を愛していないわけが無いんだ! 彼女なりにヴァルキュリアの秘密について悩んでいたに違いない。
──いつも側にいてくれたのに、なんで気づかないんだ、僕は!
「あはは―――! ホント女ってバカだな、救いようがない!」
セルモアの笑い声がこだましてくる。うるさい、だまれ、メリッサはお前の思惑など見抜いていただろう、自ら炎柱に飛び込んだのは、僕に覚悟を決めさせるためだ。メリッサを生き返らせるためには、僕が絶対に生き延びなければならない。
そうやって彼女の指し示した光の道筋、なら例えどんな手を使っても、僕は彼女のために生き延びる……!
心に静寂が戻ってくる、段々と頭がさえてきた。メリッサを守る、確固たる信念と目的ができると僕は頭の切れ味が増してくる、どうやら自分はそういう人種のようだ。何が何だろうと生き延びてやる、それが僕の本当の願い。
……なら、腹は決まった、やってみるさ、メリッサ。セルモアの前で静かに僕はつぶやいた。
「僕の負けだ……」
膝をつきサーベルを置き、地面に手をつく。からりとサーベルの音が、無音の中響き、驚いた様子でセルモアとミリアが、僕を見下ろした。僕の様子に二人はあからさまに動揺している。
――よし、まずは一段階クリアだ。虚は付けた、あとはここからが僕の頭の見せ所だ。
「この城郭は特殊でね。ここに来た人間を閉じ込めるために、罠を張っているんだ。こちらの扉を閉めると、跳ね橋の向こう側から扉を開ける仕掛けを動かさないと、扉が開かないようになっている」
……なるほど、退路は断たれた、そう言いたいのか。
「さてここでお立ち会い。右手と左手の一方に炎柱の罠が仕掛けています。さあ、君たちはどちらに進めば良いかな?」
「そんなのお前を殺せば関係ないだろ」
苛立っていた僕は、こんなゲームをなどする気などさらさらなかった。
「もちろんそんなことしようとすると、僕は逃げるよ。罠が仕掛けてある場所をわざと通って、君たちを殺すかもしれないね」
「佑月、武器を変えろ銃なら、子どもぐらいなら仕留めやすいだろ」
後ろを振り向くとメリッサがいた、僕は呼びかけを無視した、敵の目の前で武器を変えるのを見られるのは厄介だと考えたからだ。
幸運にもセルモアに見られたのは、一回サーベルを出すときだけだ、こっちをサーベル使いだと思っているだろう。
下手に武器を変えるとやつに対策をとられるかもしれないし、もちろんこんなゲームに乗る気はない。どうにかしてサーベルで仕留める隙を与えられないものかと思案を巡らせている。これを逆手にとって奴をはめることはできないものか……。
だが、返答しない僕にメリッサは動揺を隠せない。
「佑月! どうしてなんだ。そんなにも私が嫌いになったのか!」
「──メリッサ、少し黙っててくれ!」
「佑月そこまで私のことを信頼できないのか……?」
メリッサの声が震えているのがわかる。そっちの問題はあとだ、この場を上手く切り抜けるにはどうしたものか、──頭のどこかで少し思考が変じゃないかと心のどこかで囁く、今、僕は自分のことしか考えていなかった。
どうすればいい……。
やつがルールを守る人間だと思わない、やつの言葉を信じるわけにはいかない、かといって、メリッサの言うとおり武器を変えると、奴は迷わず逃げるだろう。どれだけ罠が仕掛けているかわからないこの場所で、追いかけっこするのはあまりにも危険すぎる。
なら、どうする……?
「ほら、どうしたのおじさん、さっきみたいにトリッキーな手で切り抜けて見せてよ、大人の頭の良さが試されているよ」
「だまれ」
僕は言葉を選んでいる余裕はなかった、そんな僕の異変に気がついたのはメリッサだった。
「もしかして、考えがまとまらないのか?」
僕は無言でその言葉を流す、そうだその通りだ、メリッサを守るという目的があったから、どんな困難でも乗り越えてきた。僕の心の中でメリッサへの信頼が揺らいでいることが自覚できた。そんな中で奇策を思い浮かべられるほど、僕はできた人間じゃない。
本当はメリッサのことで頭がいっぱいだった。彼女の本当の気持ちが、知りたくてどうしようもなかった。でも、とりあえず打開しなければならないとはわかっているが、どうしても頭が回らない。くそ……なんとかしないと。
「そうか……わかった……!」
メリッサがそうつぶやくと右手方向に向かい、
「信じているからな!」
そう満面の笑顔で言って、右手方向に走り込んでいく、ちょっと待て! どういうつもりだ? 僕はぞっとする思いで彼女を止めていた。
「やめろ! メリッサ!」
「私は佑月のこと信じているからな! どんなときだって私を守ってくれると信じているから! 好きだ、佑月!」
僕の制止を振り切って、どんどん、メリッサの影が遠くなっていく、やめろ、やめてくれ、メリッサが苦しむ姿を見たくない。
「やめろぉ――――――――っ!!」
僕の言葉も虚しく、メリッサの足下から炎柱が上がり、彼女身体を炎が包む。最後に見たメリッサの姿は、純粋に微笑む清らかな美しい少女だった。
「メリッサあああ――――っ!!!」
炎が消え、跡に残っているのは消し炭だけだった。
「あはは──っ! ホントに飛び込んでやがるの! バカだなあ! 両方仕掛けてあるに決まっているだろ!」
セルモアの笑い声が城壁内に響いていく。
「ちなみに何重にも炎柱は仕掛けてあるから! 今の全くの無駄死に! 滑稽だなあ! 好きだ! だって、あのバカ女頭に何かわいているんじゃないの!」
だまれ……クソ野郎。メリッサをあんなにも追い詰めたのは僕だ。彼女の気持ちを考えてちゃんと話し合えば、もっと簡単にこの状況を打開できたはずだ。
いくら彼女は生き返ることができるとはいえ、生きたまま焼かれる痛み、僕の心ない言葉からの心の痛みがどれほどのものだったか……! まるで自分のことのように感じられてくる――そうだ、これは僕の責任だ! ……後悔の念に僕は苛まれた。
「メリッサ・ヴァルキュリア、貴女そこまで……!」
ミリアは衝撃を受けている、これがメリッサの愛の形だ、自分を犠牲にして僕を導く。不器用で純粋で、きらきら静かに光り続ける愛。
何で気づかなかったのだろう、いつも僕の前に立って守ってくれた、不器用だけど、彼女なりのきれいで、確かな想い。すっかり忘れてしまっていた、馬鹿で愚かな自分を責める。彼女が僕を愛していないわけが無いんだ! 彼女なりにヴァルキュリアの秘密について悩んでいたに違いない。
──いつも側にいてくれたのに、なんで気づかないんだ、僕は!
「あはは―――! ホント女ってバカだな、救いようがない!」
セルモアの笑い声がこだましてくる。うるさい、だまれ、メリッサはお前の思惑など見抜いていただろう、自ら炎柱に飛び込んだのは、僕に覚悟を決めさせるためだ。メリッサを生き返らせるためには、僕が絶対に生き延びなければならない。
そうやって彼女の指し示した光の道筋、なら例えどんな手を使っても、僕は彼女のために生き延びる……!
心に静寂が戻ってくる、段々と頭がさえてきた。メリッサを守る、確固たる信念と目的ができると僕は頭の切れ味が増してくる、どうやら自分はそういう人種のようだ。何が何だろうと生き延びてやる、それが僕の本当の願い。
……なら、腹は決まった、やってみるさ、メリッサ。セルモアの前で静かに僕はつぶやいた。
「僕の負けだ……」
膝をつきサーベルを置き、地面に手をつく。からりとサーベルの音が、無音の中響き、驚いた様子でセルモアとミリアが、僕を見下ろした。僕の様子に二人はあからさまに動揺している。
――よし、まずは一段階クリアだ。虚は付けた、あとはここからが僕の頭の見せ所だ。
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