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見えない敵
第二十一話 森は笑わない
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輝く閃光が木々を破壊し、巨木すら粉々に砕け、どんどんあたりが更地になっていく。僕はメリッサに肩を借りて光の嵐を過ぎようとした。
「メリッサ! ちょっとまってくれ」
嫌な予感がする、僕は目の前の足下に小石を投げた、やはり僕のカンは当たった、いきおいよく仕掛け弓の矢が飛んできて、注意されたとおり、メリッサは顔をすれすれによける。
危なかった、メリッサの顔に傷がつくなんてもう嫌だ。ひやりと肝を冷やしながらも、周りをよく確認する。
「こんな罠まで張っているのか」
彼女はうんざりした感じで相手の用意周到さに驚く。
この場所はやつのテリトリー、狩り場だ。罠に警戒しながら、息をひそめてこの場を離れようとするが、この緊張感で、身体中からにじみ出る汗。感覚のない左腕に違和感を覚えながら、一歩一歩を噛みしめるようにしてこの場を後にした。
ヴァルキュリアの合図がない敵は、これでもかとそこらかしこに光の閃光をまき散らす。奴の光る矢の能力は無限に撃てるらしい、厄介だな。しかし、手応えがないのを感じたのだろう、時期にあたりは静かになった。
「ん、ここにも仕掛けてある」
メリッサが枝を投げると落とし穴が現れた。彼女がくまなく周りを探り、ここいらに罠が仕掛けてなく無事なのを確認すると、僕たちはそこにひとまず落ち着いた。
「左手……大丈夫なわけないよな」
メリッサの心配そうなまなざしが余計に痛みを感じさせた。痛いのを我慢して、逆に彼女の心を悩ませないようになんとかこらえていた。だから彼女に話題を振った。
「それよりもエインヘリャルが二人いたことだ、メリッサはどう考える?」
これで僕の痛みを紛らわすために話の流れを変えてくれば助かる。
「二つ考えられる。一つはヴァルキュリアとエインヘリャルのコンビが二組いた場合だ。
もう一つはヴァルキュリアが二人のエインヘリャルと契約していた場合。前者の場合、特殊能力が異なるはず、しかし今回は能力が同じ、ということは同じヴァルキュリアから力を得た後者だろう」
メリッサは考えをまとめながら語り始めた。僕は疑問を呈する。
「二人と契約するとかあり得るのか?」
「ヴァルキュリアは原則一人のエインヘリャルと契約する。それはヴァルキュリアの力が与えられる容量が決まっているからだ、もし、二人と契約すれば力が二つに分けられてその分弱体化する。
今回の場合いきなり矢が強力な閃光になったのは、弱体化した能力がもとにもどった、そういうことだろう」
つまりもとからエインヘリャルは二人いて同時にこちらを攻撃していたということだ。弓矢なら弱体化したとしても、人数を増やした方が有利だ。狙撃用の武器だから、矢は多いほうが相手にダメージを与えて、けがをさせ動けなくさせやすい、そう考えたのだろう。
この森は身体を全部隠せる。二人で攪乱しながら罠を張ってエインヘリャルを狩っていたんだ。おそらくあの金髪のヴァルキュリアと相談して考えられた作戦だろう、よく練られている。
ここは僕が回復するまで時間稼ぎをするか、相手もこちらの居場所がわからないだろうし。メリッサを見るとあたりを見渡し小石を投げていた。地面が盛り上がり、木のとがった丸太が横から飛び出してくる。
それを察知したのだろう、閃光がこちらへと向かってくる、だが、あたりの木々をなぎ倒しあさっての方向へ飛んでいった。
メリッサは何も言わない。どういうつもりだ、何か考え込んでいる、そしてメリッサがにこやかに告げた。
「私はベトコンの人生を見ていてこういう罠は慣れている。心配するな私がついていれば罠に引っかかりはさせない」
「それはありがたいね、安心して休める」
メリッサはあたりを警戒していた。森は静かだ。お互いのカードはみせた、あとは心理戦だ、この視界の悪い森でいかに相手の裏をかき最初に致命的なダメージを与えるかそれにかかっている。
「メリッサ、そう言えば弾切れなんだ武器をもう一度創ろう」と僕はいい、そうして、いつものかけ合いをし、MP7A1をもう一度創る。
もしもの時のために敵の襲撃に備える、だが相手はやってこない。メリッサは不満げに、
「とんと解しかねる。相手から見れば敵は手負い、仲間はやられたなら勝負を仕掛けるのが戦いだろう」
と言った。相変わらず気の強い女だな。
メリッサは立ちっぱなしでずっと警戒に立っていた、時間がたつにつれ埒が明かない状況にイラついてきたんだろう。
「それはメリッサが強いからだ。メリッサ、武芸はどれくらいできる?」
メリッサはこちらを向いて少し怒りながら、
「私の武術を疑っているのか? 心配ない。お前一人、大男からでも片手一本で守ってみせる」
と悠々と言う。ずいぶんと誇らしげだ、安心したよ、エインヘリャル以外の敵からの攻撃が来ても僕以上に活躍しそうだ。
「つまりね、だからさ、メリッサは最終的には自分の力でねじ伏せられる自信がある。僕みたいに戦闘訓練を受けていない人間は、自分の武器を無効化されるとただの案山子になってしまう。めったなことはできない、だから先手を打てないし後手に回ってしまう。
──なら、相手の動向をじっと待つだろう、それが人間の心理だ」
だが、メリッサはそれに同意しなかった。
「お前は常に先手を取って戦いに勝ってきたではないか。お前の言っていることは矛盾している」
言われてみれば確かに僕は積極的に攻勢に出てきた。僕はちょっとおかしいかもしれない。いや、まてよ、ここは相手の気持ちになって考えよう。自分のテリトリーで相手の僕は手負い、回復には時間がかかると踏んでいるだろうし、またあちらこちらに罠を張り巡らせている。
当たれば一発で仕留められる能力がある、急ぐ必要はない。なら時間というストレスを与えて相手の出方を待つ、これが一番効率のよく確実に仕留められる方法だ。僕は手負いだから無理に攻めてくることはしないと考えるのが当然だ。
だから相手のミス待ち、そういう思考か。
僕の取るべき道は二通りある。このストレスの中、回復するまで待つか、攻勢に出るか。いやちょっと待てこのままだと夜になる。
夜の銃撃戦はこんな森の中じゃ行えない、相手はそれを想定してはいないだろうがこちらにとってだいぶ不都合だ、まずい。それにだんだん、体を休めていると少し体力が回復してきた。なら腹は決まった。
「メリッサ。こちらから打って出るぞ」
僕の勇ましい宣言に、メリッサは驚き、そしてとても嬉しそうにした。僕だってもう、戦いは初めてじゃない、これからが本番だ。
「メリッサ! ちょっとまってくれ」
嫌な予感がする、僕は目の前の足下に小石を投げた、やはり僕のカンは当たった、いきおいよく仕掛け弓の矢が飛んできて、注意されたとおり、メリッサは顔をすれすれによける。
危なかった、メリッサの顔に傷がつくなんてもう嫌だ。ひやりと肝を冷やしながらも、周りをよく確認する。
「こんな罠まで張っているのか」
彼女はうんざりした感じで相手の用意周到さに驚く。
この場所はやつのテリトリー、狩り場だ。罠に警戒しながら、息をひそめてこの場を離れようとするが、この緊張感で、身体中からにじみ出る汗。感覚のない左腕に違和感を覚えながら、一歩一歩を噛みしめるようにしてこの場を後にした。
ヴァルキュリアの合図がない敵は、これでもかとそこらかしこに光の閃光をまき散らす。奴の光る矢の能力は無限に撃てるらしい、厄介だな。しかし、手応えがないのを感じたのだろう、時期にあたりは静かになった。
「ん、ここにも仕掛けてある」
メリッサが枝を投げると落とし穴が現れた。彼女がくまなく周りを探り、ここいらに罠が仕掛けてなく無事なのを確認すると、僕たちはそこにひとまず落ち着いた。
「左手……大丈夫なわけないよな」
メリッサの心配そうなまなざしが余計に痛みを感じさせた。痛いのを我慢して、逆に彼女の心を悩ませないようになんとかこらえていた。だから彼女に話題を振った。
「それよりもエインヘリャルが二人いたことだ、メリッサはどう考える?」
これで僕の痛みを紛らわすために話の流れを変えてくれば助かる。
「二つ考えられる。一つはヴァルキュリアとエインヘリャルのコンビが二組いた場合だ。
もう一つはヴァルキュリアが二人のエインヘリャルと契約していた場合。前者の場合、特殊能力が異なるはず、しかし今回は能力が同じ、ということは同じヴァルキュリアから力を得た後者だろう」
メリッサは考えをまとめながら語り始めた。僕は疑問を呈する。
「二人と契約するとかあり得るのか?」
「ヴァルキュリアは原則一人のエインヘリャルと契約する。それはヴァルキュリアの力が与えられる容量が決まっているからだ、もし、二人と契約すれば力が二つに分けられてその分弱体化する。
今回の場合いきなり矢が強力な閃光になったのは、弱体化した能力がもとにもどった、そういうことだろう」
つまりもとからエインヘリャルは二人いて同時にこちらを攻撃していたということだ。弓矢なら弱体化したとしても、人数を増やした方が有利だ。狙撃用の武器だから、矢は多いほうが相手にダメージを与えて、けがをさせ動けなくさせやすい、そう考えたのだろう。
この森は身体を全部隠せる。二人で攪乱しながら罠を張ってエインヘリャルを狩っていたんだ。おそらくあの金髪のヴァルキュリアと相談して考えられた作戦だろう、よく練られている。
ここは僕が回復するまで時間稼ぎをするか、相手もこちらの居場所がわからないだろうし。メリッサを見るとあたりを見渡し小石を投げていた。地面が盛り上がり、木のとがった丸太が横から飛び出してくる。
それを察知したのだろう、閃光がこちらへと向かってくる、だが、あたりの木々をなぎ倒しあさっての方向へ飛んでいった。
メリッサは何も言わない。どういうつもりだ、何か考え込んでいる、そしてメリッサがにこやかに告げた。
「私はベトコンの人生を見ていてこういう罠は慣れている。心配するな私がついていれば罠に引っかかりはさせない」
「それはありがたいね、安心して休める」
メリッサはあたりを警戒していた。森は静かだ。お互いのカードはみせた、あとは心理戦だ、この視界の悪い森でいかに相手の裏をかき最初に致命的なダメージを与えるかそれにかかっている。
「メリッサ、そう言えば弾切れなんだ武器をもう一度創ろう」と僕はいい、そうして、いつものかけ合いをし、MP7A1をもう一度創る。
もしもの時のために敵の襲撃に備える、だが相手はやってこない。メリッサは不満げに、
「とんと解しかねる。相手から見れば敵は手負い、仲間はやられたなら勝負を仕掛けるのが戦いだろう」
と言った。相変わらず気の強い女だな。
メリッサは立ちっぱなしでずっと警戒に立っていた、時間がたつにつれ埒が明かない状況にイラついてきたんだろう。
「それはメリッサが強いからだ。メリッサ、武芸はどれくらいできる?」
メリッサはこちらを向いて少し怒りながら、
「私の武術を疑っているのか? 心配ない。お前一人、大男からでも片手一本で守ってみせる」
と悠々と言う。ずいぶんと誇らしげだ、安心したよ、エインヘリャル以外の敵からの攻撃が来ても僕以上に活躍しそうだ。
「つまりね、だからさ、メリッサは最終的には自分の力でねじ伏せられる自信がある。僕みたいに戦闘訓練を受けていない人間は、自分の武器を無効化されるとただの案山子になってしまう。めったなことはできない、だから先手を打てないし後手に回ってしまう。
──なら、相手の動向をじっと待つだろう、それが人間の心理だ」
だが、メリッサはそれに同意しなかった。
「お前は常に先手を取って戦いに勝ってきたではないか。お前の言っていることは矛盾している」
言われてみれば確かに僕は積極的に攻勢に出てきた。僕はちょっとおかしいかもしれない。いや、まてよ、ここは相手の気持ちになって考えよう。自分のテリトリーで相手の僕は手負い、回復には時間がかかると踏んでいるだろうし、またあちらこちらに罠を張り巡らせている。
当たれば一発で仕留められる能力がある、急ぐ必要はない。なら時間というストレスを与えて相手の出方を待つ、これが一番効率のよく確実に仕留められる方法だ。僕は手負いだから無理に攻めてくることはしないと考えるのが当然だ。
だから相手のミス待ち、そういう思考か。
僕の取るべき道は二通りある。このストレスの中、回復するまで待つか、攻勢に出るか。いやちょっと待てこのままだと夜になる。
夜の銃撃戦はこんな森の中じゃ行えない、相手はそれを想定してはいないだろうがこちらにとってだいぶ不都合だ、まずい。それにだんだん、体を休めていると少し体力が回復してきた。なら腹は決まった。
「メリッサ。こちらから打って出るぞ」
僕の勇ましい宣言に、メリッサは驚き、そしてとても嬉しそうにした。僕だってもう、戦いは初めてじゃない、これからが本番だ。
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