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ザメハの笑み

第四十話 ロストテクノロジー

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 OS失われた遺産ロストテクノロジー? どういう意味だ。混乱しながらも僕はザメハから銃口をはずさないよう気を付ける。

 よろめきながら立ち上がるザメハ、銃弾を受け足を引きずっていた。よく見ると地面には血がべっとりついており筋肉を貫通したようだ。呼吸を整えたザメハはショートソードを構え直し、再度襲いかかってきた。

 僕は脳内からザメハの剣の軌道のデータを読み込む、動体視力の関係で僕が視覚情報として認識できなくとも、見えなかった剣の軌道がわずかな脳内の映像としてデータが残っていた。

 それを分析すると、奴の間合い、距離感、剣の長さ、すべてを計算して、僕の目には見えない剣が感覚として理解できる。

 奴は僕の顔に向けて斬りかかってきた、僕は顔をずらし紙一重でよける、つづく連撃! 袈裟けさ斬りに斬りかかってくるので、僕は一歩引き、空振りさせる。

 ザメハが僕の腹に向けて刺しに来ると、身をひるがえし両手で奴の手を握って刃をとめ、みぞうちに肘をうちこむ。距離が開いたそのスキに肩にセミオートで撃ち込んだ。銃弾がザメハの左肩に直撃し貫通する。血が飛び散り、肉片が壁にべっとりとつく。いける……!

「がああ――――!」

 あと16発。ザメハは肩を撃ち砕かれても、戦闘意欲を失っていない。僕がダメージを受けたときも思ったが、エインヘリャルは人間よりもずっと耐久力があるだろう、うかつに無駄撃ちして弾を減らさなくて正解だったようだ。

 ザメハは距離を取って闇へと身を隠す、僕は脳内のデータから奴の動きの映像を読み込み一つ一つの映像を並列化し脳内で分析する、そこから奴の移動パターンを分析しこれから動く未来を予想する。

 その結果から僕はセミオートで丁寧に弾幕を張っていく。引き金とともに小気味よくなる銃声、これで奴の行動範囲を限定し移動場所を誘導していく、そして奴が来るであろう場所にあらかじめ銃口を構えておく。

 こうすることで奴がどんなにスピードが速くても銃でとらえることができる。ザメハが僕のリアサイトに飛び込んだときセミオートでうちこんだ! するどい銃弾が右肩をきっちりとらえている。

 奴の動きが止まった瞬間、右手に向けてバースト射撃をおこなう。MP7A1の銃声がドドドっと雪崩をうってうなっていく飛び出す金の弾丸。みごと全弾命中。奴の右手はふっとびちぎれて、ショートソードが宙に舞う。

「ぐおお――、あああ――!!」

 ザメハはもがき苦しむ。ボロボロの体でうずくまり、痛みをこらえきれない、──チャンスだ。すかさず僕は奴にとどめを刺そうと銃を構える、すると、

「うああ――――!!!」

 と、ザメハは戦闘意欲を失いわめき散らし逃げ始める、武器を失うということは、まあ、そういうことになるだろう、僕も経験したことだ。みやげにセミオートでザメハの背中を打ち抜いておく。体がビクンっとはねとぶ、よし、あと7発。

 こういう状態ならメリッサと合流してもよかったが、せっかく奴を見つけてこのまま逃がすのはもったいない、それにあの性格だ、どんな行動を起こすか予想がつかない。ということで残弾7発で追撃にいく。

「あああ――――!」

 ザメハは情けない声で無様に逃げ回った、追いかける僕に向かって木箱やら樽やら近くにある道具を投げつける、僕の銃口が奴を逃さないよう慎重に追跡した。奴は酒場の中に入っていった。

 人を盾にしてずんずん厨房に入り込む、そして、人を押しのけ、僕はザメハを逃がさないよう気をつけて銃を構えた。

 厨房からナイフを見つけて左手で振り回すザメハ。酒場がざわめくたつ、なんだケンカかと辺りは騒然となり、勢いでとなりにいた酔っ払いの客にザメハは殴られた。

 どうやら倒れたところ、がたいの良い男たちに囲まれて殴られ続けた、気が荒い連中だが、刃物を持つ男には効果的だ、だが、僕は他人に当たらないようにするために銃を発射することができなかった。

 ザメハは必死の思いで酒場の裏口から逃げ出す、僕は人をかき分け奴を追った。奴は太ももを怪我している、万全のときのようなスピードはでない、僕の足でも追跡可能だ。

 狭い道を通り民家へと奴は入っていく、しまった……! これから起こることを想像すると、奴を泳がせすぎたのだ。まさか? そう思って民家に入ると僕と同じ年ぐらいの男と女が血を流して倒れていた。くそ! 無駄な血が流れてしまった。

 固唾かたずをのんで奴の足取りをつかもうとすると、寝室にはいなかった。裏口から逃げた形跡はない、窓は男が入れるほど大きくない、ならこの民家にいるはずだ。

 キッチンを探ると地下につづく階段があった、地面をよく見ると血の跡が続いている、──ここだな。奴に裏をかかれないように慎重に中に入る。

 地下はそこそこ広く、道具やら箱やらが雑多に置かれていた、ワインとか貯蔵するための場所だろうが、暗くてあまり見えない、僕は一度引き返す、棚をあさり、蝋燭ろうそくをもってきて、灯りをともす、そこにぼんやりと暗い影に血の跡が見えた。

 ──その影に灯りをともすと赤毛の男の姿が大汗をかいて忍んでいた。

「ここで終わりだザメハ」

 僕は奴に語りかけた。

「ふ、ふはははっははっはははは」

 そして急に笑い出すザメハだった。

「何がおかしい?」
「おっさんがなんで急に強くなったのかはわからない。だが、ゲームはおっさんの負け」

「どういう意味だ」
「こういう意味さ!」

 ザメハは灯りの下へ少女の顔をみせつける、奴は少女の首元にナイフを突きつけていた。少女は金髪でそばかすがあり、恐怖であどけない顔を引きつっていた。

「おねがい、誰か助けて! なんでもします! なんでもしますから!」
「ほらよ、何でもするって言っているだろ女、子どもってみんなそう」

「僕には何をしゃべっているのか全くわからないが?」
「表情見ればわかる、100人ぐらい殺したときから恐怖でどんなこと言っているか、なんとなくわかるんだよ」

 少女を人質に取り、余裕の笑みを浮かべるザメハ。

「おっさんそのおもちゃを捨てな! そうしたらコイツを放してやるよ」

 ──暗闇の中、僕とザメハの最後の戦いが始まった。
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