ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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ザメハの笑み

第四十四話 不安

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 この街でしばしの時間が流れた、メリッサとゆったりとした時間、それが僕にとって何よりも暖かい日差しを浴びるかのように、みるみると生気をあたえてくれた。そしてついに僕は調子を取り戻した。

 あるとき、メリッサは教会に行こうと言い出して、僕は連れられて教会に行く。

「メリッサ、ザメハの言うことを信じると、教会の中にヴァルキュリアかエインヘリャルがいる。気をつけてくれ」

 ザメハは残忍な男だった、だが、嘘をつくような器用な奴でないと不思議と言葉に信頼感があった。およそ嘘をつくほど社会性のある奴だと思わない、僕は出発前にそのことを言うとメリッサは笑った。

「エインヘリャルがいるなら感知できるじゃないか。ヴァルキュリアは女しかいないから教会では目立ちやすい、それにどうだ、ヴァルキュリアがいたとしても別にお前の何の害にもならない」

「ザメハというエインヘリャルはヴァルキュリアが感知できない能力を持っていると言った、そういう類いのエインヘリャルがいるのかもしれない」

 その言葉にメリッサは少し考え、納得した。

「なるほど。それは……確かに気をつける必要があるな。ちょっと確かめよう」
 
 そういう会話をした後、街の丘の頂上にたどり着く、教会だ。僕たちは大きな扉を開き荘厳で威風堂々とした礼拝堂に入る。

「これは、これは銀色の乙女いかがなされた?」

 アウティス神父と紹介された、僕より少し上くらいの年齢で頬が少し痩せた男が出迎えてくる、何故だかこの笑みが嫌らしくてたまらない。人の心をのぞき見して楽しむような仕草でいぶかしむ。それが不快感を生むのだ。

「アウティス神父殿、この街ではお世話になりました。そろそろ、旅に出ようかと思うのです」

 と、淡々とメリッサは言った。現地語だから僕にはわからない。

「それは残念だな、銀色の乙女を慕うものも多かろうに。まあ、私も上の方からの指示で近々この街を離れることになるが」

「そうですか、──時にアウティス神父、我らの他に異世界から来たものはいないのですか? この街には異世界から来たものとよく出会います、もしかしたら他におられないかと思いまして」

「……いや別段そのような話は聞かないが」

「それはおかしな話です。これだけ異世界のものが潜んでいれば教会が把握してないのは不自然です。アウティス神父はこの教会の方ではありませんが、他にくわしい方はおられないのでしょうか」

 なんか会話の様子からすると険悪そうだ、どんどんメリッサの顔が険しくなった。

「これは私も侮られたものだな。私は審問官、この大陸の教会周辺は把握しているつもりだ。異世界の者と名乗ったのはそなたらが初めてだ」

「な……!」

 さっとメリッサの顔から血の気が引いたようだ。

「わかりました。失礼なことを申し上げました、お許しください。それでは失礼いたします、……神のご加護を」

「銀髪の乙女とその従者に幸あれ」

 と、突然メリッサはきびすをかえし、僕もその後に続く。いったい何があったんだ? 僕は彼女にやり取りがどうだったか尋ねる。

「メリッサ、どうだったんだ? 僕には会話がわからない」

 その言葉にメリッサは蒼い顔をしていた。そして、薄紅色の唇に人差し指を添え、自らのあごを手で持ち上げた。

「教会団は異世界から来た者を把握している。そしてその上で、隠している。おそらく教会の内部にエインヘリャルがいる……」

「なんだって!」

「これだけドンパチやってこの世界の宗教と支配を行っている教会団が知らないわけがない、わかった上で見逃している、……これは一体何故だ?」

 メリッサはうつむき真剣な顔で考えをめぐらせているようだ。話を聞く限り陰謀めいたものを感じる。

「メリッサ……?」

 僕が彼女を心配そうにすると、メリッサは顔を上げ、まっすぐこちらを向く。

「教会のことを探る必要がある、次の街を決めた」

「そうか、僕はこの世界の勝手がわからないから君に任せるよ」

 そうやってメリッサは少し考えながら歩き続けた、──少し静寂が流れた、不思議と沈黙がなんだか怖かった。ということで僕は軽い気持ちで尋ねた。

「なあ、メリッサ。ロストテクノロジーって知っているかい?」

 僕が言うとメリッサはすごく驚いた顔だった。

「ロストテクノロジーだって、なんでお前がそれを」
「いやなんとなくその言葉が思いついて」

 彼女がまた考え込む、そして静かに口を開く。

「ロストテクノロジーつまり失われた技術、失われた遺産という意味だ。私たちの世界では中世より前、古代ローマ時代や古代文明の優れた技術を指す、現代の科学技術を持ってしても判明、複製できない失われた技術がある。一般的に説明するとこうだが……」

「メリッサ的に説明するとどうなんだい」

「私的に説明するとその道の達人の戦闘技術はだいたいが達人が死んでしまえば失伝してしまう。優れた戦闘技術は未来には受け継がれない、そういうものを私はロストテクノロジーとよんでいる」

 なるほど、そうかメリッサは他人の人生をのぞけるんだ、その道の達人の技術を蓄えていくことができるはずだ。納得のいく答えだ。

「なあメリッサ僕にそのロストテクノロジーを教えてくれよ。戦闘に役立つだろ?」

 そう言うと急にメリッサは真っ赤な顔で怒った。

「だめだ! そんなコトしたらお前は……」

「ど、どうしたんだ? メリッサ」

 彼女は一息ついて冷静に低い口調で言う。

「膨大な達人の戦闘技術を理解すると言うことは、人の人生観を大きく変える。戦闘技術に特化した人間になると、ロボットの兵士のように人間性を失うということだ。

 人が死んでも何も感じない、ただ人を殺すための兵器になる。そんなエインヘリャルができてしまえば、ただの虐殺者になるだけだ、……お前はそんなものになりたいのか?」

 確かに僕は強くなりたい、だけど人間性を失ってまで強くなりたいとは思わない。僕が欲しいのは普通の幸せだ、誰にも負けない強さではない。

 ──その時だ突然メリッサがいきなりはっと気づいたようにこちらを見た。

「佑月……おまえまさか私の頭の中をのぞいたわけじゃないよな!? もしヴァルキュリアの記憶に蓄積されている知識技術を普通の人間が理解した場合あまりにも容量が膨大すぎる。

 きっと脳が破壊されていく。おそらく狂人になってお前の心を壊していくだろう、取り返しのつかないことになるぞ! なあ佑月違うよな! 違うと言ってくれ!」

 ……なにか不吉な予感がする、僕は彼女に心配させないように、

「違うよ、そんなことできるわけないじゃないか。ただ言葉が思いついただけ、たまたまだよ、たまたま」

 と、僕が笑ってそう言うと彼女は安心した様子で、

「よかった……お前が狂う姿なんて見たくないからな怖いことを言うな、バカ」

 優しく柔らかくメリッサは言った。僕は彼女の頭に手を当て笑い続ける、狂人、僕が…まさかな…。何か漠然たる不安を残してこの街を去ることにしたのであった。
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