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砂城の愛
第五十二話 砂城の愛②
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メリッサは庭園の大きな石を投げ、罠が仕掛けてないか丁寧に調べていた。
「よし、罠は仕掛けてないぞ」
僕は噴水の囲いに座っていた、言葉が出なく、頭の中が真っ暗で、闇に取り込まれた感じだった。また隣にミリアが座り、うずくまった。横目で見ると、こちらも深い絶望に打ちのめされており、ひたすら泣いていた。
そこにメリッサがやってきて、泣いているミリアの頬をすぐさま叩いた。
「泣くぐらいなら、何故止められなかった!」
その怒声にミリアは鬼のような表情でにらみ返し怒鳴る。
「しかたないでしょ! 私だって女よ!」
「それが愚かだと言うんだ! ヴァルキュリアは神だ、それを忘れるなんて言語道断だ!」
「言ってくれるわね! 貴女でしょ、ユヅの好きな人って。彼、一向に恋愛が進まないって、悩んでいたわ。何故本当のことを言わなかったの? そりゃあ、できないよね。実はユヅと本当に一つになることはできないなんて。
言ってしまえば、はい、おしまい、ユヅの心が離れてしまうからでしょ。だからでしょ! 卑怯な女!」
やめてくれ、壊れていく、僕の思い描く幸せ、家族像、メリッサとの愛の形。
「そ……それは、機会がなかっただけだ!」
僕はメリッサにからかわれていたのか? 僕と一つになれないことを知っていたのに。君は僕のことは遊びだったのかい。頭を抱え、指先に力が加わっていく。さらにミリアはメリッサに向かって、こう畳みかけた。
「言い訳しないでよね! 私がどれだけ苦しんだかわかる!? こんなにも愛しているのに一つになれないなんて……、だから私ははっきり言ったわ。貴方とはひとつになれないそれでもいい? って。
そしたら彼、なんて言ったと思う? 君と一つになれるなら、死んでもいいって。
そんなこと言われたら女は、もう、どうしようもないじゃない! メンフェスはそれでもいいって、愛してるって、言ったのよ! ……ああ……メンフェス……」
僕はメリッサを愛しているからここまで頑張って来られたのに。僕は一体君のなんだい? 教えてくれメリッサ……。
「そ、それでも! 相手のことを考えるなら止めるべきだった。死んでしまうぐらいなら、相手を止めるのが当然だろ!」
メリッサはうろたえながら叫び放つが、ミリアも負けじと言い返した。
「なんで私の気持ちがわからないの! 止められなかったっていってるでしょ! 私の肌をはう唇、優しく私の敏感なところを攻める指先、私の秘密の場所を攻められたとき、天にも昇る心地だったわ。この人なら全部あげちゃいたい、女だもんそう思っちゃうわよ、当たり前でしょ!
そうよ、貴女はそれを感じたことがないのよ! いや、感じないよう、卑怯にも逃げていたんでしょ。ユヅからちゃんと聞いているんだから、大事なところ触らせてくれないって、そりゃそうよね、そのまま行くと私と同じことが起こるものね!
でも、それを正直に言わなかったのは何故? そうよね、恋愛ごっこを楽しみたかっただけだもんね。そりゃ無理ね。貴女たちは平行線、絶対幸せになれないわ。はっきり言ってあげる。貴女はただの娼婦よ! ただし出来損ないのね!」
言い争う二人そのはざまで僕の心は深くえぐられていく。
「違うっていってるだろ! 何様のつもりだ! 愛する男を殺す女が、まともだというのか、私は純粋なだけだ!」
「純粋? なにそれ? バカじゃないの? 男は女にキスをしたら抱きしめたくなるし、抱きしめたら触りたくなるし、上を触ったら下も触りたい。女の秘密の場所を見てみたい、そして一つになりたい。当たり前じゃない。それが男と女。純粋だなんて、笑えないジョークよ!」
こうなっては、もはや感情論の口論だ。罵声に浴びせる罵声。理屈も何もないただの言い争いだ。
「違うっていってるだろ! 私はただ……」
「もういい加減にしてくれないか!!!」
僕は自然と叫んでいた。もう、これ以上惨めになりたくはなかったんだ。
「二人とも楽しいか? 男の気持ちをもてあそんで。所詮、人間の男なんて、神にとっては遊びなんだろ! 違うか!」
「違う、私は!」
僕の言葉に、思わず、メリッサとミリアの声がハモってしまったようだ。
「僕は本気だった、真剣に愛していた。メリッサといっしょに家庭を作って子どもを作って、優しい父親や夫になりたいと思っていた、それが僕の求める、普通の幸せだって、信じていたのに! メリッサ、君は僕を裏切った!」
僕は心の底から叫んだ。そうすると、メリッサは急に優しい口調になって、僕の心をなだめようとする。
「私も同じ気持ちだ。佑月と温かい家庭を作りたいって……」
「でも、できないんだろ! じゃあ意味ないじゃないか! こんな砂の城でできた愛なんて、いつか壊れるに決まっているだろ。つながりのない形だけの愛、子どもの恋愛。そんなの海の波に流されてしまえば、ハイ終わり。それじゃあ意味ないんだよ! わかるか、メリッサ!」
メリッサは少し涙ぐんで震えた声で、僕に請い願った。
「愛だっていろんな形があるだろ……、お願いもう一度私を信じてくれ……」
「信じられないね!」
「信じてくれ!」
「僕は君のためなら何でもする気だった。人間になりたい? いいじゃないか僕はどんな形でもメリッサを愛する気だった。でもそれは幻想だった。
君は本当のところで僕を信じていなかっただろ! 君がそれを望まないなら、それでもよかった。でも、君は間接的に嘘をついていた、僕は真実を知りたかったんだ。どんなにこちらが愛しているつもりでも、君が僕を愛していないなら意味がないじゃないか!
──僕は、……そのために戦ってきたのに!」
庭園に一人の道化師の男の声が虚しく響く。
「――メリッサとひとつになれないなんて……!」
それは、もはや慟哭に近かった。こだまする声。ざわめく植えられた木。
「お願い佑月こっちを見てくれ、私の瞳を見て、そしたらまた、信じられるから……」
「嫌だ!」
「お願いだ! ……こっちを見て……!」
メリッサも声が震え、嗚咽混じりになる。僕はメリッサの顔を見なかった。
――ああ、終わりだ……これで……すべて……。
「――こちらから声がするぞ!」
「ミリア様がおられる! お助けするぞ!」
この城の騎士と貴族たちが追いかけてきた。突然、僕はミリアを連れて声とは反対側に向かった。一人おいていかれたメリッサは動揺した様子で、後ろから叫んでくる。
「まて! 佑月、どこへ行く!」
メリッサが叫んだが、僕はその静止を振り切る。
「君の指図は受けない!」
僕は後ろを振り返らずに言う。城の城壁につながる跳ね橋を渡り、内部の道におどり出た。
周りを見る、奴がいた。どうやら、セルモアが待っていたようだ。
「ようこそ、ここからがショータイムだよ」
セルモアがほくそ笑み、まるで、大道芸人がこれからの舞台を見せたがるがごとく、おどけながら頭を下げた。
「よし、罠は仕掛けてないぞ」
僕は噴水の囲いに座っていた、言葉が出なく、頭の中が真っ暗で、闇に取り込まれた感じだった。また隣にミリアが座り、うずくまった。横目で見ると、こちらも深い絶望に打ちのめされており、ひたすら泣いていた。
そこにメリッサがやってきて、泣いているミリアの頬をすぐさま叩いた。
「泣くぐらいなら、何故止められなかった!」
その怒声にミリアは鬼のような表情でにらみ返し怒鳴る。
「しかたないでしょ! 私だって女よ!」
「それが愚かだと言うんだ! ヴァルキュリアは神だ、それを忘れるなんて言語道断だ!」
「言ってくれるわね! 貴女でしょ、ユヅの好きな人って。彼、一向に恋愛が進まないって、悩んでいたわ。何故本当のことを言わなかったの? そりゃあ、できないよね。実はユヅと本当に一つになることはできないなんて。
言ってしまえば、はい、おしまい、ユヅの心が離れてしまうからでしょ。だからでしょ! 卑怯な女!」
やめてくれ、壊れていく、僕の思い描く幸せ、家族像、メリッサとの愛の形。
「そ……それは、機会がなかっただけだ!」
僕はメリッサにからかわれていたのか? 僕と一つになれないことを知っていたのに。君は僕のことは遊びだったのかい。頭を抱え、指先に力が加わっていく。さらにミリアはメリッサに向かって、こう畳みかけた。
「言い訳しないでよね! 私がどれだけ苦しんだかわかる!? こんなにも愛しているのに一つになれないなんて……、だから私ははっきり言ったわ。貴方とはひとつになれないそれでもいい? って。
そしたら彼、なんて言ったと思う? 君と一つになれるなら、死んでもいいって。
そんなこと言われたら女は、もう、どうしようもないじゃない! メンフェスはそれでもいいって、愛してるって、言ったのよ! ……ああ……メンフェス……」
僕はメリッサを愛しているからここまで頑張って来られたのに。僕は一体君のなんだい? 教えてくれメリッサ……。
「そ、それでも! 相手のことを考えるなら止めるべきだった。死んでしまうぐらいなら、相手を止めるのが当然だろ!」
メリッサはうろたえながら叫び放つが、ミリアも負けじと言い返した。
「なんで私の気持ちがわからないの! 止められなかったっていってるでしょ! 私の肌をはう唇、優しく私の敏感なところを攻める指先、私の秘密の場所を攻められたとき、天にも昇る心地だったわ。この人なら全部あげちゃいたい、女だもんそう思っちゃうわよ、当たり前でしょ!
そうよ、貴女はそれを感じたことがないのよ! いや、感じないよう、卑怯にも逃げていたんでしょ。ユヅからちゃんと聞いているんだから、大事なところ触らせてくれないって、そりゃそうよね、そのまま行くと私と同じことが起こるものね!
でも、それを正直に言わなかったのは何故? そうよね、恋愛ごっこを楽しみたかっただけだもんね。そりゃ無理ね。貴女たちは平行線、絶対幸せになれないわ。はっきり言ってあげる。貴女はただの娼婦よ! ただし出来損ないのね!」
言い争う二人そのはざまで僕の心は深くえぐられていく。
「違うっていってるだろ! 何様のつもりだ! 愛する男を殺す女が、まともだというのか、私は純粋なだけだ!」
「純粋? なにそれ? バカじゃないの? 男は女にキスをしたら抱きしめたくなるし、抱きしめたら触りたくなるし、上を触ったら下も触りたい。女の秘密の場所を見てみたい、そして一つになりたい。当たり前じゃない。それが男と女。純粋だなんて、笑えないジョークよ!」
こうなっては、もはや感情論の口論だ。罵声に浴びせる罵声。理屈も何もないただの言い争いだ。
「違うっていってるだろ! 私はただ……」
「もういい加減にしてくれないか!!!」
僕は自然と叫んでいた。もう、これ以上惨めになりたくはなかったんだ。
「二人とも楽しいか? 男の気持ちをもてあそんで。所詮、人間の男なんて、神にとっては遊びなんだろ! 違うか!」
「違う、私は!」
僕の言葉に、思わず、メリッサとミリアの声がハモってしまったようだ。
「僕は本気だった、真剣に愛していた。メリッサといっしょに家庭を作って子どもを作って、優しい父親や夫になりたいと思っていた、それが僕の求める、普通の幸せだって、信じていたのに! メリッサ、君は僕を裏切った!」
僕は心の底から叫んだ。そうすると、メリッサは急に優しい口調になって、僕の心をなだめようとする。
「私も同じ気持ちだ。佑月と温かい家庭を作りたいって……」
「でも、できないんだろ! じゃあ意味ないじゃないか! こんな砂の城でできた愛なんて、いつか壊れるに決まっているだろ。つながりのない形だけの愛、子どもの恋愛。そんなの海の波に流されてしまえば、ハイ終わり。それじゃあ意味ないんだよ! わかるか、メリッサ!」
メリッサは少し涙ぐんで震えた声で、僕に請い願った。
「愛だっていろんな形があるだろ……、お願いもう一度私を信じてくれ……」
「信じられないね!」
「信じてくれ!」
「僕は君のためなら何でもする気だった。人間になりたい? いいじゃないか僕はどんな形でもメリッサを愛する気だった。でもそれは幻想だった。
君は本当のところで僕を信じていなかっただろ! 君がそれを望まないなら、それでもよかった。でも、君は間接的に嘘をついていた、僕は真実を知りたかったんだ。どんなにこちらが愛しているつもりでも、君が僕を愛していないなら意味がないじゃないか!
──僕は、……そのために戦ってきたのに!」
庭園に一人の道化師の男の声が虚しく響く。
「――メリッサとひとつになれないなんて……!」
それは、もはや慟哭に近かった。こだまする声。ざわめく植えられた木。
「お願い佑月こっちを見てくれ、私の瞳を見て、そしたらまた、信じられるから……」
「嫌だ!」
「お願いだ! ……こっちを見て……!」
メリッサも声が震え、嗚咽混じりになる。僕はメリッサの顔を見なかった。
――ああ、終わりだ……これで……すべて……。
「――こちらから声がするぞ!」
「ミリア様がおられる! お助けするぞ!」
この城の騎士と貴族たちが追いかけてきた。突然、僕はミリアを連れて声とは反対側に向かった。一人おいていかれたメリッサは動揺した様子で、後ろから叫んでくる。
「まて! 佑月、どこへ行く!」
メリッサが叫んだが、僕はその静止を振り切る。
「君の指図は受けない!」
僕は後ろを振り返らずに言う。城の城壁につながる跳ね橋を渡り、内部の道におどり出た。
周りを見る、奴がいた。どうやら、セルモアが待っていたようだ。
「ようこそ、ここからがショータイムだよ」
セルモアがほくそ笑み、まるで、大道芸人がこれからの舞台を見せたがるがごとく、おどけながら頭を下げた。
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