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ザメハの笑み
第三十六話 教会の扉
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扉を開けるとそこでは──! なんと、普通にメリッサが食事をしていた。テーブルの上には豪華な装飾をした大皿にでっかい鶏肉だろうものが丸焼きで乗っかっている。
それをメリッサはナイフで切り分けて手づかみで食べている。パンも上質そうな小麦パンで僕が食べていた黒いパンとは大違いだ。……いったい、どういうことだ?
「ん、佑月お疲れ。ずいぶんと男前になっているではないか。殴られたのか?」
気が動転している僕に対して、平然と食事を続けるメリッサだった。
「メリッサ、これはどういうことだ」
「ん? ああここの兵士たちに私たちは宗教教団、教会団の一員であり、この世界についての知識や、私が知っている私たちの世界での出来事を説明すると、私は聖女として崇められた。信心深い奴らだ。
で、ここ近日は私は銀色の乙女として教会団の一員としてあれこれ仕事している、そういうことさ」
と、いってメリッサはこちらを見ずに食べ続ける。それを見て、僕は思わず頭を抱えた。
「ならどうして僕は牢屋に閉じ込められたんだ」
「ああ、そうか、言ってなかったな。お前には街の破壊工作の疑いがかけられていた、一応説明したのだが上の方が頭硬くてな。身辺調査するって言って聞かなかったんだ。
私はすぐに身分が証明できたので捕縛されなかったが、お前の身分を証明するのは一苦労だったぞ。何せ外人の身分証明だからな、戸籍などないし。で、私が教会に頼んで身分を保障してもらい、やっとのことで解放されたようだな」
彼女の言葉に僕は血の気がすっーと引く。
「そのことを牢に入っている僕に知らせてくれてもよかったじゃないか」
「それはそれ、これはこれ。最近べったりで、愛情が冷めてないか不安だったからじらしてみたんだ。どうだ? 私が恋しくなったか」
この……! 僕は黙ってメリッサに近づいていく。そして、手を上げて――
……そのままメリッサを抱きしめた。
「メリッサ心配したんだぞ……! こういうおふざけはこれっきりにしてくれ。僕が自殺でもしたらそれこそ面倒だろ」
「佑月……やさしいな。殴られる覚悟はあったんだが、今回はその優しさに甘えさせてもらいたい。ごめんな、ちょっと度が過ぎた」
そうやって、僕たちが抱きしめ合っていると兵士たちからざわめき声が聞こえ始めた。この様子にメリッサは周りのみんなに説明をし始めた。
「皆のもの紹介する、私の護衛である佑月というものだ、言葉が通じないが心は思いのほか優しい。良きよう取り計らってくれ」
「わかりました銀色の乙女。貴女のご随意のままに」
皆が跪いた後、少し老いた兵士が現地語でメリッサとしばらく話し込んでいた。もちろん僕には内容が理解できない。そして、
「少し私についてきてくれ」
と彼女に導かれたので僕もついていく、メリッサが歩きはじめると兵士たちが数人ついてきてくれる。おそらく護衛役といったところか。しばらく歩いていると街の少しはずれに大きな教会が立っていた。
中に入ると荘厳な雰囲気でステンドグラスで窓から色取り取りの採光が差し込んであり、整然と椅子が並び、装飾が施されている。周りを見るとフレスコ画で女性が描かれており不思議な雰囲気を醸し出していた。
「ようこそ銀色の乙女」
教会の司祭らしき二人が僕たちを迎える。片方は老人で、宝石がちりばめられた美しい衣装を着ており、もう一人は僕と同じ年ぐらいだろうか。上質な羽織り物を着ており、両者とも身分が高そうだ。
「この者が異世界から来たという御仁か」
現地語で中年の神父がメリッサに尋ねてきた。
「そうです、佑月と申します。見ての通り異国人です、神の言葉を聞き、私だけが話が通じます」
「そうか、顔をもっと見せてくれ」
「佑月、もう少し顔を見せて欲しいらしい、アウティス神父に顔を見せてやってくれ」
そう言って、メリッサに突っつかれる。あいさつ…この世界のあいさつってどうやるのだろうか。僕が会釈をすると、彼女が違うと指図する。
「こら、左足をひざまずいて手をこう胸に当てて……」
そうしてメリッサに僕は簡単な礼儀作法をレクチャーされた。その通り見様見真似だがやってのけた。難しいな、こちらの世界はこちらの世界で作法とかきっちり決まっているらしい。
「ほう、なるほど見たことない人相をしている。さぞ苦労したようですね。この街でゆっくりと羽を伸ばすといいでしょう」
横にいた老人の司祭は僕に優しく現地の言葉で話しかけた。だが言葉は理解できない、でも、敵意はなさそうだ。むしろ親しみを感じた。
「佑月というもの、身分は保証するゆえ自由に行動するとよい。もっとも言葉が通じぬようでは不便であろうが。しかし、異国というのは我々の想像の範囲を超えているようだ。銀色の乙女から聞いたぞ。如何様なものかずいぶん興味がある。
が、言葉が通じないのであればなかなか説明しづらいだろう、今度機会があれば銀色の乙女を仲介役にして話しを聞きたいものだ」
前にいた、アウティス神父が嫌らしくにやつきながら僕に語りかける。この男、何故だかわからないが何やら危険な匂いがする、あまり関わり合いになりたくないな。
「今日はあいさつだけにうかがいました。話しはまた後日」
と言った後、メリッサは軽くあいさつをして入り口の扉の方へと向かっていくので、僕は黙ってそれについていった。そうして、僕たちは教会を出た。何かここに来る意味があったのだろうか、疑問が解けないのでとりあえずメリッサに尋ねた。
「あの人たちは?」
「年老いた方はペトロ司教。この地域の監督官だ。もう一人はアウティス異端審問官だ。ここの教会団では諜報部みたいなものだな」
ほう、お偉いさんと会えるほど身分が高くなっていたのか。メリッサの影の見えない手腕に感心した。
「佑月、お前は先に宿に帰ってくれ私は二人と話がある」
え、せっかく会えたのにまた離ればなれになるのか、いきなりだったので、僕は寂しさにかられた。で、情けないことに僕が物寂びしげな表情をしていたのだろう、彼女は笑って僕をからかった。
「おいおいまさか一人で帰れないとかいうんじゃないだろうな。おっさんがまた迷子になるとかやめてくれよ、お前は土地勘もないし、現地語がわからない、迷い始めると遭難するぞ」
メリッサはそう言うが、ここの世界に来てから迷子になりっぱなしだ。本当なら一緒に帰りたいが、
「一人で帰れるよ」
と、僕は意地を張って言ってしまった。我ながら器の小さい奴。ほんと情けない。
「なら、一応武器を渡しておく、途中でエインヘリャルにあったら逃げるんだぞ──」
こういうすれ違いみたいなやり取りがあって、僕はMP7A1を手渡されて、一人で帰ることにした。2kmほどあるいたところ、案の定だ、また迷子になってしまった、なんで帰り道を聞いておかなかったのか、今更ながら詰めの甘さに後悔する。
メリッサ……、今日冷たかったな。いつもなら甲斐甲斐しく世話してくれるのに。彼女は僕といてストレスを感じているかもしれないなあ、彼女みたいな美少女と違って、こっちはさえないただのおっさんだから、言いたいことが色々あるだろう。
仕方ない、たまには、まあ、距離を取ることもいいだろう。
彼女は出会ってからいつもあまり文句言わず、戦いのやり方とかを僕に合せてくれている、でもなあ、僻みごとひとつでも、言ってくれれば僕も安心できるのになあ。……めっちゃ説教はするけど。
あれこれ考えていると裏路地に入ってしまった。ああっ、しまった大通りにもどらないと。
キョロキョロと周りを見渡していると後ろの影から人の気配がする。あぶないっと思う間もなく、コンマ数秒間で、後ろにとりつかれてしまった! な、何だ⁉ クソ、なんて間抜けなんだ僕は。
その瞬間だった──僕が振り返る前にショートソードを首元に当てられた。ゆっくりと刃が僕の首元を切り裂いていく、痛みすら感じる暇がなかった。それに気づいたとき、辺り一面は血の海だ。
僕は何が何だかわからず、抵抗する暇すらなく、闇から現れた刺客にあっさり殺されてしまった……。
それをメリッサはナイフで切り分けて手づかみで食べている。パンも上質そうな小麦パンで僕が食べていた黒いパンとは大違いだ。……いったい、どういうことだ?
「ん、佑月お疲れ。ずいぶんと男前になっているではないか。殴られたのか?」
気が動転している僕に対して、平然と食事を続けるメリッサだった。
「メリッサ、これはどういうことだ」
「ん? ああここの兵士たちに私たちは宗教教団、教会団の一員であり、この世界についての知識や、私が知っている私たちの世界での出来事を説明すると、私は聖女として崇められた。信心深い奴らだ。
で、ここ近日は私は銀色の乙女として教会団の一員としてあれこれ仕事している、そういうことさ」
と、いってメリッサはこちらを見ずに食べ続ける。それを見て、僕は思わず頭を抱えた。
「ならどうして僕は牢屋に閉じ込められたんだ」
「ああ、そうか、言ってなかったな。お前には街の破壊工作の疑いがかけられていた、一応説明したのだが上の方が頭硬くてな。身辺調査するって言って聞かなかったんだ。
私はすぐに身分が証明できたので捕縛されなかったが、お前の身分を証明するのは一苦労だったぞ。何せ外人の身分証明だからな、戸籍などないし。で、私が教会に頼んで身分を保障してもらい、やっとのことで解放されたようだな」
彼女の言葉に僕は血の気がすっーと引く。
「そのことを牢に入っている僕に知らせてくれてもよかったじゃないか」
「それはそれ、これはこれ。最近べったりで、愛情が冷めてないか不安だったからじらしてみたんだ。どうだ? 私が恋しくなったか」
この……! 僕は黙ってメリッサに近づいていく。そして、手を上げて――
……そのままメリッサを抱きしめた。
「メリッサ心配したんだぞ……! こういうおふざけはこれっきりにしてくれ。僕が自殺でもしたらそれこそ面倒だろ」
「佑月……やさしいな。殴られる覚悟はあったんだが、今回はその優しさに甘えさせてもらいたい。ごめんな、ちょっと度が過ぎた」
そうやって、僕たちが抱きしめ合っていると兵士たちからざわめき声が聞こえ始めた。この様子にメリッサは周りのみんなに説明をし始めた。
「皆のもの紹介する、私の護衛である佑月というものだ、言葉が通じないが心は思いのほか優しい。良きよう取り計らってくれ」
「わかりました銀色の乙女。貴女のご随意のままに」
皆が跪いた後、少し老いた兵士が現地語でメリッサとしばらく話し込んでいた。もちろん僕には内容が理解できない。そして、
「少し私についてきてくれ」
と彼女に導かれたので僕もついていく、メリッサが歩きはじめると兵士たちが数人ついてきてくれる。おそらく護衛役といったところか。しばらく歩いていると街の少しはずれに大きな教会が立っていた。
中に入ると荘厳な雰囲気でステンドグラスで窓から色取り取りの採光が差し込んであり、整然と椅子が並び、装飾が施されている。周りを見るとフレスコ画で女性が描かれており不思議な雰囲気を醸し出していた。
「ようこそ銀色の乙女」
教会の司祭らしき二人が僕たちを迎える。片方は老人で、宝石がちりばめられた美しい衣装を着ており、もう一人は僕と同じ年ぐらいだろうか。上質な羽織り物を着ており、両者とも身分が高そうだ。
「この者が異世界から来たという御仁か」
現地語で中年の神父がメリッサに尋ねてきた。
「そうです、佑月と申します。見ての通り異国人です、神の言葉を聞き、私だけが話が通じます」
「そうか、顔をもっと見せてくれ」
「佑月、もう少し顔を見せて欲しいらしい、アウティス神父に顔を見せてやってくれ」
そう言って、メリッサに突っつかれる。あいさつ…この世界のあいさつってどうやるのだろうか。僕が会釈をすると、彼女が違うと指図する。
「こら、左足をひざまずいて手をこう胸に当てて……」
そうしてメリッサに僕は簡単な礼儀作法をレクチャーされた。その通り見様見真似だがやってのけた。難しいな、こちらの世界はこちらの世界で作法とかきっちり決まっているらしい。
「ほう、なるほど見たことない人相をしている。さぞ苦労したようですね。この街でゆっくりと羽を伸ばすといいでしょう」
横にいた老人の司祭は僕に優しく現地の言葉で話しかけた。だが言葉は理解できない、でも、敵意はなさそうだ。むしろ親しみを感じた。
「佑月というもの、身分は保証するゆえ自由に行動するとよい。もっとも言葉が通じぬようでは不便であろうが。しかし、異国というのは我々の想像の範囲を超えているようだ。銀色の乙女から聞いたぞ。如何様なものかずいぶん興味がある。
が、言葉が通じないのであればなかなか説明しづらいだろう、今度機会があれば銀色の乙女を仲介役にして話しを聞きたいものだ」
前にいた、アウティス神父が嫌らしくにやつきながら僕に語りかける。この男、何故だかわからないが何やら危険な匂いがする、あまり関わり合いになりたくないな。
「今日はあいさつだけにうかがいました。話しはまた後日」
と言った後、メリッサは軽くあいさつをして入り口の扉の方へと向かっていくので、僕は黙ってそれについていった。そうして、僕たちは教会を出た。何かここに来る意味があったのだろうか、疑問が解けないのでとりあえずメリッサに尋ねた。
「あの人たちは?」
「年老いた方はペトロ司教。この地域の監督官だ。もう一人はアウティス異端審問官だ。ここの教会団では諜報部みたいなものだな」
ほう、お偉いさんと会えるほど身分が高くなっていたのか。メリッサの影の見えない手腕に感心した。
「佑月、お前は先に宿に帰ってくれ私は二人と話がある」
え、せっかく会えたのにまた離ればなれになるのか、いきなりだったので、僕は寂しさにかられた。で、情けないことに僕が物寂びしげな表情をしていたのだろう、彼女は笑って僕をからかった。
「おいおいまさか一人で帰れないとかいうんじゃないだろうな。おっさんがまた迷子になるとかやめてくれよ、お前は土地勘もないし、現地語がわからない、迷い始めると遭難するぞ」
メリッサはそう言うが、ここの世界に来てから迷子になりっぱなしだ。本当なら一緒に帰りたいが、
「一人で帰れるよ」
と、僕は意地を張って言ってしまった。我ながら器の小さい奴。ほんと情けない。
「なら、一応武器を渡しておく、途中でエインヘリャルにあったら逃げるんだぞ──」
こういうすれ違いみたいなやり取りがあって、僕はMP7A1を手渡されて、一人で帰ることにした。2kmほどあるいたところ、案の定だ、また迷子になってしまった、なんで帰り道を聞いておかなかったのか、今更ながら詰めの甘さに後悔する。
メリッサ……、今日冷たかったな。いつもなら甲斐甲斐しく世話してくれるのに。彼女は僕といてストレスを感じているかもしれないなあ、彼女みたいな美少女と違って、こっちはさえないただのおっさんだから、言いたいことが色々あるだろう。
仕方ない、たまには、まあ、距離を取ることもいいだろう。
彼女は出会ってからいつもあまり文句言わず、戦いのやり方とかを僕に合せてくれている、でもなあ、僻みごとひとつでも、言ってくれれば僕も安心できるのになあ。……めっちゃ説教はするけど。
あれこれ考えていると裏路地に入ってしまった。ああっ、しまった大通りにもどらないと。
キョロキョロと周りを見渡していると後ろの影から人の気配がする。あぶないっと思う間もなく、コンマ数秒間で、後ろにとりつかれてしまった! な、何だ⁉ クソ、なんて間抜けなんだ僕は。
その瞬間だった──僕が振り返る前にショートソードを首元に当てられた。ゆっくりと刃が僕の首元を切り裂いていく、痛みすら感じる暇がなかった。それに気づいたとき、辺り一面は血の海だ。
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