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砂城の愛

第四十八話 幸せの意味③

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 ……夢。僕は夢を見ている。メリッサがウェディングドレスを着ていて、僕に優しく微笑みかける、それは神聖な時間だった。彼女はそっと目を閉じ、こうつぶく、”愛してる”と。その言葉だけで僕は十分な気がした。

 だがさらに重ねて、彼女の濡れた唇が僕の口元へ届く、それはそっと時が止まったようだった。

 最高の夢だ。ああ、神様、いるんだったらこの夢が覚めないように、そう、僕は願っていた。しかし、ふと目を覚ます、目を見開くと、何故か視界がメリッサでいっぱいだった、唇に温かいものを感じる。

 ──あれ、もしかしてキスされているのか?

 ぷはーと息を吐いて僕の上に乗っているメリッサが目覚めのあいさつした。

「おはよう、朝だぞ」
「この状況は何?」

 事態を飲み込めないままでいたので彼女に説明を求めた。

「いやなに、最近かまってやってないからな、私も寂しく思っていたところだ。今日もかまってやれないから、せめて刺激的な朝を迎えさせてやろうと思ってな。どうだ? ドキドキしてきたか?」

「……眠い、寝る」

 僕は本当は嬉しかったが、彼女のいたずらに付き合ってやることにして、再び眠りにつこうとする。

「起きろー! カノジョがおこしてるんだぞ、イチャイチャするぞ! 命令だ、イチャイチャしろ!」

 そう言ってメリッサは僕の上で暴れた。股間の上に柔らかなお尻が当たりなんだかぞわぞわ感がしてしまう。それでなお、彼女はまた情熱的にキスをしてきた。

 ちょっとまって、そんなことされると僕も体が勝手に……。メリッサの動きが止まる。僕のが盛り上がってしまったからだ。今は性欲がなくなっているって言ったけど、生体反応は正常みたいだ。

「こ、これって……。この変態!!!」

 そう言いながら僕の鼻を塞いでキスをする。苦しい、苦しいよメリッサ。僕が死んじゃうよ……。ああ、最高だよ君は。

「それで今日も孤児院とやらに行くのか?」

 僕たちは教会の前にやってきた、メリッサがこの世界を調べるためだ。彼女の質問に僕がそうだとうなずくと、メリッサは”ふーん”と言ってじとりと僕の目を見つめる。

「さては女だな?」

 僕は吹き出してしまった。咳き込む様子を見るやいなや、メリッサは近くに寄ってくる。やばい、女の勘だ。やられる……。

「浮気は許さん! 私の唇を忘れるな!」

 そう言って彼女が僕の足を引っかけて僕が尻餅をつきそうになったところを、強引に支えてキスをする。そしてウインクして教会の中に入っていった。その愛らしさにあっけにとられ、残った唇のぬくもりに感動せずにはいられなかった。

 ……そしてミリアはぶっ倒れた。

「大丈夫か! ミリア!」

 僕がミリアを揺さぶると徐々に目の焦点が合ってくる。

「スマホ……手のひらサイズでネットができる……遊べる……。遠くの人と話せる……地図が見られる」

 どうやらスマホは刺激が強すぎたみたいだ。

「どれだけあなたたちの世界の住人は贅沢なのよ! それはそれは、幸せな毎日でしょうね!」
「……別にそうでもないよ。娯楽があっても心が満たされないことだってある」

 ミリアは驚いた様子でこちらを見ていた。僕の返答に理解できないと言った様子で、

「貴方は不幸だったの?」

 と言う。僕は少し考える。そしてはっきり答えた。

「僕はこちらの世界に来て幸せをかみしめている。愛する人、刺激のある生活、次々と現れる敵。想像もしていなかった孤独な世界だけど、それでも満たされている」

「私も、もちろんこちらの世界に来てのほうが幸せよ」

 二人は空を見上げた、何故だか沈黙の時間が続く、ぽつりと話を切り出したのは彼女のほうだった。

「貴方の好きな人についてが聞きたい」

 女性って恋に関して明け透けなところがあるから、がっつり聞いてくるなあ。まあ、ここは男だはっきりと言おう。

「……ああ、メリッサのことかい? 彼女はとても美しい。でも美しいのは見た目だけじゃないんだ。とても世話焼きで、時には僕を叱咤激励して、時には優しくしてくれて、僕より出張ったりはしない。常に後ろから支えてくれる、彼女ほど僕の背中を任せたいと思う娘はいないよ」

 そう言った後、僕の仏頂面が崩れたのを自分で感じた。変な顔してしまってるだろうな、まあ仕方ないだろ、好きなんだから、メリッサが。

「それでいて……そのなんか少女みたいで可愛いんだ。なんか守りたくって仕方ない娘なんだよ」

 僕は頬をかく、自分で言いながら赤くなっているのに気づいた、言葉に熱が籠もっていたのが自分でも解る。

「ごちそうさま。そんないい娘なら上手くいくでしょうね。貴方も結婚しちゃいなよ」

「それが……その、最近一向に進展しないんだ。その僕はもっと彼女と一つになりたいと思っているけど、メリッサはそれをなんていうか、すれ違っちゃって」

 僕は今度は頭をかく。……恥ずかしいことを相談していると思って、自己嫌悪におちいった。

「別に肉体的に一つじゃなくてもいいんじゃない?」

 え? どういう意味だろうか。肉体的に?

「本当の愛情って肉体的なもので決めるものじゃないと思う、どれだけ貴方たちが愛し合っているか、心が通じ合っているか、相手のことを考えるか、相手のことを受け入れるかじゃない? 愛情の形なんて人それぞれなんだし。

 そうよ、別に肉体的なつながりが愛情のすべてを決めるわけじゃないわ、……幸せの意味ってね、どれだけ感じるかじゃなく、どれだけ与えられるかが重要――だと思う。”一人だけ幸せって本当の幸せかしら?”」

 ──僕にはまだよくわからない、こんな気持ちになったのは初めてだから。遠い未来の時、彼女の何気ない言葉が深く突き刺さることに今の僕は気づきもしなかった。

 僕があっけにとられていると、ミリアは立ち上がった。遠くから男がやってきた。

「あ、メンフェスこっちよ!」

 僕と同じくらいの背をした赤毛の端整な顔立ちをした貴族の男がやってくる、彼がメンフィスか、……こいつはミリアも面食いだな。

「メンフェスお友達ができたの、異世界のお友達」

 何やら指とアクションをつけてミリアはアピールする、そしてメンフェスは僕を軽く抱きしめた。これがここの挨拶だろうか、そうして手を回し方向を示す、あっちに行けと言うことだろうか。また、何故かいつもの黒い髪の男の子がついてきている。

 僕はメンフェスに城に案内してもらい歓迎してもらった、いろいろな貴族と抱きしめ合い友好を示す。そしてミリアがこう言ってくれた、

「貴方を歓迎するって、いつでも来ていいってサインをもらったわ。あなたも遊びに来てよ、ね!」

 ──ああ、本当にミリアが城主の息子と結婚するんだなっと改めて現実味を僕は感じた。

 彼女はメンフェスといるとき、僕といるときとは違う顔をしているように見えた。その笑顔がメリッサに重なるように感じたのは僕の気のせいだろうか。

 婚約者たちの歓待に甘えていたが、取りあえず、メリッサに迷惑かけないよう途中で切り上げて、夕暮れの教会まで急いで向かった。もちろんのことだが、メリッサ姫はカンカンだった、女を待たせていいのは、母親が命の危険にあった時だと。彼女らしい言い分だ。

 そういう毎日を一週間ほど続けているとメリッサの調査も順調にいっていたようで、僕に告げる。

「この世界のことがよくわかったぞ、明日説明する」
「そうか、僕も話したいことがあるんだ」

 僕は決心した。ミリアのことを話そう。そして一緒に結婚式をお祝いしてあげよう。そう思いながら、夜、疲れてた僕らはすぐに眠りについた。
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