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僕とメリッサの戦い

第三十四話 僕とメリッサ③

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 筋肉で盛り上がった腕を力一杯はしごをつかんで、ラミディが僕のところへ登って来た。僕は深呼吸をしシャベルを振り上げ、奴の顔が地上に顔を出した瞬間、僕はシャベルを振り下ろし前頭部に強烈な一撃を与える。

「OUUUUU!」

 ラミディは叫ぶが、僕はシャベルを担ぎどんどん強烈な打撃を加えていく。老婆のエインヘリャルの時は短いシャベルを選んだが、今回は両手用の全長120cm、1.8㎏の打撃に特化した軍用シャベルを選んだ。

 これを頭部に一撃を加えると気絶ものだが、丈夫なラミディは苦悶くもんの表情を浮かべながらはしごを登ろうとしてくる。

 だが、そうはさせない、僕は絶えず攻撃を加える。ラミディは一撃の重さにひるみ、はしごの穴から頭を隠す。僕は冷静に振りかぶり、奴を待ち構えた、そして、奴が顔を出した瞬間、容赦なく振り下ろす。

 ゴオオオオン! と、鈍い金属音が鳴り響く。やったか!? だが暗がりの中からラミディはあきらめず手をはしごの穴から残している。お互いに相手の出方を探る。奴が目の前にいるミスは即死、どんどん呼吸が荒ぶっていく、僕は心を落ち着かせて、振りかぶり奴を待ち構えた。

 だが、急にラミディは半身を地上に出し、強引に突き進んでくる。頭部に打撃を加えるが、かまわず這いつくばって登ろうとしてきた、まずい、慌てて頭部に打撃を加えるが奴はひるまない。

 1発 2発 3発、 確実に頭部に打撃を加えるが体を起こしてきた、……なんて怪物だ、普通なら死んでいるぞ。僕は一心不乱にシャベルを振り下ろす、8発ほど加えたとき奴の動きが止まる、僕は休まず次の一撃を食らわす。

 急に僕の足下が揺らぐ、なんと奴が僕の左足を握っていたのだ。しまった! 必死に振り払おうとするが、奴の握力で左足が動かない。ギリギリと握りつぶされる僕の足首。

 このままではやられる……! 僕は狂気にかられ、必死の思いでシャベルを振り下ろす。放せ! 放せ! 放せ! どれほど打撃を加えただろう、奴の握力は弱まり徐々に体を穴に引き下げていく、息つく暇もない、僕はこの攻防を3分間続けなければならなかった。

――――――――――――――――――――――

 話は変わる、息つく暇もないのはメリッサも同じだ。黒いヴァルキュリアは強引に体格を生かして剣戟けんげきを加えていく、塀の上でメリッサは冷静に一撃一撃を流していくが力任せに黒いヴァルキュリアは攻撃を加えていった。

 メリッサは巧みに懐に入り鎧の隙間を刺すが黒い女はひるまない、その姿は狂気を形にしたと言える戦士であった。メリッサはその圧力に負け、盾で防戦に徹する。

 距離を取り相手の攻撃を殺し、リーチのある黒いヴァルキュリアはここぞとばかりに思いっきり剣を振り下ろしていく。

 メリッサは冷静に一撃一撃を処理していく。盾を蹴られれば足を狙って剣を切りつけようとし、相手の攻撃を連撃へと結びつかないようにした。

 息のつく間のない攻防。黒いヴァルキュリアは徐々に息が上がっていき、剣が鈍ってくる、そのなか、「あと一分」と、メリッサは時間を数えていた。お互いに距離を取り相手の動向をうかがう。

「どうした。もうお疲れかな? 黒いの、やはり練度が足りないな、そんなことでは張り合いがないぞ」

 そうやって煽る一方で「……あと50秒」とメリッサはつぶや

「銀色の、防戦一方のお前が何を言える。私は――」

 黒いヴァルキュリアは少し集中を切らすと、メリッサの反撃で刺された痛みが体を襲ってくる。しばしの間、疲れと痛みで構えたままじっとしていた。メリッサは相手の様子がおかしいのは気づいていたが構えたまま攻撃にうつらない。あと「15秒……10秒!」

 そう数えた瞬間、突然メリッサは相手に飛び込んでいく。少し反応がおくれた黒いヴァルキュリアはメリッサを切りつけようとする。しかし、巧みにメリッサはそれをかわし盾のへこんだ部分で相手の足の膝当てに引っかけた!

「しまった!」

 メリッサは黒のヴァルキュリアを大きくすくい上げ転ばせた。そのスキに黒のヴァルキュリアの喉を突き刺す。吹き上がる血しぶきが見てとれた。

「があっ!?」
「佑月!」

 こうやって勝敗を決したメリッサがこちらへと足を向けた。

――――――――――――――――――――――

 僕はラミディにシャベルで打撃を加え続けた。徐々にラミディの手は地上から離れてくる。頭を出したところを大きく打撃を加えたところ手がはしごの穴の上部から手が離れ暗闇に落ちていく。そこへメリッサが走り込んできて合流してきてくれた。

 メリッサ、良いタイミングだ、流石パートナー。打ち合わせの時間通りじゃないか。

 そうして僕が高らかに唱えた。

「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ!」

 いつものかけ合いのあと、メリッサから手渡される銃。ずっしりと重みで落としそうになる。はしごの穴から100mほど距離を取りそれを構える。

 その銃の名はバレットM99 対物狙撃銃で 全長1280mm 重量11.3kg。50口径マグナム弾を装填でき、命中精度は高い。シングルショットで一発しか装填できないが、そもそも近距離でスナイパーライフルを一発外すとそこで命取りだ。

 この銃は装甲の薄いヘリコプターや装甲車を貫くことができる。奴の墓標の銃にお似合いだ。

 2脚を立てラミディが顔を出すのを待ち構えた。あれだけ打撃を加えれば奴の動きはひどく鈍る、僕はこのときを待っていたんだ。弾は一発、それで終わり、疲労と緊張感で手が震えていた、僕の手よ震えてくれるな。この一発で良いんだ、一発当てればすべてが終わる。

 これは最初で最後の一撃シングルショットこれ以上の他にはない。僕の人生は追い詰められたとき逃げるか他人任せにしていた、だが今日の僕は違う。違うんだ今日の僕は。汗が噴き出してくるのを感じた、大きく深呼吸して息をのむ。

 僕は兵士だ、敵が現れればそれを撃つだけ。感情を捨てろ。たった一発、一発で変わるんだ、手よ震えてくれるな。

 冷や汗が流れる、外せば死。人生のシングルショット、それを撃ち込む。

──ただそれだけ。

 唯一の一発の弾丸、それが僕の覚悟だった。静寂の時間が流れる、そして穴から手が出てきたその瞬間──。

 まるでスロー再生のように相手の動きが見て取れた。ちらりとラミディの髪が見えた、まだだ。額が現れる、違うまだだ。頭部全体が穴から出てきたとき――

 僕は引き金をしぼっていった。けたたましく鼓膜が切り裂かれんばかりの轟音、それとともに魂の一発が解き放たれた。

 ゴオオーーーーーーン!

 たった一発の銃声が、街中に音が鳴り響く、弾はどんどん直線を進んでいく、僕は目を見開いた、まるで時が止まったような瞬間。ふらりふらりと巨体が揺らぎ、そしてゆっくりと倒れこんでいく。

 そして……よくよくみるとラミディの頭が吹き飛んでいた──!
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